2026年1月17日から18日にかけて、かぐらスキー場の和田小屋でbottomline主催の「和田小屋フェス」が開催された。スノーサーフ、テレマーク、フリースタイルスキーなど、異なるジャンルから70名を超える滑り手が集結。2017年の初回から、本イベントはコロナ禍を挟みながらも継続され、「ジャンルレス」なスノーカルチャーを発信してきた。ジャンルが溶け合っていく濃密な時間をレポートする。
和田小屋フェスとは?

かぐらスキー場の中腹に建つ和田小屋の前に置かれている、スノーサーフボード、テレマークスキー、ツインチップといった見慣れない道具の数々。その多彩さを見ただけで、個性あふれる滑り手が集っていることがわかる。
ここが、プロショップbottomline主催の「和田小屋フェス」の会場だ。
bottomlineといえば、東京練馬にあるスキー&スノーボードプロショップとして独特の存在感を放つお店。こだわりあふれるセレクト商品と職人芸のプロフェッショナルチューンナップサービスでコアなファンを集めている。

1/17日(土)~18日(日)の週末、bottomlineによって和田小屋を贅沢に貸し切って開催されたこのイベントは、コロナ禍を挟みながらも9年間継続されてきた。
「9年で皆さん9歳、歳を重ねたよね。時の流れのなかにはいろんな変化があったと思う。この場に参加してくれるライダーたちも少しずつ入れ替わってきた。けれどなに一つ変わらないのは、ジャンルを超えて雪山を楽しむ精神だと思うんだよね」と、bottomlineのオーナーであり、このイベントの仕掛け人、田畑智之氏は言う。

70名を超える参加者を受け入れる規模は、和田小屋をフルに使い切る人数。これほど多様なジャンルの滑り手が集まってくるのは、bottomlineが単なるチューンナップ・ギア販売店ではなく、コミュニティハブとして機能している証だ。

初対面同士でも、雪山への情熱という共通言語があれば、距離はすぐに縮まっていく。「普段はどのあたりで滑っているのですか?」。「そのボード、調子いいですか?」。会話は自然と生まれて、仲間の輪が広がっていく。
参加レジェンドたち

「和田小屋フェス」の大きな特徴が、スノー業界のさまざまな個性派や、いわゆる"レジェンド"級の有名人が参画していることだ。その面々の一部を紹介しよう。
小番直人氏(MOSS SNOWSTICK)
MOSS SNOWSTICK開発兼メインライダー。独自のスノーサーフスタイルに磨きがかかり、波乗りの感覚を雪山で再現する滑りは、多くのライダーに影響を与えている。スノーサーフィンの本質を体現する存在。
佐藤将彦氏(MOSS SNOWSTICK)
小番氏と共にスノーサーフィンを各地で伝道中。スクール校長として基本の技術指導にも定評があり、SNOWSTICKが提唱する「スノーサーフ」を実践的に伝える。
橋本貴興氏(K2)
「ハッシー」の愛称で知られるフリースタイラー。K2に所属しながらも、プロスケーターでもある独自のスタイルは、スノーボーディングの奥深さを伝えてくれる。個性的な世界観が魅力的。
渡辺尚幸氏(PRANA PUNKS)
PRANA PUNKSを主宰し、長野をベースに暮らすレジェンドスノーボーダー。田畑氏とは四半世紀にわたる付かず離れずのナイスな関係。ソウルが詰まった滑りとブランド運営で知られる。
中山二郎氏(GREEN LAB.)
昨年誕生から20年を迎えた国産ボードGREEN LAB.のファウンダー。長野らしいスキの無い滑りはまさにフリーライドそのもの。
井口真氏(MOSS SNOWSTICK)
小番氏の盟友で、同じ地元秋田の旧知の仲間。秋田のフィールドを知り尽くしたスノーサーファー。
庄司克史氏(プロスキーヤー)
愛称"庄ちゃん"。伝説の『スノードルフィンズ』のスキービデオで知られる。彼と一緒に滑る機会は最近では滅多にない。還暦を迎えてもなお第一線で滑り続ける情熱は、参加者全員に伝わる。
久我博道氏(テレマークスキーヤー)
SARCを主宰し、誤解されがちな「テレマークスキー」の本質を伝える。前後に開く脚に秘められた謎を解き明かすセッション。見た目のカタチに騙されない目を養える。田畑氏のテレマークの師匠。
岩崎龍大氏(フリースタイルスキーヤー)
フリースタイル出身ながら独特のスタイルで一目置かれる存在。現在はSBブーツ&バインディングを装着した「ボードスキー」を操り、ストックを持たず滑らかに雪山を滑り倒す。新ジャンルの先駆者。
ジャンルを超えたセッション

