バックカントリーでのグローブ、選び方と山での使い分けのポイント

グローブが雪山、とりわけバックカントリー(BC)で果たす役割は大きい。登行をしたり装備を扱ったりするのに、手指の動きはダイレクトに行動のクオリティに反映するからだ。どのようなグローブをいかに工夫して使うかによって、BCで過ごす時間は違ったものになる。そこで、BCでの経験とギアについての豊富な知識を併せ持つ石井スポーツの甘利さんに、グローブの選び方や使い方について聞いてみた。

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バックカントリーにおけるグローブの存在

ゲレンデスキーでは、グローブは板やブーツのハードギアほど存在感はないけれど、バックカントリー(BC)においては、その重要性はとても大きい。なぜならばスキーにスキンを貼ったり、ビンディングをいじったり、バックパックから装備を取り出したり、アバランチギアを使ったり、ポールをと、BCではグローブをつけたままやらなくてはならないことがたくさんある。

その度にグローブを外していれば手が冷えて、かじかんでしまう。また、グローブが濡れると全身が寒くなり、体温を奪われたり、思うように手先が動かせなくなることもある。ゲレンデと違ってパッとレストランに入って暖をとることもできない。BCにおいては、手指の自由な動きは身の安全にも直結する重要極まりないものだ。グローブの”手を保温することで安全を守る”という役割の真価が問われるのがBCなのだ。

グローブに求められる基本機能

雪山での手の保護と保温、その上でアクティブな行動をサポートするために、グローブには以下のような機能的要素が求められる。大自然では、あらゆるシチュエーションに遭遇するため、表面素材に耐久性が必要だ。登行の過程では岩場に手をついたり、森の中では木に接触したりすることもある。

厳冬期は、ライナーに中綿が入っていたり、ミトンタイプなど、グローブの構造が暖かさを保てる造りになっていること、防水性が担保されていることも必須だ。そして、BCはゲレンデと違って、登行&滑走という繰り返しであることが多い。ハイクで手にかいた汗を外に逃して、グローブ内を蒸れずに快適に保ってくれる透湿性を持っているか、も気になるポイントだ。

そして忘れてはならないのが「操作性」。BCでは装備を扱う必要が必ずといっていいほどある。手指が思うように動かしやすいことは、安全性にも直結する条件だ。操作性はグローブのパーツのカッティングと縫製に大きなポイントがある。

パーツの構成具合によって質感がゴワゴワと硬くなり手指が動かしづらくなったり、指の微細運動をするのに縫い目の凸凹がストレスになったりもするからだ。その点では、手の形や動きに追従する立体裁断や縫製のもの、例えば、「エルゴグリップ」は使いやすい、と支持するユーザーも多い。

グローブを選ぶ際のポイント

ここからは石井スポーツのスタッフ甘利さんのコメントを挟みながら展開しよう。

「基本的にメインで使うグローブに関しては、あくまで冬山で使うことがベースとなります。”グローブを外さないでほとんどの作業が現場でできるグローブ”、これが選択条件の基本になります。そこに加えて何が必要なのか、プラスαを考えていきます。

本当に寒い日用の「ミトングローブ」。温かい日用の「薄手のグローブ」を用意するイメージで良いと思います。しかしながらこのテーマは本当に難しく、私も現状?ベストな組み合わせにたどり着くのに相当数のグローブを試しました」

という甘利さん。あとで実際に何を使っているか、グローブの装備リストを教えてもらおう。

山でのグローブの使い分け

Skier:Yuki Amari 

BCでは複数のグローブを携行し、使い分けている人が多いという。どのような観点で使い分けをするのだろう?

