「スキー場マニアへの道」 ~降雪機&造雪機の巻~ シーズンインを支える立役者・今まさにフル稼働中!|前編

このシリーズは、日本のスキー場をより詳しく、マニアックに知るためのあれこれを、さまざまな観点から解説していくものだ。第3弾は、早いシーズンのスタートを支え、雪不足問題もフォローしてくれる降雪機&造雪機について。シーズンインが早いことで知られるスキー場では、10月末~11月初旬のオープンに向けてフル稼働が始まっている。この降雪機&造雪機、一体どんなものなのか?


特にシーズン初頭は多くのスキー場が造雪機・降雪機を安定運営に活用している
INDEX

アメリカで実用化しだが人工雪の起源は日本にあった!?

人間が人工的に雪を造った歴史は古い。記録が残っている最初は、第二次大戦前の1936(昭和11)年、日本でのことである。当時、北海道帝国大学(現・北海道大学)の理学部教授だった物理学者の中谷宇吉郎氏は、雪の研究に没頭していた。そして、大学の低温実験室にて世界初の人工雪の製造に成功。結晶が形成される過程、雪と気象条件との関係を解明している。

中谷氏は低温科学の権威として大きな功績を残し、後に雪や氷をテーマとした科学映画の制作に携わったり、グリーンランドの氷帽(巨大な氷の塊)の研究に挑むなどもした。ただし、中谷氏の人工雪は商業化を主目的としたものではなかった。つまり、今日、ゲレンデに敷きつめられている人工雪と直結している訳ではない。

初めて人工雪が実用化されたのは、1940年代の終わり。アメリカのスキー場でのことで、氷を砕いた人工雪が用いられたといわれる。その後、塗装用のスプレーガンを改造した降雪機が発明されたり、氷を砕く方式の「アイスシュリンガー」という造雪機が生まれた。後者は埼玉県に'59年に開業した室内ゲレンデ・狭山スキー場などでも導入された。

現在とほぼ同じ方式の人工降雪機が広まったのは、'60年代のことだ。これを初めて用いた国内の屋外スキー場は、軽井沢(現・軽井沢プリンスホテルスキー場)で、これが'61年。国内で人工降雪機が普及したのは70年代後半。各地にスキー場が次々にオープンしていったことが背景にある。

そして、80年代の終わりから90年代序盤にかけてのバブル期は、とにかく斜面があり、リフトが架かっていれば人が集まった時代だった。そのため、気温は低いものの恒常的に積雪のない地区にスキー場が建設されていったのだ。こうして、降雪機の出番は一気に増えた。

スキーブーム終焉後は違った理由でニーズが高まった。地球温暖化により、それまで天然雪でまかなっていたスキー場も人工雪に頼らざるを得なくなったのだ。一方、造雪機はスキー場のオープン日を確実にし、気温が氷点下になる時期まで雪の量を保つことを主目的に広まっていった。

特に、一足早い開業を目指すスキー場には俄然重宝される。オープンが早いスノータウンYeti(イエティ)や軽井沢プリンスホテルスキー場、岐阜県の奥美濃エリアのスキー場が顕著な例だ。

日本における降雪機、造雪機開発のパイオニアは樫山工業で、'78年に日本製の一号機をリリースしている。                

樫山工業の国産降雪機初号機は自走式

人工雪を造る「造雪機」と「降雪機」-雪が造られる原理は?

このように噴射するタイプは「人工降雪機」(ファンタイプ)

人工雪を生む機械には
●人工雪機
●人工雪機

の主に2種類があるのはご存知だろうか。そして、降雪機はさらに、この2つに分類される。

A. ファンを回して拡散させる「ファンタイプ(スノーマシン)」
B. 細長いパイプの先端から噴射する「ガンタイプ(スノーガン)」

どちらのタイプでも降雪機が雪を降らせる原理は同じだ。ベースエリアから水を供給し、それを粒子状にして空気中に散布する。この小さな水のツブは「核」と呼ばれる。「核」は空中を落下する間に氷(雪)になるのだ。

しかし、たとえばマイナス1℃のスキー場で、スプレー的なもので水を散布したとしても、それが地面に落下するまでに雪になることはない。では、降雪機が撒いた水はなぜ雪化するのだろう?

