ときにスキー場では、大人たちが目を疑うほどのハイパフォーマンスを見せるキッズがいる。
並外れたセンスや度胸を持ち、限界を知らずにその可能性を自ら押し広げていく。そんなスーパーなキッズの純粋無垢なスキーライフに迫ってみた。
スキーの記憶
今回紹介するのは、長野県白馬コルチナスキー場を拠点に滑りまくる10歳のフリースキーヤー柴田由馬(しばた ゆま)。
ちゃんめろフリーライドという白馬エリアのローカル大会では、ジャッジが100点満点をつける驚きのジャンプと、クリエティブで大胆なラインどり。コルチナの第4リフトを待つギャラリーを大興奮させる"魅せる"パフォーマンスと度胸の持ち主。そしてなにより「こんなに楽しいをありがとう」という純真さ。
このスーパーキッズ、一体何者か。
両親同席のもと、由馬クンと話をしてみた。

まず、はじめに答えやすそうなことから聞いてみた。
由馬クン、いまでもよく覚えているスキーの思い出ってどんなこと?
「7歳の時にフロントフリップをして、もうちょっとで立てそうにだったけど、コケて口をぶつけて、ちょっと痛かったこと。一番最初にできたのが360、次がバックフリップ、3番目がフロントフリップだよ」
そんな最初の記憶から、すでにスケールがデカい。
柴田由馬(しばたゆま)。2015年1月生まれの10歳。生まれたのは愛知県だが、2歳の頃に両親が小谷村へ移住。白馬コルチナスキー場の麓で「Powder lodge cortina」を営むことになった。
HAKUBAVALLEYの大自然と共にある暮らしのなかで、スキーはちいさな頃から由馬クンの大好きな遊びとして生活に溶け込んでいた。
「スキーは1歳の終わりくらいに始めました。岩岳の緩斜面で、母が自分を抱いて何回も滑ってくれて。2歳のはじめにはスピードに慣らすために、母が自分を股の間に入れてスピードを出して急斜面を何回も滑ってくれて、そうしているうちにどこでも滑れるようになりました」
……と上手に“原稿”を読んだ。編集部がインタビュー前に質問を投げていたため、しっかり答えようと下書きをして用意してくれたのだろう。あどけない顔で「母が」と言う姿がなんとも可愛らしい。傍にはお父さんとお母さんが見守っている。由馬クン、ちょっと緊張している?
「もうどこでも滑れるね~由馬!」という声がとても嬉しそう。
ジャンプは空中のブランコ
いろんなことをテンポよく聞いてみよう。
—スキーでいま楽しいことってどんなこと?
「ジャンプ!」と即答。「えーと、でっかいジャンプ!」と付け足した。
—ジャンプしているときはどんな気持ち? 空中でどんなことを考えているの?
「空中にいるとき? 高ぁいー! ちゃんと着地をピタッと決められると、気持ちいい~って」
とニコニコの笑顔で言う。
—ジャンプで感じるフィーリングはなにかに似ている?
「ブランコ! 空にあるでっかいブランコに乗ってるみたいな感じ」
なるほど、空のブランコか。
由馬クンにとって、15mのビッグキッカーを飛ぶことは、重力を楽しむ遊具の延長にあるらしい。
—得意なトリックはなに?
「バックフリップ!」
この映像を見てほしい。着地の精度は大人顔負けのビタ着だ。余裕たっぷり。
—どうすればバックフリップで着地をピタッと決められるの?
「高く飛んで、体をピーンって反らして、後ろに回って、半分回ったら着地をちゃんと見て、足りなそうだったら縮んだりする。オーバーしそうになったら、そのときに体をメッチャ伸ばす」
つまり、空中で自分でムーブメントを調整できているということ。誰に教わるまでもなく、やってみたら自然にできた! というから驚きだ。それでいて体の動きをわかりやすく言語化できているとは、たいした10歳だ。
—ジャンプをしているとき、気をつけていることは、なにかあるのかな?
「バランスを崩さないこと。軸」
—どうやったらバランスがとれるようになるの?
「トランポリン。6歳から”HakuBounce(ハクバウンス)”によく行ってる。スケ―トボードもやるよ。夏はマウンテンバイクに乗ったり、川で泳いだり、ウォータージャンプも。あと野球も好き」
これらは由馬クンにとってすべて楽しい遊び。
「練習してるって感じはなくて、遊びながらうまくなってるって感じ」
とサラリと言う。特別なトレーニングはしていない。それでも、すでに“空中”で体を操る術を知っている。
由馬のスゴさ

