「kossymix(コシミックス)snowsurf wax」―品質へのこだわりが生む〝滑り″

Rider:Junichi Koshimizu Photo:Kage

変化し続ける天気と雪質を予測して「滑る」ワックスを選択することには限界がある。山に上がる度にワックスを塗るのは骨が折れる。そもそも、ワックスの正しい塗り方を知っている人がどれだけいるだろうか? そんないくつものハードルを越えようと、自分の道を切り拓いてきた一人のこだわり職人がここにいる。

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そうじゃないよって伝えたくても

小清水純一さん。1987年からスノーボードを始め、1997年からプロショップ「Relax Backpacking & Snowboading」を切り盛りしながら、オリジナルのワックスブランド「Kossymix」を展開してきた。

「ネットで購入した板はとくに指定や追加注文をしない限り、チューンナップはされていない状態で届く。お客さんはなにも知らず、考えずにそのまま乗ってしまっていて、残念と感じることが少なくありません。

けれど、僕の長年愛用しているGENTEMSTICKでは、あらかじめ「未完成品を販売する」と謳っていて、『この板はそのままでは乗る状態ではありません。プロのチューナーによってチューニングを施して最終整備をする必要があります』として、その人に合ったものを作って、渡すという本来あるべき流れがずっと以前からできていた。

ですが、それすらも実はあまりユーザーには伝わっていないんですよね。安全性にも関わる大事なことなのに、流行りや安価を追いかけているだけで、ギアを正しく理解して使っている人も少くないと思う。また、ネットで個人が好きに発信する情報が正しいものかの判断がないままシェアされて広がっていく。そうじゃないよって伝えたくても、なかなか上手く伝わらなくてもどかしい……」

同じワックスでもレシピによってまったく変わる 

「チューンナップとワックスは本来分けることができないものなんです。すべてを整えて乗るのが大事なんですが、知らないで乗っている人も少なくない。料理と同じで、同じ食材でも調理するシェフによって仕上がりは全然違うものになる。同じワックスを買っても、どういうレシピでどう作っていくかで、すごく変わるんです。コロナ前はそういったことを伝えるワックス講習会を各所で開催していたけれど、コロナでできなくなって…。

この5月にRelax店舗とは別に、廃業した実家の縫製工場跡をリフォームしてチューンナップスタジオ『kossymix works tune』をつくりました。コロナ禍も落ち着いて、いまようやく作業スペースもできたので、料理教室のように、一緒に手を動かしてチューンナップを学んでもらう少人数のWaxing Clinic(ワックスクリニック)を始めたんです。以前は何十人とか大人数でやっていても、個々に理解度が違うので伝えきれないな、と感じていましたから。こうして小さなワークショップをやってみてあらためて、こういう時間、機会が必要だったこと、とても価値があるということを実感しているんです」

Kossymixができるまで

10代の中高生時代はスケートボードやっていたという小清水さん。高3の夏に地元にスケートショップができて、「スノーボードをやりたいなら連れて行ってあげる」と誘われて初めてスノーボードを体験。たちまち魅了され、仲間が増えて世界が広がっていった。
1987年のことだ。その後、デザインを学び、スポーツウエアで有名なデサントでデザイナーとしてさまざまな商品開発に携わっていた。その経験はいまに活きているという。

Relax Snowsurf Shop(埼玉県深谷市) @Relax
窓からは緑・ナチュラルな雰囲気の明るい店内
ハード・ソフトと多彩な品揃えでディスプレイもハイセンス

大きなターニングポイントの一つが「玉井太朗氏との出逢い」だ。玉井氏といえば雪山にサーフライドという概念を持ち込み、GENTEMSTICKを生み出した日本スノーボード界を牽引してきたパイオニア。小清水さんがワックスを作り始めたのは、その玉井太朗氏との出逢いにあった。

