20年以上前から「その先」を見続けてきた株式会社 五竜の「持続可能な取り組み」

ゴンドラで一気にゲレンデトップまで上がると、目の前には雄大な白馬アルプスの絶景。シーズン中の週末は早朝7時からのサンライズ滑走に、夜は平日もナイターが楽しめるという「エイブル白馬五竜」。そのスキー場をオペレーションし、夏は国内でも希少な高山植物を保護する「白馬五竜高山植物園」を運営する株式会社 五竜。さまざまなECO活動を推進し、環境保護に取り組む、その活動や思いを紹介しよう。

今回、お話を聴かせてくれたのは、営業推進部の田中小枝(たなか・さえ)さん。IS&SDGs委員も務めている。企業として、そして一個人として、どのような思いや考えで、SDGsにどのように取り組んでいるのだろう。

白馬の豊かな自然は田中さんをこんなとびきりの笑顔にする
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SDGsへの取り組みの背景

―環境への取り組みを始められた歴史や背景はどのようなものだったのですか?

田中さん:「SDGs」が一般的になったのは、ここ2年くらいかと思うのですが、会社としてSDGsの取り組み始めたのがいつからかというと、この「SDGs」という言葉が出てくる20年以上前から持続可能な取り組みは行われていました。

㈱五竜は創業51年を迎えているのですが、2000年に「持続性のある観光事業」を目指して、白馬五竜高山植物園の前身である「五竜アルプス山野草園」を開園しました。白馬五竜高山植物園は今年で22年目になるのですが、この植物園を守り維持してきた歴史そのものが、持続可能な取り組みの証だと思っています。

これまでスキー場開発には、やはり森林を伐採して山を切り拓くことをしなくてはなりませんでした。自然を壊しながら構造物を建て、営利をつくるのがスキー場の開発なので、今のフィールドを創るために木をたくさん伐採したり、景観を損ねるといったことは、嫌がおうにも当然してきたわけです。

長野県には高山植物という貴重な生物が存在します。日本の真ん中あたりに位置することで、全国の中でも高山植物の最南端と最北端がミックスする唯一の場所で、高山植物の種類も豊富です。五竜は、この独特な環境の中で豊かな植生を育んできたのですが、スキー場開発が自然の恩恵を受けながら、どうしても自然を侵食しながら営む事業であるのなら、社会的責任として、同時に自然を保護したり、守る動きもしていかなくてはいけないんじゃないか、というのが当時の五竜の考え方として生まれました。

かつて、開発のために樹齢400年を超える貴重なドウダンツツジを伐採せざるを得ないことがあったそうです。山麓への移植も試んだけれどうまくいかず、大切なドウダンツツジはみんな枯れてしまった。こんな苦い経験からも、当時の開発に関わったスタッフの間で、高山植物や自然の豊かさを守っていこうという強い気持ちや意識が芽生えたそうです。

―それが現在まで受け継がれてきたのですね。

田中さん:SDGsは地球環境の維持というのがメインで叫ばれている感じもありますが、本質は人間の生活の営みや経済活動がきちんと続いていく仕組みを作ろう、自然を守ることがだけが最優先ではなくて、人間が幸せに暮らせる持続的な社会を目指す、とうことです。

白馬は冬のスキーシーズンだけビジネスが回っていれば大丈夫というわけではありません。日本の人口もスキー人口も減ってきていますし、外国のお客様も来てくれますが、今回のコロナ禍のような世界情勢の変化によっては、ピタリとこなくなるとスキー場経営も立ち行かなくなるところが多々出てくる。すると地域の雇用や観光をどう維持していくかという問題になり、冬だけ担保されていればいいというわけにはいかないですよね。観光の経済的な持続可能性も大事ですし、地域の雇用を守ることも大事です。

1年を通して人にきてもらえる地域であり続けるためにも、冬のシーズン以外の営業もきちんとたてていかなければならない。と同時に自然保護をしなくてはならないという観点で、両者の解決策を考えたときに、高山植物の保護を本格的にやっていこうということになったのです。

白馬五竜高山植物園

白馬五竜高山植物園には、環境保全と白馬村の夏の観光促進という2大目的があります。アルプス平ゲレンデの斜面に遊歩道を作ったり、石を積んだり、地域の方と一緒に植栽をしたり、地道な力仕事ですが、その結果、花の株数が増えていき、10年程前から200万株・300種に達しました。今、2022年になって、日本植物園協会に登録されている高山植物の中では国内最大の多種と広さの規模を誇っています。

