舞子スノーリゾート・湯沢中里スノーリゾート・キューピットバレイなど5スキー場を運営するスマイルリゾート。次々とユニークな新しい施策を打ち、ファミリーからコアな客層までを惹きつけ、勢いが止まらない。このアイデア・吸引力はどこからくるのか? すぐさま一人の男が浮かび上がってきた。
執行役員という滑り手・その正体

朝7時、誰もいないゲレンデに一番乗りで上がる。圧雪の仕上がり具合、コース状況、パトロールの動き、そして何より自分自身で滑って、その日のコンディションを肌感覚で確かめる。
「勝手に滑り手でいたいんですよ。前に言われたことがあるんです。執行役員じゃなくて直行役員だねって(笑)」。
そう笑う八木達也さんは、紛れもなく、舞子スノーリゾートや湯沢中里スノーリゾート、キューピットバレイなど5つのスノーリゾートを擁するスマイルリゾートの執行役員だ。しかし、今日も直行する出勤先は雪の上。

「滑っているからこそ見えてくることがあるんです。だからシーズン100日は滑ってますね」
その言葉は、八木さんの打ち出す施策のすべてに通じている。
’25-26シーズン、キューピットバレイに新しいリフトが架け替えられ、舞子スノーリゾートではスノーキャットツアーのオペレーションが始まった。さらに雪上車をキッチンカーに変身させたドーナツ店が登場し、話題を呼んでいる。それらのトピックを含めて、「仕掛け人」八木達也さんに話を聴いた。
上がダメなら下がある

今シーズン、キューピットバレイの中腹にある第2クワッドリフトが延伸する形で、新たに国内最速クラスの最先端リフトに架け替えられた。以前より400m伸びて、1400mとなり、スキー場の下部から山頂までをつなぐようになったので、各段に便利になった。
「今回の第2クワッドリフトの架け替えは、はじめは山麓山頂駅を既存の位置のまま、1000m仕様での計画でした。もちろん老朽化したリフトから新しいリフトになることは、安全安心の面でとても重要です。でも、それだけだと、せっかくの更新がお客さまには椅子が新しくなっただけ、に映ってしまう。
何かできることがないか…そんな思いから、滑り手としてもっと上に延ばしたかったんです。そして山頂からの急斜面をバンバン滑りたかったんです。でも、それはさすがに非現実的で無理なので(笑)、じゃあ何かできることないかって思って、下に延ばせば、これまで拾えなかったコースが滑れるようになるなって思いついてしまったんです。

それまでは、キューピットバレイの第2クワッドって、回して滑るとコース2本しか滑れない感じだったんですね(マリオネットとエトル)。それ以外のコース、例えばソレイユやラメールを下るとボトムまで滑り切るしかなくて、山頂まで戻ってくるのにまたリフト2本を乗り継がないといけない。けれど今回の架け替えで、第2クワッド1本で山頂までダイレクトにアクセスできるようになりました。

下に延ばすっていう思いつきから、いろいろ調べていくと、[1本のリフトに対してコースが4.25本あるのが理想的なリフトの配置である]なんて法則があることもわかったんです。クワッドで4人で上がったら、4人が4コースに分かれて滑れるから、混まずに快適に滑れるけれど、もしも1コースしかなかったら、みんなが同じところを滑るしかないですよね。
ということで、下に延ばすことでリフト配置の法則上も理想的な4コースが回せるようになるし、さらにツリーランも入れたらもっと選択肢が広がるよねって。

けれど指定管理者である僕の一存でリフトを延ばす架け替えができるはずはなくて、当然、行政にお願いしないといけない。役所の方や最終的には議会の説得まで、みんなで協力していったんです。
実現してくれた上越市には本当にありがたいですし、実際に最近スキー場に来るお客さんの車、上越とか長岡だけじゃなくて、長野とか福島ナンバーが来ているんですね。それを見ると、あ、これはやってよかったんじゃないかなって感じています。新しい人たちにキューピットバレイを楽しんでもらえるようになったという手応えがありますから」
さらに…
「このリフト建設には2年を要するため、'24−25シーズンはリフトがないシーズンになることがわかっていました。売り上げを考えたら厳しい状況で、リフトのない雪山をほおっておくことはできずに、キャットツアーをワンシーズン限定で運営することにしました。
このキャットスキーがキューピットバレイで実現できたことは、今シーズンへの布石になっていましたね」
「ノートラック5本を滑っていただく 」