①寒いとき・温かいときの天候で使い分ける

「寒いとき用、暖かいとき用の2タイプで考えてもらえると良いと思います。山で天気の急変はつきものです。吹雪いて一気に冷えたり、晴れて気温がどんどん上がったりするときもある。そんなときのためにも、メイングローブと予備のグローブ、2つ携帯すると安心です」

②「雪に触れるか、触れないか」行程によってもグローブの組み合わせを変える

「私の場合は、日帰りの行程でも装備が若干変わることがあり、基準になるのは、「雪に触れるか、触れないか?」になります。雪稜(リッジ)だったり、岩の露出した尾根を登行するなど、クライミング要素が強くなる山スキーだと、確実にラッセル(雪かき)が必要になります。その際は、テムレスなど完全防水グローブ等を組み合わせて装備を組み立てます。

革のグローブで完全防水と謳っているのものは世の中にたくさんありますが、しっかりケアを施さないと、油分が飛んだ部分から含水して凍ってしまいます。なので、素材の時点で完全防水であるグローブも欠かせないのです」

③登行時と滑走時でグローブを変える

「ハイクをするときと滑るときとでグローブを変えるのも一案です。ハイクをして手の中で汗をかき過ぎると、停滞時、冷えの原因にも繋がりやすいし、何より装着していて気持ち悪い。滑走を十分に楽しむためにも、手先が快適であることは大事です。

BCの入門ユーザーは体力的な面で不安を持っている方も多く、効率のよい動きがとりにくいことで、とかく発汗量も多くなりがちかと思います。

手袋を山に複数持っていくのは「マスト」ですが、積雪期と残雪期でも気候は大きく変わります。ハイク用、滑る用とグローブの組み合わせも理想は変えたいところです。
自分はどのくらいの気温で寒いと感じるのか? どのくらいのペースで歩くと滝のように大汗をかいてしまうのか? などを自己分析して、グローブを厳選するといいでしょう」

Skier:Yuki Amari Photo:Shaw Fukaya

甘利さんがBCで使用しているグローブは?

甘利さんが実際にBCで愛用しているグローブをリストアップしてもらった。「厳冬期-5~10°C想定」と「残雪期0~5°想定」で見てみよう。

厳冬期のチョイス&使い分け

Skier:Yuki Amari  Photo:Takahiro Oshio

【厳冬期】(-5~10°C想定 風:無風)
メイン:HESTRA|Leather Wool
マストな一軍!
サブ:①②③
①SOTT|アルティメイトプラスミトン
ゲレンデ&BCライディング時、低温状態の際に使用。かさばらず小さくなるのが魅力。しかもそんなに高くない!
②Blackdiamond|ウォータープルーフオーバーミット
メイングローブの上につけるオーバーグローブとして使用
③Blackdiamond|パニシャー
防水フィルム搭載、クライミング要素が強い際に使用

HESTRA|Leather Wool

30800 Leather Wool

オールレザー製の取り外し式ウールライナー付き。掌側は耐久性と透湿性に優れるゴート(山羊)皮革を使用。甲側はしやなかで柔らかな牛皮革で着用感と操作性をアップ。甲の内側には起毛の暖かいウールライナーを内蔵し、多少の湿気を含んでも保温性を維持してくれる。

Color:Cork/Brown(全2色)
Size:6~10 サイズガイド
¥18,700

◆公式HPはコチラ

厳冬期に稜線を歩く・登るとき、及び、滑走用として中綿量の多い五本指タイプ、HESTRAのLeather Woolを使っています。自分にとっては頼りになるマストな一軍です。サブとして、天候やシチュエーションによって3つのグローブを使い分けています。ハイク用としては、ポールを使うことを考慮して中綿量の少ない五本指タイプが使いやすいです。

SCOTT|アルティメイトプラスミトン

アルティメイトプラスミトン

あらゆるコンディションに対応する、使い勝手の良いミトンタイプ。指部分にはパッドが施され、関節と指をしっかり保護しながらも操作性は高い。DRYOshpere素材がドライな状態を保ち、頑丈なゴート(山羊)レザーとナイロン素材で、耐久性にも優れるモデル。

Color:Cork/Brown(全2色)
Size:S, M, L, LL
¥18,700

◆公式HPはコチラ

BCで低温状況のとき、そしてゲレンデでは主にこのSCOTTのミトンを着用しています。このアルティメイトを山岳フィールドでも使う理由は「暖かいのに嵩張らない」、これに尽きます。

