人と違うものが欲しい。人がやっていないことをやろう。その思いと行動力が新しいモノや価値を生み出していく。
「どこにあるかは教えない」謎めいた掘っ立て小屋で、一人の職人によって黙々と作られる、形も色も名前も極めてユニークなスキーポール「POLEFREAK(ポールフリーク)」。好きで好きでたまらないポールへの偏愛がユーザーの笑顔を繋ぎ、目下”フリーク”が増殖中だ。
たった一人の職人が作るレアなポール
「手曲げ加工でカスタマイズができる超軽量かつ頑丈なポールがあります。カラフルなパウダーリングや天然皮革製ストラップの色も、好みで選べる。たった一人のポール職人が作っているので、流通量に限りがありレアです‼」
と、こんな情報を寄せてくれたのは大阪の某プロスキーショップ。メッセージはこう続いていた。「昨シーズン、プライベートで白馬乗鞍滑りに行った際、どしゃ降りの雨のなか見知らぬスキーヤーに声をかけられたんですが、その人の手にはボクと同じモデルのPOLEFREAKがありました」
一人の職人が作っている、ポールを手曲げ加工? 見知らぬ人が寄ってくる……⁈。なんとも謎めいたポールは、これまたさらに秘密めいたこんなアジトでひっそりと造られている。気になってたまらない「POLEFREAK」の正体に迫ってみよう。
その始まり
「POLEFREAK」は、滑ることが大好きな一人のスキーヤーによって生み出された。
雲野耕介(くものこうすけ)さん、は学生時代スキーインストラクターを養成する専門学校に通っていた。スキーの指導員を目指していたが、結果的にビジネスマンの道を選び、卒業後㈱ヤマザキというメーカー企業に就職。㈱ヤマザキは「マウント」という自社ブランドのポールをはじめ、高い技術力でOEMでいろいろなブランドのポールを作っていた。
「当時、ポールに目をつけたというよりは、小さなメーカーに入れば、自分の意見も通りやすくて、よりコアなものが作れるんじゃないかと思ったんです。ヤマザキでずっと営業をしながら製造も手伝って、今やっていることの基礎となることを積み上げていきました。
気がついたら20年以上経っていて、7年前にヤマザキが廃業することになって。他の仕事も考えたんですが、当時、会社ではプロモーションも含めて、自分のやりたいことが十分にはできなかったので、会社がなくなるのなら自分でやろうかなって」
人と違うものが欲しい
「絶対売れるって感覚はなかったけど、やりたいと思ったことをやりたい。そう思ったんです。人と違うものが欲しい人間なんです、僕。人と違うものにとても魅力を感じる。人と同じものを持ちたくない。好きなことを突き詰めてくと、よりコアなもの、珍しいものが欲しくなるでしょう?
だから、釣りも市販のルアーでなくてハンドメイドで造ったものを使ってます。こだわりをもって小さなファクトリーで作っているものが好きなんですね。日本はモノづくりの国ですから、そういうものってたくさんある。モノにこだわるのってすごく大事なことだと思っていて。好きな人が好きなものを創っているものが、すごく価値があると思うんですね」
「POLEFREAK」見参!
こうして独立開業したのが7年前(2017)。では、「POLEFREAK(ポールフリーク)」という名前はどこから名付けたのだろう?
「23年間スキーポールしか作ってこなかったので、ポール○△×(なんとか)にしたいなと。『ポールマニア』とか、他どうだろう?と考えてみたなかで、英語ができる知り合いに、マニアみたいな意味合いで近い言葉ない?って聞いたら、『フリーク』という言葉には、仲間や熱狂的なファン、という意味だけでなく、スラングで奇人・変人・ヤバイというニュアンスがあると教えてもらって。ほぅ、いいじゃない、と(笑)。それに、『FREAK』って響きも、英語の綴りの見た目もいいなって。ロゴもすぐイメージができて、とても気に入って、決めました」
秘密基地のような工房で独り黙々とポールを作る、ましてや1本1本と睨めっこしながらポールを手で曲げている雲野さんの姿を想像すると、まさにFREAK(奇人)な感じがしなくもない。「ポールなら誰にも負けない」という技術と情熱は、もはや職人芸の領域だ。では、一体どのようなポールが生み出されているのだろう。
知る人ぞ知るPOLEFREAK自慢の商材
現在、POLEFREAKのラインナップは全5モデル。シャフトの素材タイプでいくとチタン採用の「TITAN(チタン)」、カーボン採用の「NOT-B(ノットビー)」、アルミを使った2種類「FAT-blast(ファットブラスト)」と「FAT-slim(ファットスリム)」そして、ジュニア用の「CHILL(チル)」だ。
「TITAN」は、ここ数年 業界から姿を消していたチタンポールを 復活! 昨‘23-24に待望リリースされたものだ。カーボンとアルミの「NOT-B」「FAT」シリーズはブランド創立時からの人気モデル。それぞれのプロダクトの特徴はコチラでチェックいただくとしよう。
この5モデルのうち、「TITAN」「FAT-blast」「FAT-slim」「CHILL」の4モデルは「手曲げ加工」に対応している。さらに手曲げはカスタムオーダーだという。え?何がカスタム?と思うかもしれない。「シャフトの曲げ具合」だ。つまり「どこの部分をどのように曲げて、どのようなカーブのシャフトにするか」。ユーザー自身の好みでポールの曲がり具合がデザインできるというわけだ。
ちなみに、こんな具合。微妙な曲がり具合のリクエストも対応可能だ。言葉で表現するのは難しいから、絵を描いて「こ~んな感じに曲げてください」というオーダーをもらうこともしばしばだ。
これはすごい! 世界に一つだけの自分の理想の流線形が表現されたポール。さらにパウダーバスケットのカラーやストラップのタイプ(本革/ナイロン)や色もチョイスすることができる。
自分のこだわりが結集されたマイポール、手にする本人にとって雪山での最高の相棒になるに違いない。
どうして「曲げ」なのか?
