フェノムを履いたファーストシーズン。「2バックルはどう?」 星野洸我と深谷奨のフィーリング

マットな質感の真っ黒なフォルム。3ピースのハイブリッド構造。他と一線を画する2バックルと幅広のラバーストラップというユニークなシステム。

24-25季、星野洸我やアンティ・オリラ、ダニエル・ルースリーなどフリースタイルやフリーライドの注目スキーヤーがこぞって履くニューブーツブランド「フェノム」がシーンに登場した。

まったく新しいブーツだけに情報の蓄積がほぼなく、どんなブーツなのかといった判断材料が乏しい。

そこで、実際に使っている人のフィーリングがブーツのことを知る近道ということで、シーズンインから足を入れている、星野洸我とLocus guide service(ローカスガイドサービス)の深谷奨に、どんなブーツなのかインプレッションを聞いてみた。

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まったく新しい金型から生まれた「フェノム」を知る5つのポイント

その前に、「フェノム」ブーツを簡潔におさらいしてみよう。

・ブーツは2種類

背面にウオークモードが付き快適な登高性とハイスピード滑走に適した「FR 01」と、ウォークモードがつかずフリースタイルな動きに定評ある「FS 01」の2種類。

それぞれにフレックスパターンがいくつかあり「FR」は100/110/120/130の4タイプ。「FS」は100/120の2タイプだ。

・ハイブリッドなシェル

密着感とエッジコントロール性に優れたオーバーラップ。3ピースデザインはしなやかさのあるフレックス。この両者の長所を併せもったハイブリッド構造を「フェノム」は採用している。トウボックスはかなりゆとりがあり、ラスト幅102mmと98mmの2種類がある。

・個性的なストラップやバックル

すべてのモデルにはフェノム独自の幅広い7cm幅のラバーストラップが付いている。これはリサイクル素材のひとつで、反発力と衝撃吸収性、優れたフレックスコントロールをもたらす。締まってほしい箇所を適切に抑える2つのバックルは、大きさがあるため耐久性と使いやすい。

・高い完成度を誇るライナー

チェッカード柄のアウターソールはスキーブーツから伝わる衝撃や振動を吸収するように設計されている。そのため、足腰の疲労を軽くし、着地も快適にしてくれる。グリップ力が高くてちょっとした車の運転も大丈夫だ。

各ライナーのフットベッドは、レンツと有名な整形外科専門医との共同開発。ヒールの下にあるコルクが振動を適度に吸収する。

・オールブラックの理由

すべてのパーツを黒で揃えているのは、見た目の洗練さはもちろんのこと、各部品の修復や再利用を促すためだ。細かなネジに至るまでほとんどのパーツがリサイクル可能な設計になっており、ブーツの製品寿命を長く保たせるだけでなく、使えなくなったあとの循環までも考えられているのが、黒いブーツたる所以だ。

2バックルは緩いはイメージ先行。そんな感覚は一切なしーー星野洸我

フェノムブーツの概要を掴んだところで、さっそく2人の話を聞いてみよう。

編集部:それぞれが使っているモデルを教えて下さい。

星野洸我(以下洸我):「FS 01 120(フレックスパターン120)」と「FR 01 130(フレックスパターン130)」の2つです。

・fs 01 120
フレックス=120
重量=1950g
ラスト幅=102mm
サイズ=24/.5、25/.5、26/.5、27/.5、28/.5

深谷奨(以下奨):僕は「FR 01 110(フレックスパターン110)」です。

・fr 01 130
フレックス=130
重量=1980g
ラスト幅=102mm
サイズ=24/.5、25/.5、26/.5、27/.5、28/.5

・fr 01 110
フレックス=110
重量=1980g
ラスト幅=102mm
サイズ=24/.5、25/.5、26/.5、27/.5、28/.5

編集部:そのモデルを選んだ理由は?

洸我:「FS 01 120」はフリースタイルラインのなかで一番フレックスがあります。自分みたいにハードなジャンプや不整地へ思いっきり突っ込むようなスタイルにも合っているという理由でこのモデルを選んでいます。

「FR 01 130」はバックカントリーなどでハイクアップを伴うライディングのときに使っています。「FS 01 120」と比べると、FRはフレックス値がすこし落ちている感じがしているので、フレックスパターン130でも120と同じような感覚で突っ込める印象です。

:ガイド中はディナフィットの「ラディカル プロ」を使っていたんですが、ウォークモードの構造上、ゲレンデを滑走する時のスキーブーツらしい(アッパーシェルの)たわみ感が欲しかったんです。普段はフレックス130あたりが好みですが、フェノムではフレックスパターンを110に落としたモデルを履いています。

理由は、以前ゲレンデ用としてFTの「アセンダントSC」を履いていたので、前傾角が入るポジションが好きなんです。それで、このモデルも同様に前傾角が入りやすい。動きの追従性やいい意味でのルーズさなど、いろいろと動きやすいのは、以前好きだった好きだったブーツの感覚に近い印象をもっています。

編集部:使ってみての印象はどうですか?

