いまなおトリックの進化が止まらない!フリースタイルスキーの頂点に立つのは誰か?|ミラノ・コルティナオリンピック

Photo:@fisparkandpipe

ミラノ・コルティナオリンピックがいよいよ始まった。ビッグエア・スロープスタイル・ハーフパイプなど、フリースタイルスキーの頂点を極める戦いのゆくえは? かつて自ら日本代表としてソチ五輪を戦い、この世界と日本選手のことをもっともよく知る、全日本フリースタイルスキーチーム・ハーフパイプ/スロープスタイル/ビッグエアヘッドコーチ・津田健太朗氏に話を聴いた。

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止まらないトリックの進化

スキー専門誌「FREESKIING」の表紙を飾った津田健太朗の滑り

津田健太朗といえば、日本のフリースキー・ハーフパイプシーンの先駆者としてシーンの最前線で活躍したトップライダー。2008〜2014年FIS W-CUP(ワールドカップ)ハーフパイプに参戦・入賞の経験もあり、2014年ソチ五輪へは日本代表として出場。スキー専門誌の表紙を飾るなど、そのフォトジェニックなスタイルは高く評価されていた。選手からシームレスに全日本フリースタイルスキーチームのコーチとなって、現在はヘッドコーチを務めている。

ミラノ・コルティナオリンピック開催直前まで選手とともにW-CUPを転戦する超多忙な日々の合間に、今大会の注目ポイントや、日本選手について話を聴かせてもらった。

いま世界のトップシーンではなにが起こっているのか? 津田コーチいわく……

「トリックの進化が止まりません! 前回の北京五輪のときに、もうこれ以上は…と進化が止まるだとうと思っていたのですが、それがいまだに止まっていない。回転数ひとつとっても、いまもうビッグエアでは23(トゥエンティスリー=2340=6回転半)までいきました。トリプルコークにバターから入ったり、空中で途中に回転を戻したりなど、変化をつけたスタイルを持つ高難易度のトリックがたくさんあります。プラス@の組み合わせが無数にあるので、進化が止まらない状況になっているのだと思います」

フリーライドのムーブメントが世界的に興った2000年頃の当時は、1080(3回転)が世界の頂点を争うトリックだった。あれから20年以上の時が流れたにしても、2340(6回転半)などというスピンが可能なこととは、当時、誰も想像しなかっただろう。どうしてトリックはここまで進化したのか。

「そうですね、技術が進化しているというよりは、練習施設の進化によるところが大きいのだと思います。昔はウォータージャンプしかなかったけれど、いまはエアーマットが主流になっていて、ウォータージャンプに比べて安全に練習できて、着地の感覚も得られる。それがキッカーだけでなく、ハーフパイプ形状のものもあるんです。この環境で練習を重ねていくので、難易度がどんどん上がっていくというわけです。これは世界共通の流れです。トリックの難易度が上がり続けているのは、練習環境が一番の原因だと思いますね」

さらなる新トリックの予感

公開練習で明らかになったミラノ・コルティナ五輪のスロープスタイルコース Photo:@fisparkandpipe

「ミラノ・コルティナ五輪では、もっと新しいトリックが出てくると思いますよ。みんなオリンピック用に使うトリックを仕込んでいると思いますから。今回、ジャンプ(台)が大きそうなので、バターやスイッチを使った高難易度のトリックの多彩なバリエーションが出てくるんじゃないかな。ただ、今回はプレ大会をやっていないので、現地での短時間でどれくらい選手たちが合わせられるかにもよると思うのですが…」

さらなる進化系のトリックが見られるとしたら、どのようなものだろう?

「ジャンプが大きければ、バターを使ったトリックやスイッチトリプルとか、スロープスタイルの繋ぎで出てくるんじゃないかなと思います。天候がよければ、ビッグエアで最先端を競っているような難しいトリックがスロープスタイルでも出てくる可能性はあるかなと思っています。

今回の五輪、もとはクリエイティブなコースを作ろうという構想だったはずなのです。ただ、本来なら五輪イヤーの前年に開催される現地会場でのプレ大会が開催されなかったので、結果的に非常にオーソドックスな、ジャンプは真っ直ぐ飛ぶストレートで、ジブアイテムもそれほどバリエーションのないようなコースになるようです。

でも、ジャンプのサイズはスペック的には22mや23mと、ビッグエアのようなサイズが展開されるので、大きいですね。実際、どれくらいのコースを作れるかは、わからないですけれど」

今回のハーフパイプやビッグエアの決勝は夜の開催だ。これはどう影響するのだろう? 気温が下がって雪が凍ったり、寒くて体が動きづらくなるといった懸念はないのだろうか?