和田小屋に到着すると、土曜日は6つのセッションが同時展開された。庄司克史氏率いるBCガイドツアー。久我博道氏のテレマークセッション、佐藤将彦氏によるスノーボードレベルアップレッスン、小番直人氏と井口真氏のスノーサーフセッション、渡辺尚幸氏と中山二郎氏によるスノーボードフリーライド、そして橋本貴興氏と岩崎龍大氏による「SB+SKIフリーライド」。
日曜日はさらに趣向を変えた「異ジャンルセッション」が用意されていた。
「二枚板混合」では庄司克史氏と久我博道氏が、アルペンスキーとテレマークという二つの文化を融合させる。「異種混合」では小番直人氏、橋本貴興氏、岩崎龍大氏が、スノーサーフ、スノーボード、ボードスキーという全く異なるスタイルを一つのセッションで展開。

「SB長野VS秋田」では中山二郎氏と井口真氏が、それぞれの地元カラーを滑りに込め、「SBレジェンド」では急遽下山の渡辺氏の代役として吉田勇童氏と佐藤将彦氏が、長年培ってきた技術と哲学を披露した。
ジャンルを意図的に混ぜ合わせることで生まれる化学反応。これが、このイベントの核心だった。
BC(バックカントリー)セッション

筆者は「BCセッション」「二枚板混合セッション」に参加したのでその模様を紹介しよう。
庄司克史氏が率いるBCガイドツアーは、かぐらの山域を知り尽くしたサポートメンバー、そして東北からのゲストを迎え、バラエティー豊かな山行となった。
雪の状況は2日ほど降雪がなく、パウダーは期待できなかった。しかし、午前中は晴天の中でのパウダーライド。青空の下、開けた斜面を滑り降りる爽快感は格別だった。

午後はガスが出てツリーエリアへ移動。視界が限られるなか、木々の間を縫うように滑走。予想外のパウダーコンディションの良さに、参加者全員が歓声を上げた。

井口氏のパワーは参加者全員に伝わり、ツアー全体を盛り上げる。フォトグラファーの宇家譲二氏がツアーの様子を記録していく。

バックカントリーでは、装備と技術の共有が不可欠だ。安全管理、ルート選択、雪質判断。専門的な知識が必要とされる場面で、異なるジャンルの滑り手が協力し合う。

かぐらを知り尽くしたサポートメンバーのアドバイス、東北ゲストの異なるフィールド経験。それぞれの知見が共有され、ツアー全体の安全と質を高めていく。自然の中だからこそ生まれる一体感。ゲレンデとは異なる緊張感が、滑り手同士の絆を深める。これがBCセッションの醍醐味であろう。道具の違いは些細なことだ。

2枚板交流セッション(アルペン×テレマーク)
朝イチのファーストトラックを満喫した後(朝イチファーストトラック狙いで上がってきた一般客は、既に斜面が滑りつくされていてピステンバーンがほとんどなかったことにびっくりしたことでしょう...)、ひとしきりファーストトラックを堪能した後、「二枚板混合」セッションがスタートした。

庄司克史氏と久我博道氏のワンポイントアドバイスから始まったセッションは、全員で苗場を目指すことに。フォトセッションを織り交ぜながら、テレマークのラインについたり、アルペンのラインについたり。その繰り返しの中で、互いのラインが頭に入ってくる。ヒールフリーの皆さんは、ターンでポーズを決めたり、パワーのアルペンと比べてエレガントだ。