「2000年くらいに太朗さんと会って『春のアラスカにひと月というトリップに出かけると、ワックスをやろうと思ってもまず熱源がないんだよ。入るときには厳冬期なのに帰ってくるときは春のザラメ。そんな変化の激しい季節と雪質の変化に対応できるワックスってないのかなぁ、小清水君』って。そんなことが最初だったんです。

でもワックスは環境に配慮したものでないといけないって、すでに太朗さんは当時から言ってました。日本でそんなワックスを作っている人がいたら教えてって言われたんです。当時僕は30歳くらいでお店を始めたばかりで、ワックスなんて作る気もなかった。

でも、2000年ころ柏崎貴広に出逢った。彼はサービスマンとしてフランスのナショナルチームと世界を周っていました。『いいものがないから自分で作ってみたんだけど、使ってみて』と言われて、試してみたらすごく使いやすいワックスだったんです。

パラフィン100%、雪質にも対応しているし、環境にも配慮されたもので太朗さんの言ってたものとマッチしていたので、2005年くらい、ニセコのGENTEMのショールームができた頃、太朗さんに柏崎さんを紹介したんです。そしてGENTEMで柏崎さんが作るKashiwax(カシワックス)を使うことになり、全国にもGENTEMSTICKルートで広がっていったんですね。

ただ、ひと月という持続性と滑走性能、そして変化する雪質への対応、太朗さんの求めるものには辿り着かないって。それで2007年頃、相談してカシワックスの1+2+3という3つのワックスを1つにまとめて1回のホットワックスで完結し、さらに持続性のあるワックスできないかな?と柏崎さんに尋ねると、『そんなのできるわけない!』と即答で言われました。

でも、2年くらいした2009年に『できた!』って連絡がきたんです。サンプルでいろんなフィールド条件でテストを重ねていき、精度を高めていって、ついに2010年にKossymixの顔となっているOrigin(オリジン)という、オールラウンドの持続性の高いワックスが完成した。そこからKossymixというブランドにしたんです。なので、まさに原点は玉井太朗氏との相談から始まったというわけです」

小清水さんにとってOriginは自信作だったが、それでも当時ニセコのローカルから「今日はもう全然滑らなかったよ、ダメだよこのワックス」と言われたりすることがあったという。

「KossymixはOriginのひとつだけで長くやってきたけど、特別寒い日にまたニセコでローカルに「なんでこんなに滑らないんですか」と指摘されたんです。それが悔しくてね。試行錯誤を重ねた結果、一昨年ようやく寒いときも適応できる、より一層オールラウンド性能が高いOriginをアップデートさせた「Origin version2」ができたんです。 ”あの相談”から20数年経って『やっとできた』という手応えでしたね」

現在、Kossymixのワックスのプロダクツはこちらの通り。小清水さんのこだわりが生み出したラインナップだ。

Wax products ーhot wax

origin ver.2.0 ーgeneral condition

origin ver.2.0はkossymixの代表的なワックスであるoriginをアップデートさせ、湿度の高い雪質ではより快適に速く板を走らせ、また低温時での滑走性、ワックスの持続性もより向上。より守備範囲の広いコンディションに対応する。開発当初から求めていた万能ワックスにさらに近づいたワックスに仕上がっている。
●30g: ¥3,300/100g :¥6,600/250g :¥13,200

Soarer ver.1.0 ―Extra cold condition

極寒、乾いた雪に対応させるために開発したワックス。ベースとしてN.D.Foundationを使うことで、寒冷地だけではなく、春のザラメ、アイスバーンなど対摩擦に強く、広範囲の雪質でその威力を発揮する。Soarer ver1.0は単体での使用ではなく、滑走面との結合をより良くするために、下地としてN.D.Foundationを使うとよい。
●30g: ¥3,300/100g :¥6,600/250g :¥13,200

