ヒキョウなほど、パウダースノー。「さかえ倶楽部スキー場」を巡る

知る人ぞ知る秘境のスキー場として人気を集める、さかえ倶楽部スキー場。長野県の最北端・栄村に位置する村営のスキー場が目指す姿は、田舎の実家に帰った時のような、ホッとできる“アットホーム”なスキー場。そんな心の“ホーム”ゲレンデとして通うローカルも多いスキー場にお邪魔した。

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豪雪地帯のホットスポット

今年(2026年)で開業30周年を迎える、さかえ倶楽部スキー場。
最寄り駅の「森宮野原」は、JRの駅として日本最高となる積雪量7m85cmを記録するほどの豪雪地帯。立山アルペンルートを思わせるような雪の壁に挟まれた道を上っていくと、スキー場の駐車場にたどり着く。
平日で、オープンして間もない時間にもかかわらず、すでに多くの人がゲレンデに出ている。

除雪車より早く来る人もいるそう

10時前、レストハウスに立ち寄ると、「あー、お腹いっぱい」「今日はよく走る雪だった」と、常連らしき人たちが満足そうに戻ってきた。彼らにとっての朝ごはんは、白く盛られたたっぷりの雪。贅沢な朝活。その表情から、この日のコンディションの良さがはっきりと伝わってきた。

広々として暖かいセンターハウス

帰る場所としてのスキー場づくり

地域も、そして滑った人の一日も活性化していくこの場所は、スキーを愛する村の若者たちの熱意から生まれた。
結成40周年を迎える「栄スキークラブ」。スキー場がまだなかったころから、「楽しく滑って、徹底的に飲む」をモットーに、各地のスキー場を滑り、楽しんでいた村の若者たちのサークル「栄レーシングチーム」のメンバーが、村内のスキー振興、技術力向上、そしてスキー場を作るために設立したクラブである。

「栄レーシングチーム」の八方ツアーの様子

スキーの普及や子どもたちへの指導にも力を注ぐなかで、「自分たちのスキー場を持ちたい」という構想が次第に具体化していく。

当時は練習のたびに近隣のスキー場へ出向き、子どもたちのチームができてからも、「場所を借りて滑っている」という引け目を感じていたという。さらに、他のスキー場での練習参加を断られ、悲しむ子どもたちの姿を目にしたことで、思いは決定的なものになる。遠慮せず、好きなときに好きなだけ滑れる場所を、胸を張って「ホーム」と呼べる場所をつくろう、と。

山の踏査で、想定コースを見下ろす様子
スキー場開発への期待が図示されたもの(1996年の栄村総合振興計画から抜粋)

山の視察と協議を重ね、候補地として選ばれたのが貝立山の斜面だった。クラブのメンバー自らが山を選び、スクールを開き、各所を回って構想を説明していった。村長の後押しもあり、構想から完成までに数年、着工からオープンまではわずか8か月という驚くべきスピードで、待望の村営スキー場が誕生した。

商業施設ではなく、公園のような場所

「バブル崩壊後でスキー人口も減っていくなか、湯沢や野沢に挟まれたこの場所にスキー場を作っても、人が大勢来ないことはわかっていました。でも、それが目的ではなかった。村の人が“自分たちのスキー場”として楽しめれば、それでよかったんです」

そう語るのは、朝晩の除雪を日課とする栄村の観光係長であり、栄村スキークラブ会長の石塚雄樹さんだ。

この日は最後まで一緒に滑り、コースを案内してくれた

来場者数は徐々に増えていったものの、コロナ禍で利用者が激減し、一時は存続の危機に直面。そこで改めてスキー場の魅力を見つめ直し、外部の意見も取り入れながら始めたのが、「平日極力非圧雪」という取り組みだった。その意味を、実際に滑りながら教えてもらう。

「平日極力非圧雪」

対象は上級コースと一部の中級コース。降雪後、あえて踏まない。ただし全面を非圧雪にするのではなく、コースの幅や斜度、積雪量に応じて踏み方を細かく変える。上下で分けるだけでなく、左右で分けることもあり、1mほどの段差で圧雪と非圧雪が共存する独特の景色が広がる。ディープなパウダーを味わい、圧雪側に出て一息つく。無理なく楽しめる設計だ。そうした点は、パウダーに挑戦してみたい人にとっても最適。

コースの流れによっても踏み方を変える。ここはスキーヤーズライトは非圧雪、レフトが圧雪の斜面


一方で、スピーディーなカービングバーンも健在。溶けて固まった硬い下地はなく、適度な湿度でエッジがしっかり噛み、膝にもやさしい。昼頃には圧雪と非圧雪の境目が分からなくなるほど雪は柔らかく、“クリーミー”な感触のスムースターンに、自然と表情が緩む。

「オリオンコース」から続く「くまのすコース」。どちらも中級コースでカービングも快適

大切な農地と自然を守るという考えのもと、ゲレンデはコンパクトに設計されているが、コースバリエーションは豊富だ。
ゲレンデ上部のツリーランエリアは、コースからのアクセスも良地形に富んでいて、木々の間隔もちょうどいい。

森の静けさが心地いい

麓からリフト1本で楽しめる全長約2,500mの「かもしかコース」では、新潟県から北アルプスまで見渡す、このエリアでは貴重な開放的な眺望が広がる。左右には雪帽子など、自然がつくり出した雪の造形美が点在。

日本百名山・苗場山も見えるようだ

コース名も親しみやすく整理されている。かつての「B」や「D」といった聞き間違えやすい名称は改められ、しらかば林に囲まれた「しらかばコース」、夏には蛇が出るという「まむしコース」など、情景が浮かぶ名前だ。

