マニワ叶玲(まにわかれん)—12歳の分析家が求め続ける「美」のカタチ

人並外れたセンスや度胸を持ち、白い世界で限界を知らずにその可能性を自ら押し広げていく。そんなスーパーなキッズの純粋無垢なスキーライフに迫る。

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青森出身・カナダ在住

マニワ叶玲(まにわかれん)。2012年7月30日生まれの12歳。「第9回全日本ジュニアスキー技術選手権大会ジュニア(小学生)女子の部」で、3種目ともぶっちぎりのスコアで完全勝利。ジュニア技術選初出場・初優勝を飾った新星だ。

叶玲さんは現在「日本に帰国中」で、普段はカナダで暮らしている。カナダといえばウィスラーをはじめ世界的なリゾートを持つウィンタースポーツの本場、それなのに、なぜわざわざ日本で、それも基礎スキーをやっているのか? この謎めいたキッズ、一体何者か?

青森県弘前市の自宅でお母さんと一緒に話を聴いた。

——叶玲さんは、現在、カナダで暮らしているとか? ウィスラーなどがあるBC州でスキーをしているのですか?

「いいえ、いま住んでいるところは寒すぎて雪が降らないんですよ。ナイアガラの滝のあるほうで、オンタリオ州St.キャサリンというところで学校に通っているんです。全寮制スクールなので、もう1年以上ひとりでカナダにいます。
どうしてって? なんとなく(笑)。ああ、カナダ行こうかなって思って(笑)。でも、St.キャサリンはあまりにも田舎で、なにもなくて、つまらないんですよ。日本はドン・キホーテとかあっていいんですよね。ドン・キホーテ大好きです!」

こんなふうに若干不思議なトーンで始まった叶玲さんのお話。なるほど、お父さんはカナダ人、お母さんは青森の出身、つまりハーフというわけだ。家族でカナダに住んでいると思いきや、お父さんは整形外科の医師で、弘前市でクリニック「まにわ整形外科」を開業している。

上)現在通っているカナダの学校 Ridley College 下左)音楽の授業でチェロを練習中 下右)学校でのハロウィンパーティー・叶玲さんは左から2番目に

お母さんによる状況の補足説明はこうだ。

「叶玲は小学校5年生が終わる頃、突然、カナダに行く!と言い出したんです。半分はカナダ人なので、いずれはカナダに行かせたいとは思っていたんですね。それがちょっと早くきたわけです。
カナダに全寮制で小学生でも入れるスクールが3つしかなくて、叶玲の父親の、オンタリオ州にある実家に一番近い学校がSt.キャサリンだったというわけです。でも冬の間、12月から3月は学校に許可をもらって日本に帰って来て、オンラインで課題をこなしながら、日々スキーをしているんです」

「日本ではみんなまだ学校に行っている間も練習できるから、ラッキー♬ っていう感じです。毎日、地元で朝からナイターが終わるまで1日中滑ってます!」
と叶玲さん。

なるほど、ようやく背景が見えてきた。

招かれるように白い冒険の世界へ

小学3年生@青森スプリングリゾートにて

青森生まれ、全日本ジュニア技術選で優勝するほどの小学生であるから、さぞ小さな頃からスキー漬けで育ってきたのだろうと思いきや、叶玲さんがスキーを初めて履いたのは、小学校1年生のときだという言う。

——(編集部)初めてスキーをした当時、こころに残っていることはありますか?