山岳フィールドでは不測の事態に備えてストックリングを手首に通しません。なので握りが良いのは当たり前ですが、標高差を1,000m前後を落とすライディング時は、リラックスしているつもりでも手に緊張感を感じます。ゲレンデでは、ストックリングも手首に通すし、山岳フィールド程の緊張感はないので、ミトンでもいいんです。なによりリフトに乗っているときに、ミトンは本当に暖かいので重宝します。

Blackdiamond|ウォータープルーフオーバーミット

ストレッチ性を備えた防水透湿シェルファブリックで、完全シームテープ処理を施した、軽量パッカブルで便利なオーバーミトン。レザーグローブやフリース/ソフトシェルのグローブの上に着用し、保温性と耐候性を提供する。

Color:Black(スモーク)
Size:S, M, L, XL
¥13,530

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Blackdiamond|パニシャー

パ二シャー

アイス/ミックスクライミングでの保温性と操作性を追求したグローブ。指先はツールを握りやすいよう立体デザインが施されている。小指の側面は縫い目を取り除いたシームレスピンキー構造。-10~2℃の対応を想定している。

Color:Black
Size:XS, S, M, L, XL
¥18,040

◆公式HPはコチラ

「Blackdiamondのパニシャーは、発汗を伴うハードなシチュエーションでも透湿性に優れていて、蒸れづらいグローブです。防水性にも優れています。もともとアイスクライミングのために開発されたグローブですが、登攀では雪に触れるケースが多く「グローブの濡れ」には最新の注意が必要です。このモデルは、グローブの裁断も立体的でピッケルやストック操作もストレスが少なくて、私はスキーシーンでも使用しています。

残雪期のチョイス&使い分け

Skier:Yuki Amari Photo:Shaw Fukaya

【残雪期】(0~5°C想定 風:無風)
メイン:HESTRA|Leather Wool
残雪期でも必携
HESTRA|Ergo Grip Active
4月以降はほとんどコレの出番。多少濡れても浸水しないのが魅力。
防寒テムレス+α
クライミング要素が強い際に使用

HESTRA| Ergo Grip Active

32950 Ergo Grip Active

耐風性と防水性に優れたGOREウインドストッパーを使った薄手グローブ。薄型ながら、保温性のあるポリエステルライナー付きのため、温かく操作性が高い。雪上での汎用性は抜群だ。掌側は柔らかなゴート(山羊)皮革で、手の握りの自然な形にフィットするよう3D形状に裁断縫製されたエルゴグリップ採用で、ポールも握りやすく、細かい作業にも繊細に対応する。

Color:Dark Forest/Natural Brown(全5色)
Size:6~10 サイズガイド
¥14,300

◆公式HPはコチラ

残雪期は、ハイク用には中綿のほとんど入ってない五本指タイプでHESTRAのErgo Grip Activeを使っています。厳冬期に比べて寒さも和らいでいることが多いので、保温性よりポールの握りの良さに重点が移ります。綿量の少ないグローブが握りやすくて使い勝手がいいです。

SHOWA|防寒テムレス

No.282 防寒テムレス

水を通さずに湿気は逃がす高い透湿防水機能を持つポリウレタン製のグローブ。圧倒的に薄くて軽い、しかし滑り止め加工が施されているため滑らない、その上濡れない。マイナス60℃の環境下でも柔軟性を維持し、手指の曲げ伸ばしがスムーズにできる、という優れモノ。雪上で作業する際の安心感は抜群だ。薄いが内側にはソフトなボアタイプの裏起毛が施され、保温性も備えている。なんとも便利なアイテムながら、驚きのロープライス。

Color:オリーブグリーン(全2色)
Size:M, L, LL, 3L
¥2,200

◆公式HPはコチラ

クライミングの要素が多い山行のときは、防寒テムレスが大活躍します。山の稜線を登るのに、どうしても水分が付着しているロープなど装備を扱ったり、手指が動かしやすいグローブはとても重要です。一つ持っているといろいろなシーンでかなり重宝します。


BCでのグローブ選び・質問してみた!

