長いノーズや割れたテールなど、その見た目からしてパウダーボードの特徴は明らかだ。しかしそれらはいったいどんな機能のためなのか? パウダーボード、という曖昧な存在の輪郭を際立たせるためには、そのスペックを理解することが欠かせない。そうして自分にフィットするベストボードを最短ルートで選び取ろう。今回はあるユーザーを想定しながら、実際にパウダーボードを選ぶ際の考え方をシミュレーションしてみた。ぜひとも参考にしてほしい。
取材協力/ムラサキスポーツ
POINT 1 想定するのはパウダービギナー
スノーボード選びは乗り手の技量に大きく影響されるうえ、パウダーボードを的確に選ぼうとするなら雪質だけでなく雪の深さや地形まで考慮する必要がある。そこで今回は以下のようなユーザーを想定してみた。
・フリースタイルボードに乗る中級者
・パウダーボードの購入は初めて
・関東在住で、滑りに行くのは白馬や野沢温泉、新潟
・自分がどんなスタイルを求めているのかはよくわからない。まずはゲレンデ内の非圧雪コースを気持ちよく滑りたい。将来的にはバックカントリーにも挑戦してみたい
では、話しを進めていこう。
POINT 2 パウダーボード選びの考え方
長さ? 形? パウダーボード選びの第一歩
もともとスノーボードは100%遊びの道具として生まれてきた。つまり根源にあるのはどう楽しみたいかであり、それを実現するためにさまざまなスペックやテクノロジーが採用されている。そう考えれば、パウダーボードも細部ではなく、まずは目指す遊び方を明確にすることから始めるのが間違いないだろう。
具体的には何を想定する?
ここで考えたいのは、新たに手に入れようとしている板は
・その一本でどんなコンディションでもこなす使い方をしたいのか
・パウダーのための特別な一本として手に入れたいのか‥‥だ。
たとえば、ゲレンデ内の非圧雪コースを滑ることがメインなら「一日中最高のパウダー」を滑ることができるとは限らない。ときには荒れたボコボコの雪面を滑り、固い斜面をトラバースする必要にも迫られるだろう。もちろん迂回路のサイドヒットでジャンプを楽しみたくなることもある。こうしたさまざまなシチュエーションに対応するなら、ある程度オールラウンドに使えるモデルがおすすめだ。
一方、最高のパウダーを芯まで味わいたいというなら、パウダー専用モデルを手に入れることを視野に入れたい。ベストコンディションに焦点を絞って理想的な条件を徹底的に堪能するためにパウダーボードを手に入れる。それ以外の状況ならフリースタイルボードなどでこなしてしまう。こうした使い分けを前提にするなら、思い切りパウダー性能に特化させたモデルを狙うことになる。
要はどう遊ぶか。まずはそこを明確にしなければパウダーボードは、というよりスノーボードは選べないのだ。
汎用性の高いモデルNITROチームライダーもお気に入り
汎用性の高い&3D K2チームライダーお気に入り
POINT 3 形の理由と各部の役目
ノーズの長さは何に影響する?
ズバリ、それはパウダーの中での「浮力」だ。特にノーズに浮力が与えられると低速時や緩斜面でも失速しにくくなり、パウダーの中でのスタート時にも初速を得やすくなる。スノーボードはどんな形であろうと、スピードさえ出てしまえばパウダーの中でもある程度の浮力を発揮してくれる。しかしパウダービギナーの場合、そのスピードに達することが難しい。そこでノーズの長いモデルを選ぶことで、パウダーの中での速度を得やすくしようという発想だ。
ちなみにノーズに浮力を与えるためには、長くする以外に「幅を広げる」「ノーズ形状が3D形状を取り入れる(船底のような形状)」という手法もある。
ノーズ長め
3Dノーズ
テールが短く、細いのはなぜ?
パウダーボードではノーズの浮力を相対的に大きくするために、テールを短くしたり、細くしたりしている。このうち、テールを細くすることを「テーパーをつける」などと表現し、テーパーのついたモデルを「テーパード」と呼んでいる。 テーパードはパウダーの中での操作性が上がり、方向づけのきっかけがつかみやすく、ターンのヌケも良くなるが、圧雪での切れ上がりが弱くなってしまう。そのためよりシャープなターン性能を求めて、サイドカーブのテール側に小さな半径のサイドカーブを設けてターン後半の切れ上がりを強くしているモデルもある。
テーパー1.5センチ以上 テールに小さめのサイドカット
テールの形は何に影響する?