なかでも印象的なのが「オリオンコース」。圧雪車のライトが故障し、方向を見失った際、夜空に浮かぶオリオン座を頼りに下山したというエピソードから名付けられた、どこかロマンを感じさせるコースだ。

コースの標識が埋もれそうな雪だが、昨年の半分ほどだそう

“100%以上”のトマトジュース

魅力は、滑ることだけにとどまらない。レストランには10年以上親しまれてきたロングセラーメニューが並び、なかでも「トマトつけ麺」と「スパイシーチキンカレー」が人気だという。

コシのある麺に、濃厚で温かなつけ汁はトマトの酸味がアクセントの「トマトつけ麺」
「スパイシーチキンカレー」は本格的な辛さで、チキンもジューシー


秋から仕込まれる無料の野沢菜漬けも、このスキー場ならでは。開業以来続くサービスだが、特別なきっかけがあったわけではなく、お茶請けを出すような感覚で、自然なおもてなしとして始まったのだそうだ。昨年は2月下旬に売り切れてしまったという、在庫限りの村の味。早めの来場がおすすめだ。

トマトが苦手でも美味しく飲めるという、自慢のトマトジュース

トマトつけ麺にも使われている村の特産品「トマトジュース」も、ひと味違う。生産を担うのは一軒の農家。その美味しさの理由は、収穫方法にある。加工用トマトの多くが機械収穫されるなか、ここでは完熟した実だけを手摘み。青い実が混ざらないことで、完熟100%の雑味のない濃厚な味わいに仕上がる。その年の気候によって風味は変わり、今年は「過去最高」の出来だという。

パウダーブームが追い風に

さまざまな取り組みが功を奏し、昨年は来場者数が過去最高を記録した。かつては大手による開発構想が持ち上がったこともあったが、あまりに雪が多く計画は難航。豊富な積雪に恵まれながらも十分に活かされることなく、周辺にスキー場が点在するなかで、長らく空白地帯となっていたエリアでもある。

それがいまでは、その雪と環境を求めて、遠方からも滑り手が訪れる場所へと変わりつつある。泊まり込みでほぼ毎日通う常連さんから、移動中に立ち寄ったという人まで、何人かに話を聞いてみた。

山本さん

千曲市から通う山本さんは、パウダーと、不定期開催でホットスナックが振舞われる“ふるまい”を目当てに足を運ぶ一人。
数年前、何気なくコース脇のパウダーに入ったことをきっかけに、その魅力に目覚め、滑りのスタイルが広がったたという。
「パウダーに浸かって、温泉には浸からず帰る」。それがここでの定番だそう。

木内さん

昨年、友人に誘われてこの場所を知ったという木内さんは、「いい雪を求めると、いつもここにたどり着く」と話す。
軽くて気持ちのいい雪が何よりの魅力で、帰り道に立ち寄る栄村の道の駅のコーヒーがおいしいと教えてくれた。

小宮さん

八方尾根に似た、スピーディーなカービングが楽しめる急斜面の圧雪コースを、混雑を避けて楽しめる点に惹かれ、10年前から通っているという小宮さん。
数本滑ってはコーヒー休憩を挟み、コース料理のようにゆったりと一日を組み立てるのが流儀だ。
イベントやふるまいも毎回の楽しみで、ランチはいつも「とんかつ つまり」だという。

村木さん

以前からこのスキー場が気になっていたという村木さんは、今回、移動の途中に立ち寄ることができた。
テレワークの合間に回数券で楽しむ、タイパ重視のいまどきスタイルだが、数本滑っただけでも、雪の深さと軽さには驚かされたそうだ。
ローカルスキー場育ちで、ゆったりとした落ち着いた雰囲気が好み。「リフト1本で、体力の限界までパウダーにまみれる」。そんな楽しみ方を勧めてくれた。

有言実行、しっかり雪にまみれている村木さんをキャッチ
技術選にも出場していたというだけあって華麗なフォーム

30周年を記念した「30年有効シーズン券」

さかえ倶楽部では今シーズン、開業30周年を記念し、2月15日(日)に「スキー場祭り」を開催予定。じゃんけん大会では、なんと「30年有効シーズン券」が登場するという。20周年記念の際には、20年券が栄村民に当たったそうだ。

もともと、平日シーズン券は12,000円と国内最安レベル。リーズナブルな価格設定は、大型リゾートが提供する「特別な非日常」とは異なり、雪国の日常の延長線上にあるもの。雪があれば、滑りに行く。そんなごく自然なスキーとの向き合い方が、この場所にはある。

一人一人、安全乗車をサポートしてくれる
山頂へ向かう「第2ペアリフト」

帰り際、リフト乗り場ではスタッフさんが「ありがとうございました。お気をつけて」と声をかけ、深々と頭を下げて見送ってくれた。今日はほとんど雪が降っていなかったにもかかわらず、リフトの座面は毎回きちんと上げ下げされ、乗車のたびにホーキで雪を払ってくれていた。

ここで働くのは、栄村や隣の津南町から通う地元の人たち。雪国の、冬の外仕事のように、それぞれが自分の持ち場に立っている。その光景は、どこか家庭の風景と重なる。台所、外回り、居間と、役割が自然に分かれ、家が静かに回っている。
そんな空気が、このスキー場には流れていた。

Photo:Tomohiro Watanabe
Edit:Mayumi Hatano

Information

さかえ俱楽部スキー場

〒389-2702 長野県下水内郡栄村北信2903
公式サイト:https://sakaeclub.securesite.jp/
公式SNS:FacebookInstagram

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