記事を書いた人:学生時代は岩岳や技術選を目標に熱心にトレーニングしてきた基礎スキーヤー現在は自在に新雪を滑れることも目指すフリースキーヤ―見習い。STEEP新人編集部員。
「基礎スキーをガチガチにやってきた人間がフリースキーをやるには、ギアは何を選んだらいいのか…?」「どんな板ならパウダーを気持ちよく滑れるんだろうか?」「基礎スキーヤーのバックグランドに合ったものってどんなもの?」そんな疑問を、「石井スポーツ神田本館」の下山さんにぶつけてみた。
▼下山さんの疑問への答えで展開していきます
ギア選びに際して気をつけることは?
ギア選びの前に「自分の滑りたいイメージ」を描くことが大切です。「パウダーを滑りたい」のか、「パークでレールやボックスでジブやジャンプを楽しみたい」のか、「ゲレンデから飛び出してハイクも加わったバックカントリースキー」を目指すのかをできるだけイメージしてみましょう。自分がやりたい"滑り"を明確にしてからギアを選んでいきます。
そもそも「フリースキー」ってなに?
フリースキーは、自由に自分のスタイルでカッコよく滑るというカテゴリーでもあり、カルチャーにも通ずるスキースタイルです。
非圧雪、不整地、パウダー、ゲレンデ外の自然地帯を滑るスタイルを、また、パークやジャンプやトリックで自己表現するスタイルを称して「フリースキー」と呼んだりします。
ちなみにFISではこれらをフリースタイルスキー競技と総称し、モーグルやエアリアルもここに含めています。
最近ブームのバックカントリースキーもフリースキーと呼ばれていますが、大自然を自由に滑るというスタイルは、自身で楽しむことに加え、近年は「FWT フリーライドワールドツアー」などビックマウンテンでの自由に豪快に滑走を表現し、スタイルを競う種目としても注目されています。大自然の中でのジャンプや急斜もありの滑走を称して「フリーライド」という呼び方があります。
ここではギアのチョイスを「ゲレンデ&パーク系」「BC&パウダー系」と分けて紹介します。
「ゲレンデ&パーク系」は"センター100㎜"を基準に選ぶ
ゲレンデを中心に新雪も滑りたい、パークでジャンプもしてみたいという人向けはコチラのタイプ。基礎スキーから乗り換える方もそれほど違和感がないと思います。大きな違いはセンター幅が基礎系よりも広く、プレートが無く低い位置にビンディングが設定されることです。
センター幅
基礎スキーなど技術のベースがある方で、初めて太いスキーを選ぶ際のセンター幅は90~100mmを基準がおすすめです。以前は90mm~くらいがファットスキーのオールラウンドでしたが、最近では110mmくらいまではオールラウンド機種と呼べるものが増えています。
長さ
女性だと165~170cmくらいが目安。基礎だと女性では小回り用だと150~155cm、大回り用だと175~180cmくらいのものを使うと思いますが、やはりモデルによって大体の長さは決まっているので、希望のモデルがあればその中の短、中、長い、その中から選ぶと良いと思います。
硬さ
メンズモデルだとウィメンズモデルに比べて硬いものが多いです。硬いと体重やスピードがないと扱いづらいので、女性なら女性向けを選んでも良いかと思います。ただし、女性専用は滑れる方が使うと物足りないと感じる可能性もあるので、長ささえ外さなければ、メンズ用から選んで大丈夫です。
「BC&パウダー系」なら”100~120mm”の中から
BC系は軽めの板を選びましょう。バックカントリーに出てツアーを楽しむには歩行も意識したものがおすすめです。パウダーを快適に滑ることにプラスして、スキーを履いて歩くことや登ることが必要になるので、基礎スキーやレース用のギアの兼用は合わないと言えます。雪山では硬くて重いギアだと歩きずらいので、軽さも意識して選びましょう。春のツアーなどの目的には軽い方が断然良いので、移動スピードや軽快さを大事にする方は細め・短めのスキーを選ぶこともあります。
パウダー系はがっつりふと目で良いのですが…柔らかめの板がおすすめです。パウダーを滑るのに、雪の抵抗を受ける時に硬くて「しなり」の無いスキーは雪とケンカします。パウダーハントをしたい方は、ぜひとも柔らかく「しなる」スキーを選びましょう。