降雪機は、空気を圧縮させ「核」と同時に放出することで、断熱膨張効果を用い瞬間的に極度の低温空間を造っている。ここでカギとなる「断熱膨張」というのは、水や空気が圧縮すると温度が上がり、膨張すると温度が下がる現象。圧縮し温度が上がった空気は、勢いよく放出されることで、一気に膨張する=冷たくなる、という訳だ。

それでは、「ファンタイプ」「ガンタイプ」と2種類ある降雪機のそれぞれの特長について見てみよう。

低温時に大量の雪をつくる「ファンタイプ」の降雪機

パワーがあり、降らせられる雪の量が多いのが「ファンタイプ」(樫山工業)

ファンタイプは、コンプレッサー(圧縮するための機械)を搭載している。大きなファンが付いているが、これは噴射した「核」の滞空時間を稼ぐためのもの。滞空時間を長くすることで、着地するまでに氷(雪)の結晶を大きくさせる。

空気の使用量が少なく、ランニングコストは控えめ。かつ低温時に大量の雪を造りやすいという強みもある。逆に原理的に、高温時(マイナス1~3℃)には、あまり多くの雪を降らせられないとされている。

【降雪機】ファンタイプ(スノーマシン)

・低温時なら大量に降雪できる
・電気タイプと油圧タイプの大きく2つに分かれる
・新型は高温時もパワーが落ちない


▼ ファンタイプの降雪機の仕事ぶり


進化して弱点を克服した「ガンタイプ」の降雪機

高いところから噴射する新しい「ガンタイプ」

一方、旧来のガンタイプは、水と同様にベースエリアからの配管により圧縮空気を供給し、断熱膨張効果と「核」の滞空時間を稼ぐ効果により雪を造る。空気を大量に使用するため、エネルギー消費量が大きいデメリットも。反面、高温時の降雪には優れているとされる。

ただし、最近は旧来のガンタイプとは違う、空気消費量を抑えた「ローエアーガン」「スティックタイプ」と呼ばれるものが登場している。「核」を形成させるためにコンプレッサーによる断熱膨張効果を利用するが、滞空時間を稼ぐことにその空気圧を利用しないタイプである。滞空時間は「高いところから落とす」ことによって稼いでいる。原則的に空気消費量が少ないため、ランニングコストを大きく削減できる。欧米ではほとんどこのタイプに切り替わっているそうだ。

すべてに共通するのは、降雪機はマイナス1℃以下にならないと、スキー場が必要とする雪の量を造りだせないという点だ。もちろん、気温が低ければ低いほどできる雪の量は増える。気温を感知し、設定温度になると自動で降雪を始め、気温が下がれば水量を大きくするような自動化も開発されている。

【降雪機】ガンタイプ(スノーガン)

・高温時でも強さを発揮する
・エネルギーを多く消費する
・最近は省エネ型に移行している


「降雪機」とは原理がまったく異なる「造雪機」

造雪機のプラント。スキー場で見かけたことがあるかもしれない

一方、造雪機はベースエリアにあるプラントで氷を造る。そして、それを限りなく雪に近い形状に粉砕し、斜面の敷き詰めるというシステムだ。よく「アイスクラッシャー」といわれる。こちらは、夏にかき氷を造れるのと同じで、雪を造る(氷を砕く)ところまでは気温に左右されない。かき氷は常温でも一定時間は解けないように、造られた雪は氷点下でなくともしばらくは雪の体裁を保つのだ。

造雪機はいつでも雪をつくることができるため、スキー場オープンのための出足の確保には必須であり、またシーズン初頭の雪を安定的に得るために重宝される。気温がマイナスにならない状態で、雪がまったくないところにいきなり降雪機で雪を撒くことは、まずないためだ。

