BGMは一切なし。滑走音だけで魅せる、音楽が消える夜に

Antti Ollilaの『SIDE QUEST』は、フィンランドのナイターで撮影された作品だ。BGMつきのメインバージョンとは別に、音楽を外したRAWバージョンが公開されている。

今回紹介するのはそのRAW版だ。

滑っているときの風切り音、硬めの雪の粒がゴーグルに当たる音、木の枝にタップした音。そして空中に飛び出した時、音が消える瞬間がある。
この映像を見ていて、私はその空中感覚が好きだったことに気づいた。

一つひとつの音が身体感覚としてそのまま入ってくる。撮影者との阿吽の呼吸が聞こえる。BGMがないことで、実際に滑っている感覚に近くなる。

フィンランドには高い山がなく、冬の日照は極端に短い。Anttiのホームであり、この映像が撮影されたRukaでは、冬の日照時間は約4時間。ナイター照明のもと、学校や仕事の後に滑ることが日常になっている。
Rukaには人工降雪によってできた雪山が複数点在する。降雪機が作り出した不規則な雪の盛り上がりが、整地されないまま残っている時期がある。そのような地形をどう遊ぶか。どのくらいのスピードで入れば、どれほどの滞空時間が生まれるのか。どの角度で飛び出し、どんなトリックなら、ランディングで流れを切らさずに次のジャンプに繋げられるか。

この映像は、彼が遊びながらその感覚を育ててきた滑走環境そのものだ。

サイドヒットを主役にした映像は、スノーボードではArthur Longoの『Side Hits Euphoria』シリーズなどが先に広めていた。

Anttiはハイスピードで次々とギャップをクリアしてゆく。カメラは横や後ろだけでなく、前からもAnttiを捉える。スキーだからこそ可能なスピードコントロールが、この極端に寄った撮影を可能にしている。

撮影者はAnttiをフレームに収め続けながら、自分が滑るボコボコのラインを同時に処理していく。その画に映っているのは高いスキルと仲間同士の信頼だ。映像で見る夢のようなロケーションへ行かなくても、地元の環境で自分たちにしか撮れない映像を作ることはできる。

『SIDE QUEST』に映っているのはAntti Ollilaの滑り、フィンランドの冬の暗闇、人工降雪の雪山、暗闇のなかでも彼を追い続けられる仲間たち。

それが、この場所とこのクルーの日常だ。

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