ユーザーとのコミュニケーションから掴んだ手応え|パタゴニア東京・神田の新しい環境への取り組み

2021年10月にリニューアルした、パタゴニア東京・神田。
アウトドアフィールドで性能を発揮する高機能ウエアをフルラインナップし、スキーや登山ガイド、トレイルランナーといった専門性と豊かな経験を持つスタッフたちが、フィールドでの実体験に基づくアドバイスも提供。同時に、Patagoniaのメッセージを力強く発信するアンテナショップとしても機能している。

パタゴニア東京・神田は、'21-22シーズン国内では初めてとなるスノーウエアを中心とする中古製品の販売やリペア&リユースの提案、そしてスノーウエアのレンタルという新しい取り組みをスタートさせた。

果たしてその取り組みの実際はどうだったのか。
ウインターシーズンを終えた5月末にパタゴニア東京・神田を訪ねた。

USA本社と同じ黄色の外壁がシンボル/© Shouta Kikuchi
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テクニカルストアとなった背景

今回、話を聴かせてくれたのはマネージャーの三橋さんと鶴巻さん。鶴巻さんはパタゴニア直営店には必ず居るという、気候危機に対するアクションのリードを行うアクティビズム責任者だ。鶴巻さんは、シーズンを振り返りながら語った。

「コンセプトの変更をスタートしたのが2021年の10 月 9 日。‟テクニカルストア”として、大きく店のコンセプトを変更した目的は2 つありました。一つには、やはり自分たちの大切なフィールドである雪山を、皆で団結して守っていこうというメッセージをしっかりと伝えていきたい、ということ。そして、もうひとつがテクニカル製品という、いわゆる雪山やクライミング、渓流やマウンテンバイクなどフィールドでしっかり使える製品のラインナップを増やし、パタゴニアのアウトドアスポーツの世界を表現するとともに、お客様とフィールド体験を共有するストアとなることです。

コンセプト変更前はライフスタイルの製品も種類豊富に置いてあり、1 階がテクニカルなライン、2階にライフスタイルという形で展開していました。それをリニューアルとともにライフスタイル製品の取り扱いを止めて、アウトドアフィールドで性能を発揮する高機能ウエアを神田ストアにフルラインナップしたんです。

1 階はPatagoniaの環境への取り組みや、そのメッセージを伝える展示スペース、お客様と座って対話ができるテーブルを設置し、季節の旬なアウトドアウエアをゆったりとディスプレイして、自然の豊かさや四季の移り変わりを感じられる空間にデザインしたんです。

ゆったりとした空間に置かれたこのテーブルの上でユーザーと話をしたり一緒にリペア作業をしたり

一方で、2階にはテクニカルの製品をぎっしりと置く。2 つの目的を明確にしたことによって、お店の印象もガラリと変わりました。」

「Worn Wearプログラム」におけるリペアの提案

Patagoniaは2013年から「Worn Wear」というプログラムを実施している。着ることについてのストーリー(※)を祝い、ユーザーにギアを長く使ってもらうことを推奨する。そして、修理不能になった製品を簡単にリサイクルする方法を提供するプログラムだ。リサイクル素材を使用し、必要なものを修理して長く使うことによって、不必要なものを買わなくなる。その結果、廃棄物も少なくなる。環境負荷を減らそうという取り組みだ。

「着る」ことをめぐって綴られる雪山を愛する人々の物語

神田ストアでもフロアに写真のような展示を行い、「Worn Wear」によるウエアの修理と手入れについてメッセージを発信してきた。

1階フロアにディスプレイされているリペア&お手入れコーナー/©Shouta Kikuchi

神田ストアでのリペアの実際はどのようなものだった?

