現代のスノーウエアは、さまざまなテクノロジーによって質の高い快適性やパフォーマンス性を実現している。そうしたテクノロジーの本質を理解しておけば、'23-24シーズンモデルの多くが出揃ったこの時期、カタログの読み方も変わってくるはずだ。というわけで最新機能の理解につながる、基盤の部分を少しおさらいしておこう。
スノーウエアに求められる機能
単なる防寒着にとどまらない。それこそがスノーウエアの奥深さであり、難しさと言える。冷えをさえぎるだけなら、分厚い中綿入のウエアを羽織れば話はおしまいだ。しかしスキーはアクティビティ。身体を動かすことで体温は上昇し、時には汗をかいてしまう。ましてやバックカントリーでハイクアップをしようものなら、運動量は爆上げ間違いなしだ。
こうして気象条件や気温だけでなく、滑り手の体調までもがダイナミックに変化する。しかもアクティビティである以上、ウエアは動きを妨げることがあってはならないと、スキーウエアが満たさなくてはならない条件は多岐に渡る。それらすべてを上手くカバーして、あちらを立てつつ、こちらも立てるという絶妙のバランスの上に成り立っているのだ。
スノーウエアに求めるエレメント(要素)を考えてみると、いろいろなものが思い浮かぶ。色やスタイルなどのファッション性はちょっと置いておき、今回は「機能性」という部分に焦点を当ててみる。
●ライディングやハイクなど雪山での行動のために使いやすい機能
●ウエアの生地そのものが持つファブリック性能
といったものに大別されそうだ。では、ちょっとそれぞれに見ていこう。
雪山での行動のために使いやすい機能・仕様
フード
雪や風をさえぎることで保温の効果を発揮。その意味では状況に合わせて保温性を調整できる機構の代表格だ。最近ではヘルメットをかぶっていても使用できる大容量のものも登場している。
フロントファスナー
体温調整のためにウエアを脱ぎ着することを考えると、フルファスナーが使いやすくなる。正面からの風や雪をブロックする頑丈さと、身体の動きに追従するしなやかさを備えており、軽く錆びない樹脂製が主流となっている。
ポケット
腹のポケットは手を温めるためにあり、小物は胸のポケットにしまう、という使い分けがスタンダード。小物をしまうポケットのファスナーは、上から下に向けて開くものが目立つが、これは仮にファスナーを完全に閉めていなくても中のものが落ちないように、という配慮からだ。
ベンチレーション
体温調整のために外気を取り入れる窓の役目を果たす。脇の下に設けられることが多いのは熱気がたまりやすいからだが、腕のかげになっているので雪や雨が当たりにくいという理由もある。
カフ
滑走時にきゅうくつにならないよう、やや長めに設定。グローブの上に袖口をかぶせることができるよう、カフは太めになっていることが多く、さまざまなグローブに柔軟に対応できるよう、調整範囲も広くとっている。
この他、ジャケットによく搭載されている機能
裾の内側や袖口に雪の侵入を防ぐためのパウダースカートやリストゲーター、フードの調節をするコード、裾をしぼるドローコードや、バックカントリーでの着用を意識したウエアのなかには、RECCOリフレクターが内蔵されているものもある。
パンツのサイドファスナー
太ももの横にはベンチレーションとして、大型のファスナーがレイアウトされていることがある。多くは太ももの外側にセットされているが、内側にあるもの、あるいは内外の両側にある製品も存在する。
ウエスト
お腹や腰が冷えないように、そして転倒の際にも雪が入りにくいように、ハイウエストになっているものがほとんどだ。またウエストサイズは面ファスナーなどで調整可能となっており、ベルトがなくてもフィット感を損なわない。
エッジガード
インエッジが当たることで切れてしまうことがないよう、裾の内側はケブラーなどの丈夫な素材でガードされている。丈夫であってもしなやかさを損なわいよう工夫されており、足さばきに影響を与えない。
生地の構造と機能的役割
表地と裏地で、メンブレンをサンドイッチのようにはさんでいるのが3レイヤー(表地、メンブレン、裏地の3層)、裏地無しで表地とメンブレンだけで構成されているのが2レイヤーだ(表地、メンブレンの2層)。
3レイヤーは裏地によってメンブレンを保護できるため、耐久性を向上させることができるほか、裏地によって滑りが良くなることで快適な着心地を実現することができる。2レイヤーは裏地がないぶん透湿性が高くなり、製品の重量を抑えることができる。また、しなやかな着心地を叶えることも可能だ。こうした特徴をいかしながら、製品コンセプトに沿った構造が採用されている。
表地の機能的役割
