村に根差した情緒あふれる温泉文化と雄大な自然が溶け合い、独特の雰囲気を持つ野沢温泉。日本におけるスキー文化発祥の地としても知られている。歴史と伝統を誇りながらも、野沢温泉スキー場は常に新しい話題に事欠かない。直近では’20₋21シーズンは世界の最先端技術を搭載した長坂ゴンドラのリリース、そして初めてスノーマシンも導入した。
今季’21₋22シーズンには長坂スキーセンターハウスも全館完全リニューアルを果たし、ユーザーにとってより機能的に快適な環境となった。コロナ禍という厳しい状況の中でも、このように進化し続ける野沢温泉、その原動力はどこにあるのか、スキー場の代表である片桐幹雄(かたぎりみきお)さんに聞いてみた。
コロナ禍でも着実な進化を
片桐幹雄さんといえば、1970年代、世界のW-Cupレースシーンで活躍したダウンヒルの名選手。冬季五輪にも2度出場、日本スキー史にその名を刻んだ。引退後は全日本ナショナルチームコーチや国際大会のテクニカルディレクターなどを歴任、アルペン界を支えてきた一人だ。現在は地元、野沢温泉スキー場の代表取締役社長として、日々、スキー場の安全管理やゲストたちの快適な雪山時間に心を砕いている。
片桐幹雄さんに、まず近年の野沢温泉スキー場の道のりについて聞いてみた。
「野沢のマスタープランというのを2015年に作ったんです。5年後・10年後に向けて、それに沿って進めていこうという青写真を描いたんです。
昨シーズン登場した世界の最先端技術を駆使した10人乗り長坂ゴンドラも、そのプランのひとつでした。速さはもちろん静かな乗り心地が自慢です。コロナの影響で運営の技術者がオーストリアから来日できないかもしれないというピンチに見舞われ大変でしたが、なんとか乗り越えました。
昨シーズンからスノーマシンも導入しました。22基のスノーマシンはいろいろなタイプをロケーションに合わせて使っていますが、どれもスキー場の上部に設置しています。野沢は雪が多いのに、どうしてスノーマシン?ってよく聞かれるのですが、やはり安定的に雪を確保することで11月末から確実にオープンすることができる。ユーザーにとっても村にとってもいいと思うんです。今季は長坂センターハウもいよいよ完成し、さらに施設というハード面でも便利になりました。
コロナ禍でもスキーは野外の広々とした空間で安心に楽しめるスポーツとして、そのポテンシャルがますます評価されていくと思うんです。野沢は感染対策も万全にソフト面も整えています」
野沢温泉が進化し続ける背景
「日本のスキーの歴史を紐解くと必ず最初に出てくる場所であることは確かです。先代たちは、その時代の中で先駆けた取り組みをしてきたんです。そのベースになるのは今まで積んできた野沢の文化や歴史なんです。そこに共感して野沢愛を持って、長年コツコツと通ってくれる日本の常連さんが、それぞれの宿にたくさんいる。それと同じ感覚で、野沢が好きでたまらないというオーストラリアを中心とした海外ゲストも増えていき、近年のインバウンドの発展・定着に繋がりました。
外湯に行くと村のおじいちゃん・おばあちゃんがの~んびりお湯に浸かっていて、「熱いっ!」なんて戸惑っていれば入り方を教えてくれたり、先にお湯から上がろうとすると「おやすみなさい」と声をかけてくれる。そんな外湯文化が野沢の進化を支えているんだと思っています」
’22季 全館リニューアルオープンした「長坂センターハウス」!
’20₋21シーズンにデビューし、野沢温泉スキー場の新たなシンボルとなったNew長坂ゴンドラ。そのステーションに併設されているのが「長坂センターハウス」だ。ゲレンデライフに必要なあらゆるサービスを提供する総合案内施設として、この’22季に全館の完全リニューアルを果たし、シーズン頭から大活躍中だ。ちなみに片桐さんのデスクのあるスキー場管理事務所も、この4階にある。
長坂センターハウスにチケット購入窓口が集約されたことで混雑も大きく緩和、なんでも教えてくれるインフォメーションカウンターをはじめ、待ち合わせ・休憩等に利用できるデッキエリアを設置、ドライヤーのあるパウダールームや授乳室も完備した。小さな子連れファミリーも安心快適な時間を過ごすことができる。
2階のTune-up shop GLATT(グラット)では、チューンナップはもちろん、滑走する時期・雪質・滑走エリアに応じた最適なワックスを選択して、今日の野沢の山で誰よりも滑る板を提供してくれる。レンタルコーナーのSALOMONステーションではSALOMONのファットスキーも借りられるので、パウダーに当たったら現地で乗り換えというのもいい。そして、石井スポーツのコラボショップも入っているので、雪上で例えば「曇らないゴーグルが欲しい!」となれば即調達できるのも便利。滑りをより楽しむために必要な環境が万全に整っているのだ。
3階にはモーニングや挽き立てコーヒーが味わえる「Nagasaka Cafe」も登場。ベーグルやスイーツも美味しそう! 朝早くに到着した組から、日中の休憩お茶タイムにも温かな飲み物とスイーツがいただける。これは嬉しい。
踏み込んだ進化
野沢温泉といえば信州でも指折りのクオリティのパウダーと豊かな自然地形に、熱心なフリーライドファンも多い。
「近年のフリーライド人気やバックカントリーへの関心の高さにも、スキー場として対応しています。長坂センターハウスのレンタルにはパウダー系のファットスキーも用意していますし、雪のコンディションに合わせてワックスをかけることもできるので、滑りのクオリティが上げられます。
特に山頂のやまびこエリアは、以前からパウダー好きの方に人気でしたが、自己責任特別エリアとして開放しています。コースとコースの間も自由に滑ってもらえますが、昨シーズンから始めた、もうひとつ踏み込んだことがあります。
「毛無山の山頂からちょっと降りたところ、青木の方面に降りていく始点に、ゲートのような‟アクセスポイント”を2カ所設置したんです。そこから先はスキー場の管理区域外でバックカントリーとの境界という意味です。バックカントリーを滑りたい人は、登山届けを出して、必ずこのアクセスポイントから出てもらっています。
管理区域外は冬山登山と同じでスキー場の安全管理・規制のないフィールドですから、雪崩や事故が起こってもスキー場のパトロールは救助に行くことができないのですが、これを勘違される人がまだいます。野沢周辺の雄大な自然も楽しんでほしいという願いとともに、安全面での自己管理をしっかりしてもらいいたいですね。
残念ながら今季はコロナ対応でお休みとなりましたが、野沢温泉スキー場主催のバックカントリーツアーの企画もしているんですよ。また、スキープロショップの主催するバックカントリツアーなども利用されると、安心してバックカントリーを楽しめると思います。
この他にも、ヘルシーツーリズムやワーケーションの推進など、野沢の新しい魅力の提案もいろいろ考えています」
温泉文化と歴史に培われた独自のスタイルと最新のテクノロジーやアイデアを融合させながら、世の中の変化とともに進化を遂げていく野沢温泉スキー場、その魅力は増すばかりだ。3月1日から「ファミリーパックキャンペーン」(~3/27)がスタート、3月初旬には’22₋23ニューモデル試乗会が予定されていたり、3月28日から5月GWまでは春スキーサービスでリフト券もお得になる。ぜひ出かけてみたい。