‘25-26シーズン、VAN DEER-Red Bull Sports (ヴァンディア-レッドブルスポーツ)が、新たにスキーブーツ「PRO BOOT」を発表した。まるで未来から届けられたかのようにプロデュースされた新次元のスキーブーツ、一体どんなブーツなのか? 興味深い開発の裏側とプロダクトに迫ってみよう。
VAN DEER-Red Bull Sports完全オリジナルの自信作

15年間にわたりアルペンレース界の頂点に君臨し続け、前人未踏の記録を打ち建てた絶対王者Marcel Hirscher(マルセル・ヒルシャー)。マルセルが自らプロデュースするVAN DEER-Red Bull Sportsは、2022年のブランド創立以来、VAN DEER-Red Bull Sports のスキーを使用する選手、ヘンリック・クリストファーセン、ティモン・ホーガンなどのFISワールドカップでの数々の勝利によって、レース界を嵐の如く席巻してきた。
当然のようにヨーロッパでの知名度や人気は高まる一方、‘24ー25シーズンには、新潟県湯沢町のクレブスポーツを通じてついに日本にも初上陸。ヒルシャーによって「魔法がかけられたスキー」として話題となったが、’25-26シーズンには新たにブーツがリリースされることが発表された。
その名は「PRO BOOT」。アウトルックは、VAN DEER-Red Bull Sportsスキーのイメージを踏襲するようなカラーリングにロゴ入り、4バックルタイプにパワーベルトと、外見のパッと見は、それほど従来のスキーブーツと変わったところも見受けられない。
となると、次に湧いてくるのは「どこかのメーカーのブーツの金型(鋳型)にロゴを施したOEM?」といった邪推ではないか? その答えは「完全否定のNO」である。「PRO BOOT」はVAN DEER-Red Bull Sportsによる完全オリジナル。まったくゼロから開発された、独自のデザイン(設計)によって完成した作品だ。そして、もちろんマルセル・ヒルシャーのこだわりが詰まった自信作だ。
その実態にスコープしてみよう。
秘密のプロジェクトの始まり

実は今回の「PRO BOOT」の前にすでに’24ー25シーズンには純レーシングブーツ「RB02」が開発されていた。
2023年夏、マルセル・ヒルシャーと彼の父フェルディナンド、そして世界的に著名なスキーブーツのエンジニアであるトニー・ギガー、ヒューバート・イムラー、ゲルハルト・ノイマイヤーという3名の専門家たちがVAN DEER-Red Bull Sportsの拠点であるオーストリア・アンナベルクに集まった。
VAN DEER-Red Bull Sportsがワールドカップに初参戦した2023年の冬、ヘンリック・クリストファーセン(NOR)がVAN DEER-Red Bull Sportsのスキーにマテリアルチェンジし、1月のW-CUPガルミッシュ・パルテンキルヘン(GER)でのSL戦で華麗なる優勝を収めた。
レース界にセンセーショナルを巻き起こしたスキーの勝利に続いて、その夏にはすぐに、スキーの性能を最大限に引き出せるスキーブーツ開発のスケッチが3名のエンジニアチームよって描かれたのである。
どうしてブーツなのか?

