まだ夜が明けきらぬ頃、ルスツリゾートの広大なゲレンデでは、静かに雪上車のエンジンが鳴り響く。斜面や天候のわずかな変化を読み解きながら、圧雪車オペレーターたちが雪と向き合う姿を、技術選という年に一度の特別な舞台を作り上げるその姿から追った。
オープンまでの7時間半が勝負。真夜中の圧雪作業

0時30分。外の温度計は氷点下9.5℃。暗闇のなか静まり返ったスキー場内には、圧雪車の重厚感のあるエンジン音だけが響き渡っていた。ルスツリゾートの圧雪車オペレーター係をまとめる郡司正典さんは、各雪上車の作業内容を確認し、準備を進めていた。

郡司正典 ぐんじまさのり
1981年7月8日生まれ。新潟県出身。6年間のリフト係を経て、念願の圧雪車オペレーターに。これまでスノーボードをこよなく愛してきたが、最近20年振りにスキーを履き、いまはスキーの魅力に引き込まれている。
取材日前日の3月4日は基礎スキーヤーの頂点を決める「第62回全日本スキー技術選手権大会(以下、技術選)」の公開練習日。大会で使用されるコースは普段以上に荒れていると郡司さんは語る。
選手が何度も滑った斜面は硬い面が露出し、圧雪作業は簡単ではありません。何度も何度も同じ箇所を繰り返し圧雪し、全体が平らになるよう作業します。時間はかなりかかりますね
普段の圧雪作業は圧雪車で整備したコースが冷えて固まるように時間を逆算。0時半からスタートしスキー場オープンギリギリの8時頃まで行っている。しかし、大会期間中はスケジュールの関係でリフトオープンの時間が通常よりも早まるため、いつもより短時間で仕上げる必要があり、途中休憩の時間を削って一気に仕上げるという。
毎日完璧はないからこそやりがいがある
ルスツリゾートには15名の圧雪車オペレーターが所属し、交代勤務で3つの山(ウエストMt.、イーストMt.、Mt.イゾラ)の全37コース、総滑走距離42kmの圧雪作業を毎晩行っている。
過去に1度だけ、大雪でスキー場がオープンできず圧雪作業を行わなかった日がありますが、基本毎日整備に出ます。毎日雪質、天候が異なるので状態の見極めが大切になります
圧雪車オペレーター係をまとめるオペレーター歴11年の郡司さんは、6年間リフト係を経て、念願の圧雪車オペレーターとなった。
ずっと希望していたのですが、空きがなくて。オペレーター歴11年は決してベテランではありません。周りには経験年数20年以上のベテランがたくさんいますし、いまも日々勉強です
取材当日の郡司さんが圧雪作業を担当したタイガーコースは、技術選の決勝、さらに男子上位30名、女子上位15名だけが出場できるスーパーファイナルの舞台となる重要なコース。さらに最大斜度29度と、圧雪車が自力で登り降りすることはできないオペレーター泣かせのルスツリゾート名物コースだ。
整備の際はコース上部に設置された鉄製のアンクルに長さ300m以上もあるワイヤーを固定し、そこを支点に何度も登り降りを繰り返し荒れた斜面を馴らしていく。

圧雪車は雪がたくさん降ってしまうと、登れませんし下れません。降雪量を踏まえたうえでどうやったら登れるのか、どういう角度で下れば滑り落ちないのかを常に考えて作業しています。単純に登って下ればいいわけでないんです。
そう説明しながら郡司さんはスティックを握って圧雪車を巧みに操り、作業を進めていく。公式練習により、凹凸が激しく硬く氷のような状態になっていた斜面がみるみるフラットバーンに仕上がっていく。卓越した技術があるからこそ成せる技だ。
必要なのはマニュアルではなく、経験し学んだこと
技術選の舞台を担当するのは今回で4回目となる郡司さん。普段の作業では経験できない場面が多く、毎回刺激になるという。
普段のスキー場とは異なり、ネットが張り巡らされ至る所が規制されたコースは神経を使う場面が多いですね。私たちにできることは、大会出場選手が同じ条件でパフォーマンスできるようコースを整備することなので、そこに集中して毎晩作業しています

圧雪作業を行う斜面は、一つとして同じ条件はない。温度、湿度、積雪、風など気象条件によってさまざまな状態になる斜面を常に同じ状態に圧雪する方法は、マニュアルには載っていない。頼りになるのは経験だけ。
後輩のオペレーターに圧雪車の操作方法を教えることはできますが、きれいにグルーミング(整地)する方法を言葉にするのは難しいですね。圧雪車に乗って、経験を重ねるしかありません
圧雪作業で鍵となるのは、後方部分に取り付けられた「ティラー」の操作だ。ティラーが回転しながら雪を撹拌させ、そこに圧をかけてきれいなピステン模様を刻んでいくのだが、その操作方法もオペレーターの個性が出るという。
雪の降り方、積もり方によってティラーが斜面に入り込む深さや加圧の強さを調整します。その場その場で随時調整するので、オペレーターによって違いが出ます
通常、圧雪作業を行った斜面には作業と作業のつなぎ目(段差)がどうしてもできてしまう。これは高い次元のスピードで滑る技術選出場選手にとっても気になるポイントなのだが、ルスツリゾートのコースにはそのつなぎ目が見当たらない。コースに広がるのはきれいな一枚のピステン模様だ。
そこ(段差)はとくに気を使っている部分です。可能な限り平らにするために、登り、下りも機材の操作方法を変え、圧雪車のティラーの細かい微調整を繰り返します。どうやったら段差ができないか? 口では伝えられません(笑)
見事なチームワークが作り出す、ここだけの滑り心地
ルスツリゾート圧雪車オペレーター係の高い圧雪技術力は、周囲からの評価も高い。技術選にて現場の総括管理を担当していたルスツリゾートスキースクール責任者の大塚文智さんも、今回の技術選が高い評価を得たのは圧雪作業の貢献度が大きいと語る。
シーズン当初から、滑りやすいコースを維持するための徹底した斜面管理を行うことで、コース造成はおおよその範囲で仕上げることができました。大会前の暖気や大会中の降雪により、度々圧雪方法の変更など通常の管理とは異なる対応を依頼しましたが、全て満足いく形で仕上げてくれました

