スキー・スノーボードグローブのトリセツ|その仕組みを理解して選び方を知る

スキー・スノーボードになくてはならないグローブ。板やブーツのハードギアほど存在感はないけれど、実はその重要性はすごぶる大きい。手が冷たければ楽しさは半減してしまう…そんな経験をした人は少なくないだろう。これまでグローブ選びやグローブの取扱いにあまり気を遣わずにいた人は、せっかくの楽しい雪山でちょっぴり損をしていたかもしれない。’21₋22シーズン、より快適に滑りを楽しみ、雪山時間を充実させるために、グローブについて理解を深めてみよう。

教えてくれた人:Fullmarks HESTRA director 天野禎央さん

INDEX


Skier/ Naoto KonoPhoto/Daniel Honda

そもそもグローブはなぜつける?

スキー・スノーボードをする際にグローブをつけるのはどうしてか? それはズバリこのためだ。

1.手の保温
2.手の保護 

手の保温とは当然ながら雪山での寒さから手を守るため。手が冷えすぎてしまうと手指が動かせなくなり、ポール操作やブーツのバックル、ジッパーの扱い、ゴーグルの装着など、不便になるだけでなく、過酷な状況下では凍傷にかかってしまうこともある。十分に温かくして、なめらかに手が動かせるようにしておきたい。

そして雪山ではいろいろな手が傷みかねない状況もある。ツリーの中を滑っていて木にぶつかってしまった、スノーボードで転倒してザラメ雪で手を擦ってしまった、ビンディングの脱着で切ってしまったなど等。手に傷を負わないために保護をする必要がある。

スノーグローブに必要な要素

雪山での手の保温と手の保護を実現するために、グローブには以下のような要素が求められる。手を保護するためには外からの衝撃に対して丈夫であること、つまり表面素材に耐久性が必要だ。そして手を冷やさないためには、グローブの構造が温かさを保てる造りになっていること、中綿そのものが保温性が高い、中に外部からの濡れた水分が浸透しない耐水性を持つ素材も入っているのが好ましい。

そして忘れてはならないのが「動かしやすさ」だ。手指が思うように動かしやすいか、はグローブのパーツのカッティングと縫製に大きなポイントがある。パーツの組み合わさり具合によって質感がゴワゴワと硬くなり手指が動かしづらくなったり、指の微細運動をするのに縫い目の凸凹がストレスになったりもするからだ。



グローブの作り方

グローブを作る工程は、まず手のサイズを測るというプロセスから始まる。
以下はHESTRA社による手の採寸の仕方。手のひらの横幅を測るのだ。HESTRAの原産国スウェーデンやヨーロッパ諸国ではグローブのサイズは横幅で測るのだが、バイクのグローブなどを製造している日本の企業では、手の中指のてっぺんから手首までを測るのがスタンダードなのだという。言語や人間関係もとかく縦の日本と、横文化の西洋の違いは、意外なところにも反映されているのかもしれない。


グローブの成り立ち

一双のグローブを作るのに109パーツ・46工程・18の検査!

こちらは「グローブの構成パーツ」だ。HESTRAグローブの場合、ワンペアは実はこんなにもたくさんのパーツから成っている。その数はなんと109! 生地素材を縫い合わせたり、細かいパーツを取り付けたりのプロセス(工程)は46アクションも必要だ。加えて18種類のクオリティーチェックを通過しなくてはらなない。ひとつのグローブが完成するまでに要する時間は1時間27分という。なんという手間がかかっていることか!

その数なんと109パーツ! 組み立てには46工程! 感動的な「グローブの成り立ち」図

グローブの構造

上のグローブの分解パーツがグローブになると、いわゆるグローブの構造はこんなふうになっている。(下図)
外側からシェル(表地)・メンブレン(防水フィルム)・ライニング(中綿)・裏地と、一番多いのが4層構造だ。メンブレンが入っていない3層構造のグローブもあるし、ライニングが入っていない薄手のグローブもある。

■ 一番多いのが4層構造


ライニング(中綿)

保温性を保つための考え方は、ウエアのレイヤリングと同じだ。ミッドレイヤーにダウンを着るか、トレーナーのようなコットンを着るかで温かさを調整するように、グローブではライニング(中綿)の厚さや素材で調整する。ライニング下の写真のようにライニングが取り出せるタイプのグローブもある。

中綿にはポリエステルから作られているフリース素材や、ウールが使われているものもある。ウールの強みは多少の湿気を含んでも保温性を維持してくれること。グローブの中に雪が入ってしまい少し濡れても意外と冷えない。