「百沢スキー場のラーメンが美味しかったこと!(笑)親戚の叔父さんが、スキーやってみれば? って声をかけてくれたんです。弘前市民は無料というスキー教室があって、それに参加したんです。
ああ、スキーってこんな感じなんだ、楽しいなぁって。それからずっとスキーをしています。それと、次の日、足がめちゃめちゃ筋肉痛になったこともよく覚えています。スキーって筋力が必要なんだと思いました」

スキー楽しい! とゲレ食のラーメン食べたさもあいまって、叶玲さんはその後、週末や冬休みの間はずっとスクールに入ってレッスンを受けるようになった。とりあえずバッジテスト検定3級受検を意識して、その先の目標は1級合格だ。

2年生の頃の滑走映像がコチラ。チャレンジングな滑りにはスキーセンスの良さが十分に見てとれる。

小学2年生@青森スプリングリゾートで。追い撮りしていたのは叶玲さんにスキーを勧めた親戚のおじさん

4年生くらいまで、そんなスキーライフを送っていたが、5年生で環境が大きく変わる。地元の「青森ロシニョール」という基礎スキーのチームに入ったのだ。そのキッカケはどんなことだったのだろう。

「スキー場でROSSIGNOLの試乗会があって、たまたま参加したら、そこでチームの監督に誘われたんです。〝いいじゃん“って(笑)。来ればいいじゃんって」

叶玲さんの滑りを見た監督にスキーセンスを見出され、チームにスカウトされた、というわけだ。監督の言葉が彼女の探求心に火を付けた。

2024年3月@第10回百沢スキーテクニカルコンテスト 優勝後チームメイトと

しかし、あえて聞いてみたくなった。どうして叶玲さんは基礎スキーを選んだのだろう。

というのも、叶玲さんが「ホーム」とする百沢スキー場は弘前市の市営スキー場で、ローカル色が強い小さなスキー場だが、近くには大鰐スキー場がある。大鰐スキー場といえば、かつての日本を代表する名スラローマー木村公宣(弘前市出身)を輩出した名門校、東奥義塾高校のホームとしても有名な、アルペン競技のメッカなのだ。どうして叶玲さんはアルペンでなく、基礎スキーの道に進んだのだろう。
実は、こんなエピソードがあった。

「レーシングはかっこいいと思って、レーシングやりたいなって思うこともあったんですが、ポールが当たるのは痛そうだし、スピードも怖かったから。それで基礎スキーに(笑)」

アルペン競技へのちょっとした躊躇から基礎スキーの世界に足を踏み入れたわけだが、それはまるで導かれたような巡り合わせだった。

12歳の分析家

青森ロシニョールでの練習タイムの叶玲さん。ちっちゃな女の子にしか見えないが、滑りだしたら大人顔負け

青森ロシニョールチームに入ってからの叶玲さんの成長ぶりは凄まじかった。滑るたびにメキメキとうまくなる。コーチからのアドバイスをもらっただけ、テクニックが磨かれていく。

その背景には叶玲さんの驚くべき能力がある。それが、高い分析力と論理的に考え、それを言語化する力だ。そこに明るくて伸びやかな性格と、なんでも吸収するオープンマインドなメンタリティが加わるのだから、もう最強だ。

——叶玲さんにとって基礎スキーの魅力はなんだろう?

「終わりがないんですよ。技術の向上や美しさの表現を求めることに。毎年滑り方の技術も変わるし、上達する目標も多い。それに、面白さといえば〝分析″かな。自分で滑りの問題点を探して、それを改善できるとすごく楽しい。それからコーチに言われたことを練習して克服できると、その達成感がやっぱりもっと嬉しいかなと思います。自分の滑りの映像を見て、〝変わったな!″って思えると、ガッツポーズがでます(笑)」

そう語る屈託のない笑顔と、ストイックに技術の向上を追求するアスリートの思考とのギャップに、思わず惹き込まれる。

美しさを求めて強みを磨く

深い「内傾角」を意識して美しさを求める滑り|2025年2月@第6回青森県ジュニアスキー技術選手権大会 小回り

——自分の滑りの〝強み″ってどんなところ? 