パウダーボードと聞いて連想するのは、スワローテールやフィッシュテールといったパウダーボードならではのテール形状だ。スワローテールはツバメの尾羽根のようにテールの左右が細く長く伸びたもの、フィッシュテールは魚の尾びれのような形でテールの左右がなめらかに曲線で伸びているものを言う。
どちらの形もパウダーでのターン性能向上を狙っており、深雪の中でテールを適度に沈ませて、軽く柔らかい雪をしっかり捉えるようにしたものだ。つまりこれらは、雪の中に沈んだ状態でスノーボードをコントロールするための形状。スワローテールは柔らかく雪を捉えるのでターンが気持ちよく伸びていく。フィッシュテールは短いぶん、レスポンスのいいターンを叶えることができるなど、テール形状はそのままパウダーでのターン特性につながっている。
スワローテール
コンパクトなフィッシュテール(ノーズ3D)
POINT 4 フレックスはソフト傾向で
上級者がディープパウダーのオープンバーンをハイスピードでターンするなら、固めのフレックスのほうが楽しめるだろう。しかし初めてのパウダーボードということになれば、少し柔らかめのモデルを選んだほうが楽しいかもしれない。
理由は、柔らかめの板なら低速でもコントロールしやすく、複雑な地形でも乗りこなしに苦労しないからだ。それにパウダーは雪面自体が柔らかい。フレックスが固すぎるとパウダーの中でも板がしなりにくく、気持ちのいいパウダーダーンを味わうまでに技術習得の時間がかかってしまう。
もちろんゲレンデでの使用も視野に入れた一本で、どんなコンディションでもこなしたいというなら、ある程度のフレックスが必要になってくる。しかしそうした場合でも、ある程度のフレックスを求めるのは足元中心。ノーズまわりをソフトに設定したモデルならノーズがフレックスしてくれるためパウダーでの浮力を得つつ、細かな自然地形にもスムースに対応することが可能になる。
POINT 5 ロッカーか・キャンバーか
パウダーでの浮力だけを考えればロッカー形状のほうが圧倒的に有利だ。浮力を得やすく、その浮力のコントロールもしやすい。その一方、圧雪や固くしまった雪面でのコントロール性を重視するならキャンバー形状が有利になる。
どちらを選ぶかは悩ましいところだが、近年ではロッカーとキャンバーそれぞれの長所を組み合わせたハイブリッド形状が主流となっている。たとえば足元をキャンバーにしながらノーズとテールにはロッカー形状を採用したり、足元のキャンバー部分を後ろ足寄りにオフセットして、ノーズのロッカーをより緩やかにするといった設計だ。
こうした工夫でさまざまなコンディションに対応できるパウダーボードが増えており、パウダーでの滑りやすさと、圧雪や固い雪面でのコントロール性をバランスさせているものが多くなっている。二者択一ではなく、両者のメリットをとり入れたモデルがあることも知っておきたい。
板の形状
キャンバー
スノーボードの基本的な形。2006年までにはこの形のみだった。安定感と反発があり、エッジグリップにも優れている。
ハイブリッド
両足の下がキャンバーで、バインディングの外側に少しロッカー形状が入っている。キャンバーボードの安定感を維持しつつ、ロッカーのような操作性を向上させた形状。また、各ブランドにより形状は様々。
フラットロッカー
バインディング間が接地していて(フラット)で、ノーズとテールが大きく浮いている形状。キャンバーとロッカーの中間の特性を持っている。ロッカーをベースに操作性を維持し、少しだけ安定性を高めているタイプ。
テール寄りにオフセットされたキャンバーモデル
POINT 6 長さは最後に決める
サイズはバリエーションから選択
スノーボードを選ぶ際には、最初にサイズから検討することが多い。が、今やほとんどのモデルにサイズバリエーションがある。言ってみれば、サイズだけは後から好きに選ぶことができるのだ。ゆえに、自分の滑りたいスタイルに合致するコンセプトを持った製品の中で、自分の力量にあったフレックスのものを選び、最終的に自分の体型や滑るエリアの雪質にフィットするサイズを選ぶ、という流れが正解なのだ。
幅が同じならプラス5cm前後
目をつけたパウダーボードのウェスト幅が、今乗っているものとほぼ同じであれば、やや長めのプラス5cmを目安に、3~10cm長いものを選ぶようにしよう。理由は長さで浮力を稼ぐためだが、長くなっても取り回しに大きな差は生じない。というのもパウダーボードのノーズは反り上がっているので、圧雪ではほぼ雪面には接しない。その長さがいきてくるのは深いパウダーの中でこそなのだ。
ロングボード
短くてもOKのパターンもアリ
長さが浮力を稼ぐものであるように、幅も大きく浮力に関わってくる。そうなると、ワイドボディなら板の全長は短くてもOK、ということが理解できる。実際のところショートボードの扱いやすさは格別だ。これまで苦手だったトラックだらけの荒れたパウダーでも小気味よくターンをこなし、十分に気持ちのいいクルージングを楽しむことができる。
つまるところ、スノーボードはバランスが肝心。ノーズやテールの形状といったスペックばかりを気にしていては、気持ちのいいパウダーライドにはたどり着けない。大事なのは自由なマインドのまま、いかに滑りを楽しむか、なのだ。
ショート&ファット&フィッシュテール
キャンバー・ショート&ファット
POINT7 気持ちが動いたら、それが乗るべき板だ!
パウダーという柔らかなコンディションと、そこにある自由なマインドが影響しているのか、パウダーボードは一般的なスノーボードに比べると比較的デザインの幅が広く、個性的なモデルが目に付きやすい。だからこそ、そのデザイン性もまた板選びの大きなファクターだ。
もしも、乗りたい形の板に出会ってしまったなら、それが自分の技量を上回るようなものだったとしても、情熱やインスピレーションを捨て去るようなことは、してほしくない。板の選び方にはさまざまな考え方がある。無駄遣いをすることなく、最短距離で後悔のないパウダーボードにたどり着く方法はいくつもある。時には、これを買っておけば間違いない、という守りの選択が必要になることもあるだろう。しかし、乗りたい!という気持ちはすべてのアドバイスを凌駕する。
乗りたいと思える板に巡り会うことは、滑り手としてこの上ない幸福なのだ。そして、そうした板に乗ってみるのも大事な経験のひとつ。そのうえで、もう一度スペックや使い方について考え直してみることが、いっそう深い板選びへと繋がっていくだろう。
執筆/林拓郎