シェルは3本指、ライニングは5本指で保温性と動きやすさを両立

シェル(表地)

グローブのシェル、いわゆる表地に使われる素材は、大きく分けるとナイロンと皮革の2つ。ナイロンには厚みや性質の違うさまざまな素材があり、ナイロンの利点は、防水性、防風性、耐水性、透湿性、耐久性、軽さなどが挙げられる。また、ポリエステルや合成ゴム素材も使われる。

皮革の利点は圧倒的な耐久性と柔らかさだろう。皮革は使い込むたびに柔らかさを増し、しなやかに手の動きに馴染むようになる。また、透湿性に優れた皮革もある。その快適さは、一度使ったら誰もが実感するだろう。皮革のスノーグローブのアイコンともなっているHESTRAでは、創業の1936年から一貫して皮革を使用したグローブ作りをしているが、その背景には天然素材ならではの高い機能性と自然に調和した味わい深い風合いが、ユーザーを惹きつけてやまないからだ。

皮革には動物の種類や加工によってさまざまな個性・機能性がある

■ 動物の革の種類

我々の日常生活にも皮革製品はあふれている。革靴、革のバッグや財布、革のジャケット、革のソファなどいろいろだ。革と一口に言っても、実はさまざまな種類があり、動物の革にはそれぞれ特長があるのだ。

牛・羊・山羊(ヤギ)・馬・ワニあたりはポピュラーで想像しやすいが、水牛(バッファロー)、鹿、豚、イノシシなどもある。水牛革は高級な革ジャケットに使われていたり、眼鏡のお手入れに使うセーム革は鹿革を油でなめしたもの、馬革のコードバンと呼ばれるお尻の革は美しいツヤと気品、耐久性で世界最高級とされる、イノシシの革は高級でなかなか手に入らない、などと聞くと、革の世界は実に興味深い。

■ スノーグローブでは山羊と牛がメインで加えて鹿

しなやかさと耐水性が高いことで、スノーグローブでメインで使われているのは山羊(ヤギ)革と牛革だ。そこに一部、鹿革が加わる。ヤギ革は強く丈夫で個性的なシボ(革の表面の立体的な皺模様)に味があり、経年変化を楽しめる。子どもの山羊の革(キッドスキン)は大人の革(ゴートスキン)より特に柔らかで美しく、靴や手袋に愛用されている。牛革は表面加工のバリエーションが豊かな素材のため、鞄や靴、手袋など、あらゆる革製品に使われているのはご存知の通り。

例えばHESTRAで採用している「Goat Army Leather」は最高級ランクの山羊革で、最も耐久性が高く、防水処理が施されており、透湿性にも優れている。本来は軍隊用のグローブを作るために使われる素材だ。牛革の「Cowhide」は、擦り傷に強く、透湿性に優れるため、グローブにマッチしている。

また、鹿革の伸びて元に戻る性質が手袋の素材として優れており、「Elkskin」はスウェーデンとフィンランドで育てられたヘラジカを、「Deerskin」は北米のオジロジカの革を加工したもの。いずれも驚くほど柔らかで保温性にも富む皮革だ。こんなふうに革の豆知識を得ると、グローブにもこれまでも違った愛着が湧いてくるような気がしないか。


メンブレン(防水フィルム)

スノーグローブが濡れないように機能するメンブレンもいろいろな素材があるが、最もよく知られているのが「GORE-TEX®」だろう。グローブ内の熱と湿気を外部に放出する、人間の肌と同じ機能を持つ防水透湿素材。水の侵入を防ぎ、雪の中でも手をドライで快適な状態に維持してくれる。また、風もシャットアウトすることで手が暖かく快適に保たれるというわけだ。

一方で、GORE-TEX®を入れるとどうしても硬くなり、フィット感が落ちるのは否めない。手指をよく動かすための作業系のグローブには使われていることはほとんどない。ちなみにHESTRAでは他にも「CZone®」という
防水透湿素材を採用。フィット感を損なわずにグローブに適した裁断が可能な利点もある。このように、メンブレンはニーズに合わせて採用されているのだ。


デザイン

32950 Ergo Grip Active

スノーグローブのデザインは、雪上という厳しい自然条件下で使われるために、見た目の美しさよりも機能性を追求してデザインされているものがほとんどだ。機能的であるためには、どのようなデザインであるべきか。そこには素材や構造だけでなく、手を覆い、手指を動かすという必要性からくるデザイン上の工夫が凝らされる。

形状

雪山で冷えてかじかんだ手でウエアのジッパーを開閉するのは意外とストレスフルなものだ。ポールを握ったり、ビンディングを調節したり、ゴーグルを装着したりと、手指が少しでも動かしやすいほうがいいに決まっている。手の動きにダイレクトに影響するのがグローブの形状だ。

