プロに聞いたスキービンディングの選び方と気になるギモン!軽いが正義?誤解放、縦バネ、横バネって?

スキーのビンディングはスキーとブーツを固定するギアだが、役割はそれだけではない。シンプルなギアに見えて実は奥が深い。ゆえに軽視すると自分のベストなパフォーマンスを発揮できなかったり、怪我に繋がったり……。ビンディングは滑るうえでとても重要な役割を果たすのだ。
ここでは基本的な役割と選び方、そして巷で噂されているさまざまなギモンについて、国内外でコーチとして活動する”きんちゃん”こと遠山巧が解説してくれた。
いままで抱えていた悩みを一挙解消していこう。

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ビンディングの役割をおさらい

まず、ビンディングはスキーとブーツを固定する道具です。そして最も重要なのが、転倒したときに「安全に外れる」という仕組みが搭載されていることです。ビンディングは一定の方向に、一定の力がかかった時に外れるという仕組みを備えています。これが外れなかった場合、たとえば足首をひねったり、最悪の場合、大きな怪我に繋がるおそれもあります。“スキーとブーツを固定はするが、安全に外れる”。相反する2つの役割を兼ね備える繊細な機構を備えるのがビンディングなんです。

MARKERビンディング愛用歴の長い遠山はビンディングについての理解度も高い

じゃあ実際どう選ぶ?

まずは自分がどのようなシチュエーションで滑るかをはっきりさせてもらいたいと思います。

「山を登って滑るのか」「パークでジャンプしたり、トリックをするのか」「ゲレンデ」なのか。

また、ビンディングはスキーやブーツとセットで考える必要があります。例えば軽いスキーに重いビンディング、柔らかいブーツでは相性が悪く、それぞれの性能を活かしきれません。自分がどこを滑るかに重きを置いて、スキー・ブーツ・ビンディングの組み合わせを考えましょう。

ゲレンデやパークを滑る際は「どのような斜面をどのくらいのスピードで滑るのか」「どのくらいのジャンプ台を飛ぶのか」で選ぶビンディングが変わります。
僕はマーカーのビンディングを使用しているので、マーカーで例をあげます。
例えば、パークやゲレンデ内のフリーライドを中心に滑る人であれば、

●ハイスペッククラスの「ジェスター」
●ミドルクラスの「グリフォン」
●エントリークラスの「スクワイア」

左からJESTER、GRIFFON、SQUIREいずれもMARKERのフリーライドラインナップ

この3つが選択肢になります。

荒れたバーンを高速で滑るようなスタイルの人はハイスペックのビンディングを選ぶ方が良いです。これはビンディングに使われている素材が違うため、ビンディング自体の剛性、つまりパワーの伝わり方が違います。例えば、ジェスターとグリフォンは見た目こそ似ていますが、素材が違います。ジェスターでは金属パーツが使われている箇所に、グリフォンなら樹脂パーツが使われているなど軽量化が図られています。
ジェスターの方がしっかりとパワーをスキーに伝えることができて、ビンディングの重さ自体で高速域でも安定した滑りが可能となります。かえってグリフォンの方が軽く、筋肉量の少ない人でも扱いやすいという見方もできます。イメージとしては、高級セダンと軽自動車で時速120km出すのでは、安定感に違いがあるよね。というとわかりやすいかと思います。

手前がGRIFFON、奥がJESTER。似たような形状だが赤丸で囲った箇所の素材が異なる

また、剛性が高くて力が伝わりやすいビンディングというのは、雪面からの力も自分の体に伝わりやすいのです。なので、荒れたバーンを滑る時などはとくに、足への疲労も蓄積されます。
つまり、絶対に剛性が高いものが全て、というわけではなく、自分の滑り方と斜面、スピード域と筋肉量(体重)から自分に合ったビンディングを判断しましょう。スキーギアはハイスペックの方が絶対に良い!というわけではなく、人それぞれ滑りのスタイルに合わせた最適解があります。
「あなたは体重がいくつで、このくらいスピードを出すから、このビンディング」という判断基準はないので、実際にスキーショップへ行ってお店のスタッフに相談しながら選ぶことをオススメします。ゲレンデのピステンバーンだけを滑る人や、バックカントリーに行きたい人は上記の3モデル以外のビンディングが候補に入ってきます。自分がどのような滑りをするのか、その辺りを詳しく伝えると良いでしょう。

解放値は全メーカー共通

素材で剛性が違うと言いましたが、解放値は全メーカーで一定です。例えばマーカーのビンディングの「解放値9」とサロモンのビンディングの「解放値9」は同じです。これを全メーカーで統一しているのがDIN規格と呼ばれる物です。あのメーカーは解放値9でもほかのメーカーの解放値9より外れやすい、ということはありません。これはすべてのビンディングに言えることで、DIN規格に収まるために試験をクリアしたビンディングのみが現在販売されているので、例外はありません。