キューピットバレイに新しいリフトが架かったことで、もうそこでキャットを走らせる必要がなくなった。
「キャットを舞子スノーリゾートに持ってこようっていうのは、実はずっと考えていたんですね。僕は必ず朝一番にゲレンデに出るようにしてるんですよ。お客さまは滑ることを一番の楽しみにスキー場に来てくれているので、その期待に対して圧雪がきちんと仕上がっているかを見ておきたくて。
パトロールと一緒に、平日は7時、休日は6時半、お客様より1時間半くらい前に山に上がるんです。すると、誰もいないゲレンデっていうのは、静寂で厳かで本当に素晴らしくて。12月、1月だと、まだ暗くて、ちょうど朝陽が上り始めるんです。こんな絶景ってなかなか見れるもんじゃないなと……」
そこで舞子スノーリゾートで始まったのが、国内でも希少なファーストトラックキャットツアーだ。その名も「Haglöfs First track Cat tour(ホグロフス・ファーストトラック キャットツアー)」。
何が珍しいかって?
「普通のキャットを使ったファーストトラックはキャットで上がっても、きれいなバーンを1本滑って終わりなんですけど、僕は5本滑っていただこうと思ったんです。キャットで山頂部に上がってまず1本、そのあとゴンドラで2本、さらにリフトで2本。もちろん、まだ一般にはコースは開いていません。だから最大5本のノートラックを滑ることができるんです。
これって、いわゆる1日貸切のキャットツアーでも、5本か6本が目一杯だと思うので、ウチのはそれと同じくらいたっぷり滑れて、コストパフォーマンスを考えたら、それを大きく超える価値があると思うんです」

八木さんの語りに熱がこもる。6時なんて早朝から暗闇のなかキャットを走らせ、1本のキャットで5本も滑ることができる、などというゲストにとって幸せな設計は、まさに滑り手の視点から生まれたものだ。
「とにかくまず滑るってことがみんなのこの冬の楽しみなわけだから、そこを最大化して提供したいって思いで考えました。5本も滑っていただこうって多分普通の会社さんは思わないですよね(笑)。
でも、最初にキャットのファーストトラックをやろうと思ったときは、雪が降らない日はお客さまは来ないよね…降った朝しか成立しないんじゃないかった思っていたんですが、実際に始めてみたら、そうじゃなかったんです。
僕はこれまでずっとパウダーばっかり滑っていたんですが、’24シーズン終わりに怪我をして、しばらくパウダーが滑れなくて。それがキッカケに圧雪が好きになったんです。きれいに整備されたバーンでカービングをする気持ち良さが初めてわかったんです。
誰もいないゲレンデで、朝イチのバシッと締まった圧雪バーンを思いのままに滑る、これはとても贅沢な体験なんですね。これはすごくお客さまに響いたなと思って」

八木さんは嬉しそうだ。それは施策が当たったことよりも、ゲストに楽しんでもらえる新しい機会を提供できたことへの喜びだ。限りなくゲスト・ファーストのもてなし。とことん現場主義から生まれる八木さんの「思いつき」、いや、アイデアはいつも固定概念を超えていく。
今度は何だ?
世界初・ 圧雪車キッチンカーとドーナツ


’25-26の今シーズンのさらなるトピックは、舞子スノーリゾートに新たに登場した「圧雪車キッチンカー」だ。どうして圧雪車なのか。
「これ絶対に世界初ですよね(笑)。誰も圧雪車でキッチンカーやろうと思わないでしょうから(笑)。でも、自分の滑っている山・斜面を同じ目の高さで対面に眺めながら、一息つける場所がほしかったんです。山の上まで普通の車じゃ登れないですから」

温かいコーヒーを手に、自分の滑ったラインを思い出しながら、ちょっとした満足感や達成感にも浸りながらひと休み。するとワンハンドで食べられるもの、という前提からドーナツにいきついたわけです。
それに、僕、舞子スノーリゾートはイオンモールみたいな役割の場所にしないといけないと思ってるんです。どんな人が来ても自分に当てはまるものがあって楽しめる。 家族連れでも若者でもシニアでも。だから、あらゆる層に対応する食の選択肢を揃えたい。舞子スノーリゾートにはハンバーガーもカレーもラーメンもあるけど、ドーナツないなって。それにドーナツ嫌いな人、いないでしょう?(笑)」
“環境が人を育てる”という思想

八木さんのクリエイティビティは、スマイルリゾートの施設づくりにも及ぶ。ホテルの客室からスキーセンター、レストランの設計まで、執行役員自ら関わるのだ。
「もう10年以上に渡って海外の50を超えるリゾートを視察してきました。海外のリゾートはスケールも大きいし、リゾート感もあるし、どこも素晴らしい。温もりのある木や重厚感のある石を使った雰囲気たっぷりの建物や、天然の木目をあしらった心が落ち着くインテリア、美しい間接照明など、洗練されたテイストは、どこか共通したものがあるように思うんです。伝統的な良さと新しさが巧みに溶け合っていて。
それに比べると日本のリゾートはバブル期の古いままだったりする。それだとお客さまもワクワクしないじゃないですか。だからそういうところは変えていきたいし、小さなことにもこだわりたい。今年、舞子スノーリゾートの日帰りスキーセンターのカーペットを変えたんですが、それだけでも雰囲気がずいぶん変わりましたよ。
それに、環境がかっこよくなると、スタッフは背筋が伸びる。高級ホテルのフロントに立つと自然と立ち居振る舞いが変わるように、働く環境そのものがスタッフのレベルを引き上げる。そう考えているんです。それはそのままお客さまへのサービスの向上につながる。
だから僕、どこにいってもいつもずっとキョロキョロしてますね。何かを見れば、なるほど、この技術やあつらえはウチの施設にも使えないかなぁ、とか考えてる。考えすぎて気持ち悪くなるくらい(笑)」

