新素材”グラフィン”がもたらす
異次元の軽さ
HEADのフリースキーラインとして、'18シーズンからラインナップされている「KORE(コア)」。そのカテゴリーは年を追うごとに拡充し続け、ブランドのなかでもその充実度は目を見張るものがある。
'22季は男性6モデル、女性4モデルの計10モデルをラインナップ。これはヘッドの主軸である競技スキーラインに次ぐ数字だ。
ウエスト幅85~117mmまでの多彩なモデル数を背景に、フリーライドコンペティターからスキー場を楽しむ層まで、ひろく愛用される「KORE」シリーズ。
特筆すべきはその軽さと力強さだ。フリーライドやカービングに適したモデルとなると、どっしりとした安定感を出すために、メタルやチタンを組み込み強さを出すのが一般的だが、そうなると重量が増し、扱いやすさが損なわれる。
それを、ヘッドは"グラフィン"という新素材を用いることで、スキーの構造に大きな変化をもたらした。軽くすることで、浮力が増し、操作性が優れるといいこと尽くしの「KORE」スキー。軽さと強さの両翼を備えたスキーを生み出した素材"グラフィン"を探ってみよう。
軽さと強さが同居する「KORE」シリーズ=カルーバコア+グラフィン+カーボン
スキーを劇的に軽くしたグラフィンとはどんな素材なのか。
グラフィンは2004年に発見された新素材だ。薄く、強さがあり、耐熱性に優れているのが特徴。一例を挙げると、鋼の300倍以上の強度があるという。
この素材は平面シートで非常に薄く、厚さは原子一個分。少し想像しにくいが、1mmの厚さにするには、三百万枚を積み重ねなければならないという。
ちなみに、この新素材を発見した科学者たちは、2010年のノーベル物理学賞を受賞するなど革新的な素材として各界から大注目なのだ。
それをスキー業界としては初めて採用したのがヘッドになる。
この新素材を「KORE」に用いたことで、素材の質量・厚み・種類を以前までのスキーに比べて大幅に減らすことに成功。実際にこれまでのスキーに比べて550gほど軽量化している。
マルチレイヤー カーボンサインドウィッチキャプ構造
❶ポリエステルフリース ❷グラスファイバー ❸ グラスファイバーBK ❹グラフィン ❺カルーバ・ポプラウッドコア ❻サイドウォール ❼ダンプニングレイヤー ❽エッジ ❾カーボン ❿ベース
「KORE」シリーズは全モデルが上図の構造だ。芯材には柔らかくて軽いカルバウッドコアを選び、それを極限まで薄くする。芯材を柔らかく薄くすれば軽くなるが、スキー自体は弱くなってしまう。しかし、それをグラフィン加工されたカーボンレイヤーをビィンディングの前後の表面側に配置することで、スキーヤーの力や雪面から受ける抵抗をすべて受け止めて余りあるスキーになるのだ。
グラフィンはスキーの構造に思わぬ変化をもたらした。通常のスキーはトップとテールが薄く、センター部分に厚みがあるのが一般的。一方、グラフィンを使ったスキーの厚みはトップからテールまで均一に近い厚みだ。これによって、力をスキーへ等分に加えやすくなった。さらに、重量バランスがよくなったことで、柔らかな雪でさらなる浮力を生み、優れた操作性を引き出している。
また、グラフィンとは別に、3層のカーボンシートを編み込んだトライアシクル・カーボン構造になっていること。スキーに粘りが生まれ、エッジグリップを高めている。
ジェームス・ヘイムが関わって以来、
ラインナップは年々拡大中
ヘッドのフリースキーセグメントは2018年の「KORE」シリーズ登場によって、大きな変化をもたらしたが、その中核を担っているのがジェームス・ヘイムだ。彼はヘッドフリーライドの顔としてMSPをはじめとしたムービーで活躍する、一介のスキーバムからムービースターへと駆け上がったライダーだ。
その彼が、2018年の5月にヘッドのグローバルフリーライドチームマネージャーに就任すると、北米でのプロモーション活動を活発に行い始めた。それまでも各地にスカウトを派遣していたが、ムービースターであるジェームスがその任に就いたことで、若い世代が「KORE」に反応し、シェアを拡大していった。
[KORE]シリーズも年々ラインナップを増やしていった。下記はその変遷だ。
総数 | モデル名 | |||||||||||
‘18季 | 3 | 117 | 105 | 93 | ||||||||
‘19季 | 5 | 117 | 105 | 99 | 93 | 87 | ||||||
‘20季 | 6 | 117 | 105 | 99 | 99W | 93 | 93W | 87 | ||||
‘21季 | 8 | 117 | 105 | 99 | 99W | 93 | 93W | 87 | 87W | |||
‘22季 | 10 | 117 | 111 | 105 | 103W | 99 | 99W | 93 | 91W | 87 | 87W |
ここで'22季の全モデルを紹介しよう。
全モデル共通でグラフィンやカーボンを採用した構造。もうひとつ特徴的なのは「KORE」シリーズはトップシートを使っていないこと。ポリエステルフリースをトップシートの替わりに採用することで、軽量化をさらに促している。トップレス・テク構造のため、HEADの文字がプリントやグラフィックではなく、エンボスで描かれている。
また、各モデルのレングス展開はこれまでの9cmピッチから7cmピッチへと変わっている。幅が狭くなったことでサイズ選択も自身の体型やテクニック、滑走スタイルにあわせてチョイスしやすくなった。
ライダーたちの「KORE」インプレッション
最後に、ライダーたちはどのモデルを履いているのか。ここからは3名のサポートライダー、遠藤夏樹、佐藤藍、大野結のインプレッションをみて参考にしてみよう。
