“The Revolution is Circular” 循環する未来を目指して。アークテリクスの新プロジェクト「System 0」が始動

循環型ビジネスモデルの確立を目指し、製品の製造と流通、その先の修理・回収・再生までのサイクルを見直す、アークテリクスの新たなフレームワーク「System 0(システム・ゼロ)」が始動する。

ブランド、そしてアウトドア業界に留まらない、より大きな循環を目指す取り組みのスタートにあたり、「The Revolution is Circular」をテーマに、8月28日、新宿ブランドストアにてメディア向けイベントが開催された。

イベントでは、プロジェクトの第一弾となるハードシェル「Sperro SV Jacket(スペーロ SV ジャケット)」のお披露目をはじめ、ブランドのものづくりやSystem 0についてのプレゼンテーション、ReBIRD™の実演などが行われた。その内容の一部を紹介しよう。

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すべての始まりは、山で必要だったもの

はじめに、カントリーディレクターの高木 賢氏より、ブランド創業からの歩みと、プロダクト開発の核となる思想について説明がなされた。

スライドを用いてブランドの歴史を説明する、カントリーディレクターの高木 賢氏

“Mountain transforms us”――「山々は、私たちをより良き存在にしてくれる」という信念を持つアークテリクスは1989年、アウトドアカルチャーが根付くカナダ西部・ブリティッシュコロンビア州で、クライミングギアを製造・販売する「Rock Solid」としてスタートした。

フィールドでの体験が、そのままデザインに反映される。いわば「必要は発明の母」の言葉のように、山で生まれた必然性から技術革新を重ねてきた歴史がある。

1992年には、軽量な熱成型フォームを用いたハーネス「Vapor」で知名度を高め、1994年には同技術を応用したバックパック「Bora」が登場。さらにGORE-TEXブランドとの共同開発を経て、1998年にはアパレル展開を開始し、ブランドを代表するハードシェル「Alpha SV」を生み出した。

近年は、環境負荷の低減も推進。25-26シーズンまでにGORE-TEXプロダクトのDWR(耐久撥水)加工をPFASフリーへ仕様変更。ePEメンブレン(延伸ポリエチレン)を使用することで、生地のしなやかさが向上した。さらに生地パターンを見直すことで、ジャケット約400着分に相当する生地の端材削減も実現している。

「本当に必要か?」製品開発を支える4つの判断基準

“Evolution in action”という、行動志向のデザイナーの強い意志を起点とするアークテリクスのプロダクト開発には、4つの判断基準がある。

Authentic:山に根差した必然性があるか
Functional:現場の課題を解決しているか
Beautiful:不要な要素をそぎ落とした美しさがあるか
Responsible:長寿命や修理性まで責任を持っているか

これらを基準に、過酷な山岳環境に耐えうる機能、タイムレスで無駄のないデザイン、快適な着心地を追求。ある意味ニッチで、競合する製品がほとんどないようなアイテムであっても、デザイナーの現場主義と情熱から改善が繰り返されてきた。

ブランドのサステナブルなアプローチの根幹にあるのも「Designt to Last」という考え方だ。いいものをつくり、修理しながら長く大切に使ってほしい。その思想は、今回発表されたSystem 0にもつながっている。

糸から未来を編み直す。System 0とは?

続いて、ブランドマネージャーの林 克洋氏が登壇。今回の主題である「System 0」について紹介した。

プロジェクトを可視化した図を用いて説明する、ブランドマネージャーの林 克洋氏。
サークルの右側はユーザーの手に渡った後、ユーザーとともに取り組む活動や、製品がたどる流れを示しており、製品の再生によってこの輪を完全につなぐことを目指している

System 0とは、製品の設計、調達、製造、使用、修理、そして製品寿命終了後の回収・再生まで、製品ライフサイクル全体のあり方を見直し、サーキュラリティ(循環性)をビジネスモデルとして成立させることを目指す新たなフレームワークだ。

単なるリユース・リサイクルとの違いについて、本国のデザイナーは「溶けたアイスクリームをそのまま凍らせ直すのではなく、一度原材料まで分解してつくり直すようなもの」と表現する。

「長く使う」を支えるReBIRD™

その基盤となるのが、既存の「ReBIRD™」プログラムだ。ブランドでは以前から製品を長く使うためのアフターサービスを続けてきたが、ReBIRD™では物理的な拠点を設け、ユーザーとの接点をより身近なものにした。

製品を「10年、20年と連れ添う相棒」として育てていく文化を支えるため、いち早くフィールドに戻るためのクイックリペアをはじめ、製品の寿命を延ばすためのサービスを提供している。

店舗の一角に設けられた加工スペース

イベントでは、ジャケットが避けたり穴が開いたりした場合のクイックリペアのデモンストレーションが行われた。大まかな工程は、型抜き、熱プレス、冷却の3ステップ。温度と時間は機械で制御されるが、生地により異なる圧力は専門スタッフの手作業で調整され、その力加減が仕上がりを左右するという。

リペアサイズによって大・中・小の抜き型から選ぶ
非対称で多角的な抜き型は、ウェアの立体設計に対応するため
圧着、当て布、たたき縫いなどで補修

国内で修理の持ち込みが最も多い新宿ブランドストアには月約250件の相談があるそうだが、サーキュラーエコノミーへの関心が高いオーストラリアでは週100件以上、北米では年間数千件規模にのぼる。ちなみに、修理依頼で最も多いのは、バックパックのジッパー破損だという。