この高山植物の保護活動で、近年SDGsが盛り上がる前から、地球環境にとっても人間の社会活動や経済活動や企業活動においても、持続可能性という意味では、20年以上前から取り組んでいると言えるのではないかと思います。当時の方がきちんと先見の目を持って、20年先ではスキー場だけでは維持できないだろうと考えてくれたのですね。

―SDGsの17の目標の8「働きがいも経済成長も」に通じますね。

田中さん:スキー場は冬だけの期間労働者を雇ってという運営スタイルが多いのですが、夏、植物園で地道な体力仕事、水やりから始まって雑草を1日中とったり、土を入れ替えたり、木を伐採したりといったような、1日中外で働く人が、冬のスキー場のスタッフをある程度維持したまま、なるべく1年を通して雇用を確保できるような運営になっていると思います。


POWとの関わり・地球温暖化への取り組み

―五竜はPOW Japanとのお付き合いがどこよりも早かったとうかがいました。

田中さん:POWが2007年にアメリカで立ち上がって、その後2019年に白馬に居る小松吾郎さんを中心にPOW Japanが発起されました。POWとのパートナーシップの仕組みは、POWの理念や活動に賛同する企業とパートナーシップを組み、そのパートナー企業にも気候変動の危機に意識があることをアピールでき、企業側にもメリットがある、という仕組みパートナー契約を結び、POWはその協力金で活動されています。

パートナー契約は今はもう4年目になるのですが、当時白馬で立ち上がっても、まだSDGsという言葉も普及していなかったですし、雪山で遊んでいる人にしか、雪が本当に少なくなってきているということはわからなかったと思うのです。私も出身が千葉県なのですが、「最近夏が暑いな」くらいしか感じなかったですから、地球温暖化防止対策や雪を守るという考えを普及させるのはかなり新しい試みであったし、雪を守るために環境活動するという意識が人々にはピンとこなかったと思うのですよね。

当時、POWが立ち上がったことは、地元紙「大糸タイムス」にも掲載され、五竜の伊藤からパートナーシップのお声をかけました。はじめ単体のスキー場だけでパートナー契約しても、発信力を考えると、あまり意味がないのではないか、単体のスキー場だけが意識が高いことをアピールするより、白馬全体でエリアとして、地域がそういうことに取り組めるリゾートなんだといえるほうが、より価値が高いのではないかと考えていたんですね。

五竜の3大人気コースの一つ「グランプリコース」。美しいグルーミングバーンと展望の良さが魅力

だから、本当はHAKUBA VALLEYで契約したかったのですが、当時はまだPOWの存在がどのようなものか明確でなく、HAKUBA VALLEYとしては、そんなにスピード感を持って提携しましょうということにはならなかった。

けれど、来年に持ち越すよりは、今年一日でも早くパートナーを組むスキー場がいたほうがいいということで、私たち五竜が日本で一番初めにPOWとパートナーを組んだという経緯があります。その結果、八方さん、岩岳さんや他スキー場も続き、今ではHAKUBA VALLEYの11のスキー場で皆さんの同意が得られたので、HAKUBA VALLEYとして、あらためて契約しました。

―IS&SDGs委員としての田中さんのお仕事はどんなものですか?

田中さん:もともと社内で6年くらい前からIS委員会というものがありまして、ISはIncrease Satisfactionの意味で、「満足度を高めよう」ということを目的とする委員会がありました。それは顧客満足度、従業員満足度も含めて会社全体の満足度を上げるための委員会でした。そこにSDGsも加えて、今はIS&SDGs委員会として、SDGsに絡めて満足度を高めることだけでなく、SDGsの観点で考えたり、改善案を提案していこう、いろんな意見を吸い上げていこうという役割を担っています。委員会は各部署から集まって10名くらいで構成されています。月に1回集まって、いろいろな改善案を出して、上に提案して、各部署のキーマンに動いてもらうという形です。

―SDGs活動は活発なのですか?

