寒冷で気温の低い東北の山岳地帯や、急峻な峰々の広がる白馬エリアは、厳冬期の気候条件はとりわけ厳しい。バックカントリーガイドたちは、そんな雪山でゲストの安全を守りながら行動しなくてはならないゆえ、よく動ける万全の衣服コンディションを保つことが重要だ。白馬や信越エリアをベースに活動するプロガイドたちは、どのようなレイヤリングをしているのか、そのノウハウを聞いてみた。
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TEREMARK & MOUNTAIN GUIDE IDEHA|石沢孝浩
マイナス20度の環境でもこの3枚だけ
ハイシーズンのレイヤリング
Outer layer:ARC’TERYX|ラッシュ ジャケット メンズ & セイバー ビブ パンツ メンズ
Middle layer :ARC’TERYX|デルタフーディ メンズ
Base layer:ARC’TERYX|ロー メリノウール クルーネック メンズ
その使用感は?(インプレッション)
私が活動する月山の稜線は常にブリザードで体感はマイナス20度ほど。その環境でも私のウエアリングは上記の3枚だけ。厚みのあるベースレイヤーはハイクアップでも熱はそれほど籠らず、でも保温はしっかりしてくれる。
ミッドレイヤーのDELTA(デルタ)は長年このタイプを使用していて、フードがあるのでバラクラバの代わりになるし、何より首と頭が繋がっているフードは雪などが入ってこないので、とても便利。そのままヘルメットを着用して使用しています。
アウターのRUSH JACKETは、こちらも長年同タイプを使用しており、ウエアの軽さと保温性、ゴアテックスプロの快適性で、月山の厳しい環境下でも快適に活動させてもらっています。
スプリングシーズンのレイヤリングは?
Outer layer:ARC’TERYX|アルファジャケット メンズ & ラッシュ ビブ パンツ メンズ
Middle layer :ARC’TERYX|デルタフーディ メンズ
Base layer:ARC’TERYX|コーマック クルー ロングスリーブ メンズ
最近は3月後半から気温が上がり融雪も進み、標高1000m位までは暑いくらいだけど2000m位だとまだ厳冬期の寒さでウエアリングが難しくなってきているように思います。その際にハイクアップでは「INCENDO HOODY」などの薄手のジャケットを羽織り、休憩や滑りの際は「ALPHA JACKET」を使用します。この組み合わせは春先の細かな気温変化にも対応できますし、荷物もコンパクトにまとまるのでとても重宝してますね。とくに、「INCENDO HOODY」は春先のツアーで、とても暖かい日にはこの薄手のジャケットで1日過ごすことも多いです。
レビューワー
IDEHA|石沢孝浩 Takahiro Ishizawa
蔵王の片隅に生まれ育ち、幼少から野山でスキーを楽しみ育ちました。月山でガイドを始めて27年、このエリアで滑る楽しみは飽きることがありません。この感動をお伝えしたいと思いガイドしております。また、ココヘリのドローンパイロットとして山岳エリアでの遭難者捜索活動にも携わり、安全登山の啓蒙活動も行っています。
Spur 秋田マウンテンガイドサービス|佐藤真理子
とにかく汗をかきやすく、ヒートアップしやすい自分はこんなレイヤリング
ハイシーズンのレイヤリング
Outer layer:ELEVENATE |Bec de Rosses XL ジャケット&パンツ
Middle layer :Patagonia|ナノエア
Base layer:Patagonia|キャプリーン・ サーマル ・フーディ/MILLET|ドライナミックメッシュ 3/4スリーブ
その使用感は?(インプレッション)
アウターシャルは、程よくゆとりがありつつも、生地の無駄がなく、しかもしっかりしていて、肘や肩周り、背中、膝、足を上げた時の腿の部分のつっぱり感など、ストレスに感じる部分が少なく、体型に合っている点とシルエットやデザイン、カラーも気に入って使っています。
とにかく汗をかきやすく、ヒートアップしやすいので、ベースレイヤーと肌の間には必ず1枚入れてあげないとシャツが張り付いたり、汗冷えしやすいので、ドライナミックシャツは欠かせません。
膝のケガ歴があるのと、毎日動くので、日々のリカバリーとサポート、納まるべきところにしっかり納まっていると、無駄な動きがなくなり疲れが軽減されるので、サポートタイツも欠かせません。
スプリングシーズンのレイヤリングは?
アウターシェルは変わらず、ミッドレイヤーはザックの中でお留守番となります。ベースレイヤーは、Patagoniaの「トロピック コンフォート ナチュラル フーディ、MILLET「ドライナミックメッシュ タンクトップ」、c3fit 「インパクトブリーズロングタイツ 」などを着ています。
さらに加えている工夫はありますか?