「選手にとっては、むしろ夜のほうが天候に左右されなくなるので、滑りやすいと思います。曇りでよく見えないといったことが起こらないので、コンディションは安定します。昼間よりはパフォーマンスが上がると思いますよ」

ミラノ・コルティナ五輪の表彰台に立つのは?

ミラノ・コルティナ五輪を控えた’25ー26シーズン初頭のW-CUP戦の立ち上がりから見て、ズバリ誰が表彰台に立つことになりそうか? と津田コーチに聞いてみた。種目別に紹介しよう。

SS(スロープスタイル)

FIS 世界選手権2025 男子スロープスタイルのメダリスト © Miha Matavz/FIS

まず、こちらが参考になるであろう昨シーズンのリザルト。シーズンを通してコンペティションを戦い抜いた結果のW-CUPの総合順位は安定的な実力を証明し、一発勝負の世界選手権の結果は、勝負強さを示しているといえるかもしれない。

‘25 WーCUP総合順位
Men’s Freeski Slopestyle

  1. アレックス・ホール(USA)
  2. アンドリ・ラゲットリ(SUI)
  3. コルビー・スティーブンソン(USA)

世界選手権2025リザルト
Men’s Freeski Slopestyle

  1. バーク・ルード(NOR)
  2. マック・フォアハンド(USA)
  3. アレックス・ホール(USA)
スロープスタイル公開練習(現地2/4)より。選手たちはジブアイテムへの調整中  Photo:@fisparkandpipe

そんな背景を含めて、津田コーチの予想は……

「スロープスタイルが一番予測が難しいですね~。ジャンプだけでなく、ジブアイテムにどれくらい合わせられるか、というところがあるので。昨シーズンのワールドカップや世界選手権で現状上位に入っているメンバー、アメリカのアレックス・ホール、マック・フォアハンド、バーク・ルード、そのあたりがくる可能性は高いと思うのですが、これ意外とわからないです(笑)。

フリースタイルスキーのスロープスタイル・ビッグエア・ハーフパイプと、ジャッジ(採点)の方法が、純粋にこの技が何点ということが明確に決まっているわけではなくて、全体から見た相対評価なんです。オリンピックではとくに選手たちが新しい技を出してくることが考えられるので、新しい技がアイテムにどうハマるか、それをジャッジがどう評価するか……。

W-CUPの試合の度にジャッジは選手たちに意見を聞いて、どんな点数をつけるのか、どう評価されるべきなのかを互いに話合う機会があるんです。選手たちは、いま何が難易度が高いと思っているのか、ジャッジたちは情報を集めているところだと思うので、それが今回のオリンピックではどうなるのか……」 

@fisparkandpipeは、スロープスタイル競技開催直前に以下の8名をメダル候補として発信。

昨シーズンのX-Games映像を見ると、どのような選手かトップでしのぎを削っているのか、どんなトリックが評価されているのか、また個々の選手の強さ・持ち味のようなものも見えてくる。 ぜひチェックしてみよう。

BA(ビッグエア)

「ビッグエアの表彰台争いも、スロープスタイルと同じような顔ぶれになることが考えられます」と津田コーチ。

‘25 WーCUP総合順位
Men’s Freeski Big Air

  1. ルカ・ハリントン(NZL)
  2. マテイ・シュヴァンツァー(AUT)
  3. ミロ・タバネッリ(ITA)

世界選手権2025リザルト
Men’s Freeski Big Air

  1. ルカ・ハリントン(NZL)
  2. エリアス・シルヤ(FIN)
  3. バー・ルード(NOR)

「フリースタイルではジャッジの評価項目の一つに[プログレッション]という項目があるんですね。いわゆる「新奇性」で、新しいことをきちんと評価しようという基準があるので、それを狙ってオリンピックに向けて新しい技を用意している選手は複数いると思いますね。そのなかでもオーストリアのマテウス・ベンダーあたりはジャッジを悩ませるような革新的な滑りをするんじゃないかと思います。オーストリアのコーチも『いま、新技を仕込んでいる。楽しみにしておいて!』と言っていたので。

