What is 「WAKAYAMA」?
「WAKAYAMA」という名前のついたスキーグローブがあるのをご存知だろうか。それは有名ライダーのシグネチャーモデルかって? 答えはNOだ。そして、和歌山県民は思っているらしい。「和歌山産の手袋」だと。これも激しく違う。なぜなら、これは 北欧スウェーデンの深い森の中にあるヘストラという小さな村でつくられている、made in スウェーデンのグローブなのだから。
ヘストラ村でつくられているグローブとは、あの「HESTRA(ヘストラ)」だ。革を素材とした薄手のグローブや、3本指のグローブなど、機能的かつ独自のスタイルで、スノー業界ではライダーやフォトグラファーにとても人気が高い。
Long time ago 昔むかしスウェーデンの森の奥に……
「ヘストラ」グローブのルーツ、それは1936年にさかのぼる。当時、林業が盛んだったスウェーデンで、森の中で働く人々のために耐久性の高い作業用のグローブを提供し始めたのが、その始まりだった。
スキーが新しいスポーツとして流行り出していたこの頃、ヘストラ社の創業者マーティンは、スキーヤーたちにも革の丈夫なグローブが必要なのでは? と思い立ち、また、幼い愛息が雪遊びを存分に楽しむためにもスキー用のグローブを創ることを決めたのだという。
それから80年以上にわたり、ヘストラは北欧からヨーロッパの国々、北米や日本へと広がり、今や世界19ヵ国で展開。ハイクオリティなグローブとして信頼感を集め、確固たる地位を築いている。
世界で売れまくっている「WAKAYAMA」というグローブ
そのヘストラの「WAKAYAMA」というグローブが、今、世界的に売れまくっているという。もちろんスノーグローブなのだが、ちょっとコチラを見てほしい。
ニューヨーク発のデイリーライフスタイルマガジンで、あらゆるジャンルで世界中のイイモノを取り上げる極上の目利きとして有名な雑誌「GEAR PATROL」に「WAKAYAMA」(左上)が選ばれている。あたかも街のファッショナブルなアイテムのごとく存在感もたっぷりだ。
その人気ぶりは、USAのアウトドア雑誌の「Outside Magazine」で、このように「The Best Gloves of 2020」に輝いたことでも実証された。
売れすぎて広告にまで採用
この「WAKAYAMA」、2016年にリリースされて以来、年々カラーバリエーションが増えている。ヘストラでは「色が増えていく=売れている証拠」という図式が成り立つという。初年度は3色で始まったものが、今シーズンのランナップは実に6カラー、ご覧の通り。ワンモデルで6色はなかなかあることではない。
あまりに評判が良すぎて、USAでは、広告のメインビジュアルにも採用されている。こんなふうに。全部で100モデルもの商品の中で広告塔になる、ヘストラの顔となることも、これもまたなかなかあることではない。
「ありそうでなかった」スタイル
なぜ「WAKAYAMA」は、こんなに世界的に評価されているのか。一言でいえば、ハイスペックな機能性とカジュアルなデザイン性の融合、だろう。これがヘストラに、それまでありそうでなかった斬新な発想だったのだ。
なめらかと言いたくなるほど柔らかな革の風合いに、インナーは抜群の保温性を誇るウールを採用。カッティング・縫製・ファッショナブルなデザインのすべてにクラフトマンシップのスピリッツが漂って、なんともいえないスタイリッシュさを纏う「WAKAYAMA」。
実は、この開発の背景には、一人の日本人の存在があった……。
その人の名は……
ワカヤマヤスオ(若山泰生)。ヘストラグローブの日本におけるディストリビューター(輸入販売元)「FULLMARKS(フルマークス)」の代表だ。FULLMARKSといえばヘストラはじめノローナなど北欧アウトドアブランドの輸入販売、日本国内にてウェアやギアを企画生産し、プロショップを7店舗展開もするメーカー。このワカヤマ氏といえば1998年頃のフリースキーの黎明期からUSAの Winter X-Gamesの日本版的な「コアゲームス」をプロデュースするなど、シーンを牽引してきたパイオニアだ。
ワカヤマ氏は言う。
「1991年頃、私がお付合いを始めた当時、創始者Martin(マーティン)の孫の第3世代が会社経営を担っていて、現在ヘストラ社を引き継いだ第4世代はまだ小さな子供たちだった。彼らは安定したファミリービジネスを継承し、経営者という立場でありながら、自ら勉強して革のソムリエのような専門上級資格を取ったり、新たな挑戦も欠かさない。ヘストラはクラフトマンシップへの誇りを持つ素晴らしいブランドなんだよね」