スプリングシーズンは、アウターシェルよりも使用頻度がグッと上がってくるのがウィンドシェルで、state of elevenateの「 la Bise jacket」を愛用しています。
レビューワー
Spur 秋田マウンテンガイドサービス|佐藤真理子 Mariko Sato
高校までアルペン競技、その後基礎スキーへ。全日本スキー技術選手権出場経験あり。とあることがきっかけで山スキーに魅せられガイドを目指し国際自然化環境アウトドア専門学校(i-nac)で学びプロガイドへ。
テレマークスクール&スキーガイド和泉屋AK.T
長い登りやテレマークの可動域の広さにも違和感がないもの・保温性の高いものを
ハイシーズンのレイヤリング
Outer layer:SCOTT|エクスプローラー3L
Middle layer :Patagonia |R1プルオーバーフーディー
Base layer:Patagonia| メンズ・キャプリーン・ミッドウェイト・クルー
その使用感は?(インプレッション)
シェル:防水性と透水性は申し分なく、ソフトで伸縮性があり、長い登りやテレマークの可動域の広さにも違和感がない。
ミッドレイヤー:限りなくベースレイヤーに近い薄さで保温性もある。フードはバラクラバとして頭部と首回りをしっかり保温してくれる。
スプリングシーズンのレイヤリングは?
ミッドレイヤーの「R1プルオーバーフーディー」の代わりに、ベースレイヤーの「キャプリーン・フーディー」と、さらに薄手のキャプリーンの重ね着をしている(3月~4月まで)。
さらに加えている工夫はありますか?
防寒のために小さく圧縮できるPatagoniaの「 ナノパフフーディー」は必ず持参している。
レビューワー
テレマークスクール&スキーガイド和泉屋AK.T|阿久津研二
現在は南会津にて夏は南郷トマト農家、冬はテレマークスクール&スキーガイド和泉屋AK.Tを主宰。
GRANIX mountain guid|荒川 智
お気に入りの透湿性や保温性の高いHaglöfsアイテムでレイヤリング
ハイシーズンのレイヤリング
Outer layer:Haglöfs |Vassi GTX Pro JKT & PANTS
Middle layer :Haglöfs |Vassi Mid Hood Men
Base layer:Haglöfs|Natural Blend Tech Crew Neck Men
その使用感は?(インプレッション)
アウターシェルに関してはサイズアップして使用しています。ハイクアップ、ライディング共に可動域を制限されないのでとても動きやすいです。さらにアウターシェルとミッドレイヤーの間に空気の層ができるので暖かく、「Haglöfs Vassi GTX Pro」の生地は40Dと丈夫で透湿性にも優れ、大きめのベンチレーションもあり、蒸れ感がないのがお気に入りです。
Haglöfs Vassi GTX Proの少し長めの着丈は、deep powderにも対応できますし保温力も優れているところもお気に入りです。ポケットも多く、すぐに出したいものや、ちょっとしたゲストへのお助け小物などを入れておくのにも便利です。ミッドレイヤー「Vassi Mid Hood Men」とベースレイヤー「Natural Blend Tech Crew Neck Men」の組み合わせがとても良く、優れた保温性と透湿に加え、速乾性も良いので重宝しています。
スプリングシーズンのレイヤリングは?
気温も厳冬期よりも高くなりロングルートへ出かける機会が増えます。冬期よりサイズダウンし急な荒天にも耐えられるアウターシェルを使用。重量も軽量化し脱いでバックパックへ入れる際の負担も気にしています。「Haglöfs Spitz GTX PRO Jacket Men」を愛用しています。
さらに加えている工夫はありますか?
厳冬期は汗をなるべくかかない登行ペースなどを心がけていますが、どうしても汗をかいてしまいます。透湿性と速乾性を重視し、さらに保温力の高いインナーダウンなど低体温には備えています。
レビューワー
GRANIX mountain guide|荒川 智 Satoshi Arakawa
ゲストに最高のバックカントリー体験を提供したいと願いながら、主に長野県白馬村の山岳地帯を中心に活動している。 夏は登山ガイドとして日本国内の山岳エリアを案内。 ガイド歴:13年
COLOR SPORT CLUB |舎川 朋弘
このレイヤリングで素晴らしいスキーライフ!
ハイシーズンのレイヤリング
Outer layer:PERMANENT UNION |KOVAL JACKET & KOVAL BIB PANTS
Middle layer :ACLIMA|HotWool Polo W/Zip+PERMANENT UNION|scapa jacket(※いずれも展開終了のため現在は販売していない)
Base layer:ACLIMA|WoolNet Crew Neck & WoolNet 3/4 Longs+ LightWool Sports Shirt&LightWool Longs
その使用感は?(インプレッション)
ベースで汗を吸い逃がして後戻りしない状況を、また肌触りも良く、体の動きにストレスなくついてくるウール素材のミッド、ウィンドシェルとしても機能する化繊綿のジャケット、そして雪上ライフを優雅に演出するPERMANENT UNIOをアウターに纏う。素晴らしいスキーライフとなります。
スプリングシーズンのレイヤリングは?