なぜVAN DEER-Red Bull Sportsのブーツなのか?
この質問にヒルシャーは即座に答えた。
「究極のパフォーマンスは常にブーツから始まる。スキーの真のポテンシャルを引き出すには完璧なブーツが必要だ。だから、これまでのノウハウを活かし、ゼロから独自のブーツを開発することを決めたんだ」
エンジニアの一人、VAN DEER-Red Bull SportsのCOO(Chief Operating Officer:最高執行責任者)でもあるトニー・ギガーは次のように語っている。
「外観だけでは、スキーブーツはどれも同じように見えるかもしれません。アウター、インナー、シェル、カフ、バックル、ストラップ…一見慣れた要素が並んでいます。しかし、実はそのなかには無限の可能性が秘められているのです。
スキーブーツは、スキーヤーと雪面をつなぐ最も重要な要素であり、ビンディング、プレート、スキーと相互に作用する部分です。しかし、この重要な要素はしばしば過小評価されています。そこで我々は、まったく新しいアプローチを試みたのです」
ゼロから革新的なブーツが生まれるまで
トニー・ギガーの話を続けよう。
「開発は文字通り白紙から始まりました。私たちエンジニアは、まず、マルセルとフェルディナンドのレース経験を記録・分類・分析し、それを基に最初のスケッチを描きました。そして、それをCADモデルに変換していったのです。
その過程で、私たちは新たな設計哲学を採用しました。
一般的に、レーシングブーツはパワー伝達を最優先し、それ以外の要素は二の次でした。しかし、それでは革新的なブーツにはならない。「RB02」は、パフォーマンスと衝撃吸収性能を融合させることに成功したのです。

「RB02」は、すね、足首、足の各ゾーンに分けて考えられています。スキーヤーからスキーへ、そして雪面へとパワーを伝えるゾーンでは、力が逃げないようにブーツを足の輪郭に沿わせた形状にしました。そして、同時に衝撃を吸収するゾーンも設けたのです。これによって雪面からの反発力がスキーヤーの体に伝わる前にブーツ内でバランスよく配分され、より精密なコントロールが可能となり、スムーズで安定した滑りを実現するからです。
また、ソール部分の「リフター」も、衝撃吸収材としても一役買っています。
ブーツ後部に設けた「DEER-Boost」と呼ばれる特別な構造は、かかとや足首まわりのリア(後部)サポートを強化しています。これによってバランスがとれ、適切なポジションを維持しやすくなると同時に、すねの部分にかかる力をうまく支え、ターン時のパワー伝達を効率化し、急斜面でのコントロール性にも貢献します。
この「RB02」のテストモデルは、VAN DEER-Red Bull Sports社内で開発され、イタリアの革新的なブーツメーカーSCARPA社の協力によって製造されました。ヒルシャーのモットーである「完璧を追求すると魔法が生まれる」という理念のもと、約50回ものCADモデルの最適化ループを経て、ようやく誕生した渾身のレーシングブーツとなったのです」
イタリアは世界でもっとも伝統あるブーツ王国。SCARPA(スカルパ)といえば、その技術力は世界トップクラスの評価を受けるメーカーだ。VAN DEER-Red Bull Sportsのエンジニアチームの導き出した究極のデザイン(設計)を精密にプロダクトに具現化するに、不足はなかったはずだ。
発揮されたその威力・証明されたその実力

開発された「RB02」ブーツは、驚くべき早さでW-CUPの表彰台に立った。2024年10月27日、Sölden(AUT)で開催された‘24-25シーズンのW-CUP開幕戦のGS戦でヘンリック・クリストーファセンは2位に、続くLevi(FIN)でのSL戦でも2位をマークした。その足元には確かにRB02 の姿があった。
▼ヘンリック・クリストーファセン自身のSölden戦での表彰式の投稿(左がヘンリック)
2025年1月9日にVAN DEER-Red Bull Sportsの公式サイトで、このようなコメントが出された。
「それは秘密のミッションとして始まり、いまではレーシングブーツの新たな道を切り拓いています。VAN DEER-Red Bull Sportsのエンジニアたちは、W-CUP初参戦の冬にレースで勝利を収めたスキーに続き、画期的なスキーブーツの開発にも成功しました。この革新的な『RB02』レーシングブーツは、パフォーマンスと衝撃吸収性能を融合させ、ヘンリック・クリストファーセン、ティモン・ハウガン、ファビアン・アックス・シュワルツ、アレイス・オーバート・セラカンタら、トップアスリートだけでなく、すべてのスキーヤーのためのブーツとなるでしょう」
この直後、1月15日のVal d'Isère(FRA)でのGS戦で、ヘンリック・クリストーファセンはついに優勝を手にした。また、ティモン・ハウガンも、1月29日にSchladming(AUT)で開催されたナイトスラロームで優勝し、アスリートキャリア最大の勝利を収めた。VAN DEER-Red Bull Sportsのブーツは、いま、まさに世界のど真ん中にいるといっても過言ではない。
レーシング精度をすべてのスキーヤーへ

