ひだ流葉スキー場は、東洋一の採掘量を誇った岐阜県・神岡町にある。地元・西区の青年たちによる「西スキー場」として始まり、昭和34年に町営化。以来60年以上の歴史を刻んできた。
「パウダーを楽しめるスキー場」「コースが面白いスキー場」など、数々のランキングで1位を獲得する西日本屈指の実力派。“知っている人だけの贅沢”なスキー体験ができる——そんな噂を確かめるべく、現地を訪れた。
長い一日の始まり
10年に一度とも言われる寒波の襲来。天候が心配されたものの、取材当日の1月21日(水)は幸運にも快晴。早朝から営業終了後の造雪作業まで、現場を飛び回っているという代表・新家竜次さんの一日に密着を試みた。
新家さんの朝は、SNSでの情報発信から始まる。代表を務めながら、雪造り、パトロール、隣接するキャンプ場の管理まで兼任。この日は地元小学校のスキー教室もあり、朝からセンターハウスは賑やかだ。電話対応をしながら、身支度をする子どもたちに声をかけ、笑顔で送り出す姿が印象的だった。

スキー場のベースにある「Mプラザ」は、スキー場の顔であると同時に地域の交流センターでもある。通年利用され、世代も目的も異なる人々が集う場所。施設の25周年記念展示として、どれも懐かしさを感じるレトロなデザインの歴代のポスターが並ぶ。



目に見えて軽い雪
外に出ると、ユーミンの懐メロが流れる中、雪がちらほらと舞い始めた。まるでスローモーションのように、ゆっくりと落ちてくる雪。その軽さは一目でわかる。
同じ岐阜でもそれほど雪が降らないスキー場もあるなか、ここひだ流葉は軽くふわふわした雪が多く降り積もる。雪が溜まりやすい地形でもあり、朝昼晩と50cmずつ降ったこともあったそうだ。さらに、スキーを履いていなければ、“柔らかすぎて歩けない”ほどだと言う。

「ひとまず滑ってみてください」ということで一本滑ってみると、表面に積もった雪が軽すぎて、下地の感触だけが伝わるほど。例年より暖かいと言われる今季でも、この雪質だ。期待が一気に高まる。

そのまま、全長約1,000mのクワッドリフトで中腹へ。降り立った先は、絶好のフォトスポット。晴れた日には、北は薬師岳、南は御嶽山まで12峰を見渡す大パノラマが広がる。条件が合えば、古川盆地を覆う雲海が見られることもあるという。

マップの何倍にも広がる面白さ

「コースが面白い」という評判は、正直マップだけでは伝わってこなかった。だが実際に滑ってみると、その印象は一変する。第1、第2、山頂ゲレンデと、それぞれが別のスキー場のような広さ。ひとつのコースの中にも、幅の増減、斜面の緩急、雪質の変化などアクセントが随所にあり、かなりの滑り応え。
マップには描かれていないものの、ベースエリアの緩斜面脇には連続ウェーブも設けられ、初心者でも景色を楽しみながら、遊び心を持って滑れる工夫が感じられる。

“別世界”の山頂ゲレンデ
足慣らしを済ませ、ペアリフトで山頂へ向かう。岐阜県内でもとくに美しい樹氷が見られるとの評判通り、リフト乗車中はもちろん、ゲレンデのあちらこちらで、樹氷した木々が光を受けてキラキラと輝いていた。


景色を楽しんでいるうちに、標高1,422mの流葉山頂に到着。

“別世界”とも称される隠れ山頂ゲレンデは、海外リゾートを思わせる開放感。広大なオープンバーンに、リフトが架かるだけ。どこでも自由に自分のラインで滑れると思うと、リフトを降りるのが待ちきれない。

オープンバーンのパウダー、大きくうねるすり鉢地形、ダイナミックな非圧雪急斜面。お隣の長野に例えるなら、志賀高原のパウダー、野沢温泉の地形、白馬の眺望。それぞれの魅力を凝縮しながら、より手の届きやすい価格帯で楽しめる贅沢さが、このスキー場にはある。



コースを滑っていると、巡回中の新家さんと遭遇した。高校までアルペン競技に打ち込んでいたというだけあり、雪上で働く身のこなしには無駄がなく、キレがある。常連客から声をかけられる場面も多く、代表自らが現場に立ち続けていることが、このスキー場ならではの安心感につながっている。