田中さん:SDGsに沿った提案を具体的に実現していくということは、現実としてはコストがかかることが多いんです。コストカットになることはどんどんやっていけばいいのですが、コストが逆に増えることを実現するのは簡単ではありません。そんな中でも環境への取り組みとして五竜が掲げていることは、こんなことです。公式HPでもお伝えしています。

● 白馬五竜高山植物園の造成・整備を通じて、スキー場の自然再生に取り組んでいます。
● 地域の方々、未来を担う子供たち、一般の方々、取引先や同業者に環境セミナー等の啓発活動を行っています。
● CO₂削減につながる環境活動として、エネルギー使用の削減を目指し、CO₂排出量の算定・報告や、節電を行っています。
● (公社)日本植物園協会における絶滅危惧植物の保護拠点として、希少な高山植物の保護・育成を行っています。
● トレイルライダーを活用し、ユニバーサルツーリズツムを推進しています。
● ゲレンデのナイター照明や施設の照明に、LED照明を使用しています。
● ゴミの分別を徹底しています。
● レストランでは塗り箸(木曽ヒノキの間伐材)の使用を推進しています。
● シングルユースプラスチックの使用を減らします。
● レストランで使用する食材は、地元産を優先して仕入れています。
● レストランでの廃油(食用油)は、回収・精製し、車の燃料として再利用しています。
● お土産のレジ袋を削減、有料化し、その代金の一部は環境支援団体へ寄付致します。
● 制作物(パンフレットその他の印刷物)に再生紙を使用しています。
● 全社員が公共交通機関を積極的に利用し、カープールを行い「マイカー通勤期間」を設けています。
● ダイバーシティを推進し、お客様の満足度の向上や社員に教育研修をしています。
● 政府の推進する国民運動「COOL CHOICE」に賛同登録しています。

また、昨シーズンは、植物園でのワークショップのイベントの参加費を、ひとり親家庭の方は料金をいただかないで参加してもらえるようにしました。これは教育の機会を底上げする一助になればという目的からです。SDG'sの基本の、”誰一人取り残さない”という考えがベースになります。


SDGsを推進する難しさも

―SDGsへの取り組みのなかで大変なことはありますか?

田中さん:そうですね。SDGsを推進するにあたり、基本的にはコスト削減になるよりコスト負担がかかることが圧倒的に多いのも事実です。例えばですが、実践の例として、昨シーズン、車で3人以上で1台で来場した場合、リフト券を一部割引するということを、五竜・HAKUBA47でやっていたのですね。乗り合いでくれば少しでもCO₂削減にもなりますから。

こういった、スキー場にとってもお客様にとってもメリットが生まれることはすぐに実現できるのですが、ただすべての電力を再生可能エネルギーに切り替えましょうとか、照明をすべてLEDに切り替えましょうというのは、長い目で見ればコストカットに繋がるのですが、やはり初期費用的にはコストがかかります。SDGsに沿った切り替えをするにあたり、コストカットになるよりコストが増えることが圧倒的に多い。これは値上げにも直結することなので、周囲の共感やお客様の理解を得ることにおいても、まだまだ大きなハードルになっていると思うんです。

なのでIS&SDGs委員会で提案しても、「会社のコストを上げてまでやることなのか」ということにもなると、経営上の判断はなかなか難しい。㈱五竜はもともと環境保護をやってきた会社なので、今さらSDGsの目標に沿って何かに特別に取り組む、ということよりも、むしろ今までやってきた持続可能への取り組みをSDGsの枠組みに乗せて広報活動したり、新しい可能性を検討しているというのが現在です。

しかし、’20-21シーズンに導入したナイター営業のリフト稼働、照明、降雪機のエネルギーを再生可能エネルギーに切り替えたことは、とても有意義な変化といえると思います。


新しく変わったこと

田中さん:一方で、従業員の意識への取り組みは新しく変わったことかもしれません。POWさんに何回か講義をお願いして、どうして環境を守らなければいけないのか、ということをPOWの視点で、冬だけ五竜にアルバイトに来る人にも、五竜が環境保護や持続可能への取り組みをどれくらい真剣にやろうとしているのかを知ってもらうためにも、今年は2回講義を開催してもらいました。

その中で、実は日本は世界で一番雪が降る国であること、でも雪が昔に比べてこれくらい減っていて、雪不足や温暖化の仕組みはこうなっていますと解説してもらい、これから人間がどういう意識で生活をしたり、経済活動をしていけば、それに抗うことができるのか、といった基礎知識について教えてもらいました。五竜全体で環境について考え、存続し続ける企業であり続けようという場を持ちました。そのことで社員にも、新しい若い人にもわかりやすく理解してもらえたと思います。

―お客様からの反応はどうですか?

