- Asc
- Desc
- Shuffle

Skier/Mamoru Takahashi Location/Hotaka、Nagano、JPN
マモさんとはサシで行ったのも含め、僕がハードなルートに行くとき、必ずといってもいいほど行動を共にしている。お互い気を遣っているようで、けれど言いたいことを言える気の置けない貴重な存在。 奥穂南稜からクライミング。果たしてスキーを背負ってきた意味があるのか疑問を抱きつつドロップポイントへ。 往々にしてアプローチのクライミングを楽しみすぎると滑走で雪に恵まれないことが多いのだが、このときは珍しく大当たり!滑り込んだ扇沢は出だしから快適ザラメ。氷の上にほどよく緩んだ熟成雪。急な斜度と相まってハイスピードで滑走できた。脳内がとろけそうなひととき。とりあえず写真をおさえたが、あとはただ快感に任せて落ちていく。 快感で脳みそがとろけ出しそうだったが、調子に乗ってラインを間違えるとその先は絶壁! 快楽に飲み込まれないよう、心に言い聞かせながら滑り降りたのを覚えている。

Skier/Mamoru Takahashi Location/Hakuba、Nagano、JPN
こちらは不帰Ⅲ峰のC尾根。滑っているのはテレマーカーの高橋守だ。不帰Ⅱ峰に比べれば斜面は小さく目立たない存在だが、かなり刺激的なライン。露出感、捩れ、斜度、余裕をもって滑れる人は少ないだろう。複雑な地形ゆえに雪質も変化が激しく読みづらい。アルペンスキーでも難しいライン。 普段はのんびりとしてて温厚なマモさんだが、ときおり、人が変わったような攻め方をするときがある。秘めた思いをライディングに込めて……と言うとカッコいい気がして癪なので、控えておこう。 ゴーグルに隠れた眼光は鋭く、急斜面の快感に痺れまくっているのだろう。この日、なぜこのラインを滑ることになったのかはもう覚えていないが、僕の思いつきとマモさんの攻め攻めスイッチが一致してしまったのだろう。気づけば彼はドロップポイントへ。僕は可能な限り緊張感ある画面を作れるアングルを探っていた。いずれにせよ、ガイドの休日ほど危険なものはない。

Skier/Daisuke Sasaki Location/Hakuba、Nagano、JPN
自分で言うのもなんだが、僕のスノー写真を代表する一枚。場所は白馬の不帰Ⅱ峰。ラインは「面ツルb」。滑っているのは、言わずと知れたビッグマウンテンスキーヤー、佐々木大輔。 白馬の山を滑っているとどうしても気になるのが不帰Ⅱ峰の正面フェイス。麓からもよく見えてしまうのがよくない。シーズン中、腕に覚えのある滑り手たちは、コンディションが整うのを虎視眈々と狙っている。 実はこの日の午前中は、志賀高原で撮影が組んであり、前夜に大ちゃんから「コンディション良さそうなので、明日不帰滑ります」と連絡が来たときには「マジかよ〜」って悩んだ。 先に受けた仕事は断れないので、朝イチパウダーとグルーミングを志賀で撮影後、白馬へ移動。かなりのハイペース、心拍上げっぱなしで八方尾根を登った。それもサンニッパ(300mmF2.8)を担いで。 まだ30代。若かったな(笑) 当然シークエンスでかなりの枚数を切ったのだが、フォールラインに向かって落ちていくこのカットが一番のお気に入り。確かBRAVOSKIにも見開きで使ってもらった。僕自身、プリントしたものをなぜかトイレにしばらく飾っていた。

Skier/Mamoru Takahashi Location/Hakuba、Nagano、JPN
これまた不帰。Ⅰ峰の主尾根を地道に登攀してきた2日目のハイライト。核心部の岩壁を時間をかけて処理し、スノーリッジを慎重に辿り、最後の雪壁を泥臭く這い上がりトップアウトだ。 緩やかに登って急斜面を気持ちよく滑る。その約束事が、ときに効率的にもモチベーション的にも逆転していることがある。この頃、シール登行のみでは満足できない。スキーを背負ってクライミングルートを登りきることにやり甲斐を感じてしまっていた。 スキーブーツとクランポンでのクライミングは、慣れればむしろ楽に立ち込めるようになるが、背中にセットしたスキーは重さ以上に相当邪魔だ。重心の関係上、上体を外らせにくくなるし、逆にスキーのトップが壁や藪に当たって弾かれたり……顔を上げにくいので先読みも困難になる。 このルートは前年にもアタックしていたのだが、時ならぬ大雪に阻まれ、時間切れであえなく敗退。そのリベンジでメンバーもほぼ一緒だった。主尾根を登りきったことで大満足。その後待っていた不帰沢の強烈なクラストのことは……もう忘れた。

Skier/Masaaki Sato Location/Hakuba、Nagano、JPN
古い写真ばかりを挙げてきたが、これは2019-2020シーズンの新作。とは言ってもライディングではない。スキーは上手いのに慎重がスキーを履いて滑ってるようなマチャくん。見た目はかなりいかついんだけど、石橋を叩いて……渡らないタイプ。 この日はそこそこ急な北斜面を狙っていたのだが、予報以上に風が強かった。 こうなってしまうと風に磨かれた雪面にはもはや快適な雪はない。風下斜面は不安定な雪が大集合。スティープな斜面に入るにはリスクが高すぎた。諦めてシールを剥がしてお帰りの準備をしているシーンだ。彼は危険察知センサーが人一倍発達しているので、一緒に山に入ると無事に帰ってこれる気がする。すでに何人も友人、仲間が逝ってしまっている。僕自身危なかったことが幾度もある。スティープな斜面に向かうとき、抑止力になる仲間は貴重だ。僕が生き残っているのは案外彼のおかげなのかもしれない。

すぎむらわたる
杉村航 Wataru Sugimura
1974年5月2日生まれ
使用カメラ:Canon EOS5D markⅣ、SONYα7Ⅲ
主に撮影している地域:北ア北部、小谷・白馬
好きな写真家:藤原新也、水越武、Ansel Adams
好きな山:槍ヶ岳
トラウトフィッシング(fly、lure)、年間滑走日数40日。釣行日数100日以上!
Website: https://www.watarusugimuraphotography.com
Instagram: @wataru.foto