プロから学ぶ「これをやっておくと全然調子が違う! ワクシング」 | スキーという乗り物の話しをしようか _Topic 2

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歴15年以上・メンテナンスのプロフェッショナル
「bottomline」の田畑オーナーに教えてもらおう

このシリーズは、プロショップ「bottomline(ボトムライン)」のオーナーの田畑智之さんに、「もっと気持ちよく滑れるようになる」ためのチューンナップのノウハウを教えてもらう企画。今回のテーマはワックスがけ。いよいよシーズンイン、雪上に出るための準備にぜひ活用してほしい。

❖ このシリーズ企画のスタートはコチラ(Topic_1)をご覧ください

プロショップbottomlineとオーナーの田畑さん

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スキーの滑走性能をもっと引き出す
「ワクシング」

2回目の Topic_2は、「ワクシング」。
いよいよスノーシーズンが始まった。滑る前に「これをやっておくと調子が全然違う!」のがワックス。ワックスひとつでスキーの滑走性能をもっと引き出すことができたり、またその逆もある。いい板なのに滑ってない…これじゃあ宝の持ち腐れになってしまう。

そこで、板のコンディションは万全で滑りに行けるように「ワックスの考え方・扱い方」を、チューンナップのプロフェッショナルに伝授してもらおう。


このようなフィールドでのワクシングの考え方や方法はどんなもの?

時代は変わった。フリーライドにおけるワクシングは…

ワクシングと聞くと、いまだに面倒な作業を想像して反射的に拒否反応を示してしまう方もいますね。けど、時代は変わりました。特に順位やタイムを競うわけではないフリーライドにおけるワクシングは、昔からのそれとは随分と変わっています。そのキーになるのがLiquid(液体)のワックスです。

キーワードはLiquid(液体)のワックス
とてもおすすめ!

液体と聞いてまず思い浮かべるのが、いわゆる簡易ワックス。でもこれ、ご存じのように持続性が望めず、気休め程度のものでした。そこに登場したのが「BASE WAX」や「TOP(滑走) WAX」と銘打った現在の液体ワックス。例えば、この写真のようなもの。

田畑さんが用意してくれた液体ワックスたち


使い方は簡単。
専用のフェルトやスポンジに適量を垂らし、滑走面に塗り広げます。

専用スポンジに数滴を垂らして滑走面に塗り広げるだけ

あとは数分おいて乾いてからブラッシングをするだけ。
スクレイピングも不要ゆえ、ワックスの削りカスも出ない上、アイロンも使用しない。これだと室内でも出先でも随時行うことが可能で、とても便利。

持続性はホットワクシングに軍配が上がる気がするけど、その分まめに塗ることができるので、結果として持続性の部分はカバーされることになりますね。


ここでちょっとWAXの基本的なおさらい


BASEとTOP(滑走)と書いたけど、そもそもワックスはBASEといわれるパラフィンだけでも十分滑走は可能。パラフィンWAXは使用する温度帯で別れている(主に黄、赤、青に着色)ので、それは気にしたほうがいいけど、それすら記載のないもの(色は主に白)もある。

そしてこのBASEと呼ばれるパラフィンWAXは、競技者でも練習時にはこれだけを用いることも多い。滑走WAXは高価なものも多いし、基本的な技術の習得の上ではWAXによる甲乙は不要。ちなみに、カタログにトレーニングWAXとの記載もしっかりとあったりします。

温度帯を分けているのは、簡単に言えば、WAXの硬さを変えているから。なぜかといえば、雪の結晶が刺さるとか刺さらないとか、まあいろいろあって、それに対応するようにということ。詳細についてはここでは割愛します。

TOP(滑走)WAXって何?
その効果とは?

では、TOP(滑走)WAXって何?ということだけど、先のパラフィンにフッ素やシリコン、ほか希少金属などの添加物を加えることで、それに合う雪質での滑走性をよりUPさせるためのWAX。それゆえに高価なんだけどね。

でも、競技などの必要性に迫られての使用はともかく、バックカントリー滑走も含むフリーライディングでは、あまりフッ素による撥水性に頼らないのもありだと考えます。すでにC8は使用されないが、C6以下のフッ素に対しても慎重になる動きが最近見受けられますし。