インプレッション・レビュー_1 遠藤夏樹
モーグルで培ったテクニックをベースに星野リゾートアルツ磐梯や星野リゾート猫魔スキー場でフリースキーのレッスン活動を中心に行う。時間を見つけて猪苗代エリア周辺の山々に入り、地形や雪質の感触を探りながら、刺激的な新たな斜面を開拓中。
instagram:@n.endo1986
Web:http://freeskilesson-n.com/
身長169cm、体重71kg
使用モデル:
硬さの印象(1=ソフト←→5=ハード)
・ノーズ:4/5
・センター:4/5
・テール:4/5
各シチュエーションのレコメンド
・POWDER:5
・GLOOM:4
・HARD PACK:4
・PARK:3
・BUMPS:2
・TOURING:5
シーズンを通して愛用してるモデル。この1本さえあればスキー場、バックカントリーを問わず、すべてのフィールドで自分の思うような滑りができます。長さを感じさせない軽さながら、しっかりとハリがあるため、スキーを全面的に信用して滑れます。
ブーツもKOREシリーズ。とても軽く、かつしっかりと作られており信頼できるアイテムとして手放せない。グリップウォークソールなので、移動の時の足の負担がかなり減り、滑りに集中できるとても良いブーツ。
いま使っているビンディングは軽量かつ信頼できるアイテム。このビンディング以外ではスキーはしたくない、と言い切れるぐらい安心しているビンディングです。長年チロリアのアタックを使ってますが、誤解放などもなく転倒時に危ない時はきちんと解放するビンディングです。
インプレッション・レビュー_2 佐藤藍
新潟県かぐらスキー場麓で育ち、幼い頃からスキーは遊びの一つ。 学生時代はアルペンレースに打ち込む。 かぐらをベースに、修行の場と称して谷川・白馬近郊そして海外で活動中。 女性ライダーとしての感性や経験値を磨き上げるべく、 福島のり子・大池朋未とスキー女子チーム「山女子部」を結成し活動中。 「楽しみ」の共有の場を広げるべく、雪山シーンのみならず、 四季を通してのイベントやツアーを開催している。「清津レイクサイドロッヂ」オーナー。
instagram:@aisato75
身長157cm、体重45kg
使用モデル:
硬さの印象
・ノーズ:3/5
・センター:3/5
・テール:3/5
各シチュエーションのレコメンド
・POWDER:5
・GLOOM:4
・HARD PACK:4
・PARK:4
・BUMPS:3
・TOURING:4
'21季のKOREシリーズより、断然軽くなってます。なのに、トップからのトーションが'21季モデルよりは強くなり、全体的にハリが出ているのが印象的。バックカントリーにおいて、大きな斜面で大きな弧を描くことが醍醐味だと思っているので、張りが増したぶん、スキーを縦に落とせるようになったのは嬉しい改良点。軽さのなかにも、しっかりした足回りを堪能できるのは少し不思議な感覚。オールラウンドで使用できるので、バックカントリーを始める一本めのスキーにするにはもってこいです。
ブーツはシーズン初めから残雪期までコンディションは選ばずKORE2 Wを使っています。ウォークモード機能はやや可動範囲が少なく感じます。ただ、その分、ハイク時のポジションをキープしやすく、足回りはしっかりしています。軽くてピッタリとしたフィット感が特徴的。フォームフィットで自分の足によりフィットさせられ、より操作感も上がっています。細身の足の人にオススメ。「ROPTOR110」は純粋なアルペンブーツなので、アイスバーンや複雑な地形、より大きなアクションを求める時は、信頼感抜群のアルペンブーツがいいです。
「AMBITION10 MN」はかれこれ長い間使っています。軽くて、サポート力万全。どんな雪山シーンにおいても不具合を感じません。ブーツ装着後、立ったままストックでの操作ができることやヒールサポートが高いことは登坂において嬉しいポイントです。
これまでスキー場を滑っていて、バックカントリーを始めるなら、絶対これと自信を持ってオススメできます。とくに年配者や脚力に自信のない人、女子にはぜひ選んで欲しい。使い慣れたアルペンブーツがそのまま使えるのが最大のメリットです。TECピンにブーツをはめこむのは慣れていないと、なかなか手間がかかります。フレームツアービンディングなら、煩雑な手順もなく、スムーズにハイクモードにして操作ができます。
インプレッション・レビュー_3 大野 結
白馬生まれ、白馬ローカルのフリーライドスキーヤー。スキー場からバックカントリーまで境目なく楽しみ、夏場はクライミングやMTBなど通年の山を楽しんでいる。2021 FWQ HAKUBA 2位
instagram:@yuipuep
身長160cm/体重48kg
使用モデル:■SKI_KORE 103 W(177cm)、■BINDING_ST ROTATION 10(DYNAFIT) ■BOOTS_HOJI FREE 110(DYNAFIT)
硬さの印象
・ノーズ:3.5/5
・センター3.5/5
・テール:3.5/5
各シチュエーションのレコメンド
POWDER:5
GLOOM:5
HARD PACK:4
PARK:4
BUMPS:3
TOURING:5
オールシーズン、オールマウンテン、オールコンディションで使っています。自分にとってはスキーの幅や長さがちょうど良い。'22モデルはこれまでのKOREシリーズよりも、一層軽量化され、さらに機動力が向上しています。乗り心地は軽くなったけれど、全体的には張りのあるしっかりとした感じ。硬いバーンでも弾かれることも少なく、とても乗りやすいです。