インタビュー 河野健児「スキー選手から野沢温泉村の若きリーダーへ」後編

インタビュアー/尾日向梨沙  Photo/菅沼 浩

前編コチラ

次々と花が開いていく野沢温泉グリーンシーズンの事業

──それで始めたのがグリーンフィールドなんだね。

ですね。最初はビジネスはそんなに考えていなくて、ツリーハウスを作ってみたいな、と仲間と手作りで始めたんです。荒れた杉林に手を入れて、間伐しながらその木を使ってデッキを作って、と。居心地のいい空間ができたので、少しずつ拡張しながら、1日1組限定のプライベートキャンプ場としてオープンさせたのが2016年です。

鬱蒼とした杉林を切り開き、光が差し込む空間を生み出したツリーキャンプ

──泊まるだけじゃなくて自然体験もできるんだよね?

はい。ツリーハウスのすぐ下にはオーガニック野菜が楽しめるグリーンファームがあって、泊まりのお客さまは自由に収穫ができます。あとは春には田植え、秋には収穫など季節ごとのイベントを組んだり、北竜湖(※1)でのSUP(スタンドアップパドルボード)ツアーも人気です。

──健児くんはいつからSUPを始めたの?

2009年ですね。スキークロス選手時代にトレーニングで取り入れていました。その後、初めてSUPで千曲川を下った時、すごく面白くてこれもサービスにしようと思いました。

──SUPのブランドも立ち上げたよね

はい。SUPツアーを考えた時に、お客さまに貸し出す10台分くらいは揃えないとならない。その時はまだ理想的なブランドもなくて、だったら自分たちでSUP作ろうか、と。ビジネスパートナーがピストバイクを作っていたから、その流れもあって、いろいろ研究しながらPEAKS5という名前で2015年に立ち上げました。

──ないなら作ってしまおうという発想が斬新だね。他のSUPブランドとPEAKS5の違いはどんなところなの?

当時SUPのフィールドのメインは海という感じだったんですよね。僕らは山だけど、グリーンフィールドの近くには湖も川もある。他にもキャンプ場の周辺って川辺や湖畔が多いから、キャンプとSUPを繋げて提案しようと考えました。コンパクトにたためるインフレータブルSUPなら、どこでも持って行きやすいし、自分たちでいろんなところを旅してPV撮影をしたりして、SUPの魅力を伝えています。

北竜湖でのSUPツアー。風がない時は鏡のような湖面をクルージングできる

──SUPで一番印象的な旅はどこだった?

高知の四万十川ですね。もう4年連続で通ってます。とにかく水がめちゃくちゃ綺麗で、周辺に民家とかがなく、本当に壮大な自然が残るところを30〜40km漕ぐんです。1年目はザ・ノースフェイスとの企画で、2年目からはグリーンフィールドのお客さまも連れて、キャンプ道具と食料をSUPに積んで1泊2日のSUPキャンプを開催しました。SUPキャンプという言葉も当時はまだなかったので、ひとつの遊びを提案できたかなと思います。

──この秋も北竜湖でSUPのイベントを開いていたね

そうですね。これは初の試みだったんですが、9月に北竜湖で、SUPレーサーのケニー金子さんと組んで、誰でも参加できるSUPのレースイベントを開催しました。もともとケニーは野沢温泉によく来ていたんですが、コロナの影響で大会が全部なくなってしまって、一緒に何かやろうかとなりました。

今回、各地からかなりの数のSUPレーサーが集まったんですが、来年は「RUN & SUP」にして野沢の人たちももっと参加できるように考えています。北竜湖の先には小菅神社があるので、奥社まで走って湖を1周するような。そうすると、地元のクロカンの選手なんかも活躍できますよね。

2020年の年末、野沢温泉の新ゴンドラにヴェクターグライドのカービングスキーを連れて

ヴェクターグライドという新たな相棒と共に

──引退後、冬の活動はどう考えてたの?

ただスキーがしたいって感じでしたね。そのくらいの時にヴェクターグライドを手伝ってくれないかって話をいただいて。それまで海外のブランドにもお世話になっていたんですけど、どうしても本国で決まったことを、仲介してお客さまに伝えるというダイレクトでないことに違和感があって。

その時はPEAKS5も立ち上げていたから、フィールドで使う物づくりということに非常に興味があったんです。自分で手がけるものをダイレクトにお客さまに伝えられるって面白みも全然ありますよね。

──スキー作りにも元々興味があったの?

以前スキー専門誌のスキーテストのテスターをやらせてもらったことが何度かあって。いろんなメーカーのスキーを80台くらい試乗して、レポートを書くんですね。それだけ乗ると、どのくらいの長さ、シェイプ、フレックスが自分に合うかというのが見えてくるんです。それで自分の理想のスキーは、このくらいの数値だな、というのをその時イメージしていたんです。市場には、自分の求める数値のスキーはなくて、ヴェクターでスキーを開発するとなった時に、その経験が生かされました。

──その数値を元にプロトタイプを作って、理想のスキーになるもの??