ウエアの骨格とも言える部分で、雪や雨を弾き、頑強さを保持し、ウエアの形や色を整える。素材は化学繊維がほとんどであり、ナイロン系の素材が多用される。ナイロンの摩擦に強く、弾力があってしなやかという特性がスキーウエアにぴったりだからだ。
裏地の機能的役割
ウエアの中に着ているものとの滑りをよくして動きやすさを確保する他、汗を吸収することで快適性や着心地を向上させている。また保温性を備えた裏地を使うことで防寒性を高めている製品もある。
中綿の入ったものも
ウエアには保温性を高めるため、中綿を封入しているものもある。多くは雪や汗に備えて、湿気に強い化学繊維の中綿が使われている。またウエアによっては滑走中の風を受けて冷えやすい身体の前側に重点的に中綿を入れるなど、体温の分布に応じて保温性を調整しているものもある。
防水透湿素材(メンブレン)の機能的役割
近年のスキーウエアは、そのほとんどが表地と裏地との間にメンブレンと呼ばれる防水透湿膜を挟み込んでいる。サンドイッチで言えば、パンが表地と裏地、中のハムがメンブレンというつくりだ。このメンブレンには1㎤あたり14億以上もの孔があり、そのミクロな孔構造が防水性や透湿性、防風性を生み出している。
防水性や防風性は読んで字のごとくだが、透湿性とは、衣服内の湿気を外部に透す性能のこと。雪山での雨雪などによる外部からの水分はシャットするが、ウエアの内部で汗をかいて蒸気になった湿気は外に透すことでムレずに済む、というわけだ。具体的には、衣服内の水滴にならない蒸気状態の水分を24時間で何グラム外に出すか、数値で表す。もちろん値が高いほど透湿性は高い。
透湿性によって快適なコンディションを維持できるかは、雪山での登りや滑りのパフォーマンスにも大きな影響を与える。よってスノーウエアにおいてメンブレンはとても重要な意味を持つ。メンブレンの特徴を把握しておけば、そのスノーウエアがどのような用途に向けて作られているのか、より深く理解することができる。
メンブレンにもいろいろな種類があり、それぞれに特徴を持っている。シェルやグローブにもよく使われるGORE-TEX(ゴアテックス)やNeoShell(ネオシェル)、eVent(イーベント)などはよく知られている。
メンブレンは「レイヤリング」のため
下の写真にあるアイテムが、いわゆる「レイヤリング」のためのプロダクツだ。レイヤリングとは重ね着のこと。活発なアクティビティを快適かつ存分に楽しむためには、自然条件や動きによって常に変化を続ける体温に、柔軟に対応する必要がある。雪山でのパフォーマンスや快適さにつながるのが「レイヤリング」だ。
肌に近いところから、「ベースレイヤー」、「ミドルレイヤー」、「アウターレイヤー」の3層の重ね着をするのがレイヤリングの基本。レイヤリングの根底にあるのは大きく2点。
・汗を吸った衣類を肌に触れさせない
・汗を吸った衣類を早く乾かす
レイヤリングは単に衣類を重ねて着るだけでなく、個々の層で発揮すべき特性に注目して素材や構造を選ぶことで実現する。身体に近い1枚目は肌に汗を残さない素材のものを選び、2枚目は汗を吸い上げて拡散させながら蒸発させる働きを備えたものを重ねることになる。
2枚目で蒸気になった汗を外気に放出するのが上着(アウタージャケット)の役目だ。スキーの場合、シェルジャケットがそれにあたる。しかし、汗は放出しても、雪や雨はさえぎりたい。こうした相反する機能を実現するのが、湿気だけ通して水は通さない「防水透湿性」なのだ。
つまり「防水透湿性」はレイヤリングという考え方の延長線上にある。防水透湿性をフルに発揮させるためにはレイヤリングが不可欠であり、防水透湿素材のウエアを着れば、それだけですべて解決! とはいかない。だからこの性能が必要なのだ。
プラスして知っておきたい知識
耐水圧とは
雪山という自然条件下では、常に吹雪や雨にさらされる可能性が多々ある。安全のためにも身体が雪や雨で濡れて冷えることは避けたい。スノーウエアに必需なのが防水性だ。それをわかりやすく数値で表してくれるものが耐水圧、というイメージでいいだろう。つまり、耐水圧とは生地に染み込もうとする水の力を抑える性能の数値だ。
耐水圧の数値で「どのくらいの水の圧力に耐えられる防水性なのか」を知ることができるというわけ。当然、値が高いほうが防水性が高い。
一般的なナイロン製の雨傘の耐水圧が約200~500mm程度、しっかりしたレインコートなら耐水圧5,000mm程度。スノーウェアは、雨雪に長時間さらされる環境を考えると少なくとも耐水圧10,000mm以上ないと不安だろう。
実際に雪山でサンプルを着てから買うかどうかを決められないウエア選びでは、耐水圧の数値は防水性の担保がとれる重要な情報だ。
生地の硬さの指標となるデニールとは