かつてマルセル・ヒルシャーはこう言った。
「世界最高のスキーヤーになることはできるが、最高の素材を持っ ていなければ、決して勝つことはできない。私たちはあなたに勝ってほしい。私たちは君たちにできるだけ速く滑ってほしい。そして、レースコースで自分 の限界に挑戦し、新境地を開拓してほしい」
ヒルシャーのこの思いは、すべてのスキーヤーに対してであり、勝利を求めるレーサーだけに向けられたものではない。自らフリーライドのファットスキーを開発したように、スキーと雪山を愛するすべてのスキーヤーに「最高級の滑走体験をしてほしい」という願いをもって、ギアの開発にその情熱とノウハウを注いでいるのだ。
‘25-26シーズン、新たにリリースされた「PRO BOOT」に込められたヒルシャーの思いも同じ。まさに「RB02」ブーツが世界のアルペントップシーンで証明した素晴らしい性能を、すべてのスキーヤーが享受できるようデザインされたのが「PRO BOOT」なのだ。
エンジニアのギガ―はこう言っている。
「スキーと同じ哲学に基づき、レーシング用ブーツと一般用の違いは、品質や構成要素ではなく、より快適な履き心地と足元のゆとりだけです」
では、「PRO BOOT」には、この「より快適な履き心地」や「足元のゆとり」をどう実現しているのか? 具体的に見ていこう。
「PRO BOOT」の特徴
その特徴や注目ポイントとして、主に以下の3点が挙げられる。
① 最適化されたソールやジオメトリー

通常よりもソールを短くしたことで、加圧のパワーの分散を抑え、より優れたパワー伝達を実現。例えば25.5㎝のブーツのソールは約295㎜のところ、PRO BOOTは288㎜だ。数字で見るとわずかのようにも思えるが、パフォーマンスへ与える影響は大きい。
PRO BOOTのラスト幅は97㎜。W-CUPを戦うレベルのレーサーたちに向けたブーツは、よりタイトなホールドを求めてラスト幅は通常92㎜前後。97㎜は日本人の平均的な足幅にも十分に対応する、快適でゆとりのあるデザインといっていいだろう。
数十万もの足型を分析した結果生み出された、快適性を実現する最適なソール長とラスト幅、足を包み込むボリュームとの絶妙なバランス。この最適なジオメトリー(設計)が、このブーツの自慢の一つ。
これによって極上のパワー伝達とコントロール性能がもたらされ、最大限のパフォーマンスと快適性が得られるのだ。
② リフターを事前装備

PRO BOOTの底には、独自のリフターが予め装備されている。ブーツの高さが増せばそれだけスキーへの加圧の効率がよくなり、操作性が上がる。このリフターは衝撃吸収の役割も担っている。
また、通常はレースブーツの底面はツルツルで歩きにくいものだが、こちらはあらかじめグリップ力のある素材が採用されているため、あらゆる面の上でも安全で快適に歩ける。それでいて滑走には干渉しない優れた仕様なのだ。
③ 革新的なIntuition(インテュイション)ライナー

熱成形可能な高品質なフォーム素材を使って特別に作られたライナーで、Intuitionパッドによって熱成形することで、ライナーがタン部を含めて数分で自分の足に完全フィットする。
また、ライナーには快適さとサポート性を高めるインソールも付属し、革新的なフィット感を実現している。
PRO BOOT 130/110