基本で上記のレイヤリングとなりますが、一枚一枚を薄手にもっていきます。
さらに加えている工夫はありますか?
頭部を耳含め温め、手にはオーバーグローブ等、よほどの超時間を伴う場合にはアウターシェル上に化繊綿のジャケットも纏い、透湿性能を上げ体の湿度快適性を上げるなど。
レビューワー
COLOR SPORT CLUB|舎川 朋弘 Tomohiro Tonegawa
現在に至るバックカントリシーンを築いた草分的存在。90年代初頭よりゲレンデ外に目を向け、厳冬期における山岳スキーシーンを切り開いてきた。代名詞となる白馬全域のフィールド開拓を達成してもなおパイオニアワークは続いている。
黒田山岳ガイド事務所|黒田 誠
歩いていて暑くなりにくい、薄いものの重ね着が調子良い
ハイシーズンのレイヤリング
Outer layer:Patagonia |メンズ スーパー・フリー・アルパインジャケット
Middle layer :Patagonia|メンズ・エアシェッド・プロ・プルオーバー/メンズ・キャプリーン・サーマル・フーディ
Base layer:Smartwool|メンズ オールシーズンメリノ ベースレイヤー1/4ジップ
その使用感は?(インプレッション)
肌着はウールが個人的には頼りになって、好きです。トラブルがあって行動が止まったときには、身体が冷えづらいです。歩いていて、暑くなりにくい、薄い物の重ね着が、調子良いと思います。
シェルもスキー用の重いものではなく、クライミング用のもののほうが肩も凝らないし、悪天の時に頼りになります。シェルはザックに入れている時間も多いので、できるだけ軽量のものが良いです。パウダースカートも不要です。
スプリングシーズンのレイヤリングは?
アイスブレイカーの薄手のウールのTシャツとパタゴニアのエアシェッド・プロ・プルオーバーの組み合わせが多いですね。日帰りなら、ソフトシェルのパンツとバックアップに薄い雨具、泊まりなら、ブラックダイヤモンドのアクティブシェルのパンツを使います。
さらに加えている工夫はありますか?
できるだけ休憩をしないで済むように、ゆっくり行動しています。できれば1.5時間くらいは止まらずに歩きたいですね。
レビューワー
黒田山岳ガイド事務所|黒田 誠 Makoto Kuroda
少人数制のプライベートガイドで、それぞれのレベルにあったオリジナリティあふれる山行をサポート。滑りだけでなく、旅心を大切にサービスを提供している。
佐藤正昭
ハイシーズンのレイヤリング
Outer layer:Rab Generator Apine Jacket+Rab Khroma Diffuse GTX Jacket & Rab Khroma Diffuse GTX pants
Middle layer :Rab Ascendor Hoody
Base layer:Finetrackなどのメッシュやメリノウールの薄く化繊の混合のベースレイヤー
その使用感は?(インプレッション)
汗かきで真冬でも大汗をかくので、ジャケットを着ないでハイクすることも多い。Rabはゴアテックスを採用しているが、買い求め安い価格がいい。Rabのウエアは、日本と同じく雨がよく降るイギリスでのフィールドテストを重ねて開発されているので、他のヨーロッパのメーカーのウエアより濡れに強く感じて信頼できる。白馬も湿雪の中を歩き、標高が上がるにつれて凍り出すという環境下なので。また、白馬では 風がよく吹くので、ミッドレイヤーはフードがないと辛い。
パンツのカッティングがいいので脚部が抱え込みやすく、滑るのにストレスを感じない。
スプリングシーズンのレイヤリングは?
基本一緒です。 ミッドレイヤーを薄くし、Rab Force hoodyや化繊のシャツなど着てます。
さらに加えている工夫はありますか?
ダウンではなく、プリマロフトのジャケットをシェルの上からすぐ羽織れるようにしてます。 ザックのなかでグチャグチャでも、ロフトがかわらず扱いに気を遣う必要がない。 湿雪が降りそうな日はミッドレイヤーをソフトシェルにしたりしています。
レビューワー
佐藤正昭 Masaaki Sato
幼い頃よりスキーに親しみ競技・基礎スキーなど経験し、20才で白馬村に移住24才よりバックカントリースキーに傾倒する。ポートスノー白馬・パワーゾーン白馬で経験をつみ独立。