また、スキーのバタつきが気になる方は、チタンシートが使われているスキーを検討してみましょう。いわゆる「メタル入り」というものです。各メーカーともにシートの厚みや形状を工夫しているので、軽量性が損なわれずに、それなりの剛性を持つ、様々な特徴のスキーが存在します。
センター幅
BCであれば、100~110mmに扱いやすいモデルがラインナップされています。ゲレンデでも使いやすく、山にも持って行って良し、という感じで、いちばんオールラウンド性が高いといわれています。パウダーでは十分な浮力を、荒れたバーンでは高い走破性を発揮し、締まった雪質では高いグリップ力を実現。理想的なオールマウンテン、オールラウンドスキーといえるでしょう。
一方で、どこでどんな滑りを楽しむかによって100㎜前後・105㎜前後・110㎜前後などセンター幅のチョイスは変わってきます。スキー場内の自然な地形の変化を楽しんだり、締まったバーンで鋭いターンを描いたり、深いパウダーの中を自由にグライドさせて浮遊感を満喫したり…。深々と積もったパウダー狙いなら110mm~です。120mm以上のビッグファットになってくると、むしろパウダー以外では難しくなってきます。
おすすめのブランド
最近はFACTIONが人気です。レジェンドスキーヤーのキャンディド・トベックスが’21-22シーズンまで、長い間開発に深く関わっていたブランドです。フリースタイルからフリーライド、さらにはビッグマウンテンまで全てのカテゴリーを網羅したオールマイティな滑り手が手掛けていたスキーなので、どのジャンルにおいても優れた性能を持つスキーが多いです。YouTubeやSNSでもムービー広告を積極的にPRしていることも人気の一つですね。
コラム:一覧で見る、基礎スキーとゲレンデ&パーク系、BC&パウダー系ギアの違い
パーク系スキー | BC&パウダー系スキー | 基礎スキー | |
板の形状 | ツインチップ、ロッカー | ロッカー | キャンバー |
ビンディング位置 | センター | センターより少し後ろ | センターより後ろ |
センター幅 | 80mm~ 基礎用の2倍近いものまで | 100~120mmが基本 | 65~70mm台程度 |
滑り方 | ×小回り △カービング 〇ずらし | ×小回り △カービング 〇ずらし | 〇カービング △ずらし |
適した雪質 | 柔らかい雪 | パウダー | 圧雪したバーン、硬い雪 |
雪面への距離 | 近い(プレートなし) バランスも良く、感覚も出やすくダイレクト感あり | 近い(プレートなし) | 遠い プレートで高さがあり、板を倒しやすくしている |
ビンディング選びは?
ゲレンデ&パーク系
アルペンビンディングタイプの中で軽量のものをチョイスしたいですが、スキーヤーの体格や滑りのスタイルやスピードによって必要な解放値が変わってきます。解放値の高めのビンディングはどうしても重くなってきます。しかしここは譲れないところなので必要なスペックのモデルを選びましょう!
そして、やはりフリースキー向けに開発されたビンディングがおすすめです。ブーツをできるだけ雪面に近くセッティングできるこれらのタイプはスキーのたわみを作りやすく操作性に優れ、ジャンプのランディングの安定性も高くなります。また、衝撃吸収性にも優れています。
バックカントリー系
テックビンディングというピンでトゥを固定するタイプが主流です。これは歩き易さと軽さを主眼に置いて開発さ れたものでアルペンスタイルほどの外圧を想定してませんが通常の使用では十分な保持力です。最近はテックとアルペンのいいとこ取り(登りは テック、滑るときはアルペン)したハイブリットタイプも人気です。
ハードな斜面でスピードを出して滑る、ジャンプもするという方は、ツアータイプではなくアルペンビンディングを利用し、上りの際は「デイメーカーツアー」というギアをブーツとビンディングの間に装着することで、ツアービンディングのように歩くことができるアイテムもあります。
スキー、ビンディング、ブーツの剛性のバランスは大事です。しっかりしたものにはしっかりしたものを合わせます。軽量でまとめるなかに硬い物でチグハグにならないようにしましょう。
ビンディングの取り付けは?