それが意外と1本目からけっこう良い具合にできたんですよ。微調整を繰り返して5本目くらいで型が決まりました。スキー作りの経験のない僕が一からやっていたらもちろんこうは行かないだろうけど、秋庭さんの長い経験のおかげでスムーズでした。それで生まれたスキーがポラーヴというモデル。さまざまなシチュエーションを1台で楽しめるスキーというコンセプトです。

Photo/Ranyo Tanaka@THE NORTH FACE

──自分で開発に携わったスキーは履く時の気持ちの入り方も違う?

全然違いますね。特にお客さんに案内する時の気持ちが違います。自分のリアルな言葉で伝えられるし、売って終わりではなくて、ではそのスキーをどんな風に操作したらより性能が引き出せるかと、雪上で一緒に滑ってアフターフォローまでできるのがいいですね。

──ヴェクターグライドに関わって4年かな、実際やってみてどう?

面白いですね。やりたいことが次から次へと出てきて休みも取れないくらい。ずっとオンなんです。休みも仕事も境界がないから。でも常にオンにしておくっていう生き方、僕は面白いと思ってます。

スキー場と温泉が村を支えるコンパクトヴィレッジ野沢温泉村

観光地としての野沢温泉の価値とは

──6月からは野沢温泉観光協会会長にも就任したんだってね。具体的にどんな活動をしているの?

会長としていろんなところに顔を出して、会に出たり、挨拶するとかですね。村長やスキー場社長など、上の年代の人たちと近くなったことで意見が聞けるということを大事にしています。まず最初の1~2年は、何か新しいことをやるというよりも現状把握かな、と。

バックカントリーでもそうじゃないですか、自分の滑りだけじゃなく、その日のコンディションとか状況を把握してから、ラインを決めるように、観光地作りも無謀に自分のやりたいことをやるだけではうまくいかないと思っています。上の方々にこれまでの経緯や過去のことを聞けば、いろいろと教えてくれるし、近い関係を作れれば、何か新しいことを始める時にも理解が得やすいんじゃないかなって思います。

──それはすごく大切なことだね。野沢温泉村の観光地としての課題は?

宿の後継者不足とか、グリーンシーズンの集客の少なさですかね。でも1回ちゃんとアンケート取りたいんですよ、事業者はどれだけ満足しているのかな、と。

もし現状でそれなりに満足しているのなら、集客ばかり考えるのでなく、質を高めた方がいいかもしれない。コロナ前のスキー場の集客は約42万人で、これ以上入ると顧客満足度が下がる可能性があるから入場規制をするとか。それもグリーンシーズンにある程度の集客があれば、余裕を持ってできると思うんですよね。最近、常々思うんですけど、住んでいる人たちの豊かさを上げられたらいいですね。

地域住民の財産、外湯は全13ヶ所。スキーの後の外湯めぐりも楽しい

──村民の豊かさって?

野沢温泉の大きな価値って外湯の文化ですよね。元々は自分たちで使っていた温泉を、これはめちゃくちゃいいから観光客の皆さんにも開けようと、始めた先人はやっぱりすごいと思うんです。それって、自分は豊かで満足しているから、その気持ちを他の人にも共有しようという野沢の観光地としてのマインドなんです。

最近、マナーが悪い利用客がいるから鍵をかけようという意見も一部あるんですけど、それは結局人を信用していないということ。誰でも入っていいですよ、という寛大さが野沢の最大のブランディングなんです。だから住んでいる人が自分の暮らしに満足しているかどうかで、提供できるサービスも変わるし、観光地としても充実するんじゃないかって思っています。

──この秋に仕掛けていたライフファーミングキャンプはどんなコンセプトだったの?

ライフファーミングキャンプは、野沢温泉ロッヂの八尾良太郎くんの紹介で、東京のオーガナイザーと組んで、この秋初めて企画した2泊3日のキャンプイベントです。僕は現地のコーディネーター的な役割で、「水の循環と山を知る」をテーマに、野沢温泉の自然の豊かさと食について、実際に体験してもらうキャンプです。

豊富な水や温泉があるのは、ブナ林のおかげということで、ブナの森を案内人と歩いたり、地元のシェフと一緒にアウトドア料理を作ったり、野沢菜発祥の健命寺で座禅を組んで地域の風土を学んだり、きのこの名人ときのこ狩りに出かけたりと、村民とも交流できるような内容にしました。

──お客さんはどんな客層なの?

