日本において、スキーのナショナルチームのコーチとはいかなる人たちで、どのような仕事をしているのか。専門誌でもなかなか取り上げられないこのテーマについて掘り下げていきたい。今回は、ミラノ・コルティナ五輪でのメダル獲得も期待される日本モーグルチームの城勇太ヘッドコーチに話を聞いた(全2回の1回目)。まずは、責任重大なヘッドコーチの役割と、負荷の分担に焦点を当てたい。
ヘッドコーチはチームの経営者のような役割

「ナショナルチームのコーチは、単に技術指導だけをしていればいいのではありません。業務は多岐にわたります」
未成年者もいるチームのなかで、コーチには指導、責任、統括という役割が求められる。
「ヘッドコーチである私は、チームをマネジメントする立場にあります。ビジネスに置き換えれば〝経営者〟のようなポジションですね。予算を管理し、全体の戦略を考えます」
経営者は常に業績アップが求められ、なにか問題が起きれば責任を問われる。今回、話を聞いた城コーチは2000年代に選手として活躍し、指導者として豊富な経験を持つ。
2018‐19シーズンよりヘッドコーチに就任。ソチ、平昌、北京と過去3度の冬季五輪を経験してきた、日本モーグルチームの大黒柱的存在である。
「海外遠征の際には、どのようなスケジュールを組むのがベストかを判断し、準備を進めます。航空券や宿の手配も私の仕事です。
それから、他のコーチやトレーナーを人選し、任命することも大事な仕事ですし、さまざまな基準を作成するにあたりコーチたちの意見を取りまとめ、競技本部に提出するというのも私が担っています」
プロ野球のチームやJリーグのクラブでは、ヘッドコーチの上に監督がいて、その上にGMや同様の役割を果たす人が置かれることがある。
しかし、スキーのナショナルチームの場合、ヘッドコーチが監督とGMの役割を兼ねているようなかたちなのである。
「最終的には全日本スキー連盟(SAJ)の担当理事の方と話し合って決めますが、どの種目でも、ヘッドコーチが決めたことは尊重され、ほぼ採用していただいています」
さまざまな役割を担うコーチングスタッフ
現在、フリースタイル・モーグルのナショナルチームは、'25世界選手権モーグルで優勝した堀島行真、同モーグルで2位の冨高日向子、'25W杯デュアルモーグルで総合3位の柳本理乃がS指定、その下にA指定、B指定の選手が配置されトップチームを構成する。
さらに育成枠のD指定の選手が30人程度控える。五輪、世界選手権、W杯などに出場するには、原則としてSAJの強化指定選手に認定される、つまりナショナルチームに入る必要がある。

この巨大なピラミッドを支えるのが、コーチングスタッフである。
ヘッドコーチのほかに、チーフコーチが1人、テクニカルコーチが5人。また、セクレタリー、ドクター、理学療法士、ストレングスコーチ、栄養士といったスタッフがコーチングスタッフとして名を連ね、それぞれの専門分野でチームに貢献している。
「モーグルの場合はヘッドコーチの業務量が非常に多い実情があります。そこで、セクレタリーの方が私の実務をサポートしてくれています。もっともセクレタリーに細かい仕事を全部丸投げしているわけではありません。
たとえば、遠征の日程は私でなければ決められません。ある大会が雪不足で中止になり、次の大会までスケジュールが中途半端に空いてしまうことがあります。
その場合、そのまま現地に残るのか、日本にいったん戻るのか──これは私が判断しなければならない部分です。
ですから、ある程度、具体的な内容が決まった段階になってから、セクレタリーの方が、SAJが提携しているJTBさんを通じてチケットや宿の手配をするようなシステムになっています」
セクレタリーの仕事は航空券や宿泊の手配だけではない。
「チームや選手は国からの援助を受けているため、その事務的なやり取りもセクレタリーが担っています。私が業務量的に対応しきれない部分を、セクレタリーに補ってもらう、というかたちですね」
チーフコーチは土台を固める役割
名簿上、ヘッドコーチの次の席次に名前があるのがチーフコーチだ。
現在、この任務を担当している小林茂コーチは、チーム最年長で、元ナショナルチーム選手でもある。ロングなモヒカンヘアをトレードマークとする〝モヒカン小林〟として、90年代にはテレビのスキー番組でもおなじみだった人物だ。
ナショナルチームのコーチ歴も長く、長野五輪・金メダリストの里谷多英、W杯と世界選手権優勝経験のある上村愛子の現役時代を知っている。
「チーフコーチは、コーチ陣をまとめる立場ですね。小林コーチは選手としても指導者としても経験が豊富な、とても頼もしい存在で、いろいろと相談しながらやってきました。
私が経験した3度の五輪は、いずれも小林コーチと一緒でした。ナショナルチームを直接強くする役割というよりも、各地で優秀な指導者を育てることも含め、選手たちがナショナルチームに入るまでの制度を強化する役割を担っています」
つまり、ナショナルチームだけではなく、その下のピラミッドの裾野を広げ、土台を盤石にするべくトータルでの動きをする人なのだ。城コーチは日本のモーグルがさらに強くなるためには、この部分が重要だと力説する。
「サッカーのコーチはライセンスが必要ですよね。どんなに高いコーチング技術があっても、ライセンスがなければコーチになれない。
それに対して、モーグルに限らずスキー連盟全体にはコーチのライセンス制度が完全に整っているわけではありません。そこで、いまはJSPO(*1)と連携してコーチ資格を作っています。将来的には、資格を持ったコーチが増えていくべきだと考えています。そうなってくると、チーフコーチの役割はさらに重くなっていくのだと思います」
*1=国民スポーツ大会などの事業や、公認スポーツ指導者(コーチ資格)制度の運営などを行う公益財団法人「日本スポーツ協会(Japan Sport Association)」の略称。
モーグルは比較的新しい種目である。90年代に五輪正式種目化した、まだ若い種目である。20年前を考えると、強化、育成システムはかなり成熟している。しかし、まだまだ発展途上であり、さらに向上させる必要があるというのが城コーチの考えである。
ヘッドコーチが現場不在の理由