N.D.Foundation ―base wax

ベースワックス(下地)として滑走面に潤いを与え、ナノダイヤモンドを蓄積させ、キメを整える。滑走面自体の質を上げ、滑走ワックスとの併用により滑走性・持続性を高める。融点が低く、ホットワクシング時のアイロンもワックスを剥がすスクレイピングも、とても作業がしやすいのも特徴。kossymix滑走ワックスのorigin ver 2.00 、soarer ver 1.00の下地として使用する。
●30g: ¥3,850/100g :¥7,480/250g :¥14,960

HanaGoromo ver.2.0 ―spring dirty & wet condition(春)

HanaGoromo ver.2.0は、HanaGoromo よりも撥水性、防汚性をより高め、春めいてきた難しいコンディションに対応する。残雪期に湿度や汚れが多い条件下においてその威力を発揮する。また、春に思いかけずに降るパウダーコンディションにおいても、ワックスチェンジをすることなく快適に対応。それでもトップスノーが現れたときには、ゲル状ワックスSPRING MASTERシリーズを塗って快適な滑走を。春めいてきたらワックスも衣替えを。
●30g:¥6,600/100g :¥14,300


品質への徹底的なこだわり

ワックスの生産はいまも柏崎さんと開発を進めている。Kossymixは他と比べるとどうしても値段が高いわけは、小ロットで作りながら品質管理を細かくしいるからだという。

現在では、国産ワックスでも滑走性を高めるためにナノダイヤモンドというナノサイズの細かい人工ダイヤモンドを入れているワックスは複数ある。しかし実は10年以上前、ナノダイヤモンドを使った世界初のワックスを生み出していたのはKossymixだったのだ。

「ナノダイヤモンドとは、『ダイヤモンドの結晶構造を有するナノ粒子』のことで、ナノサイズの炭素分子(グラファイト)をそう言うので、材料としてはいろいろとある。その中でもより高い精度を求め安定した素材を厳選し、使用している。Kossymixでは、ナノダイヤモンドを滑走用ワックスではなく、ベースワックスとして採用しています。滑走面を“ナノダイヤモンドコーティング”し、基礎をしっかり整えることで、その後に塗る滑走用ワックスの効果が最大限発揮され、摩擦が軽減し、持続性が向上します。基礎が重要だという考えに基づいたアプローチです。

また、ひとえにパラフィンといっても構造や密度には違いがあり、複数の素材を混ぜたときに、混ざりやすいものか、分離しやすいものか、定着しやすいものか、なども変わります。それらを全部数値化して見極め、クオリティにバラつきが出ないように管理しているんです」

Kossymixでは、こんなふうに原材料とクオリティーコントロールへのこだわり方も尋常じゃない。それは実際にユーザーからダイレクトに「とても使いやすい」「ものすごく滑る」という感動のフィードバックとして返ってきており、小清水さんは、そこに確かな手応えを感じているという。

もう二度と悩むことはない

Rider:Junichi Koshimizu Photo:神山敬紀

Kossymixはブランドを立ち上げてから15年目を迎える。最初は袋にマジックで名前を書いていただけだったが、パッケージを作ってデザインも入れ、本格的に始めたのは2010年のシーズンだ。この味わいたっぷりのロゴ、小清水さんがデザインのもとになるラフをつくり、Relaxオープン前から今もデザイン仕事をお願いしてきている地元仲間(後藤新吾さん)と一緒に仕上げたものだ。

「フィッシュテールでスノーボードを意識して。丸い中にいる魚は、地球や泉のような、美しい水の中を生きてる僕ら。フィッシュテールで気持ち良くいきいきと滑るイメージかな」

小清水さんは、いいワックスを提供することで、ユーザーにどうなってほしいのだろうか。

「まずは玉井太朗をはじめとするライダーたちの要望に応えられるようなWaxを開発しなくてはいけないという思いでした。それがたくさんのレシピを作ってきたことで、数ヵ月のトリップでも事前にきちんと手入れすれば対応できるワックスができてきた。その結果がすべてのスノーボーダーに還元できるようになった。