洸我:フリーライドとフリースタイルの違いはウォークモードが付いてるか付いてないか、というイメージで捉えています。

両ブーツともに足首周りがしっかりしていて、2バックルだけどバックルは太く、締め付けてくれる範囲も広い。つま先部分だけはちょっと広めにとっているのでフリースタイルな動きに最適で、バターをするときも、足裏の細かな調整が効いて動かしやすいいです。

カフの上部にはラバー製のバックルが付いてるんですが、これがブースターのような感じがあって反発があり、返ってくる感覚があります。ターン時にはしっかりと跳ね返ってくる印象が強いですね。

基礎スキーヤーの人も試し履きをしたら、好きなタイプのブーツという方も多くみかけました。

編集部:話に上がったラバーストラップはどんな印象ですか?

Photo/Miho_Furuse

:一般的なブーツのほとんどが伸び縮みのしないナイロンストラップが多いです。自分もブースターにカスタマイズすることがこれまでは多かったのですが、そうした必要はないという感想を抱きました。

あと、ウォークモードレバーを調整すると13度、15度、17度と3段階の角度調整ができます。自分のなかではあと一歩足りてなかった要素が、このブーツには備わっていると感じました。角度が自分の滑りにあっておりとても滑りやすく、柔らな印象のある「FR 01 110」でもまったく問題ありません。

前傾角が調整できるウォークモード付きブーツはまれーー深谷奨

編集部:バックルやラバーソールなどこれまでのブーツとは異なる形態ですが、そのあたりのフィーリングはいかがでしょう?

洸我:「2バックルは緩いんじゃない」というイメージが先行しているかもしれませんが、自分の感覚では一切ないですね。大きなバックルは締める範囲が広く、締めてほしい箇所を安定して締め付けられるようになっています。
つま先に少し遊びがあるのは微調整が効きやすいというプラス面として捉えてます。実際問題になるようなことはありません。

:僕もあまり隙がないっていう印象です。その昔、サロモンのゴーストを履いていたので、2バックルの印象は少しルーズだという刷り込みがありました。
でもフェノムはカフ上部の押さえがしっかりしてるのか、前傾姿勢で突っ込んでもブーツがたわみすぎません。だからといって、足首周りに力が逃げている感じがあるかというと、そうでもない。モデル名を出すのもなんですが、FTの「アセンダントSC」と比べても全然遜色ない感じです。

編集部:ライナーなどほか要素や気に入っている点はどうでしょう?

洸我:自分はライナーのシューレースの紐をしっかり締めて、そこからブーツを履きます。ラバーストラップはガチガチに締めすぎると、ふくらはぎがしびれるような感覚があるので締めすぎないようにしています。ライナーは厚さもあってしっかりしてるので印象はいいですね。

シューレースをしっかり絞り、足首周りが動かないように固定したうえで、バックルを締めすぎないで履くのがおすすめです。

:自分は斜面をハイクアップして滑るの両方を繰り返すシチュエーションが多いので、ライナーのシューレースは使っていません。

ゲレンデで履くときはシューレースを締めると、足首のズレを抑えられる印象はあります。なので、ハードな滑りになるときは締めますね。

八方尾根「おむすび」での深谷の滑り。このときはシューレースを締めていない

どちらかというとバックルやラバーストラップの調整のイージーさを活かした使い方をいまのところしています。

歩くときと滑走時のモード変更の際に2バックルは時間を短縮できます。ただ、ラバーストラップを緩めるには、一度パンツの裾をしっかりと上げなければならないので、調整時間としてはこれまでのブーツと大きな変わりありません。

ただ、時間的なメリットよりも滑走性能が高いので、そこはあまり重要視していません。滑りが良ければ山での快楽指数も上がるので。

洸我:前傾角度を調整できるのはとてもいいですね。自分の滑りのスタイル的にはカフが立ち気味のものが良くて、フェノムはその角度調整が簡単にできるんです。自分はフォワードリーンの角度を17度にしていてますが、しっくりきています。

13、15、17とたった2度の角度でなにが変わるんだと思うかもしれませんが、最大で4度の違いは滑りにも影響を与えるので、足を入れたら試してほしいですね。

編集部:ありがとうございました。

星野洸我 Koga Hoshino

新潟県南魚沼市在住。パーク文化が根付く、石打丸山スキー場の麓に生まれ育つ。両親の影響で3歳頃からスキーをはじめ、小学生にあがるとスキー場にいた周囲のフリースキーヤーに影響を受け、自然な流れでフリースタイルスキーを始める。山奥深いスティープな急斜面から路地裏の手すりまでが滑走フィールド。カテゴリーを問わず高いレベルのスキーと表現を追い続け、国内外の滑り手を惹きつけている。

Instagram:hoshinokoga

深谷奨 Sho Fukaya

長野県大町市在住。パタゴニア白馬ストアに勤務しながら、ガイドクラブ「Locus guide service」に所属し、日々山に入っている。出身が北海道札幌とあって、幼少期からスキーを嗜む。大学まではアイスホッケー選手として活動し、卒業後にはスキーをするために1年間カナダへ放浪。

Instagram:shawfukayaa

■phaenom(フェノム) https://www.phaenom-footwear.com/

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