田中さん:お客様の反応は、例えば、五竜のナイターの再エネ100%稼働についてですと、そういうことに関心のある人には、「いいよね、すごいよね」と言っていただいています。2シーズン前からナイターゲレンデの電力はすべて再生エネルギーに切り替えているんですが、これは日本初なんですね。POWさんも世界中のリゾートを見てきているけど、ナイター営業をすべて再生可能エネルギーで賄っているスキー場は今まで見聞きしたことがない、と話されてました。

世界でも例のない唯一のリゾートだと、その点にすごく共感してもらって、「だから滑りに行くよ」「シーズン券を買うよ」と言ってくれるお客様もいます。ただ、ナイターが100%再生可能エネルギーを使っているなんて、ほとんど知られてないんですけれど(笑)。地元の雪山ユーザーでも知らない人も多くて、まだアピールが足りないのかもしれません。

HAKUBA VALLEYでナイターといえば五竜! 再生可能エネルギー100%でオペレーションされている

―再生可能エネルギーの利用ですが、太陽光や水力など、電力を地産するという計画もあるのですか?

田中さん:将来的には考えています。しかし、「2030までに100%再エネ化」といった具体的な目標数値は掲げていないのですが。というのも、今、再生可能エネルギーを使うことは善とされていますが、今の方法が長い目で後から見たときに必ずしも完璧であるかはわからない。

例えば、今、太陽光パネルの廃棄はかなり環境的に負荷がかかるという問題が出てきています。太陽光パネルの耐久性は20年くらい。すでに20年くらい前から普及し始めているので、今後、廃棄物が大量に出てきて、おそらく社会問題になると言われています。今、再生可能エネルギー100%を目指すことで太陽光パネルを使えば正解か、といえば、答えは「……。」だと私は思うんですね。


時代の中で最善であることを

田中さん:新しい技術が生まれれば、例えば、注目の新商品があったりすれば風力エネルギーも有効に使えるかもしれませんが、今までの風力発電だと、振動で被害が出たり、環境に負荷がかかっている発電もある。そのあたりは時代の中で最善であることを、しっかりと吟味・判断しながら進めていく、というのが基本姿勢です。

昔は割り箸がもったいないから、マイハシ(箸)を持つとか、紙を大事にしなさい、ということでプラスチック製品を使うことを奨励されたことがありましたよね。でも今やプラスチック製品は環境的に問題視されていますし、間伐材の有効活用という点では、割り箸も悪いとは限りません。こんな例から見ても、当然新しい技術が出てくれば、社会の価値基準も変化しますし、地球環境が変われば、その対応策も変わってくる。なので、今、最善ということを常に求めていくスタンスをとっている、と言えると思います。

―HAKUBAVALLEY TOURISMのSDGs小委員会について教えてください。

田中さん:HAKUBAVALLEY TOURISMという広域型DMO(観光地域づくり法人)※1 内に設置された委員会は、HAKUBAVALLEYの各リゾート、お宿さんや有志の飲食店の方や観光業の方々、20人くらいのメンバーがいまして、月に一回オンラインで14、15人が集まって話をしています。

HAKUBAVALLEYがSDGsの未来都市であり続けられるようにと、白馬村内の自営業の事業者さんも合わせてSDGsについて意識を高めていくためのホームページ・小冊子の制作に、ここ一年くらい取り組んでいます。まもなく出来上がり、冬前にはリリースされると思います。

それと、HAKUBA SDGs Lab主催のコンポストやゼロカーボン勉強会があって、委員会で情報共有したりしています。コンポストは興味深いのですが、企業として食品残渣 を実現させるには難しい部分があって、できるのであれば取り組みたいと思っているのですが。

―コンポストとは、生ゴミなどの食料廃棄物を有機物を微生物の働きで分解させて堆肥にするものですね?