由馬クンは‘24-25シーズン、JFO(ジャパンフリーライドオープン)やHAKUBA VALLEYを中心に開かれているちゃんめろフリーライドオープンと、全部で4つの大会に出場した。
「JFO以外の3つはみんな優勝したよ! JFOではスタートしてすぐのギャップで360をかけたけど、ちょっとタイミングが合わなくてスキーが片方外れちゃったんだ。でも残った片足のスキーだけで途中まで滑って降りてきた。そうしたら特別賞をもらってTHE NORTH FACEのバックもらっちゃった!」
と嬉しそうに話してくれた。
JFOは10年の歴史を持つ日本有数のレベルの高いフリーライド大会だが、由馬クンは「Genius賞」なるTHE NORTH FACE 提供の特別賞を受賞。

この賞は、技術やスピードだけでなく、滑り手の個性・創造性・流れのあるライディングを称える賞で、由馬クンになんともピッタリではないか。
そもそも、この時の大会斜面は20cmの新雪が降り積もっており、大会中も雪が降り続くコンディション。スタートしてすぐに斜度のあるツリーランがあり、木々の間を縫って滑ったあとには、あちこちに凸凹のあるオープン地形が待っている。しかも、雪のため視界はフラットライト気味で斜面の地形が認識しにくいほど。
そんな状況でも片足スキーで途中まで滑ってくるなんて、それだけでも由馬クンにどれだけの技術や根性があるかが、うかがい知れる。
さらには、こんなエピソードも。
「ちゃんめろフリーライドオープン」のなかでも最もコース難易度が高く、大人も苦戦する八方尾根スキー場での「おむすびオープン」で、由馬クンは淀みのないスピードに乗った滑りと、得意のバックフリップを決め、100点という満点スコアを叩き出した。
その滑りを見たジャッジが「これ以上、上はない」と評価したということだ。
これが当日の滑り。ぜひ再生してみてほしい。
これには由馬クンのお父さんも舌を巻いた。
「100点にはちょっと驚きましたね。フリーライドの大会で100点というのは、まず出ないので……。まぁローカル大会ですから応援の気持ちの加点もあるんじゃないですか」
と苦笑いしつつも、
「ほんとに試合の“ココ”っていう1本で決めるよなぁ、うまく合わせてくるなぁ、と感心します(笑)」
隣にいたお母さんも
「由馬は度胸がすごい。肝がすわっているというんでしょうか」
と一言。


もはや、ついていくのに必死なお父さん
由馬クンの滑りは映像で観る通り、スピードが速くてアグレッシブ。そしてとびきりクリエティブだ。ドロップインから選ぶラインひとつとっても、遊び心にあふれている。