時間が経つ程に中標高帯はガスで見通しがききにくくなるも、時折開ける視界に皆が笑顔に。そこそこの人数でセッションしていると、ギアトラブルもあるわけだが、あまりじっくり見ることのないギアに参加者も興味深々。こういったトラブルも勉強になってしまうのが、異種混合の面白さであろう。
夜の和田小屋とそこで生まれる化学変化

和田小屋の夜が始まった。一日滑り終えた充実感が、参加者たちの表情に浮かんでいる。
着替えを済ませ、リラックスした空気が流れるなか、会話が自然と始まっていく。一日、同じプログラムを共にした者同士はもちろん、別々のセッションにいたメンバーも「滑り手」という共通のプロフィールがあるから、会話は簡単に生まれる。


日が暮れて、KEISONのミニライブがスタートした。ライブハウスのような派手なパフォーマンスではなく、和田小屋という空間に合わせた、温かみのある演奏。参加者たちの心を解きほぐしていく。
筆者は、本メディアの社長やかぐらスキー場の元支配人の皆さまが集まるテーブルに加わった。レジェンド達の豪快な経験談を聞く。こんな話が聞けるのもこの空間ならではだ。次にご一緒したテーブルには、40代後半でスノーボードを始めた方、夫婦で新潟を滑りまくっているご夫婦、病気を克服されて滑り手として復帰された方など、様々な背景を持った方々が集まっていた。
それぞれのテーブルで、対話が深まっていく。夜が深まるにつれ、場も熱を帯びてくる。日中は別々のセッションにいた滑り手たちが、ジャンルも年齢も超えて、過去の経験や考え方を共有していく。技術論、道具論から、それぞれの人生観や価値観まで。「なぜ雪山に惹かれるのか」「滑ることで何を得ているのか」。深夜になっても、対話は尽きることがなかった。
SNSが全盛でなんでも共有されているように思えるが、こういう場所でしか共有できないこともある。顔を合わせながらのコミュニケーションの大事さを改めて感じさせる空間だ。

「和田小屋という特別な空間だからこそ、本音で語り合える」という参加者の声が印象的だった。70名を超える参加者が一つの空間を共有する濃密さ。下山することなく、一晩中同じ場所にいる。その環境が、普段は語られない深い話を引き出していく。
次の日には、「次はあなたの地元でも滑ろう!」という約束が交わされる。1泊2日という短い時間が、確かに何かを変えた。
プロショップが育む未来のスノーカルチャー

この「和田小屋フェス」には、bottomline田畑氏の持つ「遊び場を用意する」という思想が反映されている。単なるファンイベントではなく、雪山で人がつながっていく文化を根付かせ、長期的な視点で日本のスノーシーンを豊かにしていこうとする試みなのだ。
細部へのこだわりも、このイベントの質を支えている。和田小屋という場所の選定。影響力のあるゲストの招聘。「異ジャンル混合」という企画。「とにかく楽しく呑んで語らおう」というフランクな飲み会。フォトグラファー宇家譲二氏によるドキュメンタリー記録。これらすべてが参加者に新鮮な刺激を与え、化学反応を生み出す仕掛けなのだ。
参加者からは、「こんな場が各地にあったら、スノーカルチャー全体がもっと豊かになる」という声が聞こえた。bottomlineの取り組みは、全国のプロショップへの提案でもある。ギアの販売という「点」から、コミュニティ育成という「面」に広げていく取り組み。地域ごと・ショップごとに異なるスタイルで、雪山を愛する人たちが集まれる場を作っていく。それがひいてはスノー界を盛り上げていく力強い土台となるのではないか。
あなたの街にもプロショップや専門店があるはずだ。シーズン終わりにチューンナップにスキーを出すだけではもったいない。店主と語り合い、ショップ主催のイベントに参加し、仲間を見つける。プロショップを上手に利用することで、スノーライフはきっともっと豊かになる。
この先、ジャンルレスなスノーカルチャーの未来の一端を、自分も担っていくのはどうだろう。
Photo:Joji Uya
Special Thanks:bottomline