「板のしなりを使ったターンですかね。それと鋭いエッジングかな」

普段、どのようなことを意識してトレーニングをしているのだろう。

「コーチには、〝内傾角・内傾角″ってずっと同じことを言われ続けてます(笑)。内傾角を深めて、どこまで雪面に近づけるか。よく見せるための自分の課題ではあるかな、と思います。
実は、コーチが私を武者修行に送り出しまして(笑)。昨シーズンから弘前大学のアルペンチームにちょこちょこ加わって、いま大学生とレーシングをやっています。

なんと小学生で大学の体育会スキー部のポール練習に入れてもらっているとは、驚きだ。

2025年2月@第6回青森県ジュニアスキー技術選手権大会での青森ロシニョールチーム

「レーシングで使われている技術も最近、技術選に取り入れられていて、大人の全日本の選手にもレーシング出身の選手がたくさんいますし、全日本ジュニアにもレーシングからきている選手もいます。エッジの角度とか、ターンの入りとか、技術がレーシング色が強くなってきているのかなって。見た目のスタイルもレーシング寄りになってきたのかなって思います。

だから、基礎とレーシング技術の面では意外と似ているのかなって。はっきりした違いといえば、美しさかスピードか、でしょうか。技術選はとにかく美しさを求めていると思うから」

技術選を6連覇している王者、もとFISワールドカップ経験もある武田竜選手の滑りによって、技術選の評価軸はいまやアルペンの技術を中心に置かれている、と確かにいわれている。
ジュニア技術選もこの流れを汲んでいるということだろうか。そして、その武田竜選手も「アルペンをやらないと基礎もうまくならないぞ! ってジュニアたちにはいつも言ってます」と語っている。

つまり、叶玲さんは、基礎スキーでもっと美しく滑るためにポールを練習している、というわけだ。

1種目で「勝てるな」

全日本ジュニア技術選手権大会でのヒーローインタビューに答える叶玲さん

昨シーズン、叶玲さんが初めて体験する大舞台がやってきた。2025年3月28日~30日@菅平スキー場、第9回全日本ジュニア技術選手権の小学3年生から6年生で競う小学生の部門。そのときの様子を語ってもらった。

「初めての大きな大会だったので実はビクビクしてたんです。でもスタートに立ったときに、なんかいい意味で吹っ切れちゃって。それで本領を発揮できたかなと思います。本番には強いほうだと思う。調子も上がってきてた。1種目めで『もう勝てるな』と思った」

1種目めは「小回り・リズム変化」。濃いガスで視界不良のなかでも、鋭いエッジングでキレあがるターンをリズミカルに刻んで、ハイスピードで降りてきた。小学生女子とは思えない力強い滑りにジャッジたちが続々とつけたのは、85点・86点。初めて出た高得点に会場は沸いた。

そのときの滑りがコチラ。 マニワ叶玲(ビブ313) 登場するのは18:45~あたりから

第9回全日本ジュニア技術戦大会1日目 小回りリズム変化 ビブ313 マニワ叶玲 18:45~

「でも2種目目の小回りで、ゴール直前でめちゃくちゃ失敗しちゃって。思った以上に雪が柔らかくなってて、スキーがズルっとなっちゃって。得点は別によかったんですけど、最後までちゃんと滑れればカッコいいのにって。だって一位なのに失敗してるじゃんって思われたらちょっと嫌じゃないですか」

完璧を求める姿勢は、もはやトップアスリートだ。小さなミスはあっても3種目とも一位、他を凌駕する圧倒的な強さで総合優勝を果たした。

2024年3月10日@第10回百沢スキーテクニカルコンテスト 小回りの滑り

実は叶玲さんは5年生のときにジュニア技術選に挑戦するか迷ったが、「まだ実力が十分に伴ってないから」と出場を1年遅らせたという。そのわずか1シーズンで驚くほどレベルアップした叶玲さん。昨シーズン自分が一番成長したと思う点を尋ねてみた。

「ジュニア技術選で長野に行った3日間でもすごく上達したなって思います。全国大会に来て、周りからいろんな刺激を受けたし、大会を経験することで、ここ一番っていう勝負の環境に慣れるってこともあるし、いい意味で〝呑まれて上達する″っていうこともあると思う」