「スタートから全体を見て、遊べるところを探して、なるべくジャンプのポイントの多いラインをいく。スピード? 全然怖くないよ」
と、由馬くんもそれを意識しているかのようなコメント。
「もう最近じゃ、後ろをついていくのが大変なくらいスピードが上がってきて……(苦笑)」
と、お父さん。
実は、由馬クンのお父さんとは、柴田勇紀。白馬をベースに活動するプロガイドだ。ガイディング仕事の傍ら、フリーライドのコンペティションFWTQにも参戦し続けており、2023年FWTQ白馬3位と表彰台にも上るプロアスリート。
この父をもってして「ついていけない」ほどの滑りをする息子。一体どうしたらこんなスーパーキッズが育つのだろうか。
やはりちいさな頃から将来を考えて、英才教育をしてきたのか。
「いえいえ、全然です。特別なことはなにもしてきていないんですよ。ただ、家から一歩外へ出れば、すぐゲレンデなので、ちいさな頃からスキーが遊びでした。
小学校3年生くらいから体もすこしできてきて、滑る時間も増えて急に上手くなってきた。
コース上なら、どんなところでも滑れるようになったので、じゃあって、コルチナのツリーランやちょっとしたバックカントリーへも連れていくようになりました。
でも、まさか、こんなふうに対等に滑り合う、セッションバディのようになるなんて、その時には想像もしていませんでしたけれど(笑)」
いまではシーズン中に50日ほどは親子で一緒に滑っているという。GOPROやスマホでお互いの滑り動画を撮り合うのは、まさしく相棒と言えよう。
その原動力
こんなスーパーな我が子を、お父さんはどう思っているのか。
「集中力や発想力はホントすごいなって思います。好きなことをしているときの集中ぶりは、驚くほどですね。山に行ったらもう夢中でずっと滑っていますから。それに面白いことを思いついたり、新しいことに次々チャレンジしていくんですよね。怖いもの知らずです、ほんとに。
彼の滑りに、僕があれこれと口を出すことは一切ないですね。自由に思うままにやればいいと思うので。唯一言うことは、安全管理の面だけです。
悪天候やツリーランでのリスク、ゲレンデでの人との合流ポイントとか、安全のことだけはうるさく教えていますけど、あとは見守るだけです。なにかあったときのために、リフト券ホルダーには緊急連絡先などを記した紙を入れています」
ロッジの庭にお父さんが塩ビパイプを設置したら、由馬クンは夜遅くまで黙々と一人で滑り続けていたという。その集中力と、スキー大好きな熱量たるや、滑りと同じように「半端ない」ようだ。


そんな由馬クンに、昨シーズン、自分が成長したなと思うことや、新しくできるようになったことを聞いてみた。
「グラブをしながら360ができるようになったこと。セーフティグラブ360、ジャパングラブ360、あとテールグラブ360。今年、はじめてグラブをやろうと思って、やってみたら、できちゃった。セーフティグラブが一番好きかな」

—次にメイクしたいのは?
「フロントフリップ。ミュートグラブをがっちりつかむこと。あとはダブルバックフリップもやりたい!! この夏はウォータージャンプをいっぱいやって、冬にはできると思う」
未知なる可能性の塊とはこのことだ。10歳のエアマスターの頭のなかに「無理」の2文字はきっとない。
ちなみに、コチラはトランポリンでダブルフリップのイメージトレーニングをする様子。この冬のメイクは間違いなさそうだ。
—いまスキーをしていて一番嬉しいのは、どんなこと?
「上手いじゃん、って言われること」
お父さんに言われて一番嬉しいのは「上手いじゃん」という言葉なのだそう。プロスキーヤーの父に上手いと言わせる、そこに喜びを感じるとは、なかなか大人びた発想ではないか。
—由馬クンは、お父さんのことどう思っているの?
「すごい上手。滑り方とか」
—お父さんになにか言いたいことは?
「いつもありがとう」
テレながら言った。お父さんをリスペクトし、支えてくれることに感謝を伝えられる、良い子の由馬クン。
自由に駆ける馬
由馬クンは10歳にしてこの滑り。当然、白馬コルチナをはじめ界隈では名が知れる人気者だ。滑りに行けばリフト乗り場のおじさんたちがお菓子をくれたり、声をかけてくれる。
こちらの動画を見てみよう。白馬コルチナ第4リフト乗り場は、新雪が積もった翌朝は100人を超える長蛇の列ができる。そのギャラリーをこんなに沸かせる10歳は、まずいない。
みんなに「由馬ヤバい」や「由馬ってスキー上手いよね」と言われたり、ギャラリーの歓声は、由馬クンのスキーへの思いをもっと熱くする。
—将来はどんな人になりたいの?
「プロスキーヤー」
と即答。やっぱりね!

「“由馬”って、自由に駆ける馬という意味なんです」
とお母さん。
どこまでも自由に育ってほしい、とお母さんが名付けたこの名前は、まさに彼の滑りそのものを言い表している。
誰よりも速く、誰よりも自由に、雪の草原を駆けて抜けていく。その姿に大人たちはワクワクし、驚かされるばかりだ。

最後に、由馬クンみたいにスキーをしているキッズやジュニアたちに何か一言メッセージを、とお願いしたところ……
「がんばれ! がんばると楽しいことがあるから」
スーパーキッズ・柴田由馬。10歳のフリースキーヤーは、これからどこまで羽ばたいていくのか。
これほど楽しみな未来も、そうはない。