ウエアにはゴワゴワした固い着心地のものもあれば、非常にしなやかなものもある。その差は表地の生地の厚みや、裏地の素材などによって決まってくる。
カタログに表示されている、数字のあとのDという表記はデニールという単位の略号だ。デニールは生地に使われている糸の重さを表しており、9000メートルあたりの数を数値にしたもの。カタログではこれが間接的に生地の厚みを表すことにつながっている。一般的なウエアは70デニールから150デニールのものが目立ちつが、生地の固さや着心地はデニール数だけで判断できるものではないことも知っておこう。
生地にストレッチ性をもたらすには
生地がストレッチすれば、当然のように動きやすくなる。ストレッチさせるためには生地を構成している糸そのものに伸縮性を与えるか、織り方によって生地そのものが伸びるようにするかのどちらかだ。いずれにしても先述したメンブレンを組み合わせるなら、メンブレンそのものにもストレッチ性が必要になってくる。防水透湿性を備えたウエアがストレッチするということは、実は非常に高い技術を要することなのだ。
MILLET|TYPHON WARM STEEP JKT M
Material:ドライエッジティフォンウォーム裏起毛3層、ナイロン100%、耐水圧20,000mm、透湿性 50,000g/㎡24h
Functions:
・フルシームシーリング
・脇下ベンチレーション
・マチ付き大型フロントポケット
・ヘルメット対応調整可能な立体裁断フード
・STORM & FITシステム採用カフ付きフード
Weight:672g(Men's)
Size:XS,S,M,L,XL(Men's)
Color:H.MUSTARD/BLACK(全3色)¥68,200(Men's)
ウエアのカッティング(裁断)
優れた性能の生地を採用しただけでは、不十分だ。生地の実力を十分に発揮させるためのデザインがされていること、これも重要なポイント。雪山での滑ったり、登ったりの身体の動きを考慮したカッティングを持つウエアは機動力が高い。例えば、大きく動かす膝や肘の部分に立体裁断を施したり、背中にストレッチ性の高い生地を使うことで、動きがさまたげられずに、ストレスなく動くことができる。カッティングにも着目するとよいだろう。
ちなみにコチラは、’23-24シーズンMILLETから新しくリリースされた「COSMIC GTX 3L JKT/PANTS(コズミック ゴアテックス 3L ジャケット/パンツ)」。耐水圧28,000mmという優れた防水性と透湿性、防風性を持ち、耐久性も兼ね備えたGORE-TEXメンブレンを採用。立体裁断のデザインにより、スムーズな動きやすさと着心地のよさを生み出し、フリーライドの自由なパフォーマンスをサポートする。
カタログの見方・ウエア選びのポイントがわかってきた
このようにウエアのパーツや生地の機能的役割がわかってくると、ウエアカタログに掲載されている情報の意味や重要性がよく理解できるようになる。ちょっと試してみてほしい。NORRONAのオンラインストアの商品情報をピックアップしてみよう。ウエアの機能面の表現を赤い文字にしてみた。
NORRONA
tamok Gore-Tex Pro Jacket
素材は表地に70デニールのリサイクルナイロンを使ったゴアテックスプロのモストブリーザブルテクノロジーをベースに、擦れやすく消耗しやすい肩と肘の切り返し部には、同じく160デニールのゴアテックス® プロのモストラギッドテクノロジーで補強。
新しくなったゴアテックスプロの2種類の素材を適材適所に配置し、高い防水透湿性、防風性、耐久性を実現しています。ヘルメット対応フードやフロントベントレーター、ハンドゲイター内蔵カフなど使いやすいライディング向けファンクションを完備。着丈は長めのゆったりフィットが個性的なルックスを生み出し、バックカントリーで活躍するテクニカルな製品ながら、ゲレンデでも違和感ないデザインに仕上がっています。
まとめ
現代のスノーウエアにはさまざまな機能や特徴ある素材が採用されている。そして、いまや多くのウエアに当たり前のように防水透湿素材が採用されている。けれどその意味と機能をきちんと理解しておかなければ、本来の性能を発揮させることはできない。それらを理解することが、ウエアが備え持った機能をさらに効率よく使いこなすことに繋がるのだ。
ウエアにどんな素材が使われていて、それは何のためなのか。自分はどんなふうに山で過ごすのか。ウエアを機能の面から見つめ直してみれば、自分にとって必要なウエアがどんなものか見えてくる。その着眼点で選んだ一着ならば、新しいシーズンの雪山滑走はもっと快適に、もっと楽しくなるに違いない。
text/林拓郎+STEEP