縦バネ?横バネ? マーカーは回転の重心を足元に置くため…

普段は知る機会が少ないかもしれませんが、ビンディングにはバネが入っています。そのバネを緩めるか締めるかで解放値の強弱を調整しています。マーカーのビンディングの多くがトウピースは横バネ、ヒールピースは縦バネになっています。トウピースも縦バネであるメーカーも多くあります。マーカーがトウピースに横バネを採用しているのは少しでも足元に重心を寄せ遠心力が小さくなり「スウィングウェイトを軽くするため」です。ヒールピースのバネも、ヒールピースの土台に入っているメーカーもありますが、マーカーはヒールピース自体に入っています。これにより、ブーツを踏み込んでビンディングが上がった時に重心がスキーの中央に寄りスウィングウェイトが軽くなるのです。

MAERKERのトゥーピースはバネの入り方が横向き

これはフリースタイル系の回転トリックをさらに簡単に行えることを目論んだ機構なんです。そのため、パークやジャンプでも使いやすいのですが、普通にゲレンデを滑る際も、スキーの操作性やエッジグリップがよくなるメリットもあります。また、ヒールピースのバネが土台ではなく、ヒールピース自体にバネが入っているので上から抑える力が強くなり、ホールド感は増しているようです。

ヒールピースのバネは見やすい。ブーツを踏み込むとバネも上がり、スキーの中心に近づくのでスウィングウェイトが軽くなる

誤解放はありえない。

たまに、自分が意図していない時に、勝手に外れてしまうことがあり、それを「誤解放」とおっしゃる方がたまにいますが、それはその時に「一定の方向に一定の力が加わって」適切に外れたのであって、ギアの機構になんらかの誤作動があって外れたわけではありません。外れたことには何か明確な原因があります。たとえばブーツとビンディングのセッティングが合っていないとか、ブーツのつま先や踵がすり減っているなど、ちゃんとブーツとビンディングがハマっていないなどの原因があります。

なので、「あれ? 突然外れてしまったな」という時はセッティングやブーツの状態、自分の体重や滑り方にビンディングがちゃんと適しているかどうかを検討してみてください。

軽いが正義?

初心者・初級者であれば軽いビンディングの方が絶対良いと思います。マーカーでいうスクワイアが軽くてオススメです。持ち運びもしやすいし、ターンもしやすいです。パークのアイテムなどで、高回転トリックをしたい人もスクワイアで良いと思います。スピードが出なければ、軽いビンディングでも問題ありません。

しかし、スピードを出して滑る人はやはりグリフォンやジェスターなど、剛性の強い重さがある素材を使ったビンディングを選んだ方が良いので、一概にみんながみんな軽いビンディングが良いというわけではありません。

ビンディングの取り付け位置はどうしてる?

これはよく質問される難しい話です(笑)
僕の個人的な目安ですが、パークをやりたい人であれば、スキーの実長の真ん中から3センチバックくらいまでが良いかなと思います。スイッチでも滑りやすいのと、回転する時に安定しやすいためです。

パウダーやゲレンデをメインに滑る人は3〜6センチバックが目安です。やはりテールが短い方がターンの時の「抜け」がよくなります。もちろん、各スキーにビンディングの推奨位置があらかじめ記されています。それがメーカーがテストを重ねた結果のオススメなのでそこに設置する、で全然問題ないと思います。

それでもビンディングを個人の好みの位置で設置したい人はスキーの試乗会などの際に、ちょっとビンディングの位置をずらしてもらって滑り比べるなどして、お好みの位置を探すといいと思います。

ちなみに私はここ数年、パーク系のスキーはどの板でも実長の真ん中から1.5センチメートルバックにしています。パウダー系のスキーは3センチバックです。パウダー系の板とはいいつつも、トリックをしたりすることがあるので、下げすぎないように3センチバックというところで落ち着いていますね。

ビンディングの取り付け位置は個人の好みがわかれる難しいところ。自分とスキースタイルの似ている人に色々聞いて判断するのもありだ

ビンディングはスポットライトが当たりにくいけれど、安全と滑りのパフォーマンスに直結する大切なギア。しっかりと自分に合うものをチョイスして快適なスキーライフを送りましょう。

PROFILE

遠山巧●とおやまたくみ
時代劇「遠山の金さん」にちなみ、“きんちゃん”の愛称で親しまれる。フリースタイルスキースロープスタイルの選手として活躍したのち、コーチとして国内外で長年レッスン活動に従事。ロジカルなトリックの解説の合間にはさむユーモアで人々を笑わせながら楽しくレッスンさせてくれる。フリースキーレッスン「freeskiheadz.com」を運営するとともにYouTubeでフリースキーにまつわる様々な情報を発信中。
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https://www.instagram.com/freeskiheadz.com_t_yama/

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