スノーボードを割り箸のように二つに割って、スキーのような形に展開。ソールに滑り止めのシールを貼って山に登り、スノーボード形状に戻して滑り降りてくる。スノーシューに比べてハイクのスピードが速く、滑るときにも背中が軽いとして人気のスプリットボードだが、複雑な機構を備えているだけに専用パーツが必要になるなど、注意点も多い。そこで初めて買うときにはどんなことに気をつけるべきなのかを探ってみた。
取材協力/サンライズヒル
POINT 1 サイズ選びのポイント
重要なのは長さではなく、重さ
スプリットボード選びで最初に悩んでしまうのが、どのくらいの長さのモデルを選ぶべきなのか、という点だ。一般的にスノーボードのサイズ選びでは身長を基準にすることが多い。しかしパウダーを滑ることが主目的となるスプリットボードでは、深雪をいかにこなすことができるかという点が重要になる。
そこで基準にするのは体重だ。当然、スプリットボードのサイズが長くなれば雪に接する面積も大きくなり、より大きな重さに対応できるようになる。深雪の中で、ライダーを支えるにじゅうぶんな浮力を求めるなら、体重基準で考えるべきなのだ。
体重を基準にした長さの目安
滑り手の重さを考える場合、体だけの重さなのか、ウエアや装備を背負った滑走時の総重量なのかが問題だ。両者の間には、ときに10kg以上の差があるからだ。答えは体だけの重さ。お風呂上がりに体重計に乗ったときの重さを考えてもらえばOKで、メーカーもそこを基準にサイズごとの体重レンジを定めている。
目安としては、
・45Kg未満 150cm未満
・45~55Kg 148~157cm
・55~70Kg 155~163cm
・70Kg以上 160cm以上
といったところだ。なお、現実的に問題になるのは板の長さではなく、板が雪に接する面積だ。ということは、板が短くても幅が広ければ問題ない。幅の広い板を選ぶ場合には、上記のサイズ表記とは違った目安が必要になることを覚えておこう。
体重が軽め
体重が重めにも対応
長さを考慮しながら好みをプラス
とはいえ、こうしたスペックを重視した、絶対に間違いのない板選びをしても面白みはない。好きなブランドや気になるモデルなど、スペックを超えて乗ってみたいモデルもチェック。何を選ぶべきか、だけでなく、どのモデルに乗りたいか、という好みやセンスを加味しながら選んでいこう。
POINT 2 形の意味
パウダー狙いならスワローテールを選ぶべき
パウダーボードのアイコンともいえるスワローテールはパウダーの中で適度にテールが沈むように設計されている。これによって相対的にノーズが上がり、浮力を生み出しやすくなるのだ。加えて取り回しが楽なことから、雪質や斜度など滑走条件が変化するなかでも扱いやすく、自然地形に対応しやすいとしてパウダー好きから評価されている。
とはいえ、固く凍った急斜面でのスワローテールはターンが外側にズレやすいなど、苦手とする状況も多々ある。雪質や滑走時期、山域によってはオーソドックスなラウンドテールのほうが滑りやすいという場面も多く、決してスワローテールでなければならない、ということはない。
すべてのテール形状にはメリットとデメリットがあることを踏まえ、自分が滑ろうとするフィールドの特徴を見据えながらショップなどで相談にのってもらい、いちばん楽しく滑れる形状を選ぶようにしたい。ちなみにシールでの登攀力に、テール形状はほぼ影響はない。
ノーズの長いモデルがいい?
