フリーライド五輪種目化が問いかけるもの

2030年のフランス・アルプス冬季オリンピックで、フリーライドが正式種目として採用された。驚きなのは、FIS傘下での大会(2026年世界選手権)がたった一度開催されて五輪種目になったこと。ある意味でFWTの長年にわたる運営体制への高い信頼と、世界からの熱視線がうかがえる。

詳細はこちらのニュースを参照してほしいが、ここ数年、噂レベルで飛び交っていた話が現実となり、世界中でさまざまな反応が巻き起こった。
肯定的な意見が大多数を占める傍らで、カルチャーの根本が壊されるのではないかといった胸のざわつきを覚えるようなコメントを残す人も少なからずいる。

この話題を耳にして、約20年前の2000年代中盤から2014年のソチ五輪にかけて、スキー・ハーフパイプやスロープスタイルがFISに統合され、五輪種目へと至った歩みを思い起こす。

20年近く前、ハーフパイプやスロープスタイルのFISによる管轄化や五輪への採用に対して、「フリースキーを大切に育み、実を結びはじめるとFISが奪っていくのか」「自由なスタイルや反骨精神が失われるのではないか」と異議を唱える声は多かった。

ルールによる規格化で独自のスタイルが失われることへの不安。シーンに貢献していない人物や団体が関わることへの不信感。そうしたさまざまな葛藤がシーン全体を覆っていた。

ところが、五輪化に伴うナショナルチームの結成や公的資金の流入、規模の拡大は、世界トップを目指す選手たちのトレーニング環境を劇的に向上させた。恵まれた環境にいる一部の選手だけでなく、より多くの人々に機会とチャレンジへの道をもたらしたのである。
結果として、技の難易度は超高回転化へと突き進み、トリックのスケールは20年前とは比べものにならないレベルになった。フリースキーが競技としてアスリート化し、日常の滑りから遠く離れたエンターテインメントへと変化していった側面は否定できない。
ただ一方で、映像や写真での表現をはじめ、ジブリーグやSLVSH、NINESやKimbo SESSIONといった、ライダー主体の映像配信やセッションイベントによって、スタイルやカルチャーに重きを置く側面も残り、定着している。

競技とカルチャーは分断されたのではなく、両輪として存在しているのだ。

FISの新しい会長に選出されたアレクサンダー・オスペルト氏。フリーライドの五輪種目化に尽力した一人。ちなみに、2030年のフランス・アルプス冬季オリンピックの顔となっているのは伝説のモーグルスキーヤー、エドガー・グロスピロン。なお、この発表を受けて、SAJはいまのところ静観の構え

今回のフリーライドの五輪種目化は、20年前とは状況が異なる。最前線のライダーたちが「オリンピックが突然フリーライドの本質を変えるわけではない」と冷静に見つめているのも心強い。

彼らは、勝ち負けを競う純粋な競技としての側面を充実させながら、コミュニティの価値をどう守り抜いていくか、自分たちの手でこの変化をコントロールしようとする知性と行動力を備えている。

重要なのは、フリーライドの根底にある「表現の自由」「自然への敬意」「ライダー同士のリスペクト」というクリエイティビティを、五輪の舞台でも薄めずに表現し続けることだ。

フリーライドにはこれまでの五輪種目とは明らかに違う点がある。自然そのものがフィールドであるということだ。人工雪でコースを造成できるモーグルやハーフパイプ、あるいはコースを大規模な人為的作業で維持するアルペンとは異なり、フリーライドは競技環境を人間のコントロール下に置くことができない。気まぐれな自然と折り合いをつけながら進むしかないのだ。

五輪期間中に競技ができるコンディションが成立するかどうかは現時点では誰にも分からない。それは、これまでのFWTの大会運営を見ていても明らかだろう。テレビ中継の都合やスポンサーからのプレッシャーによって、危険なコンディションでの強行や、選手の安全を脅かすようなコース設定・競技進行が行われることは断じて許されない。

これまでのFWTの運営と同様に、「自然への敬意」と「命への尊厳」を最優先事項に掲げ、五輪という巨大な体制に飲み込まれてはならない。2030年の開催までに、FWTおよびFISがどのような運用体制を敷くのか。

その点にも強く注目したい。 

また五輪で初めてフリーライドを目にする一般層にとって、ある種酔狂ともいえるこの競技は、採点基準といったルールを超えたダイナミズムと興奮、そして衝撃を与えるだろう。 それと共に、雪山の美しさとそこに潜むリスク、気候変動による雪不足の現実、滑走エリアの安全管理といった、雪山やバックカントリーを取り巻く課題が、五輪というマスな舞台を通じて一般社会に広く知れ渡ることになる。
結果として、国内ではこの競技に対して「危険で無謀な挑戦だ」「これぞ真のスキーだ」といった賛否を呼ぶに違いない。

それが単なる「危ないスポーツはけしからん」「すごいパフォーマンスを観る」という消費志向で終わるのではなく、自然に対する心構えや環境への関心といった当事者意識を、シーンを見守る私たち一人ひとりが持つきっかけになるのではと、密かに願っている。

■Freeride World Tour による発表 https://www.freerideworldtour.com/olympic-integration/

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