日本ではまだ買取・再販売には対応していないが、北米ではすでに買取サービスを展開。使用年数を問わず、購入金額の30%相当のクーポンが提供されている。

特徴的なのは、修理することだけが目的ではない点だ。ユーザーに近いReBIRD™チームが蓄積した「どこが壊れやすいのか」「どのように使われているのか」といった知見はデザインチームへフィードバックされ、次の製品開発へと活かされる。「壊れた場所から学び、次の製品を強くする」という循環が、すでにブランド内部に生まれている。

System 0では、その循環をさらに先へ進める。

アークテリクスCEOのStuart Haseldenは、これを「修理しながら長く使えるギア」をつくってきた従来の取り組みから、さらに一歩進んだ枠組みと表現する。

製品が最初のライフサイクルを終えた後も廃棄されることなく、再び意味を持ち続ける。System 0が目指しているのは、一着の環境配慮型ジャケットをつくることではない。高性能なアウトドアプロダクトが生まれてから役目を終えるまで、その仕組み全体を「直線」から「循環」へと変えていくことだ。

“希望”の名を冠した第一号プロダクト「Sperro SV Jacket」

System 0を象徴する第一号プロダクトとして発表されたのが、「希望する」「期待する」ことを意味するラテン語“spero”に由来する名を冠した、次世代の最高峰ハードシェル「Sperro SV Jacket(スペーロ SV ジャケット)」だ。

ブランドのなかでもとくに構造が複雑なハードシェルが最初に選ばれた理由について、アークテリクス最高クリエイティブ責任者のKatie Beckerは、ハードシェルで循環性の課題を解決できれば、そこで得た知見をシステム全体へ応用できるという考えを示している。

上質でなめらかな肌触り。メンズは全4色を展開する

“Designed to Persist”というフレーズが示すように、できる限り長く使い続けられることを目指して設計。高い耐久性と修理のしやすさに加え、これまで循環型製品を実現するうえで大きな課題だった、製品寿命終了後の「分解」まで可能にしたことが最大の特徴だ。

開発背景のドキュメンタリー映像

素材にはGORE-TEX PROとePEメンブレンを採用。表地と裏地には、Aquafil社の「ECONYL®再生ナイロン糸」を使用。ケミカルリサイクルによってGORE-TEXメンブレンとナイロン素材を分離し、ナイロンは再び新品と同等品質のECONYL®糸へと再生される。

また、Sperro SVは、アークテリクスとTESTEXが共同で試験を行ったサーキュラープロダクト基準「TESTEX Circularity」の認証を取得した最初の製品でもある。バンクーバーのNorth Shore Rescueをはじめとする山岳プロの協力を得て徹底的なテストを実施。故障しやすい箇所には補強を施し、これまで故障が多かったジッパー部分には、アークテリクスとして初めて交換しやすいジッパースライダーを採用した。

ジッパーにスリットを設けることで、工具を使わずに取り外せる仕様に

なお、9月4日(金)からは、全国のブランドストアで来店者にSystem 0の世界観を表現したオリジナルステッカーを数量限定で配布。さらに池袋ブランドストアでは、9月6日(日)までの3日間、ハードシェル購入者へのオリジナルフォーンスリングのプレゼントをはじめ、リペア・アップサイクルのワークショップ、BIRD CLUB会員限定のトークショーなど、特別イベントも開催予定だ。

フィールドに立ち続ける人が語る、自然と道具

イベント終盤には、ブランドマネージャーの林氏と、ブランドアンバサダーで写真家の石塚 元太良氏によるトークセッションが行われた。

100年後退しないと言われていたパタゴニア地方のペリト・モレノ氷河でも、近年は岩肌が露出するなど、その変化を体感しているという

上映されたのは、アラスカで後退を続ける海岸氷河を、人力のシーカヤックと潮の満ち引きだけで追いかけ、記録する「氷河日記」プロジェクトの映像作品。凍てつく海の上で一人、自然と向き合い続ける石塚氏を、林氏は写真家であると同時に一人の“アスリート”と表現する。写真には写らない、その裏側にある活動やストーリーまで伝え、応援したいという思いからサポートを始めたという。

愛用のカメラを手にする石塚氏。冒険をともにする道具への、こだわりと愛情がうかがえる

石塚氏にとって、写真は絵画のような身体表現とは異なり、被写体との間にカメラを介するため「何を、なぜ、どう撮るのか」という企画そのものが重要だと話す。

使用するのは大判フィルムカメラ。25日間無補給で、常に揺れるカヤックの上という環境では、故障しても自分で対処しやすいシンプルな構造が大きな意味を持つ。暗室での現像を含め、アナログな工程が残っていることにも魅力を感じているという。

流れ着いた海岸で、“これ以上ない”流木を見つけたときの一枚

携行する道具にも、その考え方が表れている。最大100kgほどを積載できるシーカヤックで旅をしながら、その土地にあるものを生かし、道具をアップデートしていく。デッキにくくりつけられた流木は、タープを支えるサポートスティック。そして、「これ以上引き算できない」と感じるほどミニマルなクライミング用の「Alpha FL」パックも、本来の用途とは異なるデッキパッドとして使い続けている。

自然のなかに身を置くことについては、「何事もトゥーマッチになりがちな都会」と対比し、情報も食料も限られていくことで余計なものがそぎ落とされ、物事がシンプルになっていき、自然とアイデアも湧いてくるのだという。

最後に、石塚氏は「熊を怖がらず、山へ行きましょう」と来場者へメッセージ。林氏からは、石塚氏との映像作品も制作予定であることが明かされ、今後の展開にも期待が高まるなか、イベントは幕を閉じた。

Information

アークテリクス

公式サイト:https://arcteryx.jp/
公式SNS:InstagramFacebookYouTube

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