浮力だけを考えるなら、ノーズの長いボードが有利だ。また後ろ足荷重を強く意識しなくてもノーズが浮いてくれるので、足への負担も小さくなる。ただしバックカントリーの雪質はさまざまだ。テール形状にメリットとデメリットがあるように、ノーズが長いことにもメリットとデメリットがあり、すべてのシーンで有利になるとは限らない。テール形状と同じ様に、一概に決めることはできない。自分が滑ろうとするフィールドに合わせていくという視点こそが重要なのだ。
ロッカーかキャンバーか
ロッカーは浮力を生み出しやすく取り回しが軽くなる傾向にあり、キャンバーはしっかり踏み込むことで手応えのあるカーヴィングターンに繋がりやすい。 どちらを選ぶかは滑り手のスタイルや嗜好によって決まる。つまり、完全に好みの問題だ。
また近年ではロッカーとキャンバー、両者のメリットをバランスよく組み合わせたハイブリッドが主流になっており、多くのモデルはこのハイブリッドに落ち着き始めている。なお、ロッカーとキャンバーのどちらを選んでも、シールの登攀力に差はない。
POINT 3 スプリットボード本体以外に必要なもの
スプリットボード本体以外に最低限必要なものをあげると、
スプリットボード用バインディング
通常のスノーボード用バインディングとは違って、滑走モード・歩行モードの2通りの使い方ができる
インターフェイス
スプリットボード用バインディングをスプリットボードに取り付ける専用の台座と、歩行モードに使うための台座
Spark Pucks / Canted Pucks
・+/- 6.5mmのToe/Heelセンタリングを1.3mm単位で調整可能
・+/- 30°の範囲を3°刻みで角度調整可能
・4.2mm単位でスタンス幅調整可能
Weight: Flat 10.19oz/pr (289g)
Canted 11.36oz/pr (322g)
シール
歩行モードの際にソールに貼る滑り止め。スキンとも呼ぶ。
ポール
歩行モードの際に補助的に使用する。滑走時はバックパックにつけたり収納できるよう、コンパクトになることが必要。
などだ。また状況によってはクランポンが必要になる。
クランポン
歩行モードの際にスプリットボードにつける金属製の滑り止め。アイゼン、クトーなどと呼ぶこともある。
IBEX ST CRAMPON
Weight: 0.68 lb/ea (312g) - 1.37 lb/pr (624g) - Reg
Sizes: Narrow, Regular, Wide
POINT 4 バインディングを選ぶなら
バックカントリーという周囲にお店も何もない状況で使うことになるので、トラブルのリスクが小さいことがいちばん。その意味では構造がシンプルで壊れにくいものをオススメしたい。
さらにバインディングの役目とは、乗りたい板と、自分の足にフィットしているブーツとをつなぐこと。その意味で、ブーツとの相性が良くないものはフィット感を望むことが難しくなり、選択肢から外れてしまう。また、いくらシンプルで軽いバインディングであっても、自分のライディングスタイルや使い方にマッチしなければ意味がない。バインディング選びはこうしたいくつかの要素を考え合わせることになる。経験者や専門店に相談に乗ってもらいながら、時間をかけて選びたい。
ARC|TESLA T1 BINDINGS / ARC ST
Weight: 1.38 lb/ea (628g) - 2.77 lb/pr (1256g) - Medium
POINT 5 ビギナー向きのスプリットボードとは?
専門店でしっかり相談、がベスト
ギア選びはどんな滑走レベルの人が、どの山を、どの季節に、どんなルートで滑るのか、といったことをすべて考慮することになるため、ひとりひとり違ったものになってしまう。メディアで一概に語ることは非常に難しい。
そこでぜひともオススメしたいのは、スプリットボードに詳しい専門店で相談に乗ってもらうことだ。予算や遊び方、今までに乗ってきた板、どんな状況が好きでどんな状況が苦手なのか。こうしたことをじっくり話しながら、すこしずつ希望のギアに焦点を絞っていけば間違いはない。
あるいはすでにスプリットボードを使っている友人に道具を借りて、一度体験してみるのもいいだろう。その板を基準に、もう少し長い方がいい、もっと柔らかい方がいい、など希望を具体的にしていけば、好みの乗り味まで最短距離で到達することができるだろう。
POINT 6 注目のスプリットボードとバインディング
最後に、取材に協力していただいた長野県上田市のプロショップ「サンライズヒル」の店長・小林さんが注目する、スプリットボードとバインディングについて聞いてみよう。
▶スプリットボード
※OGASAKAのスプリッドボードFACET 動画
スワローテールがパウダーでの高い操作性と滑走性を実現していることが豪快なライディングシーンによって表現されている
▶バインディング
※SPARK R&Dの最新PVとプロダクトづくりが見られるファクトリー動画
Spark|Backcountry Kit
スプリットボードは購入した後も、メインテナンスや使い方などで専門的なアドバイスが必要になる道具だ。
長く使える道具だけに、いい形でお付き合いを続けることができるショップでの購入を勧めたい。
執筆/林拓郎