数あるスキーギアのなかで、最も革新的な進化を遂げているビンディング。それは滑走性能と安全性を求めた歴史なのだが、現在はバックカントリーへのニーズが増加していることで、より軽く、より快適なハイク性能への欲求も高まっている。そのなかでますます重要になっているのが、ブーツとの互換性の問題。そして「誤解放」にまつわる様々な理解不足だ。自身の安全性に直結することなので、しっかり把握しておきたい。
※ビンディングの基本的知識について、MDVスポーツ(マーカービンディング)の三浦龍介さん、ディナフィットの高橋知也さんに取材したうえで、編集部でまとめています。
POINT 1 大きく5タイプに分類
現在、それぞれのカテゴリーで各社からさまざまなモデルがリリースされ、その選択肢に頭を悩ますが、そこをあえて5つのタイプに分類してみた。ビンディングが正しく安全に機能するためにはブーツとの互換性が必須であり、取り付けや調整を含めて専門店での購入が間違いない。なお、国内の正規販売店では、互換性のないブーツとビンディングは販売してくれないことも、念のために付け加えておこう。
【1_ALPEN BINDING】
スキービンディング歴史が培ってきた信頼と安全のセイフティリリース機構。誰でも迷いなく着脱でき、スキー本来のフレックスを生かせるセパレートタイプという点も大きなメリット
【2_FLAME TOUR BINDING】
手持ちのアルペンスキーブーツでそのまま使えるのが最大の利点。装着、リリースもアルペンビンディングと同じ慣れ親しんだやり方なのも◎。ただし登高モードでは重たいヒールピースごとカカトを上げて歩くのが難点
【3_TEC BINDING】
トウをピンでホールドするシンプルで軽量な機構で、ハイク時の足上げはブーツの重さだけ。非常に軽量でハイクアップに有利だが、滑走ホールド感とセイフティリリース機能はアルペンタイプに数歩譲る
【4_HYBRID TEC BINDING】
アルペンタイプ同様のヒールのコバをスプリングの力で上から押さえるタイプのヒールピースを備え、滑走時はヒールホールド感に優れる。ハイク時はテックビンディング同様のトウシステムと軽量性が有利に働く
【5_DUKE PT/SHIFT】
「サロモン・シフト」や「マーカー・デュークPT」。滑走はアルペンタイプと同じ信頼の機構。登高時はトウピースが可変するテックパーツを使ってテックビンディングのように軽々とハイクができる
POINT 2 解放機能のメカニズム
滑走中ブーツは固定されているように見えて、実はターンの力や雪面からの衝撃を受けて、ヒールピースとトウピースの間でハミ出たり戻ったりを小刻みに繰り返している。それをビンディングに内蔵されたスプリングにより、常に正しい位置に戻そうとする力が働く。これがビンディングの重要な機能である「復元」機能。
そして設定したスプリングでは元の位置に戻せないほどの力が加わったとき、ビンディングはブーツを解放する。これがセイフティリリース機能の基本的な仕組みだ。
セイフティリリースの際、トウピースは左右方向、ヒールピースは上方向にブーツを解放する。ブランドやモデルによって様々な解放機構があるが、実はどれもヨコとタテの組み合わせが解放の基本であり、最もリスキーといわれる後方へのねじれ転倒に対しても、このタテヨコの複合的な解放で対応している。
ヒールピースは上方向に、トウピースはヨコ方向にブーツをリリースする。これが解放機能の基本なのだ。
POINT 3 テックビンディングの解放機能
テックビンディングにもセイフティリリース機能はあり、主にヒールピースの回転でブーツを解放する仕組み。その際、過度な力が加わるトウピースからもブーツは外れる。ハイクモードではロック機能を使うことからもわかるように、小さなバネだから簡単な力で外れるのだ。トウピースにも独立したリリース機能を持たせたモデルもあるが、それも含めてアルペンタイプの解放機構に比べるとまだ伸び代のあるシステムに思える。
POINT 4 解放値の調整は厳禁?
ビンディングの取り付けや調整は講習を受けたSBB認定整備技術者のみが可能で、それ以外の人(たとえ持ち主だったとしても)が調整した場合、安全上の問題から保証対象外になる。さらに11以上の高い解放値に設定する場合もすべて自己責任。どのメーカーの製品でも、各モデルごとの適応体重内であれば、すべて解放値10までに収まるように設計されているからだ。
POINT 5 誤解放は存在しない?
SBB認定整備技術者によって正しく調整されたビンディングに「誤解放」は存在しない。いわゆる誤解放と呼ばれる意図しないときにビンディングが解放する原因は、たとえばジャンプの着地や荒踏みの急斜面滑走などで適性値を上回る力が働いたときだ。そのため、選手やライダークラスのスキーヤーには適正解放値以上に締める人も少なくないが、その場合でもリスクはあくまで自己責任。販売店とメーカーの保証外ということを理解しておく必要がある。
POINT 6 ブーツとの互換性
たとえばの話、ソールがフラットなアルペンブーツと、ソールがアールしているツアーブーツでは、コバの高さが違うために同じビンディングを使うことができない。またツアーブーツのラバーブロックソールは歩きやすいが、アルペンビンディングの保持機能とセイフティリリース機能が正しく機能しない。
そこで生まれたのがISO(国際標準化機構)による国際規格だ。規格を統一することで異なるメーカーやカテゴリー、モデル間の互換性を図り、安全に機能させることが目的だ。現在、ビンディングにもブーツにも2種類のISO規格があり、それぞれの互換性をまとめたのが下の対応表だ。
なお、MARKERの「SOLE ID」、SALOMON/ATOMICの「MNC」、TYROLIAの「MN」及び、各OEMブランドのビンディングは、トウピースのグライディングAFDの高さを調整することで、アルペン規格(ISO5355)とツアー規格(ISO9523)の両ブーツソール規格と互換性させるシステム。また、グリップウォークと互換性のある対応ビンディングには、必ずグリップウォークマークが表示されている。
監修=三浦龍介(MDVスポーツジャパン)、高橋知也(ディナフィット)
Text=Chikara Terakura