技術選期間中、大塚さんの指示のもと圧雪作業が行われていたが、3月は日中気温が上がり融雪が進むため、圧雪車が入ってしまうと斜面が緩み冷えて固まるまで時間を要する。圧雪車を入れるかどうかの判断にも細心の注意が必要となるのだが、その辺は郡司さんも把握しており、夕方の作業はとくに気を使うという。
夕方に圧雪の依頼がくる時には、大体気温が上がっているためバーンは緩んでいます。ただ、夕方に圧雪車で踏んでおいた方が翌日の斜面は締まった状態になるため、そこは斜面を崩さないよう慎重に作業します
大塚さん同様にコース整備の技術を高く評価するのが、技術選にて大会バーンの最終判断をするテクニカルディレクター(TD)を務めた宮嶋SAJ技術選委員会委員長だ。
数々の大会を経験されていることもあり、圧雪車での整備を中心にSAJのさまざまな要望に対応いただきました。プロフェッショナルな技術、スタッフ皆さんのすばらしい連携を感じました
このような大きな大会に関わることができて光栄です。毎回刺激になります。今大会はバーンコンディションも評価いただき、自分自身、圧雪車係としても大きくスキルアップできました。
と、郡司さんら圧雪車オペレーター係にとっても貴重な経験となったようだ。

深夜から雪と向き合い、気象や雪質を見極めながら、訪れる人すべてに最高の一日を届けるために尽力するルスツリゾートスタッフ。完璧な斜面造成の裏には、自然と対話し、雪と真剣に向き合う郡司さんら圧雪車オペレーターたちの経験と誇りがある。

彼らの仕事は、ただ滑れる斜面を整えることではなく、「滑りたい」と思わせる舞台を創り上げること。朝一番、太陽に照らされた真っ白な斜面に滑り出すあの瞬間。スキーの楽しさ、本当の気持ちよさが身体中を駆け巡るはずだ。その感動のすべてが、ルスツリゾートにはある。まだ見ぬ最高の一本を求めて、ぜひこの特別なゲレンデを訪れてみてほしい。
技術選出場選手から見たルスツリゾート

コースコンディションが常にキープされている、すばらしいコース
今年の技術選は4日間通して降雪や高温による雪質の変化があり、1日のなかでもコンディションが目まぐるしく条件が変わりました。選手が大会でパフォーマンスを発揮するためには、よいコースコンディション、安全面の確保が大切になると思います。
とくに大会では、第一滑走者と最終滑走者が同じ条件で滑ることができるバーンこそが最高ですし、安全面においては、コースサイドのネットやコース整備が行き届いてはじめて選手は安心して最高パフォーマンスを発揮できるのです。
ルスツリゾートは圧雪技術はトップクラスです。選手としてさまざまなスキー場を訪れますが、多くのスキー場では圧雪と圧雪のつなぎ目で段差ができます。しかし、ルスツではそれを感じることはありません。なので、いつも朝一番でオンピステのバーンを気持ちよく滑走できます。
また、ルスツリゾートにはさまざまなコースがありエリアも広大です。午後になっても圧雪の跡が残っている場所を探して滑走できるのも魅力の一つです。
おすすめのコースは技術選でも使用された、タイガーコース。急斜面ですが、選手がいかに難しいコースで高い技術力を発揮して滑っているのかを身をもって体感できると思います。急斜面は苦手という方にはイゾラエリアがおすすめです。羊蹄山を眺めながらゆったりと長いコースをクルージングする一本は最高ですね。
プロフィール
成田伊織 なりたいおり
1994年5月18日生まれ。札幌市出身。アルペン競技に打ち込み、全中やインターハイなどに出場し、インカレ、国体でも成績を残す。大学時代から技術選に挑戦し、第62回大会では決勝進出。2 期目のSAJナショナルデモンストレーターにも選出された。ルスツリゾートスキースクール所属。
Photo=Takahiro Nakanishi、Hirotaka Fukuda
Text=Dai Morimiya
Special Thanks=RUSUTSU RESORT
Information
ルスツリゾート
〒048-1711 北海道虻田郡留寿都村字泉川13番地
公式サイト:https://rusutsu.com/
公式SNS:Instagram|Facebook|X(Twitter)|YouTube

