Skier:Yuki Amari Photo:Takahiro Oshio
ギア選びとなると、ついスキーやブーツに目がいきがちだが、バックカントリー(BC)においては、スキーポールは欠かせない重要装備のひとつだ。大自然のBCでは、ゲレンデとは全然違った使い方もする。そこで、BCでの経験とギアについての豊富な知識を持つ石井スポーツの甘利さんに、ポールの選び方や使い方について聞いてみた。
バックカントリーにおけるポールの役割
パークライドなどではポールを持たずに滑るスキーヤーも少なくないが、BCにおいてはポールにはたくさんの役割がある。例えば、このように…
・登行時の推進力を得るため
・滑走時のバランスをとるため
・滑走時にパウダーに埋もれないように
・ビンディングなどの操作に使う
・アバランチギアのプローブとして使うこともある
特にバックカントリーでは登ることを含めてポールは必須、安全性にも関係する重要な役割を担っているのだ。
ポールの構造
ポールの構造はこうだ。各パーツの名称とBC使用において注視すべき部分をおさらいすると…
グリップ
形状と素材によって握ったときのフィーリングが大きく異なる。握りやすさを追求して人間工学に基づいた立体的な形状になっているものが多いが、なかにはミトングローブを使う想定の形状や、滑走時のスイングを考慮して設計されたグリップもある。素材は軽量な熱可塑性ポリウレタン)が中心。グリップ力を高めるためにエラストマーというゴムのように弾性を持つ柔らかな素材を使っているものもある。
シャフト
素材によってスイングウェイトやバランスに大きな影響を与える部分。
ジョイント
伸縮式か固定式かで大別される。また、伸縮式の場合はロックのタイプも2タイプある。
バスケット
バックカントリーやパウダーを滑る際には、バスケットの大きさや形が適していないと登行や滑走がしづらくなる。ゲレンデ用ではやや不具合だ。
ポール選びのポイント
甘利さんにポール選びのポイントを聞いてみた。
「バックカントリーで使うことを想定しているポールには、必要に応じてプローブとしても使用できるものや、パウダーの深さに合わせて長さを調整できる伸縮性のスタイルのモデルが多いです。シャフトの材質によって耐久性や重さ、操作性にも違いが出ます。グリップの形状や素材にもいろいろあり、もちろん手に馴染むものがいいです。
ユーザーのスキースタイルによって、その人にとって適切なポールは変わってくると思います。ただし、最初は何が本当に自分に合っているかなんてよくわからないのが現実です。そこは実際にいろいろ使って試して経験値を上げていく必要がありますよね。大雑把ではありますが、まずはこの2点を抑えていればBCには入れます。
①スノーバスケットが付いている
②長さ調整機能が付いている
その上で、私なりの選び方の着眼点はこんなところです。
アルペン、基礎スキーがバックボーンにあるスキーヤーは、手首、肘を支点に動かすストックワークをかなり重要視します。なので、ストックのスウィングウェイトが軽かったり、先端に掛けてテーパーがかかっている(径や厚みなどが先細りになっている)モデルのほうが感触は良いと思います。
フリースキーをバックボーンに持つスキーヤーは、スキー技術でいうローテーション動作をうまく使って滑る傾向にあると考察します。なので、ゆっくりリングが前に出てくる低重心のストックの方が相性は良いのかなと思います。
各パーツのポイントをチェック!
長さ調整機能の「ロック」
クリップロックタイプ(クリップでパチンと締めるタイプ)
クリップロックのタイプのロック部分のパーツが「プラスチック」タイプと「アルミ」タイプがありますが、断然アルミタイプの方が丈夫です。プラスチックタイプは変な負荷がかかると割れるリスクがあります。クリップタイプはツイストタイプよりは壊れにくいです。
ツイストロックタイプ(回して締めるタイプ)
ツイストロックはクリップロックよりもロック機構が小さいのでストック自体のスイングバランスが優れているのが特徴ですが、力強く締めすぎると中のパーツが壊れてしまうし、加減して締めるとストックをついた瞬間長さが変わってしまう原因にもなります。
ポールの長さ
長さの基準ですが、一般的な指標を基に算出すると「身長×67%」滑る際はこれを基準に好きな長さを探していけば良いと思います。私のパターンを例にとると、「パウダーの中でもゲレンデと同じ滑り」を大事にしているので、身長157㎝でストックの長さは107㎝。一般的には少し短めで使っていると思います。
ハイクアップする際は少し長めに調節した方が取り回しがしやすいので、+5センチぐらい長めに調節して登るようにしています。
バスケットの大きさ
厳冬期ではパウダー用バスケットは必須。これがないとポールが雪に潜ってしまいます。また、バックカントリーではバスケットが適切なものでないと、登るときも雪を捉えられずに歩きづらくなります。メーカー表記で「パウダーバスケット」「ワイドバスケット」のタイプでを選ぶことがまず最初の選択。
その上で、パウダー用でも素材によって柔らかい・硬いなどがあり、形も様々です。振り心地や、突いた時の使用感も違うので、自分の好みで決めることになると思います。
石突きの長さ
スノーバスケットから先端までの石突きの長さにこだわる人もいます。BCでは登るときやビンディングの着脱の操作に使うために、ある程度の長さがあるほうが便利かと思います。
シャフトの素材
シャフト部分は適度な重さと耐久性が求められます。素材ですが基本はアルミニウムかカーボンです。写真の奥はアルミニウムのシャフト、手前はカーボンのシャフトです。
とはいってもいろいろなタイプが存在しますし、素材によってその特徴も異なります。
アルミ二ウム:多種多様だが、ハイエンドモデルは強度に優れている。レーシングモデル等はアルミ使用率は高め。
カーボン:軽い、シャフトを細く成型できるのでスイングが軽い。衝撃吸収性に優れている。
バンブー:軽い、見た目がかっこいい。
最近ではカーボンポールといっても中にアルミ合金の補強が入っていたり、正直なところストックを真っ二つに切ってみないとわからないことだらけなんですよね!(笑)山スキーモデルでは、上段シャフトと下段シャフトで素材を変えて強度とバランスを兼ね備えているモデルがたくさんあります。
プライス
値段に関しては、こだわりを持って選ばれるのであれば必然的に高価なモデルになります。(比べれば高いモデルの方が降りやすいし、ハイクアップしていても手にかかるストレスは少ない)ですが、とにかく山で使えればいい!というお客様は高価なモデルはそこまで必要ないと思います。決して安価なモデルだからって壊れやすい等はないですからね!