「かっこいいじゃない!」っていうのと
名前は止めて……という思い
年に1回、ヘストラ社はヘストラ村でインターナショナルセールスミーティングを開催する。2015年の冬、ミーティングの前夜祭のことだった。だいぶ酒の入ったワカヤマ氏の元にニコニコした3代目社長(写真3中央のSVANTE/スバンテ)がやってきて、「Waka(ワカ)、明日君にサプライズがあるよ」と言いながらグラスをあわせてきたという。そして翌日、世界中のディストリビューターの前で「WAKAYAMA」という新しいグローブが発表されたのだった。
「自分の名前が付いたってことは、とても光栄なことで素晴らしく喜ばしいことであるのは間違いない。でも、実際に商品を見て感じたのは「かっこいいじゃない!」っていうのと、名前は止めて……という思い(笑)。売れなかったら困るし、日本のマーケットで社長が商材に自分の名前を付けてる、と思われることももちろん嫌だったから。そして、もし1年で無くなったらもっと嫌だなっていう思いもあった」
こんなふうに語ったワカヤマ氏だが、翌年のインターナショナルセールスミーティングにおいて、「今季世界で一番売れている商品発表」で「WAKAYAMA」は「BEST SELLER」の称号を与えられたという。
「とりあえず1年で終わらなかったことに安堵している自分と、「どうだ〜!」って自分もちょっといたかな」
どうして「WAKAYAMA」は生まれたのか
そもそも「WAKAYAMA」はなぜ作られたのか。4代目の副社長 Jonas(ヨナス)が話してくれた。
Jonas:「このグローブ THE GLOVEは、Wakaが何年も前に作ったスタイルなんですが、当時、このグローブを見ていいなと思ったことを思い出したんです。カジュアルでオールドスクールな印象だけど、古臭いわけでもなくて色褪せないスタイル。実用性とスポーティーさを持ち合わせていて、でもカジュアルさもあるから、山でスキーやスノーボードをするときも、それ以外でも使える。これを少し改良してあげれば、日本だけでなく、ここヨーロッパやアメリカでも人気が出るんじゃないかって思ったんです。
2006年頃、ワカヤマ氏は「カジュアルなグローブでスキーもできるものがいい」というアイデアで日本向けの「THE GLOVE」を発注した。機能性を追求するためにゴアテックスを採用したことで硬めの仕上がりになった結果か、期待したほど売れなかったのだという。
「もともとデザインはあまり変えずにオリジナルのTHE GLOVEのデザインに近いものにする予定でした。でも、パラコードや革部分の色を足して、細部は少し改良して、もう少し目立つようにツートンカラーにしました。
この小さな変化も、Wakaの好みに合っていたんじゃないかと。裏地にウールを使うことで保温性という機能面も充実し、クラシックな印象に仕上がってヘストラらしいこだわりのあるスタイルになりました」
つまり、なぜ「WAKAYAMA」が生まれたか、それは「Wakaのナイスな感性とアイデアを僕らが解釈して世界に届く形にしたよ。こういうことだろ、Waka」というヘストラの答えだったのではないか。
もうひとつの込められた思い
Jonasはワカヤマ氏についてこう語った。
Jonas:「Wakaはすごくフレンドリーで気さくな人で、芯があってユーモアもポジティブさもあります。だからビジネスにおいても、個人としても私たちにとって、とても大切な存在です。長いこと一緒に仕事をしてきて、文化や価値観に通ずるものがある。例えば先を見据えた考え方や、スキー・スノーボード業界を大切に思うことなど、とても共感しています。彼がスノーボードに今も熱心なのもいいですね」
しかしながら、有名なスキーヤーでない一個人の名前を商品名に付けるのは、とても特別なことだろう。
Jonas:「Wakaは有名とまではいきませんが、スノー業界での長年の経験があって、強いネットワークを築き、このコミュニティに何十年と貢献してきました。このWAKAYAMAグローブの原点がWakaにあって、彼のスタイルを反映させて出来上がったグローブだから、彼の名前を付けることは当然だと思います」
長い歴史を誇るスウェーデンのグローブブランドに、なぜ日本人の名前が付けられたのか、おわかりいただけただろうか。
FULLMARKS:https://www.full-marks.com/
構成/STEEP編集部 取材協力・写真/FULLMARKS