スキー・スノーボードをする際、一面真っ白な雪山で視界を確保し、瞳を紫外線から守るゴーグル。視界不良による道迷いを防いだり、他人や木への衝突を未然に防いだりといった身の安全を守るためにも重要なアイテムの一つだ。だからこそ、改めて基本的なことを知っておきたい。フレームの形状、フィット感、ベンチレーションや曇り止め加工の技術、そしてレンズテクノロジー。ゴーグル選びでチェックすべき点に加えて、各メーカーがしのぎを削って開発を進めるレンズテクノロジーを紹介しよう。ぜひ次のゴーグル選びの参考に。
ゴーグルの各パーツの機能
フレーム
フレームはゴーグルの輪郭を決定づけ、顔を守るためにある。そのため素材に主に用いられるのは加工が容易で丈夫、しかも軽いという特性を持つTPU(=熱可塑性ポリウレタン)。ブランドによってはカーボンや植物由来のプラスチックを用いることも。これは、さらに強度を上げて顔を守るために使用されたり、地球環境に配慮したモノづくりをするために用いられている。
ジャパンフィット
ゴーグルブランドの多くは海外発祥だ。そのため、欧米人の顔型に合わせて制作していて、額の丸みや鼻の高さなどが日本人に合わない。仮に、顔に合っていないものを使用すると、ゴーグルと顔の間に空いた隙間から雪や風が侵入し、レンズが曇る原因にもなる。それを解消するのがアジアンフィット、ジャパンフィットモデル。日本人の顔に合わせ、額や鼻の高さをスポンジの使用量で調整している。
もちろんジャパンフィットでなくとも日本人に合うものはあるし、顔のシェイプも人それぞれなので、ジャパンフィットだからといってすべてが日本人万人に合うわけではないことを付け加えたい。ゴーグルの購入を検討する際は、実際に付けてみないとわからない部分が大きい。
ベンチレーション
ベンチレーション、つまり換気システムのことだ。レンズが曇ってしまうと視界が悪くなり安心して滑れなくなるなど、せっかくのスキーも楽しさが半減するだけでなく、危険もある。多くのゴーグルはレンズの下部と上部に通気口が空いており、空気の循環を促している。その穴はスポンジで覆われているだけのものもあれば、強度の高い素材でカバーされているものもある。通気口の形状からカバー素材まで、各メーカーは様々なテクノロジーや開発を凝らしている。
また、レンズを曇らせないためのテクノロジーはベンチレーション以外にもある。レンズ自体が水分を吸い、ゴーグル内の水蒸気を飽和させないようにしたり、レンズとフレームがワンタッチで外せて、ダイレクトに換気させるものもある。スキーヤー・スノーボーダーの天敵であるレンズの“曇り”を徹底的になくすために、各メーカーがしのぎを削っているのだ。
スポンジ
顔へのクッション性を高めるスポンジ。スポンジの種類を使い分け、2層か3層構造になっているものが多い。フレームに近い側のスポンジは硬くて強度の高いものを使用し、顔に触れる側のスポンジは柔らかく、衝撃吸収性の高いものを使用している。
レンズの形状
レンズには大きく分けて「平面レンズ」と「球面レンズ」の二種類の形状がある。
平面レンズはレンズ加工時に歪みが少なく、クリアな視界が保てる。一方球面レンズは、レンズのカーブが眼球の丸みに近いため、どの方向を見ても視界がリアルに近かったり、レンズと顔の間の空間体積が曇りづらいなどの利点があるが、ベンチレーションの箇所で述べたように、最近は曇り止め技術が向上したため大差はないという認識がほとんどだ。
バンド
ゴーグルがズレるのを防ぎしっかりと頭に固定するためのバンド。ほとんどがゴム製。近年は視界を広げるために大型フレームを採用するモデルも多く、フレームが大きくなるにつれ重量が増すので、バンドもそれに合わせて太いタイプもある。なかには内側に滑り止めのシリコンを配したモデルや、バンドそのものがシリコン製というものもある。
レンズテクノロジー
ダブルレンズについて
ゴーグルのレンズのほとんどはダブルレンズを採用しているということは多くの人が既知のことだろう。仮にレンズが1枚しかない場合、レンズの内側が体温で温まっているのに対し、外側が外気にさらされているため、ゴーグル内のレンズに近い部分の水蒸気が飽和し、内レンズに細かな水滴となってくっついてしまう。冬に車に乗るとフロントガラスが曇るのと同じ原理だ。
2枚のレンズを貼り合わせる理由は、外気と内気の温度差を軽減し、曇らせないためである。外レンズの素材は熱可塑性に優れるポリカーボネイトを使用。ミラーコーティングがしやすいなどの特性がある。内レンズはレキサンビュートレートと呼ばれる素材を採用しているブランドが多い。これは曇り止めなどの加工が容易となるためだ。
レンズカラーによる見え方の違い
カラーコーティングの違いは、天候によって使い分けることで見やすさの向上に繋がる。また、斜面の凹凸やコントラストを高める効果もある。主なレンズカラーの使い分けは以下の通り。
【オレンジ系】
晴天から曇天まで幅広く見やすい
【イエロー系】
降雪時や曇りの日に最適
【ブルー系】
晴天時から曇天時に見やすい。雪面の凹凸もはっきりする