「リペアではフリース、ダウン、ハードシェルなどたくさんのウエアが持ち込まれるんですが、神田ストアに多いのは、主にアウトドアのフィールドで実際に使うような製品の修理依頼です。なかでも一番多いのが、破れや穴あき。例えば、登山の際に木などに引っかけて破れてしまったり、野外料理を作る時にバーナーで袖口が燃えて溶けて穴が開いてしまったりとか。

修理方法は大きく分けて 2 つ。一つがシンプルリペアで、補修の方法やメリット/デメリットについて説明し、お店で即時に補修作業を一緒に行います。

Worn Wearの修理用のパッチ(写真の黒いシートなど販売製品もある。)を使って、穴の空いたサイズに合わせて貼り付けて修理する。

シンプルで簡単なものなんですが、お店でパッと貼るだけなら費用もかからないし、時間も節約できます。修理用のパッチは動物の形だったり、好きなようにアレンジできるので、遊び心もあってオリジナリティも出せて、楽しいんです。

あとはスナップボタンをつけたり、だいたいのものが1時間もあればできちゃいます。

このシンプルリペアで十分に満足・納得していただく方も多いですね。それで対応できないような大きな穴やジッパー交換などは、リペアサービスに送ります。アウトドアウェアはヘビーユースに強度が必要なことも多いですから、あて布をして縫製スタッㇷにしっかり補修をしてもらいます」(鶴巻さん)

「ミシンを使用したリペアイメージ」

リペアから生まれるコミュニケーション

店内の大きなテーブルの上でウエアを広げて、スタッフとユーザーが一緒にリペア作業をする。そこにはどんな対話が生まれるのだろう。

「お客様が製品をどういうところで使って、どんなふうについた傷なのか。家族や仲間との楽しい遊びや、大会や冒険にチャレンジした時だったり。そこにはどんな自然が広がっていて、どんな思い出があって、思い入れや愛着の湧く一着になったのか。そんな話をたくさん聴くことができるのは、とても楽しみにしていますね。
いろんなフィールドに行っているお客様も多いんですね。世界のこんな国をこのジャケットは一緒に旅してきたんだよね、なんて話を聴きながら、いかに直すかの提案をいろいろすることで、会話や関係性が深まったりします。見た目はツギハギだらけでも、お客様からしたら世界に2つとない“これじゃなくちゃダメなんだ”という愛着のある一着。これをまた使いたいんだっていう熱い思いに対して、僕らもどこまでできるかというチャレンジもあります。スタッフにとっては未知だったり大変だったりすることもあるかもしれないけど、我々の知らないことを教えてもらったりすることも多くて、僕なんかは特に楽しいですよ。」(三橋さん)

4月の1カ月だけで86件ものリペアオーダーが!

「リペアのオーダー件数は、4月だけで86件と、22店舗の直営店があるなかで神田ストアが一番だったんです。12月や1月はもっと多かったです。でもリペアセンターに行くと、さらにすごい。もう製品が天井に届くくらい棚に積まれています。今までは、ほぼリペアセンターに送っていたものを、スタッフがリペアを学んで、店で対応できるケースも増えています。毎週末滑りに行く方は「週末に使いたいからすぐ直してほしい」というリクエストも多いですから」(三橋さん)

ここに持ってくれば、スタッフに自分の体験も興味を持って聴いてもらいながら、大切な一着が修理してもらえる。これはユーザーにとってはなんとも嬉しいことではないか。リペアのお世話にならずに長く着るための「お手入れ」も徐々に定着してきているという。

願うようなリペアができないものは寄贈してくれる人もいるという。これも、このような環境への取り組みに共感して、自分が捨てるよりは誰かがもしも使ってくれるなら、という思いからだろう。

「新品よりもずっといい」。Patagoniaのメッセージは、そのリペア実績が証明するように、ユーザーのこころに確実に届いている。

国内で神田ストアが初となったスノーウエアの中古販売はいかに?

中古品といっても機能には何不自由ない状態での販売

国内では神田ストアが初めての取り組みとなった「Patagoniaスノーウエア」の中古販売。その背景は「ギアをリユースして循環させ続け、埋立地には行かせない」ため。新たにものを作らないためCO2排出を抑えることができ、ユーザーにとっては高機能なウエアを半額程度と破格で入手できるとあって、メリットも大きい。初年度は、パタゴニアのスタッフから集まったアイテム限定で展開した。機能素材の取り扱いに細心の注意を払いながら洗濯と撥水処理を行ない、検品を済ませたのちリユース品として販売した。

「これはもう大盛況でした。テクニカルストアとして、神田ではフィールドで実際に使える製品を中古販売しました。さまざまなアイテムのなかで特に人気があったのは、3層構造のハードシェルや中綿の入った化繊のインサレーションなどでした。

