KASTLEが発表した新たなスキーブーツが、話題に上がっている。一見BOAのような外観だが、実は思想もまったく異なる革新的な新クロージャ―システム「RYF(Remember Your Fit)」を搭載したモデルだ。このブーツ「フィットを記憶する」という。その正体に迫ろうと、KASTLE本社を浦木健太(うらきけんた)が訪ねた。
ケスレが新システム「RYF(Remember Your Fit)」を世界に発表
2026年、ウィンタースポーツ業界の注目を集めた展示会 「Prowinter 2026 」で、新しいスキーブーツクロージャーシステム「RYF(Remember Your Fit)」が発表された。オーストリアのスキーブランド「ケスレ」は、この革新的なシステムを2026ー27シーズンのブーツラインに採用する。
そこでさっそく、ケスレ本社へ突撃。ブーツ開発を担当する本社のプロダクトマネージャー兼エンジニアのアレッサンドロ氏(Alessandro Speranzoni)にRYFテクノロジーについてとその可能性について話を聞いた。

"フィットを記憶する"という新しい発想
浦木:まず、このRYFという新しいシステムについて教えてください。発表後、ヨーロッパの業界では非常に話題になっています。
アレッサンドロ:RYFは「Remember Your Fit」の略で、名前の通りブーツのフィットを記憶するクロージャーシステムです。
従来のスキーブーツでは、バックル式だと瞬時に微調整ができないデメリット、ダイヤル式だと締めるたびに微調整を繰り返す必要がありました。しかしRYFでは、ダイヤルとバックルを併用することで、それぞれのメリットを最大限に活かし、一度設定したフィットをすぐに再現できる構造を手に入れました。
つまり、中央に配置されたレバーひとつの操作で、毎回同じフィット状態で滑り始めることができるのです。

浦木:RYFはケーブルシステムも特徴的ですね。
アレッサンドロ:その通りです。RYFではケーブルテンションを使って足全体を包み込むように締める構造を採用しています。重要なのは、単に締め付けるのではなく、テンションを均等に分散させることです。
ケーブルのアンカーポイントを最適化することで、
・足の甲
・前足部
・側面
といった部分に圧力が均等にかかるよう設計されています。これによって圧力の集中が減り、より自然で快適なフィットを実現しました。
BOAとの違い

浦木:最近はスキーブーツでもBOAシステムを採用するブランドが増えていますが、RYFはどのような違いがありますか?
アレッサンドロ:BOAは非常に優れたシステムで、ダイヤル操作で素早く均一な締め付けができるという大きな利点があります。一方、RYFが目指したのは「締めること」に加え「フィットを再現すること」でした。BOAはダイヤルを回してテンションを調整する方式なので、スキー場で微調整を繰り返す使い方が一般的です。
それに対してRYFは、理想のフィットを瞬時に再現するというコンセプトです。
ある程度の強い締め付けで滑る中上級レベルのスキーヤーにとっては、リフトに乗る時にバックルひとつで締め付けを解放し、滑り出す直前にバックルひとつで同じフィットを再現できることが大きなメリットになります。
私たちは、一度作った理想のフィットを完全に再現すること、そして、セッティングの再現精度を高めることを最優先に考えました。その結果、「調整型」ではなく「記憶型」のシステムが必要だったのです。
浦木:すでに市場で認知されているBOAに対して、どのようにアプローチしていきますか?
アレッサンドロ:私たちは競合というより、「価値の違い」を明確に伝えることを重視しています。BOAが提供するのは、簡単さと直感的操作、それに対してRYFは、再現性と一貫したパフォーマンスを提供します。「一度決めたフィットが毎回そのまま戻る」という体験は、実際に使えばすぐに理解できる強みです。
そこで、実際にこのRYF搭載ブーツを履く様子を動画で見てみよう。足入れをして、バックルやストラップを締め、ダイヤル操作でフィットを調整。この一連のアクションはBOAと変わらない様子だ。
しかし決定的に異なるのが、次に履くときだ。バックルを締めるだけで、ダイヤルを回す必要がない。ここに注目してほしい。つまり、RYF(Remeber Your Fit)は、「あなたのフィットを覚えているから、毎回そのフィットを再現します」という、非常にスマートなフィットシステムなのだ。
なぜケスレはRYFを選んだのか
浦木:ケスレのブーツにこのシステムを採用した理由はなんでしょうか?
アレッサンドロ:ケスレのブーツは、もともと精密なフィットとパフォーマンスを重視しています。RYFはその哲学と非常に相性が良いと考えました。
2026ー27シーズンでは、Performanceライン(KPシリーズ)とTerraライン(KTシリーズ)にRYFを導入します。これらのブーツでは、これまで課題になりやすかった甲部分のバックルフィットを大きく改善することができました。それでいて、パワー伝達や安定性を損なうことはありません。
浦木:このRYFはケスレ独占のテクノロジーとなっていくのでしょうか?
アレッサンドロ:現時点ではケスレが先行採用していますが、このコンセプト自体は非常に汎用性があります。
今後は他メーカーが同様の「フィット記憶型クロージャー」に注目し、RYFそのもの、あるいは類似システムが採用される可能性は十分にあると考えています。スキーブーツ業界全体にとって、新しいスタンダードになる可能性もあります。

K130P RYF
・Flex:130
・ラスト幅:100mm (26.5cm)
・重量:2039g 1/2 (26.5cm)
・サイズ:24.5~30.5㎝(1㎝刻み)
124,300円
K130P RYF

日本市場への期待

浦木:日本のスキーヤーはブーツフィットに非常にこだわりが強い市場です。このRYFは日本でも大きな可能性を感じています。
アレッサンドロ:私たちもそう考えています。日本のスキーヤーは技術志向で、細かなフィット調整を非常に重視します。
RYFは
・精密なマイクロ調整
・フィットの再現性
・足全体への均一な圧力分布
を提供できるので、日本のユーザーにも高く評価されるのではないでしょうか。
スキーブーツ・次の進化へ

RYFが提示したのは、単なる新しいクロージャーではない。それは、「フィットを記憶する」という新しい発想だ。BOAが“簡単に締める”技術だとすれば、RYFは“理想のフィットを再現する”技術といえる。
スキーブーツの進化はいま、新しい段階へと進もうとしている。その最前線に立つべく、メーカー各社は技術力に磨きをかけ開発に余念がない。スキーブーツが変われば滑りは間違いなく変わる。その恩恵は誰でも手に入れられるものだ。ぜひその足で確かめてみてはどうだろう。