【ピンク系】
薄く晴れた日から曇りの日に使いやすい
【ブラックやグレー】
晴れた日に見やすく、自然の色見そのままに見える
【クリア】
ナイターなど明かりが少なくて暗いシチュエーションに
ゴーグルの明るさを決める「可視光線透過率」
雪山は標高が高いぶん日射が強い。また雪面からの照り返しも強い。アスファルト10%なのに対して、雪は80%もの紫外線を反射する。まぶしいうえに目にも好ましくない影響を与える。そのため、レンズは光の量を調整するサングラスのような効果も果たしている。
目に届く光の量をレンズで調整する際に、目安となるのが「可視光線透過率」だ。レンズにカラーコーティングやミラーコーティングを施すことでその数値を調整している。裸眼が100%として、まったく光を通さない状態が0%だ。晴れの日は照り返しも強いので10%~20%。雪の日は20%~40%の物が使いやすいだろう。ナイターの時は60%程度のものがオススメ。
ハイコントラストレンズとは
近年、各メーカーが開発に力を注いでいるのが、「ハイコントラストレンズ」。各ブランドの一定レベルのゴーグルには標準となった新しい技術だ。これは、レンズを通して入る特定の色光線を強調、減少させる、または影を強めることで雪面の凹凸や影を強調する技術。光が少ない曇天や降雪時でも斜面の凹凸がよりくっきり見えて滑りやすくなる、というものだ。
例えば、人間の眼の作用として、青い光よりも赤や緑の色のほうがものの形や奥行きが見えやすい。そこで、青い光をカットし、赤や緑色を増幅させることで、雪面の凸凹や地形などがよく見えるようにする、といったものだ。メーカーによって、どの色光線をどのように調節するかなど、方法が様々ある。一口にハイコントラストレンズと言えども加工方法はいろいろなのだ。
調光レンズとは
「調光レンズ」は、紫外線量や可視光線量に反応して色が変わるレンズのこと。強い光や紫外線を浴びると濃い色になり、室内などに入ると薄い色になるのが特長だ。レンズに調光フィルムを挟み込んだり、紫外線を当てたり温度が上がったりすると変質し、色が変わるという性質を持つ感光物質が入ったコーティングを施している。よって、太陽に照り付けられて眩しい雪面を見るときは色が濃くなることで斜面の凹凸が見えやすくなり、曇って光の量が落ちれば薄い色になるというわけだ。明るさに合わせてゴーグルやレンズを付け替える必要がないので便利だ。
偏光レンズとは
「偏光レンズ」は、光の乱反射をカットして、眩しさをなくすレンズのこと。レンズの中に挟んだ偏光膜と呼ばれるフィルムが光の反射だけをカットして、視界を良好にしてくれる。雪上では晴れているときは光の反射で非常に眩しいもの。調光レンズには乱反射を抑える機能はないため、この点が調光レンズと偏光レンズの大きな違いだ。
ゴーグルメーカーが誇るレンズテクノロジー
ゴーグルのクオリティの決め手となるのは、やはりレンズ。各メーカーがしのぎを削ってレンズの技術開発を行うことで、進化が止まらないレンズテクノロジー。メーカーによる自慢のレンズテクノロジーをいくつか見てみよう。
GIRO|VIVID レンズ
光学分野の世界的権威であるZEISS 社と共同開発
GIROと光学分野の世界的権威であるZEISS社が共同開発により生み出したのが「VIVIDレンズ」。一般的にものを見えづらくするといわれるブルーの光を巧みにコントロールし、コントラストをはっきりさせることができるという性能を持つ優れたレンズだ。「巧みにコントロール」というのは、ブルーの光のなかでコントラストを高めるブルー光線は取り入れ、害となるUV光線をブロックすることで、ブルー光線を効果的に操作するからだ。
VIVIDレンズは、視界のかすみを取り除き目の疲れを抑えるという特長もある。色飽和を起こさずに正確なビジョンを与えてくれることで視界がよりクリアになり、滑走ラインをしっかりと見極めることができて快適なライディングが叶う。
▼VIVIDレンズテクノロジーの解説動画
VIVIDレンズ搭載モデル|Comp
’24ー25季、GIROゴーグルテクノロジーを集結したハイエンドモデル「COMP」が登場。新開発のレンズ交換システム「SNAP SHOT」は、ワンタッチのプッシュでフレームからレンズを外せて、レンズに触れることなくレンズ交換が可能。VIVIDレンズを採用、EXV+テクノロジーにより肉眼と変わらない広大な視界を実現した。付属としてVIVID Infraredレンズ晴天用・曇天用の2枚が付いてくるので、スペアレンズを携帯しておけば、どんな天候にでも合わせて即時にレンズの付け替えができる。
◆公式HP/http://giro-japan.com/
SMITH|Chromapop Lens(クロマポップレンズ)
色のコントラストを上げカラーを鮮明にすることでハッキリ見える
スミスが誇るのが「クロマポップレンズテクノロジー」。赤、緑、青の光の3原色の波長がクロスオーバーする部分をコントロールし、鮮明な色を表現することで対象物をよりクリアに見せる技術だ。色のコントラストを上げ、カラーを鮮明にすることで、対象物をクリアに浮き立つように表現する。こちらのノーマルな状態とクロマポップレンズで見た状態の違いは歴然だ。