人工雪でオープンを迎えるスキー場は、オープン前にはだいたいこの写真(下)のような風景が見られる。プラントで氷を造り粉砕し雪状にする。それに日光や雨が当たる面積を小さくするため、まずは山状にして保存しておく。営業開始前に圧雪車で拡げて、コースに敷き詰める、というわけだ。

降雪機よりコストがはるかにかかるが、氷点下でなくとも造雪できるのが、造雪機の圧倒的な強みだ。

プラントで氷を造り粉砕し雪状にして保存。コースには小さな雪山がいっぱいに

【造雪機】

・最初から雪状の氷を造るマシン
・気温に関係なく雪を造れる
・コストは降雪機より高くかかる

降雪機&造雪機を造っているメーカーとは?

スキーブーム絶頂期の'91年の樫山工業の工場前。この時代に降雪機は広く普及した

降雪機&造雪機は、 欧米にそれぞれ大手メーカーがある。アメリカの代表格が'65年創業の「SMI」で、これまでの実に1万2,000台以上のマシンを納入し、その9割が現役で稼働しているという。欧州メーカーでトップシェアを誇るのがイタリアの「テクノアルピン」だ。こちらは'90年に創業され、短期間で世界的なメーカーに急成長を遂げた。この2ブランドの日本国内での販売を行っているは、圧雪車やスノーモービルなども扱う「スノーシステムズ」社だ。

一方、日本でも独自の開発が続けられている。、'78年に日本で初めて国産の造雪機・降雪機を製造し、以来、国産メーカーでダントツのシェアを誇るのが長野県の「樫山工業」。

'79年以降累計3,000台を納入。また、長野オリンピックをサポートした実績もある。ちなみに日本一早くオープンするスノータウンYetiにも、2番目に早くオープンする軽井沢プリンスホテルスキー場にも樫山工業の造雪機が導入されている。

樫山工業のスノーマシンのラインナップの中でも「KB-911」は、それまで前例のなかった様式の最強モデル。ディーゼルエンジンで自走し、外部からの電源供給は不要。水の供給のみで、雪造りをしたい場所で即雪造りができるというツワモノ。さらには、最大30度の斜面でも登り切るパワフルなエンジンと雪上用クローラを搭載。雪を降らせながらの走行もできるというから驚きだ。

第三のカテゴリーも

紙おむつや生理用ナプキンなどの吸収体に用いられる「高吸水性高分子(吸収性ポリマー)」に水を含ませて凍らせた雪は、基本的に室内ゲレンデがホームグラウンド。その元祖的存在が、'90年代に営業されていた「スキーイング イン津田沼」だ。現在では各地の「スノーヴァ」で、この系統に属する人工雪が使用されている。

わずかな量の吸収性ポリマーでも、大量の水を吸収し雪状になる

※後編へ続く(後編は10/27公開予定)


取材協力・写真提供/樫山工業株式会社スノーシステムズ株式会社(五十音順)
文/ミゾロギ・ダイスケ
編集/STEEP編集部 
出典:2017 BRAVOSKI vol.2より再編集


[Writer Profile] ミゾロギ・ダイスケ Daisuke Mizorogi 

BRAVOSKI編集部員として20年以上に渡りスキーに携わる。モーグルの取材歴は90年代より、スキー場ガイド分野でも経験が豊富にある。一方で、サブカルチャーとスキーを融合させた、既存のスキー雑誌にはない型破りな企画を数々生み出してきた。現在は、「昭和文化研究家」という肩書きも冠しつつ、スキー以外にもさまざまなジャンルで執筆や編集活動を行う。アウトドアな世界ではもっともインドアな位置に、インドアの世界ではもっともアウトドアな位置に立脚している。
https://www.d-mizorogi.com/


※合わせて読みたい「スキー場マニアへの道」シリーズ

あわせて読みたい
「スキー場マニアへの道」 ~雪上車の巻 ~雪の上で“働くクルマ”について詳しくなろう|前編 このシリーズは、日本のスキー場をより詳しく、マニアックに知るためのあれこれを、さまざまな観点から解説していくものだ。前編では、スキー場の運営、ゲレンデの造成...
INDEX