2018‐19シーズンよりヘッドコーチとして、現場での陣頭指揮を執ってきた城コーチだが、昨シーズンから海外遠征時にチームに同行せず、一歩引いた立場に退いた。
「実は怪我をしてしまいまして、その部分が十分に回復できていないということが理由のひとつです。ミーティングにはオンラインで入り、日本から随時バックアップするかたちで五輪シーズンに臨みます。
大会現場に出向くのは5人のテクニカルコーチで、そのなかで、従来は私が担っていた現場でのマネジメント業務は島谷コーチにお願いしています」
見方を変えれば、城コーチが現場にいかなくても五輪で戦える。それだけの力が日本チームにあるということだろう。
五輪金メダリストが日本チームを指導
現場を任されるテクニカルコーチというのは、文字通り技術指導コーチである。
システム的には、コーチが全員に一律に指導をするのではなく、いわば個別指導である。AコーチはB選手とC選手を、DコーチはE選手とF選手を指導するといったようなかたちに分散される。
「私自身、ヘッドコーチの業務をやりながら、北京五輪までは特定の選手の技術指導をしていました。島谷博幸、遠藤尚、ヤンネ・ラハテラの3人は北京五輪のときからのメンバーです」

島谷博幸コーチは90年代中期より国際大会出場歴があり、モーグル指導歴が長い。
遠藤尚コーチは、バンクーバー五輪7位、W杯表彰台経験もある。堀島行真の前の日本チーム男子のエースであり、現役選手に近い立場にある。
フィンランド人のヤンネ・ラハテラコーチは、1998年の長野五輪で銀メダル、2002年ソルトレークシティ五輪で金メダルを獲得。W杯優勝経験も豊富な世界の頂点を極めた選手だった。
日本チームは90年代より海外からコーチを招聘するようになったが、そのなかでもヤンネ・ラハテラコーチは最大の大物であり、その技術と経験が日本チームに注がれているというのは、特筆すべきことだろう。そして、近年はコーチの補強があった。

「日本チームはW杯に出場できる選手が多いので、一人ひとりの指導が薄まらないように、昨シーズンから谷口岳穂コーチ、今シーズンから舘田舜哉コーチが加わりました。今シーズンは五輪シーズンでもあるので、この新しい2人も海外遠征に帯同します。
北京五輪の際は、島谷と遠藤がW杯チームのコーチになったばかりだったので、フル帯同して経験値をアップさせるということがありました。今度は、谷口、舘田が五輪も経験することで、指導者としての経験値は確実に上がるでしょう。まだ先の話ですが、2030年の五輪には、2人がチームを引っ張っていけるようになっていればいいですね」
城コーチが一歩引いたのは、若いコーチの育成の意味もある。若いコーチが、海外のビッグゲームを経験することは、チーム全体の財産になるのだ。
後編はこちら

フリースタイル・モーグル コーチングスタッフ
・ヘッドコーチ:城勇太(1982年12月4日生)
・チーフコーチ:小林茂(1966年6月28日生)
・テクニカルコーチ:島谷博幸(1974年8月29日生)
・テクニカルコーチ:遠藤尚(1990年7月4日生)
・テクニカルコーチ:ヤンネ・ラハテラ(1974年2月28日生)
・テクニカルコーチ:谷口岳穂(1994年7月17日生)
・テクニカルコーチ:舘田舜哉(1991年10月25日生)
・ドクター:勝田紘史、小岩空男
・理学療法士:瀬戸口淳、兵頭惇
・理学療法士:徳富みずき
・ストレングスコーチ:伊藤秀吉、西村貴宏
・栄養士:伊藤あゆみ
Photo by Sho Endo