また、通常のレンズよりも対応範囲が広いのもアドバンテージだ。山で急に天候が変わったり、朝から夕方まで長時間を過ごすと、太陽の位置によって光のトーンは常に変化する。よく見える状態を幅広く維持できるのも、使い勝手が良く安心感も高い。
▼クロマポップレンズテクノロジーの解説動画(1分くらいのところから字幕「日本語」設定で見るとよくわかる)
クロマポップレンズ搭載モデル|Squad MAG™
特に上下の視界が広いラージサイズの平面レンズモデルSquad XL。Squadはシンプル・コンパクトで特に若い世代に人気のモデル。テクノロジーは、光の三原色、赤、緑、青の3色の波長が重なる部分をコントロールし、鮮明な色を表現することで対象物を明確に見せるSMITH独自の「ChomaPopテクノロジー」搭載、あらゆる天候に対応できるクオリティも申し分ない。クロマポップレンズ2枚が標準装備。
◆公式HP/https://smithjapan.co.jp/
Sweet Protection|RIG® Lens Technology (リグレンズ)
目の疲れを軽減する革新的なレンズ
RIGレンズは、コントラストを高めて見えやすく、また有害な光線を遮断することにより目の疲れを軽減してくれるという優れものだ。すべて同じ透過率と曲線で作られているが、極端なフラットライトから極端な晴天時まで、異なる光の条件によって最適化されている。
▼RIGレンズテクノロジーの解説動画
RIGレンズ搭載モデル|Connor RIG
RIG™ を搭載した、フレームレスデザインのフリーライドゴーグル・ニューモデル。CNC加工エッジによるフレームレスデザインのゴーグルは最大の視野を実現。圧倒的な耐衝撃性の厚さ 2.8 mm トーリックスカルプ球面レンズを採用。日本販売モデルはノーズブリッジにフォームパッドを追加したローブリッジフィットで、顔へのフィット感もより高くなっている。
◆公式HP/https://sweetprotection.jp/
OUT OF|"THE ONE" LENS
調光+偏光の革新的なスーパーレンズ
「瞬間調光」という世界初のハイテクノロジーで世界的にも注目を浴びた OUT OF。そのOUT OFのアイコンモデルともいえる「THE ONE」のレンズは、世界で初めて、偏光レンズと調光レンズの機能をアウターレンズに搭載した革新的技術を誇るスーパーレンズだ。
光が弱い時にはレンズの色が薄くなり、晴れて光が強くなるとレンズは濃く変化する。ハイレベルな調光技術であらゆる天候や明るさに対応し、常に快適な視界を得ることができる。悪天候のなかでは偏光フィルターを通したイエロー系の光と高い透過率により、コントラストが向上してホワイトアウトを避けることができる。
THE ONE 搭載モデル| VOID
偏光、調光を兼ね備えたマルチな"THE ONE" LENSを搭載し、さまざまなシチュエーションで使用可能。OUT OFを代表する人気モデルだ。イタリア発のブランドらしく、見た目がとにかくお洒落。スタイリッシュなフォルムとアート作品さながらのグラフィックが描かれたバンドがあり、機能性とファッション性が融合された独特の世界観を持っている。
TUNED LENS(チューンドレンズ)
光を目に優しく便利にチューンしてくれる
ELECTRICといえば、その洗練されたデザインやブランドイメージから、サーファーやスケーターやアーティストなどに熱く支持されているトップブランド。スノーボーダーの間では伝説的ライダーMarcus Klevelandの名を冠したモデル「The Kleveland」「 The KlevelandII」が超人気で、通好みのスキープロショップなどから広がり、現在ではフリースキーヤーの間でも俄然注目度の高いブランドになっている。
’22-23シーズン、ELECTRICから登場した画期的なレンズ「TUNED LENS」。このレンズは、ブルーライトのように目を疲れさせたり、乱反射しやすく雪面の凹凸を見えにくくするような特定の色を光の波長から取り除き、目に入る光を目に優しく便利なものにチューンしてくれるのだ。その優れた働きで常に変化し続ける雪面状況や地形の凹凸が鮮明に見えやすいのが特長。人気ブランドのニューテクノロジーレンズの登場に熱い注目が集まっている。
TUNED LENS搭載モデル|ROTECK
サイドフレームのないアウトリガーによって横方向の幅が広く、視界が圧倒的にワイド。TUNED LENSがコントラストを向上させ、より雪面の地形の変化や、凹凸が見やすくなっている。低温でも硬くならないTPU(Thermo Plastic Urethane)素材を使い、雪山の極寒の気象条件下でも柔らかく顔に馴染む。
◆公式HP/https://charlie-trading.co.jp/brands/electric/
※2023年にリリースした記事を部分的にリメイクしたものです