大会の張りつめた緊張感がいかに選手を成長させるのか、それすら冷静に分析していた。

〝好き″が止まらない

叶玲さんは上達するためにさまざまなトップアスリートの動画を観て分析しているという。

「青森ロシニョールチームなので、もちろんロシニョールのYouTubeチャンネル、武田竜選手と弥永奈々選手の動画をよく観てます(笑)。それと栗山未来選手、奥村駿選手の動画もよく観ますね。日本でもトップ選手のYouTube映像はほとんど観てます。

こんな選手になりたいなぁって思うのは、前回の技術選で1位になった弥永奈々選手。もう、全部うまいんですよ。下半身の使い方がうまくて、腰の位置が動かない。足首もとても柔らかくて、ものすごく関節の使い方がうまい。基礎とアルペンの二刀流でもあるし、すごいな~って。

好きな選手なら栗山未来選手も。内傾角がとにかくすごくて、あとエッジングも深くて憧れます。スキーがメチャメチャ返ってくるし、切り替えが早くてカッコいいなって思います。女子の選手特有なんですけど、股関節や関節がとにかく柔らかくて、弥永奈々選手も栗山未来選手も関節の使い方がとてもうまいなって思います」

……とこんな調子で分析が止まらない。

叶玲さんの成長の速さや技術の引き上げに、この分析力が大いに生かされているのは確かだ。加えて、その知的好奇心。スキー以外でハマっていることは? と聞いてみると……

「細胞かなぁ。〝推し″の細胞がいるんですよ(笑)。マクロファジー細胞と△×○▢∞△…‼ 将来、お医者さんになりたいわけでもないんですけど、単に面白いなぁって。お休みの日は細胞の本とか読んでいます。

お父さんの英語の簡単な医学書とか『はたらく細胞』のマンガを読んだり。将来は、研究職とか獣医さんとか、体に関われる仕事がしたいなぁって思います」

目下、スキーと細胞に叶玲さんは夢中だ。

チームカレンがあってこそ

ここまでの成長は、彼女ひとりの情熱と頑張りだけでは成し得なかった。常に寄り添い、支え続けてきた両親、とくにお母さんの存在は大きい。
お母さんは、シーズン中、ほぼ毎日朝8時ころから車を走らせて片道40分、百沢スキー場まで叶玲さんを送り、そのままなんとナイターが終わる夜9時頃まで、スキー場で叶玲さんを待つ。なんという献身ぶり。

友達みたいに仲良し母娘

「大変といえば大変です(笑)。でも限られた期間ですし、できる限りのことをしてあげたくて。私もパパも基礎スキーのことはよくわからないんですが、頑張っている叶玲を見ていて、すごいなって。

小さい頃は走ることも上手にできなかったのに、スキーはできるんだなって(笑)。送迎で家をずっと留守にしちゃうので、パパはほったらかしで……パパごめんね」
とお母さん。

それでもお父さんは「いいよ~」と全面協力してくれているという。というのも、いつか叶玲さんと母国のウィスラーで一緒に滑りたくて、昨年からスキーを習い始めたのだ。

「パパ、早くうまくなってね。ときどき送り迎えありがとう(笑)。お母さん、いつもいつも送り迎えありがとう」

なんとも温かく微笑ましい家族の姿がそこにあった。叶玲さんのスーパーキッズぶりを支えているのは「チームカレン」であることは間違いない。

叶玲さんによるビデオメッセージ

探究心が翼になる

技術と表現力の向上には終わりがないことを知る12歳のスキーヤー

スキーが楽しくて、夢中になって、気がついたら誰よりも速く、美しく滑っていた。
その原動力は、尽きることのない探究心と、「好き」という気持ち。
未来に羽ばたくスーパーキッズ──マニワ叶玲。

未知なる冒険の物語は、まだ始まったばかりだ。

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