Functions
・Intuitionライナー/熱成形可能なフォームで完璧なフィット(タン付き)
・最適化されたフィット
・ 最適化されたソール
・事前装着されたリフター
・SIDAS パワーストラップ P2
・デュアルスクリュー・カンティング
・取り外し可能なスポイラー
Size:25-28㎝
Flex:130/110
Last:97㎜
Weight: 2251g (1/2)
¥176,000(税込)
ヒルシャーのギアへの情熱と飽くなき探求心が生んだ、ハイパフォーマンスと快適性を融合した新次元のブーツ「PRO BOOT」、ぜひ雪上で試してみたい。
「PRO BOOT」を試し履き!
ライダーインプレッション
話題の「PRO BOOT」をスキーヤーの廣瀬健がテスターとして試し履き、2月の湯沢エリアで実際に滑走テストしてみた。そのインプレッションを聞いてみよう。


廣瀬 健のインプレッション

「僕はターン前半から板を身体から離して遠心力を使って板をたわませて滑るタイプですが、ターン前半の傾きを強くつけたり、早く傾ける人でも、傾けた後にきちんといいポジションに安定させてくれるので、いつもいいポジションで居られる感覚です。
かかと部分が強い、のようにどこが強いといったことを感じずに、ターンの全部のフェイズでしなやかさを使えると感じました」
【Profile】廣瀬健 (ひろせけん)
北海道出身、群馬県在住。アルペンスキーで培ったテクニックを武器に、フリーライドコンペシーンで活動中。沼田を拠点に谷川岳をはじめ各地のフィールドへ足を運ぶ。
このようなコメントから、「PRO BOOT」は、くせがなく、いろいろな滑りのタイプにマッチしそうだ。そして、どの方向に対してもしなやかさを感じることができるブーツ。適度なフレックスとフィット感を持ち、スムーズな動きと快適な履き心地が得られるブーツとといったところか。いいポジションに自然に乗れるという点は、リアサポートの効果と考えらそうだ。
次はあなたの番!
この「PRO BOOT」が雪上で試せる「プレミアム試乗会」を開催!

VAN DEER-Red Bull Sportsを取扱うクレブスポーツでは、3月に「プレミアム試乗会」を開催する。
‘25-26シーズンのニューモデルスキーとともに、この「PRO BOOT 130」のお試しも可能だ。対応サイズは以下の3サイズとなる。
午前・午後の1日2部制で、じっくり試乗できるように、スタッフが手厚くサポートできるように、各回定員10名という少人数限定だ。
スキーのラインナップにも要注目のモデルが多数あるが、その詳細はコチラの記事で確認いただくとしよう。


VAN DEER-Red Bull Sportsスキー&ブーツとのセットでの試乗は、まるでFISワールドカップレーサーになった気分、とてもワクワクではないか。初めて実現するこの貴重なチャンスは、まさに「プレミアム」。ぜひその手に「PRO BOOT」をとって、履いてみよう。オンピステを自由に滑り降りたとき、思わずどんなインプレッションの言葉があふれ出てくるかは、お楽しみ!
「VAN DEER-Red Bull Sportsプレミアム試乗会 PREMIUM TEST RIDE」開催概要
・参加費
事前受付:無料
当日受付:1,500円(空きがある場合のみ|札幌国際会場のみ当日受付でも無料)
・参加条件::当日は免許証と携帯電話を持参のこと
・開催時間:2部制 ①午前9:00~12:00 ②午後12:30~15:00(札幌国際会場 3/16は午後の部のみ)
開催日程 | 時間 | 会場 |
---|---|---|
2025年3月1日(土)~2日(日) | 9:00-15:00 | 新潟県 ナスパスキーガーデン |
2025年3月8日(土)~9日(日) | 9:00-15:00 | 新潟県 苗場スキー場 |
2025年3月15日(土)~16日(日) | 9:00-15:00 3/16は午前のみ | 北海道 札幌国際スキー場 |
【留意事項】
事前受付が定員に達し満席になっている場合は、直接現地にお越しいただき、お申込ください。(予約された方が優先となります)
◆詳細や申込み

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