POLEFREAKの代名詞ともいえる「曲げ」。どうして雲野さんはポールを曲げるのか?
曲がったポールはスキー界にずっと前から存在している。特にアルペンレーサーがダウンヒル(DH)やスーパー大回転(SGS)などの高速系種目で使っている姿を見たことのある人も多いだろう。コンマ1秒を争うタイム競技では、少しでも風の抵抗を軽減することが必須、だからレース用ポールはレーサーの体の凹凸に合わせて曲げられているのだ。なるほどね、とここに疑問を感じる人はいないだろう。
しかし、POLEFREAKのメインターゲットは、あくまでフリースキーヤーなのである。
「なぜって?カッコいいから。GSポールとかなら体に合わせて曲げるのはわかるけど、僕から見たらGSポールにパウダーリングをつけるのはちょっと違うんです。
実はパウダー・フリーライドと曲げには歴史があって、1990年代後半~2010年くらいまでSMITHに「Z Bend(ゼッドベンド)」というポールがあったんです。Bend(曲げる)という名の通り、独特のカーブ(ベンド)が施されていた。当時日本のフリースキームービーの先駆けだった「Icon1」とか「2」で、フリースキーヤーのカズ宮野とかが、このZ Bendを使って滑ってたんです。流行っていた映像でみんな観てて、憧れがあった。当時すごく売れたんですよ、そのポール。その後、SMITHの本国は販売を止めてしまったけど、日本だけは続けたんです」
この「Z Bend」、美しいカーブと相俟って見た目がとにかくスタイリッシュだった。「ああ、あれね!」と覚えている、コアな一昔前のスキーヤーもいるのではないだろうか。
「今、フリースキーヤーの間ではベントポールを使うのが流行ってます。ちゃんめろフリーライドオープンやFWQとかでもよく見ます。みんな目立つもの、カッコいいものが欲しいんです。これもみんな昔のZ Bendから火がついて、続いてきている。でも、もうZ Bendは買えないから、僕なら同じものができますよ、というわけです(笑)」
曲げなら絶対に負けない
「独立して、小さいところからやるには特徴がないと勝負にならない。自分は曲げ加工に関しては、長い間で本当にいろんなメーカーのものを曲げてきたので、大手には絶対負けない。たくさん曲げられることは、ぜひ強みにしたいと思ったんです」
ちなみに「TITAN」というモデル、手曲げオーダーに対応しているが、そもそもチタンなんていう硬い素材を曲げることがおかしい(笑)。
「曲げれますって言っちゃったから(笑)。チタンは、ただ硬いだけじゃないんです。アルミのような粘りがあってカーボンのような反発力があって、そして硬い。スキーポールの素材としては 間違いなく最高! スキーポール業界でチタンを曲げられるのはたぶん僕だけ」と雲野さん。
雲野さんの手がけるポールは、流れるような美しい流線形の曲がり具合が特徴だ。その曲げは機械だけでは決してできないもの。雲野さんは手曲げの機械を使う。
「その機械はマウント社から譲り受けたものです。23年間のデータが書き込まれている、それはもう僕にとって宝のように貴重なもの。機械にポールをセットして、自分の力加減で、深くとか浅くとか、微細に曲げていくんです。すべて僕の感覚や自分の頭の中にあるデータを使ってやるので、この曲げはなかなかできない。大手メーカーさんも真似できないんですよ」
雲野さんがこの機械を使ってどのようにPOLEFREAKを作っているか、その実際をぜひコチラの動画で見てみよう。
実は曲げにはカッコいい以外の意味もある
Z Bendが販売されていた当時、実は雲野さんはSMITH本社に問い合わせたことがある。
「パウダーやビッグマウンテンでどうしてライダーがベントポールを使うのか聞いてみたんです。そうしたら、曲げることでポールにサスペンション機能が加わり、その結果、操作性が高くなる、振りやすくなるのだ、と本国に回答してもらって、なるほどな、と思ったんです。
つまり、曲げることでシャフトがストレートでなくなるので、2点の曲がりのポイントができる。その2点間の距離が程よく短いと、ポールを雪面に着いたときにシャフトがフレックスし、衝撃を吸収するんです。でも、GSポールのように曲げの2点の距離が遠いと全然フレックスしない。だから曲げの位置はすごく大事で、その距離感をきちんと適切に出さないといけないんです。
ただ、曲げることでポールが振りやすくなるってことは、みんな知らないし、そこはまだ求められていない気がしてます。だから基本的にただ、カッコいいんだよって言ってる(笑)」