Q. 優先すべきは温かさ?それとも操作性?

A. BCでは、これもなかなか難しい問題です。「暖かいのはミトンタイプですが、作業性が良いのは5本指タイプ。では、どちらを選択すればいいのか、迷うユーザーも多いと思います。自分がBCでどちらを優先するのか、両方のニーズに対応できるグローブはないか、もしくは、何か使い方で工夫はできないか、などいろいろな観点で考えてみるといいかもしれません。

まずメインで自分が譲れない機能性を持つものを選ぶ。とりあえずサブ(予備)のグローブは暖かいものを携行する。何より手袋を濡らさないように心がける。これは山での原則かなと思います。

ゲレンデスキーとは異なり、山スキーはハイクアップをしなければいけません。ハイクすると発汗を伴って血流が良くなります。じっと座っているだけで指先が冷たくなるリフトの上とは、同じグローブを使っていても指先はポッカポカだったりします。それでも冷えてきたなぁと感じたら、手袋の中でグーパーグーパーをしたり、手を振って血流を促進してあげる。私はよくやっています。温かさを保つためには、「動き続けること」も重要なポイントだと考えます。

Q. BC入門者が最初に買うならこれがお勧め!というモデルは?

HESTRA|Leather Wool

A. オススメは、HESTRAのLeather Woolですね。まず5本指なので扱いやすい。BCに不慣れだと雪上での道具を使うのにも苦労しますから。

このモデルは操作性も抜群なうえ、温かい! インナーはへたったら取替え可能な点もグッドポイント。なにより長く使えます。

Q . グローブは何シーズンくらいで買い替えるものでしょうか?

A. インナー・アウターが一体式のタイプは中の綿が潰れてしまい保温性能が低下したら買い替えですね。ハードに使う方ですとグローブは1年選手です。結局保温性能が優れている一体式のグローブはその分、発汗を伴う使用のグローブなので、ヘビーユーズすると汗で中綿が潰れて、暖かい空気を保有しにくくなります。

長く使いたいのであれば気温に合わせて使い分ける等の工夫が必要ですね! 

私の場合は、根本的に長く使いたいので、ヘビーユースのグローブに関しては「アウター・インナー分離型」を使用してます。中綿がくたびれてきたら中綿だけ変えます。アウターが擦れてきたり破けてしまったら自分で縫製してできる限り直して使います。その方が愛着も湧くし、長く使えますよね! その点でもヘストラのレザーウールを使う理由なのかもですね!

Q. グローブの日常の手入れ(特に革グローブ)はどのようにしていますか?

グローブオイルを塗ります。自分はHESTRAのオイルを使っています。意識している点は、素手でオイルを馴染ませること。そのほうが体温と摩擦でオイルが皮に対してよく馴染みます! 結構大事です。メンテナンスを怠るとオイルの抜けた個所から水分が混入し、凍ってしまいますから。

Q. グローブもショップで買うと良い点がありますか?

A. あると思います! BCフィールドの情報や、実際にグローブを着用した実体験を元に、スタッフからアドバイスをもらいながら選べるのは、大きな利点ではないでしょうか。

雪上で使ったことのないグローブに関しても、毎日何人ものお客様と会話しているショップスタッフは、その使用感をヒアリングできます。お客様の中にはライダーだったりガイドさんだったりと、多くのフィールドで使った生の声を持っています。そうした多くの知識と実体験経験によって、お客様のニーズに合ったアイテムを提案してもらえる、そこがプロショップで買うメリットだと思います。

石井スポーツ甲府店に行けば甘利さんにグローブ選びをアドバイスしてもらえる!

教えてくれた人

甘利祐貴 Yuki Amari

【Profile】
石井スポーツ甲府店スタッフ。春から秋はクライミング、冬から春にかけ ては山スキー・山岳スキーを追求。四季のリズムに合わせて山で活動する山のスペシ ャリスト。夏は瑞牆山、小川山でクライミング。冬は・新潟・長野でバックカントリーに出ることが多い。
好きな山は八ヶ岳。人生の目標みたいなのは現在ないんだけれど、おじいちゃんになっても山遊びしているのが現在の目標(笑)。

Photo:Shaw Fukaya

取材協力/石井スポーツ

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