田中さん:はい。九州の黒川温泉でエリア全体でコンポストを行っているそうなんですね。その知見を共有してもらいたくて、去年、SDGs委員会で提案して習いに行けないかという話も出ました。今年度の活動予算に入れてくださいという提案はしました。もし自治体でできれば、HAKUBAVALLEYエリア全体で取り組めるわかりやすい事例になるので、良いと思います。今年度の予算で、委員会で有識者を招いて普及活動をするのか、何か資材を買って村内に誰でも捨てられる公共のコンポスト場所を設けるのか、など、委員会で皆がいろいろなアイデアを出し合い、取り組みを考えて話し合っている段階です。

※1 HAKUBAVALLEY TOURISM  https://sdgs.hakubavalley.com/
一般社団法人HAKUBAVALLEY TOURISMは、国内観光客の入込をベースに、外国人観光客の滞在環境の整備やプロモーションの更なる強化により入込を増加し、通年にわたる安定した顧客の確保を目指し、白馬村、大町市、小谷村、大北地区索道事業者協議会、各市村観光団体が一枚岩となって設立した組織。 

※2 HAKUBAVALLEY TOURISM SDGs小委員会
HAKUBAVALLEY TOURISMが事務局となりスキー場・飲食店・宿泊施設などの観光事業者、3市村の観光課などから約30名が集まり立ち上がった委員会。持続可能な観光地域づくりを地域全体に展開するため様々な取り組みを行う。2020年10月、「SDGs宣言」を発表し、HAKUBA VALLEY SDGsビジョンと中長期目標を掲げた。

―お客様へSDGsの取り組みがダイレクトに還元できていると思うことはありますか?

田中さん:今、車の相乗り来場に対してリフト券割引というのも、コロナ禍でできなくなってしまったのですが、お客様への還元として、ちょっと視点を変えると、こんなことが言えるんじゃないかと思うんですね。

化石燃料ではないエネルギーでスキー・スノーボードなどを楽しめるというのは、滑り手にとっては肩身の狭い思いをしないで済むと思うんですね。化石燃料でリフトを動かしているスキー場で、自分の快感のためだけに遊んでいるというのは、例えばですが、サーフィンと比べると自然に負荷がかかっていますよね。それよりは自然エネルギーを使ったゲレンデで遊んでいるということは、意識している人であればあるほど、すごく価値があると思います。その滑走の気持ちよさ、罪悪感がないというだけでも、還元されていると思うんです。

あとは…今、ナイター照明もLEDに徐々に切り替えているのですが、省エネ、コストカットという意味では、それもお客様に還元できていると言えます。いずれすべてをLEDにしていきます。

環境に配慮しながらすばらしいパウダーを滑る、これぞ自然遊びの本質

―「2030までに達成すべき17の目標」や「カーボンニュートラル2050」への五竜の独特の取り組みはありますか?

田中さん:今までやってきたことを継続することが、まず大きな挑戦になるのかなと思います。高山植物でいえば、絶滅危惧種の減少した要因にもなった環境悪化のひとつ、山岳の歴史で環境保全なんて意識のなかった時代に人間によって荒らされて無くなってしまった環境がたくさんあり、それを30年かけて植生を維持して戻してきた研究者たちがいて、その方たちに私たちも指導を受けながらこの植物園を運営しているので、それを大事にして、次の世代にもそれを伝えていくことで、価値のある取り組みであると言えると思います。

その意味では、子供たちの校外学習の場にしてもらったり、地元の子供たちには手軽に見に来てもらえるようにハードルが下げられたらいいな、と思うのです。なるべく地域に還元して地域の中で循環するような運営ができたらと思います。

具体的に割り箸をやめて、ずっと使えるひのきの箸に変えるといったことは12年前からやっているんですが、そういった取り組みで新しいものがあればどんどん取り入れていく。次にやろうとしているのは、「使い捨てカイロの回収」です。使い捨てカイロを集めて送ると、湖をきれいにするものに変えて湖に撒いてくれて、環境に還元する活動をしている団体があるんです。皆さん使い捨てカイロって当然パッと捨ててしまうので、「五竜で集めてますよ!」って声を上げて、集めて送る白馬ステーションになれれば、と考えています。それも小さなことですが、SDGsに貢献できることかなと思います。

―地域にとどまらない地球規模の環境へのアクションですね!