▼マテウ・スベンダー(Matěj Švancer)のInstagramより

順当にいけば21(トゥエンティワン=2160=6回転)、23がビッグエアに出て、それらが表彰台に絡むトリックにはなると思います。まだバターで入った21などは出ていないので、そのあたりが新技として出てくるのかも…。

回転軸に関していうと、コーク・バイオが主流になっています。バイオは前方向の軸で回る。前方宙がえりの流れで、もう少し浅い軸で回るのがバイオ。浅い軸のほうがフリースキーっぽくてカッコいいのでバイオを使う選手が増えていますね。前に回るので着地の合わせ方が少し難しいんですね。

グラブのバリエーションもすごく多彩になっています。昨年、W-CUPのビッグエアで総合優勝、世界選手権とX-Gamesでも勝って圧倒的な強さを見せつけているNZのルカ・ハリントンは、体をめちゃくちゃ柔軟しないと取れないようなグラブをしながらトリプルを回るんです。左手で右足のスキーの後ろをつかむとか……。今回のオリンピックでは、そういった難易度の高いトリックを出してくる選手がくるんじゃないかと思いますね」

▼ルカ・ハリントン(Luca Harrington)のInstagramより

優勝候補筆頭とも名高いルカ・ハリントンの滑りを含め、いま世界の頂点を競い合っているビッグエアパフォーマンスは、やはりX-Gamesの映像を見てチェックしておきたい。

HP(ハーフパイプ)

こちらが昨シーズンの参考データだ。

FIS 世界選手権2025 男子ハーフパイプのメダリスト © Miha Matavz/FIS

‘25 WーCUP総合順位
Men’s Freeski Halfpipe

  1. アレックス・フェレイラ(USA)
  2. ニック・ゲッパー(USA)
  3. ブレンダン・マッケイ(CAN)

世界選手権2025リザルト
Men’s Freeski Halfpipe

  1. フィンリー・メルヴィル・アイブス(NZL)
  2. ニック・ゲッパー(USA)
  3. アレックス・フェレイラ(USA)

「ハーフパイプは北京五輪からの進化が著しい。決勝に残るには、すべてのヒットでダブル系のトリックが必要になってきています。スイッチからのダブルコークのような、難しいスイッチのつなぎ技の導入も求められる。上位の選手は4方向すべての技をルーティーンに組み込んでくるうえ、優勝レベルの選手は当然16(シックスティーン=1620=4回転半)を狙ってきます。すでに18(エイティーン=1800=5回転)も出ていますし、トリプルコークをやる選手もいる。みんな新しいトリックを仕込んできているのでは。

そんななか、HPのメダル争いは、ニュージーランドのフィンリー・メルヴィル=アイブスとルーク・ハラルド、アメリカのアレックス・フェレイラ、ニック・ゲッパー、カナダのブレンダン・マッケイ、そのあたりかな、と。難易度が高くなりすぎると、絶対にこの選手!ということにはならなくて、予想が難しい。順当にいけば、ニュージーランドの若手2人がかなり有力かなと思います」

その滑りは、こちらでチェック!

女子の戦況

最後に、女子について聞いてみた。

FIS 世界選手権2025 女子スロープスタイル表彰台。優勝したマチルド・グレモー(中央)は今大会でも金メダルの本命か  © Miha Matavz/FIS © Miha Matavz/FIS

「女子は前回の北京と顔ぶれはさほど変わらないと思います。ハーフパイプなら北京の金メダリスト、アイリーン・グーが圧倒的に強い。今回はハーフパイプに標的を絞っているという話も聞きます。

ビッグエアなら、前回の北京五輪金メダリストのスイスのマチルド・グレモーと、平昌で金のサラ・へフリン。いま中国の選手もけっこう活躍しているので、リュー・メンピンも注目ですね。中国の選手は環境的にビッグエアをめちゃくちゃ練習しているので。トリックとしては両方向の14、16とスイッチの14か12。条件が良ければ、みんなそれを狙う戦いになるんじゃないでしょうか。

スロープスタイルには日本から近藤心音(こんどう ここね)、古賀 結那(こが ゆな)が出場予定です。世界の女子では近藤にしかできないスイッチブレンダー1080を武器に持ち、スタイルが高く評価されています。古賀は今季12月のW-CUPで結果を出し、初めての五輪切符を勝ち取りました。ぜひ応援してください」

選手たちの戦いのゆくえやいかに! 
フリースタイルスキー競技は、NHK系列やTverでのライブ配信も楽しめる。ぜひ観戦しよう!

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