■ 5本指・3本指・ミトン

スノーグローブはこの3タイプに分かれる。

`HESTRA/ Phillipe Raoux Ecocuir short
HESTRA/ Army Leather Patrol 3-finger
HESTRA/ Phillipe Raoux Mitt
メリット課題
5本指
グローブ
フィット感が高い・手指が微細に動かせる指先が冷えやすい・乾きにくい・(素材にもよるが)指の部分がこわばりやすい
3本指
グローブ
親指と人差し指は独立しているので物をつかんだりするには必要十分・まとまっている部分は温かいフィット感は感じ方に個人差が大きい・3本という動かし方に慣れる必要あり
ミトングローブ指がまとまっていることで温かい・ポールは比較的握りやすい・シワやヨレができにくいので傷みにくいフィット感は低い・微細な動きができない・ジャンプしてのグラブトリックはかなり大変

■ エルゴ・グリップ

デザインにおいてHESTRAでも採用しているのが、「人間工学に基づき、最も手の力を抜いた自然な状態の指に合わせ、湾曲した形状に設計した」という「ErgoGrip(エルゴ・グリップ)」という技術だ。オートバイやゴルフのグローブで有名な日本の手袋メーカー松岡手袋が開発したもので、2009年に革製品の素材や加工技術を競う世界大会で、加工技術部門の大賞である「テクノロジー・アワード」を受賞、特許も保有している。

ErgoGripは、人間の手の自然なカタチを得るために、ミリ単位の曲線と動きを研究し、高次元のフィット感を実現、手指の形状と動きにそったパーツのカッティングと縫製で、手指を動かす際のエネルギーロスが少ない。手の形状に合わせることで表面にシワやヨレができにくく、ポールをグリップするのも楽で快適だ。道具を扱うのにも指先が動かしやすいためストレスがない。雪山で長時間つけていても疲れないというわけだ。



縫製

グローブはさまざまなパーツから成っているが、その縫い合わせ方によってもフィット感や快適性が変わってくる。特に指先は細やかな動きをする際に縫い目が当たると違和感を覚えたり、正確な動きがしづらくなることがある。縫製も手指の動かしやすさや使用感に直結する重要なポイントなのだ。

関節の位置に縫い目がくるよう縫製することで手の形そのものの自然な立体

機能性を重視した縫い目

指の平側の関節を一つ一つのパーツに裁断し、関節の縫い目の位置を指の合間に収まるように設計。指を曲げた形状で立体的に縫製することで、高いフィット感とスムースな使用感が得られる。

縫い目が内側にあるので見た目はよい
縫い目を外に出すことで中の違和感はない
エルゴグリップは指先に縫い目はない

スノーグローブの取扱い

お気に入りグローブをゲットしたら大切に長く使いたいもの。そのためにも、グローブの取扱いで気をつけたいことを最後にお伝えしよう。

●グローブが濡れれば当然乾かすわけだが、濡れた後に極端に乾かさないことが大事。例えば宿の乾燥室のストーブの前に置いたり、山での休憩タイムにレストハウスのストーブの真上に吊るしたり、実はこれは好ましくない。急速に熱を当てることで素材が傷むからだ。理想は室温で乾かすこと。「え!それでは一晩では乾かないよ~」と思うのも無理はない。そのためにもうワンペア持っておくのはどうだろう。

●皮革のグローブは、使い始める前にオイルを染み込ませること。ひと肌と同じで乾燥するとカサカサしてしまい、傷みやすくなるからだ。どれくらいの頻度でオイルは塗ったらいいか? 状況によるが4、5回滑ったら1回というのは、ひとつの目安になるだろう。

●グローブが擦れたり、切れたり、傷んでしまった部分にガムテープやダクトテープを貼って応急処置している人をよく見かけるが、おススメできない。いざきちんと修繕しようとすると、テープのノリのベタベタで針が通らなくなってしまうからだ。修理する気があるのなら最初から取扱店に持ち込もう。購入後1年間は無料修繕してくれるメーカーもあるので、購入時にチェックしたい。

最後に

雪山を楽しむのに欠かせないグローブ。実は、こんなふうに手の込んだプロセスを経て、創り手の工夫やこだわりが盛り込まれて作られていた。あらためてグローブを見直して、これまで使ってきたグローブに愛着を感じたり、次の相棒を見つけるキッカケになれば幸いだ。

Photo: SKI SHOP Vail

取材協力/㈲フルマークス・松岡手袋㈱

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