今年はテスト的に知り合いに声をかけたこともあって、東京の人がほとんどですね。音楽関係だったり、電力会社の社長さんだったり、様々な業種の人たちが参加してくれて、冬はスキーしに来たい!と言ってくれたり、本当に広がりがあるイベントでした。村長やうちの親父にも、食事だけ参加してもらったりして。小さな村だからどうしても、健児が東京の人と何かやってる、となってしまいがちなので、できるだけ村の人も絡めることを意識しましたね。

──それはお客さんにとっても、ただの旅行では触れ合うことができない貴重な体験になっただろうね

これからはスポーツを通じた旅の提案、やりたいんですよね。スキーと温泉ってどこでもあるじゃないですか。もう一歩踏み込んで、ヘルスツーリズムやウェルネスツーリズムをコンセプトにしたらどうかと。

自分もアスリートだったからわかるんですけど、体づくりの基本は「運動、休息、食事」の3要素なんですね。野沢温泉は全て高い質で資源が3拍子揃ってるんです。スキー場や飲食店のコロナ対策はもちろんだけど、一番大事なのは自己の免疫力を上げることだと思います。疲弊してずっと家に閉じこもっているよりも、免疫力を高める旅の提案をしたいですね。

幼少期から滑り込んできた野沢温泉。村に向かって滑り込む

スキーヤー河野健児の未来

──この冬はどんな動きをするの?

ヴェクターグライドのグライドオングルーブ(※2)で全国回ったり、ユーザーキャンプやったりという感じですね。今年から直営店とオンラインショップ(※3)ができたので、お客さんへの案内もすごくスムーズになったんです。試乗会で気に入ってもらったスキーをその場ですぐに購入できるようになりました。

あとは、ライディングアカデミーを3〜4年前からやってるんですが、情報公開すると24時間以内に予約が埋まるくらい人気になってきました。

──ライディングアカデミーではどんなレッスンを?

スキーのオーソドックな技術ですね。どんな斜面、コンディションでも使える技術ということで要点を4つにまとめて教えています。年々、筋力が落ちてくる分、技術でカバーをすることは大切で、自分もフィールドで実践しながら、きちんと言葉で伝えられるように気をつけています。

ヴェクターグライドのグライドオングルーブは、一般ユーザーと触れ合う貴重な時間

──スキーを作った人から直接習えるってお客さんからしたらスペシャルだね

プロダクトを通して伝えられることもあるし、トータルでお客さまと接することができるのはこちらとしても面白いですね。20代の頃は自分で滑るのが面白いという感じだったけど、今は楽しさが多岐に渡ってきました。初めてスキーをする人を案内するのとかもめちゃくちゃ好きですよ。

──自分の滑りだけでなく、他の人の上達が喜べるって素晴らしいね。最後に、今後、スキーヤーとして挑戦したいことや目標はありますか?

どこの山を滑りたいとか、そういうのって今はあまりなくて「シンプルに、イケてるように滑り続ける」ということですかね。スキー関係の仕事をしていると冬、忙しくて結局フィールドにあまり立てない、という人もよく見かけるんですが、スキーも作って、雪上に立って、いろんな人と日常的に滑る“イケてる親父”を目指したいですね。

グリーンシーズンの活動も全部繋がっていて、スキー以外の人との繋がりも多いんです。そういう人たちにスキーの魅力を伝えたり、コラボレーションできるのも僕の役割なんじゃないかと思っています。いろんな方向からスキーの魅力を発信できたらいいですね。

❖ 河野健児の直近のライディング動画


※1[北竜湖]
野沢温泉からほど近い湖。周囲を山々に囲まれた静かな湖でSUP初心者にも最適。

※2[グライドオングルーブ]
ヴェクターグライドの定番モデルから最新機種まで体感できる試乗会。今シーズンは全国5ヶ所で開催。https://www.vectorglide-japan.com/single-post/glide-on-groove-registration

※3[オンラインショップ]
ヴェクターグライドの全機種および関連グッズが購入できるオンラインショップWHITE TIME。同名で、2020年6月に直営店も東京にオープン。
https://www.vectorglide-japan.com/shop


nozawa green field

公式HP https://www.nozawagreenfield.com/
https://www.facebook.com/nozawagreenfield/
https://www.instagram.com/nozawagreenfield/



インタビュアー/編集者+ライター
尾日向梨沙 Lisa Obinata
1980 年、東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、13 年間、出版社にてスキー専門誌『Ski』『POWDER SKI』などの編集を担当。2013 年より同雑誌の編集⾧を務める。2015 年に独立し、写真家の渡辺洋一と共にスノーカルチャー誌『Stuben Magazine』を創刊。2020 年に湘南から⾧野県飯山市に移住し、雪山と自然に寄り添ったナチュラルなライフスタイルを実践中。


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