語れるスキー場
途中、20代の頃から30年以上、愛知から通い続けているというスノーボーダーのご夫婦に出会った。彼らが語るひだ流葉の贅沢さは、やはり「絶景」と「パウダー」。ここで滑ることだけを目的に、道中の寄り道は一切なし。シーズン中、1日でも多く滑るため、食事はカップ麺で済ますこともあるという。スキー場自慢のゲレ食を我慢してもしたい贅沢が、ここにはある。

「広い斜面を、心おきなく滑れるのが良いんです。」
近所に住み「写真はNG」という男性(仮称Aさん)も、雪上で10分近く立ち止まり、熱を込めてこのスキー場の魅力を語ってくれた。
「岐阜県内の他のスキー場と比べて、平日は比較的空いているから、周りを気にせず滑ることができる。国体も開催されるような本格的なコースもあるし、斜面変化も多いし、いい練習になる。中級以上のコースが多いから、練習したい人にはとても良いと思う。これだけの雪を、貸し切り状態で満喫できるのは贅沢だよね」
ひだ流葉は、滑った人が自然と語りたくなるスキー場なのだ。
とことん地元産のゲレ食

先ほど熱弁をふるってくれたAさんが強く勧めてくれた、冬だけオープンするという、ゲレンデ下部にある焼肉店「マトン」に行ってみた。残念ながらは定休日だったが、店先には“間違いない”空気が漂っていた。
先代から受け継がれる秘伝のタレは、長野で直接仕入れるりんごの風味が効いた爽やかさと奥深さが特徴で、一度食べると忘れられない味だという。

ゲレ食の評価が高いのも、ひだ流葉の特徴だ。場内には7つのレストランがあり、どこも個性がある。ベースのMプラザ2階・展望レストランの名物は、地域のソウルフード「神岡とんちゃん」。牛ホルモンと野菜をピリ辛い味噌ダレで味付けした料理だが、神岡で一番の人気店「たからや」から取り寄せて提供しているという。

山頂レストラン「カミーン」では、山之村地区産のそば粉を使った手打ちそばや、地元牧場のソーセージがのったカレーなど、地産地消のメニューが並ぶ。


なかでもユニークなのが、伝統食材「寒干し大根」を使った一品。寒さを利用して1ヵ月ほど乾燥させた大根を揚げ、塩をつけていただく「寒干し大根フライ」は、ここでしか味わえない食感と甘みだ。


レストランのスタッフさんに聞いたここだけの話だが、常連さんの間では、山頂エリアの「もんじ谷」というコースが人気だという。マップには載っていないため、気になる人は、ぜひ現地でスタッフに聞いてみてほしい。
午後でも残る、手つかずの斜面
無欲の勝利か。スキー教室の子どもたちが、意図せずパウダー争奪戦に勝ってしまう。パウダーの上を、列をなして優雅にトレインしていく。そんな光景は珍しくなく、午後になっても手つかずの斜面が残っている。慌てることなく、急かされることもなく、極上のパウダーを味わえる。この“余白”こそが、ひだ流葉最大の贅沢かもしれない。

「自然のまま」が一番の魅力に
6年前、管理会社の撤退を機に、このスキー場の経営に関わることになったのが、10年以上市の職員としてスキー場を担当していた新家さんのお父さんの新家行夫さんだ。「なくなるのは寂しい」という地元の声が、その背中を押した。
奥美濃エリアでは、大手資本による人工降雪機の増設などが進む一方、ひだ流葉は自然雪に頼らざるを得なかった。伐採されたままのコース、手を加えられなかった山。
しかしその“やむを得ず自然のまま”だった環境が、いまパウダー人気とともに価値として見直されている。時を経て、時代のほうからひだ流葉に歩み寄ってきたのだ。

夕方、山頂リフトに乗り込む新家さんの姿を見つけた。毎日欠かさず行っているという、リフトクローズと最終滑走者の確認だ。リフトの営業終了時刻を過ぎても、夕焼けに染まる別世界から離れがたく、雪の上に座り込む若者の姿もあった。

営業終了後、事務所に戻ってきた新家さんに声をかけると、まだまだ忙しそうに「これから造雪です」と言って、暗くなったゲレンデへと再び向かっていった。
「大規模な設備投資は難しくても、雪造りやコース整備、お客様対応など、できることを丁寧に続けていきたい」
その背中に、このスキー場の未来が、静かに重なって見えた。
Photo:Tomohiro Watanabe
Editor:Mayumi Hatano
Information
ひだ流葉スキー場
〒506-1154 岐阜県飛騨市神岡町伏方150
公式サイト:https://hida-nagareha.com/
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