一般的なユーザーの滑走頻度であれば、シーズン始めに最低限スクレ―ピングやブランッシングなど、正しくメンテナンスをすればホットワックスをわざわざやらなくても大丈夫ですから。その分、前の日は時間を有効に使ってゆっくり休んで、次の日山を思いっきり楽しんでください! という願いです。

『Don’t think twice, it’s All right. もう二度と悩むことはないよ』って、この言葉が象徴的。明日の雪質をあてなくちゃいけないというストレスなく、いつも安心して滑りを楽しんでもらいたい。塗るワックスによって今日は滑るとか、滑らない、なんてことが起きないように。Kossymixはいつも滑ることを最大限に楽しめるためにあるんです。

だから、トリップに行ったライダーたちが、ラクでちゃんと滑ったよ! とか話を聴くのはすごく嬉しい。あと何より、以前のような『滑らない。なんだこれは!』といったクレームが少なくなったことは、素朴に嬉しいですね。

ただ……実は問題があって。……買い替えサイクルが長いんですよ!(笑) Kossymixは持続性がすごくあって、1パック買っちゃうと、数年は使えてしまう」

思いの行き先

Kossymixを通じてどんどん仲間が繋がっていく・ユーザーとのセッションも小清水さんの楽しみの一つ

小清水さんは「スノーボードは、好きなところに連れて行ってくれる魔法みたいな道具だ」という。それは滑るツールとしての意味だけではない。

「スノーボードは出逢いをくれて、それで仲間が増えて、この人生を豊かにしてきてくれた。Kossymixの『ミックス』はいろんな人との混じり合い、コラボレーション、という意味です。いろんな人がKossymixをきっかけに出逢って、つながりを持ってもらって、豊かな時間や人生を過ごしてほしい。

実際、店や雪山で知り合ったウチのお客さん同士が横で繋がって新たなコミュニティができたり、一緒に登山やサーフトリップに行ったりしてるんです。小さいからこそ繋がりが深くなる。みんな楽しそう。スノーボードとウチを使って、いろんな人が出逢い、交わり、みんなを楽しい世界に連れて行ける場になっていけたら嬉しい。

スタイリッシュで広々とした作業スペースができた!

いま考えているのは、この新しいチューニングスタジオで、少人数のワークショップに加えて、『ギアから見たクリニック』をやっていきたいかな。板を見るとその人の乗り方やクセが見えてくるので、そこから滑り方のアドバイスもできるんです。それってちょっとユニークで面白いよなって。

また、お客さんの自宅に眠っているボードを掘り出して、次のユーザーに合わせたチューニングをして次の人に渡す、という取り組みもやっていきたいことです。 

長くこの仕事をやってきているけど、僕らはもっと滑ることを楽しめるはず、というもどかしさがずっとあった。せっかくいい道具を懸命に作ってくれている人達がいるのに、その性能の良さが十分に伝わっていない気がして。自分はそれを質の良いワックスやチューンナップを通じて、ユーザーにわかってもらうメッセンジャーとして、伝えていく役割があるんだと思っているんです」

「自分の直感を信じて動くようにしている」という小清水さん。その直感は、この先何を生み出すのだろう。Kossymixのロゴの魚が泳いでいるのは、インスピレーションの泉に違いない。
こだわり抜いた「敵のいない、自己満足のワックス」を作り上げた今、小清水さんは大切なことを伝えていくことを怠らない。

教えてくれた人

小清水純一さん Junichi Koshimizu

1969年、埼玉県深谷市出身。バンタンデザイン研究所卒業後、(株)デサントにデザイナーとして入社。26歳のある朝、突然体が動かなくなり退職。病院を転々とするも病名はつかず…。半年間、布団の上で天井を見つめながら将来について深く考え抜いた末、たどり着いた答えは『Relax』。

そのおかげで楽しい人生を歩んでいます。

Relax Snowsurf Shop
〒366-0811 埼玉県深谷市人見543-4
TEL/FAX:048-551-0037
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kossymix

URL:
Kossymix|https://kossymix.com/
Relax | https://relax1997.com/

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