ポール一筋23年の職人のこだわり
職人技が生み出す「こだわりまくり」のベントポール。その一本一本が世界に一つだけというわけだ。しかし、雲野さんのこだわりは、実はそれだけではない。
「曲げ=POLEFREAKみたくなっているけど、実は一番のこだわりはシャフトなんです。素材とスイングバランスです。使用感ですね。一番使いやすいシャフトじゃないかと思う。シャフトには、材質や形状、肉厚だったり、いろいろ違いがあります。素材は高強度のアルミ、カーボン、チタンなど。POLEFREAKはもちろんオリジナルの形で、セージング(先細そりさせる)距離等にこだわりがあります。
グリップは1種類。マウント社で使っていた一番クセのない握りやすいものを使っています。ユーザーが使うグローブも様々なので、どんな人が握っても長く握っていられる疲れないもの、材質もエラストマーでどんなに外気が冷えても材質が固くなりにくいもの。原価高いんですけどね(笑)。
ストラップもカスタムできる。普通はナイロン手革だが、本革も選べます。手革・シャフト・パウダーリング・曲げ・長さもすべてカスタマイズ可能です」
そして、POLEFREAKといえば、ユニークな独特のカラーリングも印象的だ。コチラ↓は今季’24ー25のカラーがお披露目されたときのInstagram。
「ユーザーの気持ちがちょっとでも上がるといいなと思って。もし山で天気が悪くても好きな色のポールなら、モチベーション上がるかなって。だから、あえて大手メーカーにないような色を出していきたいと考えているんです。
例えば最近作った色で「なんど(納戸)色」っていうのがあります。青を緑が微妙に混ざり合った独特の色合いなんですが、古くから工芸品などで使われてきた日本の伝統的な色で、日本の文化や美意識を反映したものなんだそうです。色のチョイスもそうですが、色のネーミングを美味しそうにしたり、楽しくなるように工夫しています。今季は「シャインマスカット」や「クッキー&クリーム」、「モナカ」があります!
あと、色にこだわるのは、ユーザーにPOLEFREAKを、まず手に取ってほしい、という思いもあります。お店に並んだときに、色に興味を引かれて、実際手に取ったら、軽い!とか、振りやすい、と気づいてもらえたら嬉しいですよね」
持つポールで滑走モチベーションがアップする、雪の上にいることが楽しい気分になる、そんなことを考えてポール作りをする雲野さんのポール愛は、やはり尋常ではなく“フリーク”だ。
作り手が滑り手。滑り手が作り手
猛烈なポール愛と匠の技術を持って、世の中にないポールを作り続ける雲野さんは、常にPOLEFREAKを手に滑り続けてきた。POLEFREAKのファンの常連さんたちと雪上で楽しいセッションをしたり、いい雪が降れば仕事を置いて滑りにいっちゃうことも日常茶飯事だ。
「もはや仕事というよりPOLEFREAKは趣味なんだよね。作ることが好き、色を考えて決めることも楽しい。作っているときは、使ってくれる人達のとびっきりの笑顔を思いながら作ってる。
このポールを手にした フリースキーヤーやテレマーカー、トレイルランナーまで、いろんなフィールドで 出会った人達が、「あっ!お前もフリーク!」って言って即トモダチになれる。そんなポールを作りたい。POLEFREAKは、そんな気持ちでスタートしたんです。
最近は山でナンパのツールにもなっているとか聞いてます(笑)。山で声をかけ合うことがユーザーで増えてきたみたい。確かに、ちょっとおもしろいコミュニケーションツールになっているって感じます。POLEFREAKを始めたときに願っていたことが今、実際に起こっていて、すごく嬉しいなって思います」
作り手が滑り手、滑り手が作り手。ガレージ過ぎるブランドだから、この気持ちのいい循環ができている。
作るほど、滑るほど、POLEFREAKはトモダチを呼び、雪山にフリークを増殖させていくだろう。
おわりに
ポールを買うときは、だいたいいつも「まぁこんなんでいいか」で決めて、「折れるまでこれでいいや」と思う。買い替えるスピードはギアの中で最後の最後。もしも、自分に当てはまっているならば、一度、とてつもなく愛着を持って長く使いたくなるポールを手にしてはどうか。
教えてくれた人
雲野耕介さん Kosuke Kumono
東京都出身 長野在住。 小学生の頃よりスキーを始め、専門学校を卒業と同時に スキーポール製造の世界に。秘密の工房で コツコツと作りながら、日々POLEFREAKのアレコレを模索する。
POLEFREAK
公式SNS:@polefreak_PB