田中さん:㈱五竜では、組織の健全性や品質を証明する国際標準化機構のISO14001というISO認証も毎年取得し続けています。従業員の働く環境を守ることや、社会に与える影響を一定レベルに維持できるように取り組んでいます。去年も全社員が参加してISOの講習を受けて、決められた環境に配慮したゴミの出し方や、環境配慮への理解を深めるということを1日かけて行いました。

こういったマネジメントを含めて、きちんとした企業であり続けること。これを内外的に伝えて、理解や社会的信頼を得て、企業や人々と良い関係を作ってお付き合いを続けていくことも、2030年、2050年に向けた大切な取り組みだと思っています。

―これらの取り組みに対して、田中さんの個人としての思いも、ぜひ聴かせてください

田中さん:もしもスキー場で働いていなかったとしても、「SDGsに沿った行動様式や考え方に人間生活はシフトしていかなくちゃいけないなぁ」と、もちろん個人的には関心がありましたし、そう思っていたと思うのです。しかし、やはりスキー場で働いていると、環境を守っていかないと自分たちの首を絞めることに直結する。物理的に雪が少なくなれば運営期間も短くなって、利益も減少しますし、雇用も不安定になります。

もし小雪の影響がなかったとしても、SDGsに意識がないスキー場は共感できないというお客様が増えている、もうそんな時代になってきていると思うんです。その中でSDGsに取り組んでいく会社であるべきだし、個人的にも取り組み続けなければならないと考えています。

田中さんのマイ・ウォーターボトル

私個人の生活で取り組んでいることとしては…そうですね、まず、水は1リットル毎日持ち歩いています。水は本当に買わなくなりました。コンポストも小学生のときやっていたんですが、なかなかうまくいかなかったんですね。虫がわいたり、発酵せず腐敗してしまったりしました。でも白馬でコンポスト研究会で情報を共有したら、個人ならけっこうできそうな状況もそろってきたので、今シーズンはちょっとやってみようかなって。

そして、「すべての人に教育を」というSDGsの目標に関する個人の活動もしています。高等教育でなく‟情操教育”の方ですが、例えば、教育へのアクセスという観点でいえば、ひとり親家庭や都会から慣れない大自然の白馬へ移られた家庭だと、なかなか自然の体験学習にアクセスできない子供もいて、そんな子供たちに自然教育の機会を提供したくて、白馬村でカブスカウトという3年生から5年生の子供たちが活動するボーイスカウトの年少版のグループがあって、そこの副リーダーを5年間努めています。

あとは、リユース主義で、実はフリマアプリの猛者です。主に山用品で、山ギアは丈夫で本当に劣化しないので
使わなくなったものはよく出品しています。1000以上の過去の取引があり、私のアカウントのフォロワー数がなんと60人以上いるんです(笑)。

SDGsの17の目標のうち、環境以外のテーマもいろいろありますよね。教育もそうですが、「ジェンダー」「貧富の差をなくす」など、そういった社会問題にもいつも敏感でありたいなと思います。世論的に人々がどんなことに興味を持っているのかも気にかけています。例えばSNSで今、どんなことが話題になって、どんなタグづけをすると人が集まっているのか。どんどん人や社会の動きや価値観って変わってくるので、常にキャッチアップしていたい。

また、3/8の国際女性デーでは、女性だからと試験やスポーツの賞金などで不当な扱いを受けない世界を願って、メッセージをSNSで発信し、ささやかですがナイター料金の割引を行いました。少しでもエンパワメントされる方がいらっしゃれば幸いです。

―それはお話いただいた「いつも時代の中で最善であることを」にも繋がっているのですね。
最後にスキーヤー・スノーボーダーたちへのメッセージをお願いします。

田中さん:白馬五竜スキー場にたくさんのお客様が滑りに来てくださることも、とても大事なのですが、冬に限らず、五竜が人々にとって、自然と触れ合うことで心や人生が豊かになれる場所でありたいと思うんです。自然の中で遊ぶと楽しくて、癒され、心や体が元気になったりしますよね。五竜には障害のある方も車いすで山に上がって人力で植物園を案内できるサービスもあるんです。

この世界が、自然と関わることで得られる豊かさを、誰もが楽しめる世界であってほしい、そんなふうに思うんです。五竜も微力ながらその一端を担えるような場所であり続けたい。
皆さんぜひ五竜に遊びにいらしてください!

美しい五竜の四季折々・田中さんも満喫中

教えてくれた人

田中小枝さん
Tanaka Sae

株式会社五竜 営業推進部
IS&SDGs委員

千葉県から8歳の娘と二人で白馬に移住し8年目。幼少期の野沢温泉ファミリースキーが原点で、現在はバックカントリ―にも出かける。シングルマザーは12年目、英語もイラレも白馬で独学、都会時代は趣味で演劇や映画制作をしていたので、今でも撮影同行は好きな仕事です。

取材協力/株式会社五竜 2022年4月取材/STEEP編集部

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