基礎スキーではスピードに対する安定性を出すことが目的なので、ビンディングの取り付け位置はセンターより後ろにします。フリースキーの場合は自分を中心にスキーを回すような動きが求められるため、中心に近いセンター位置になっています。
スキーのセンターにビンディングがあることでスイッチして滑る向きを変えたり、トリックが決めやすくなります。この違いにより、フリースタイルでは、フリースキーであっても求める滑りや滑る環境、使用するブーツによってスキーメーカーの推奨センターから、好みよって前後させることでより使いやすくすることができます。詳しいショップスタッフと相談しながらベストな位置を見つけてください。
フリースキーのブーツ選び
フリースタイル系モデル
主に3ピース構造を採用したモデルが主流で衝撃吸収性に優れ足首が使いやすいのが特徴です。カービング要素というよりも面的な操作に優れておりトリックがかけ易い特徴があります。ハイクアップに対応しウォークモードやテックビンディングに対応したテックインサート付きのモデルとなしのタイプがあります。
アルペンタイプ
アルペンブーツが基礎スキーヤーが最も違和感なく使えるタイプです。特にゲレンデでのカービング性能も重視であればこのタイプがよいでしょう。フレックスは好みもありますがグルーミングと違い雪質や斜面変化が大きいので足首のためを作りやすくするため現在使用している硬さの10%ほどソフトなものが良いでしょう。こちらもウォークモードやピンテック対応などを考慮して選びましょう。
軽量なツアー向けタイプ
軽量なツアーモデルの中にもハードに滑ることができるモデルも存在しているが多くは歩きやすさと軽量性を重視しているので滑走性能はアルペンブーツに及ばない。長時間ハイクアップする場合には必要性が高まりますが滑走性のはある程度犠牲となっている場合もあることを考慮する必要があります。
前述した3タイプにそれぞれテックビンディング対応のブーツがありますのでまずは自分に合ったタイプの中でバックカントリーも視野に入れる方は対応タイプを選びましょう。
それぞれの機能やスタイルも大事ですが足型が一番大事です。長時間履く物なので履き心地はとても大事です。幸い最近はインナーブーツの熱成形が出来るモデルが多いので店舗で成形して足型に合わせて、機能性のあるインソールに変えたりしてフィッティングという作業をスタッフと一緒にして自分だけの一足にしていきます。中身にはこだわりましょう。
基礎スキーヤーにおすすめ!
フリースキーを始めるならコチラ
お店取扱いの中から、下山さんが選んでくれたのはコチラの2機種
SALOMON QST98
98mmという使いやすいセンター幅で、SALOMONは元々、基礎・アルペンをメインに作っているメーカーなので、その安心感と乗り換えに良いですね。スキー自体は柔らかいのですが、足元をばたつかせず、安定しやすいところが魅力的です。
BRIZZARD RUSTLER11
ラスラーシリーズは初期の頃から高評価です。足下のチタンシートが効果的で、ちょっと太くてもオールラウンドに活躍!