私が重要視しているのは「グリップ」
自分がポール選びでこだわっているのは、特にグリップです。なぜなら、一番の目的は「ゲレンデと同じ滑りをするため」です。
グリップの形状は、ポールの持ち方によって、大きく分けて3パターンに分類されていてます。
①親指人差し指タイプ
②小指中指人差し指タイプ
③グリップヘッドに親指を被せるタイプ
私は、この写真のようにグリップヘッドに親指を被せる持ち方が一番リラックスでき、腕のポジショニングも安定します。このグリップは手の大きくない私にはちょうど良く、親指を被せやすいグリップヘッド形状をしています。
「top to bottom」 のように長時間滑走する場合は、ここまでこだわらないと腕はパンプしますし、バランス、タイミングを確実にとるためのストックワークもできなくなります。最悪、ポールも落としてしまうことも。
そこで私は、キザキのKG-Mっていうグリップを改造して使っています。親指をグリップ上端にホールディングして持つとバランスがとりやすくて、あまり大きくない自分の手に一番しっくりくるので、このグリップを愛用しています。
Photo:Ryota Takanezawa
私が愛用しているポールのベースは「コンパーデル|CARBON CLOUD BAMBOO VARIO 」ですが、グリップを付け替え、キザキの「KG-M」に変更。純正のグリップは革製でカッコいいんですが、サイズが大きく、親指も被せにくいので「KG-M」に変更しています。
グリップも単体販売もしていて、ラインナップも・11・14・16・18㎜と4サイズ展開なので大体のポールは適応できると思います。
長さレンジも110センチからなので、ポールを短くカットして使用してます。
BC入門者が最初に買うならこれがお勧め!モデル
イチ押しなのは、「ブラックダイアモンド レーザーカーボンプロ」。コストパフォーマンス、性能、扱いやすさ、ともに初めての1本として失敗はないと思います。
Blackdiamond|レーザーカーボンプロポール
レーザーカーボンプロポール
スイングバランスに優れ、多彩な機能を備えたハイスペックポール。14mm径アルミシャフトと12mm径カーボンシャフトを組み合わせた軽量堅牢な2ピース構造。緊急時に解放できるスイッチリリースストラップを搭載。
フリックロックプロで調整後はしっかりと固定。トラバースなどで便利なグリップリングが付属。
Weight:524g(100~125cm)
542g(115~140cm)
Size:100・115㎝
¥25,300
経験者が次の一本を買うならこれ!(甘利さん一押し)
コンパーデル|CARBON CLOUD BAMBOO VARIO
見た目、バランス、値段以外は最高! 見た目はそのままに、ランニングチェンジを繰り返しアップデートし続けているCARBON CLOUD BAMBOO VARIOストック。
CARBON CLOUD BAMBOO VARIO
ノスタルジックな外観とハイテクパフォーマンスが売りのユニークなポール。シャフトの上部は竹で強化されたカーボン、下部はチタニウム素材で極端な軽さとすばらしいスイングバランスを持つ。通常のカーボンポールと比較して40%軽量。 Komperdellは、カーボンとカーボンポールを自社で製造している唯一のメーカー。
¥36,300
◆公式HP/http://www.vist.co.jp/
まとめ
最後に、甘利さんにポール選びの「肝」を教えてもらった。
「ポール選びは、こんなふうに素材や機能性、使い勝手を考慮して、あとは値段だったり、見た目の好みで選んでもらってもいいと思います。私などは「見た目」が一番ポイントかなって思います。なぜなら、ポールは長く使えるギアですし、一番は「愛着」が重要かなと思うからです。
「良いギアを愛着を持って長く使う」
この先の未来、より大事になってくるキーワードだと私は考えています。「気候変動」や「環境問題」等の影響を、山のフィルターを通して直に感じている我々スキーヤー、スノーボーダーは、身につける道具への考え方、マインドもシフトしています。モデルが変わらない=廃れないって捉え方もできますよね。皆さんも「旅する度に愛着が増すばかりの1本」をぜひ選んでください!」
教えてくれた人
甘利祐貴 Yuki Amari
【Profile】
石井スポーツ甲府店スタッフ。春から秋はクライミング、冬から春にかけ ては山スキー・山岳スキーを追求。四季のリズムに合わせて山で活動する山のスペシ ャリスト。夏は瑞牆山、小川山でクライミング。冬は・新潟・長野でバックカントリーに出ることが多い。
好きな山は八ヶ岳。人生の目標みたいなのは現在ないんだけれど、おじいちゃんになっても山遊びしているのが現在の目標(笑)。