八木さんは、根っからのアイデアマンでもあり、自ら客室のあつらえまで手作りしてしまうという本格派DIYマンだ。むいか温泉ホテルには八木さんのこしらえた自慢の部屋がある。今回は、その部屋(写真上)で話を聴いた。
「業者に頼むと時間がたくさんかかっちゃう。できることは自分たちでやっちゃったほうがスピーディですしね」と笑う。
八木さん、執行役員でしたよね…?
360日の覚悟
リフトを延ばす、キャットツアーを走らせる、山の上にキッチンカーを持ってくる。「これがほしかったんだ」と、八木さんは一見、自分の好きなように新しいことを次々と実行しているように見える。実際そうだ。しかし、その仕事のスタイルは独裁者とは程遠い。
「一人から理解してくれる仲間を作って、徐々に周りに広げていく感じかな。僕のやり方は。おもしろいことだと気づいてもらうと、みんな〝自分ごと″になって知恵を出し合ったり、急にチームが固まって目的に向かって動き出したりするんですよね。何か新しいことをやろうとすれば、自分一人では決してできなくて、必ず他の部署や周りの人との連携や調和が求められる。人を巻き込んでいく、それを攻略していくっていうのも楽しいんですよね」


八木さんは、スマイルリゾートに来る前は、カヤック競技の世界タイトルを持つほどのトップアスリートだった。国際大会を転戦する選手からスキー場を統括する経営者へ。「一緒にスキー場やらない?って声をかけられたから」と簡単に言うが、まったく違う畑への劇的キャリアチェンジの背景には、どんな思いがあったのだろう。
「それまで、年間360日水を漕ぐ人生だったんですね。その情熱を今度は仕事に注ぎたくて転職したんです。だから僕、360日働ける体制なんですよね」
これが八木さんの覚悟だ。だからいつもこんなにパワフルで熱いのか。シーズン中、毎日山に上がることが億劫になることはないのだろうか?
「ない、ですね。午前中東京にいても、午後には湯沢に戻って必ず山には上がっていますね。任されているから毎日しっかり見ておきたいという気持ちなのかな」
八木達也の仕事の流儀

そんな八木さんが大事にするのは“バランス感覚”。それは、常に変化する形のない水の流れと巧みに調和しながら艇を走らせるカヤックの経験から、体に沁み込んできたものなのだという。
「何かをするときに、それっていいのか・悪いのか、バランス感覚的にどうなのかな、といつも考えるようにしています。ときにはどこかにやわらかに着地させるのも仕事」
このバランス感覚こそ、八木さんを理解するのに欠かせないキーワードかもしれない。
湯沢中里スノーリゾートやキューピットバレイはファミリースキー場かと思いきや、広大なツリーランエリアを開拓したり、キャットツアーをオペレーションしたり。ピースフルな日帰りスキーのイメージがある舞子スノーリゾートにエキサイティングなFWT (Freeride World Tour)の Qualifier大会を呼び込んだり。どうして?と思わせる意外性にあふれた展開が、スマイルリゾートにはある。
ファミリー層とコア層、自由を求めるユーザーと安全を守る責任、上がダメなら下に延ばしたリフト、無駄な投資をせずに持っている資源を有効活用したキャットツアー、山中にレストランではなく走らせたキッチンカー…。八木さんの施策は、すべて絶妙のバランスの上に生まれた「あるべき姿」ではないか。
「でも、一番根っこにあるのは、僕が滑り手でいたいからだと思うんです。要は、自分が滑りたいわけです(笑)。でも、滑り手でいることってすごく大事だと思っているんです。滑り手でいることで気づくことって絶対にあると思うから」
滑り手が経営者のスキー場は、だからおもしろい。
執行役員、八木達也の仕事の流儀。
八木さんは、今日も朝一番のトラックを刻む。
朝陽のなかに見ているのは、スマイルリゾートを訪れるゲストや、ともに働くスタッフたちの"いい笑顔″ではないか。
Edited by Chise Nakagawa
Information
スマイルリゾート
公式サイト:https://www.smile-resort.com/