おまけQ&A
もっと知りたいフリースキーのあれこれ
Q:今まで使っていた基礎系ギアは全く使えないのですか? |
A:基礎やレース向けのものは硬いバーンに負けないフレックスを持ち、ブーツからビンディングと板へ瞬時に力を伝えるため に硬いものを使います。ただフリースタイルではスピードはそこまで上がらないのでそこまでの硬いものは必要ないんです。デメリットは用具が硬いと板の上で動けなくなります。自由なポジションが取りづらいので、使えなくはないけどパウダーを滑りたいなど具体的な目的があれば専用ギアの購入がお勧めです。 ブーツもフリースキー向けは基礎やレース向けよりフレックス数値は柔らかめです。ただ、慣れてるブーツでまずいろいろ挑戦 してからでもいいです。基礎モデルが全く使えないことはありません。 |
Q:ブーツを買う場合フレックスってこれまでと同じものでいいですか? |
A:フリースキーブーツの女性用を選ぶのであれば、同じ数値のものでもいいです。ユニセックスであれば、1つ下がるかもし れません。滑れる女性ならトップモデルのレディースを選べば良いと思います。 |
Q:グリップウォークってよく聞きますが、これってなんですか… |
A:最近主流になってきた、ブーツの底についた歩行性を意識したラバーのことです。この機能が付いたブーツは格段に歩きやすくなっています。これまで基礎やアルペン用のブーツに比べて、力が伝わらないでのは?と疑問に思う方もいらっしゃいます が、普通のゲレンデで使う分には十分です。 |
Q:フリースキーを行うにあたって、揃えたいギア一式は? |
A:BCを目指すなら、歩けるタイプのビンディングとブーツをセットで。また、選んだスキーに合ったシールも必要です。 また、バックカントリーに出るにはビーコン、シャベル、プローブのアバランチギア、またそれらをしまうバックパックも必要 です。ゴーグルもレンズが異なるものかスペアレンズ付きを。グローブは予備でもう一つ持ち歩きます。 フリースタイルであれば、ストックは強度があるものが必要になってきます。柔らかいパウダーを滑るのであれば、リングは大 きなバスケットのものに。太めの長さが調節できる伸縮タイプが良いと思います。 |
Q:そもそもフリースタイル、フリーライドはどういった技術レベルの人ができるジャンルですか? |
A:レベルとしては板を揃えて滑る「パラレルができる」人が取り組めるジャンルです。パラレルがまだできていない人がやる と、基本的なパラレルの滑り方が身につかなくなります。しっかりパラレルをできるようにするために、基礎やゲレンデ用の板 を使って練習することが必要です。基礎スキーを競技として行っていた場合なら、全く問題ありません。基礎スキーで培ってき た技術が生かされます。 |
Q:滑りの姿勢が異なると滑り方も大きく変わりますか? |
A:フリースタイルとなると、ガンガンカービングで滑るものではないですが、センター106mmでもカービングもずらしの滑 りも基礎スキーの技術でできます。身体から板を離せばエッジは立つので、その距離感の違いを掴めば慣れます。当然足元では 角は立たないので、面を使って滑るスタイルになり、シルエットが異なります。俊敏には動かないので、基礎スキーでいう小回りはしづらいですね。 |
Q:板が柔らかいとバタつきが気になりそう、という印象があります。 |
A:そもそも基礎やレースのスピード域で滑るから当然バタつきます。本来プレートが吸収してほしいほどの振動は高速域での 話になるので、ここでは問題になりません。使い方や滑り方が違う、ということを理解してから滑りましょう。それでも、基礎のイメージが根強いお客様は、バタバタするってみんな言います(笑)。 |
教えてくれた人
下山 真 Makoto SHIMOYAMA
【Profile】
1957年生まれ、神奈川県出身。
基礎スキーは、スキーの技術となるベースが詰まったジャンル。その技術でフリースキーなど様々なジャンルに応用できます!フリーライドから発展してBCまで行けば、ゲレンデから飛び出して広いフィールドで遊べます。BCは山の知識も必要になってくるので、夏は登山したりと楽しみも増えます。今はリフトで行けるサイドカントリーもオープンしているところが多くなってきたので、そこで楽しんでゆくゆくはBCの広いフィールドへ行きましょう。BCはガイドツアーを使って楽しめば安心ですよ。
[取材協力]
石井スポーツ 神田本館
公式サイト:https://www.ici-sports.com/shop/kandahonkan/
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取材協力:石井スポーツ