まとめると、BASE(パラフィン)WAXだけでも基本的な滑走性能はあって、なおかつ持ちがいい。その表面にさまざまな性質を乗せるのがこのTOP WAXということ。

そうなると、そう…その時のその雪のさまざまな状態を読んでワックスを当てはめてこそ、力を発揮してくるのがこのTOP WAXなので、逆に言えば、合わなきゃ効果は望めない (高価なのにね)。いわゆるサービスマンが競技の現場で競うのが、この世界なのです。滑走ワックスというものが難しく感じるひとつが、このあたりにあります。

液体ワックスのさらなる利点は「エコ」

話を戻そう。液体ワックスの利点はもうひとつ。それはズバリ言って「エコ」だということ。アイロンを使わないので電気も要らず、スクレイピングによるゴミも出ない。この二点、実は大きい。それもあって?かはわかりませんが、各社このような液体ワックスの商品を増やしています。


しかし固形ワックスを使った従来の方法もあり
その場合はこんなふうにしよう

とは言いつつ、固形ワックスを使っての従来のやり方も抑えておきましょう。
ベースワックスを塗る&剥がす、ですね。

フリーライディング向けであれば、固形ワックスを塗る際、ワクシングシートの使用はやはりお勧めです。なぜなら、薄く塗れる=ワックスの消費量も抑えられる=剥がすのも楽だから。

ワクシングシートをアイロンに当てた上に固形ワックスをしみこませて…

ワクシングシートを使ったベースワクシング
塗るとき・剥がすときのポイント

ポイントは…

塗るとき:煙がもくもくと出ない、だけどワックスが溶けて塗り広げられる、そんな温度で行う(動画でチェック!)


剥がすとき:スクレイパーで剥がし過ぎない

ある程度まで剥がしたら、少し早めにナイロンブラシを用いて仕上げる。ここでブラシが引っかかるような箇所があれば、そこだけ再び軽くスクレイピング。剥がし過ぎないコツは、ブラッシング後の仕上がった状態に、確認の意味で軽くスクレイパーを当ててみて、まだ軽く薄く剥がせるくらいは残ってOK。言葉で言えば、そんな感じ。


ところで…
WAXとシール(クライミングスキン)との相性は?

スキーやスプリットボードにおけるバックカントリー滑走での必需品が「クライミングスキン」。これを滑走面に貼って毛の面でトラクションを得ることで、歩いて登ることが可能になる装備。つまり、滑走面に貼り付いていてくれないと使えない、ということになりますね。滑りを良くしたいのでWAXをに塗るのに、クライミングスキンが貼り付かないのではマズい。この折り合いはとても大切。

結論から言えば、バックカントリー滑走の場合、事前のワクシングは抑えめに、ということです。もちろんワクシングをするな、ではありません。クライミングスキンの使用を予め想定しておきましょう。当たり前ですけどね。

ではどうするのか?

ハイクアップ後、クライミングスキンを剥がしてから現場でワクシングの最終仕上げをする、というイメージです。つまり事前には軽めに仕上げておき、現場で使用する滑走性能の良いWAXを携行することですね。形式的には簡易WAXの延長というか、あるいは滑走WAXの仲間というか…。

ただし、ここでも環境への配慮はしたいのが本音。フッ素の使用もできれば極力減らしたい。たとえば、こちらは当店のオリジナルWAX。

botommlineのオリジナルWax



フッ素による滑走性を求めず「Ag(銀)の複合体」の含有量を増やすことで滑走性能を上げたもの。ここでは、滑走にさえも影響を与えない程度にまで限りなくフッ素を減らしてみました。ちなみに、こうしたフッ素による滑走性を謳わないWAXは、現在さまざまなところから発売されているので、ぜひチェックしてみてください。

次回のTopic3では、「滑りを変えるエッジの扱い」についてお話します。


bottomline  
http://bottom-line.jp

「店の名前を「bottomline(ボトムライン)にしたのは、「トップ・トゥ・ボトム」の滑走ラインをイメージして、というのともうひとつ、アスリートのようなトップ層が技術を追求する店というよりも、ボトム層まで含む普通のユーザー向けの店にしたかったから。街のバイク屋さんのようにエンジン音を聞いて、“ここ、調子悪い原因なんじゃない?”なんて感じで、誰もが気持ちよく乗れるように、今後もいろいろ相談に乗りたいね」

Profile
田畑智之 Tomoyuki Tabata
1967年生まれ、千葉県出身。90年代後半、当時自由が丘にあったスキーショップに在籍。その後TUNE-UPを学び、それらを融合させた店「bottomline」を2004年にOPEN。

教えてくれた人 : 田畑智之( bottomline) 構成 : STEEP編集部


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