価格は半額もしくは半額以下の設定だったので、高性能の製品が手に取りやすい価格だったことは大きかったようです。あっという間になくなってしまい、売り場もどんどん小さくなっていきましたね。3層構造のシェルやインサレーションは耐久性が高く、Patagoniaの品質や自然保護のメッセージに共感して中古を選んでいただくことができ、嬉しく思っています。

学校の多い町なので、学生さんの来店も最近増えていますが、彼らが選ぶのは中古品なんです。新品だと生産の過程でCO₂を排出してしまうから、環境への配慮として、あえて中古品を買って長く着続けるというマインドを持っているんですよね」(鶴巻さん)

「そんな意識のあるお客様には中古とはいえ、テクニカルなウエアなのでしっかりと吟味して買う方もいるんです。一度ご来店され、ちょっと考えて、またご来店されて、‟あったら運命"というような。『奥さんにプレゼントしようと思っていたのに』と、少し迷われてお店をはなれ、再び来店された時にはなくなっていた、というお客様もいました。一つ一つの製品が、お客様との"出逢い"でした。」(三橋さん)

リユース品がプレゼントになるサスティナブルな時代がやってきている。そこには、環境のためだけでなく、誰かが愛用していたものには物語があって、それをリスペクトして引き継ぐ、といったことに価値を感じる感性も育っているのではないか。スタッフの着ていたものなら信頼感も抜群だ。このウエアは世界のどんなフィールドでどんな風景を見たのかを想像するのも、また面白い。

‘22-23シーズンの中古販売はまだ未定だが、アメリカでは、ユーザーからの買い取り・中古販売もスタートしているという。ユーザーも巻き込めばスケールは一気に拡大し、メッセージもより広がるだろう。日本でも新たな展開があるのか注目していこう。

初めてのスノーウエアレンタルは大好評!

高機能なPatagoniaスノーウエアのレンタルを実施した

テクニカルストアである神田ストアの新たなチャレンジの最後はレンタルだ。今回初めてスノーウエアのレンタルにも取り組んだ。スキー場やショップでのレンタルはよく見るが、ウエアメーカー直営店での自社ブランド品のレンタルは、日本ではまだスタンダードではない。「え?買わなくていいの?借りれるの?」といった感覚を持ちつつも、「短期間で借りれるならありがたい」というところだろう。

レンタル期間は1週間が単位。料金は使用日数にかかわらず1回4000円とシンプルだ。スキー場などでのレンタルウエアはだいたい1日3000〜4000円とすれば、かなりリーズナブル。使用後は郵送での返却もOKなので便利でもある。

予約受付は11月から、レンタルは12月からスタートした。サービスの対象を、雪山に初めて行って体験をしたい人、着用頻度のごく低いエントリーユーザーか、過去に経験があるがブランクがあって久しぶりに滑る人が多い、と想定。それらのターゲット特性に合わせて、「スノードリフター」「パウダー・ボウル」など、上下のシェルのセットで、男女で3型ずつ準備した。

「これは神田ストアのみで実施した取り組みで、リニューアルした秋冬からのパイロットプログラムということで、実際にはマーケットにどれくらいのニーズがあるのか、当時は全然読めていなかったんです。だから、当初はご利用者数の目標を40名くらいに設定していたんですね。でも実際にやってみたら135件!もの利用がありました。これには驚きました。

レンタルを利用した子どもたち、お客様から寄せられた御礼のメッセージ

実施する中で、「家族で滑りに行くために子供のウエアのレンタルはもあるでしょうか?」というお声を多数いただいたので、12月末から子供用もラインナップに加えました。するとたくさんのご家族にご利用頂くことができ、返却時にお子さんから御礼の手紙を頂くこともありました。これはすごく嬉しいなぁって思いました。」(鶴巻さん)

レンタルを利用することで環境保護の活動に参加できている

今回のレンタルはリユースの促進の他に、もう一つ大きな目的がありました。レンタルの利用料で集まった50万円は、すべてPOW(Protect Our Winters Japan)さんに寄付させていただきました。「お客様がレンタルされたことが環境保護、自分たちのフィールドを守るために使われています」とご案内すると、ビックリされたり、喜んでくれる方も多かったです。そこが僕らが一番伝えたいところなので、とても手応えを感じましたね。

スキー場に行ってもレンタルはできます。でも、パタゴニアのお店に来てレンタルを利用することが、自分が環境に対して活動できることに繋がっている。そこに共感いただく方も多かったので、それは本当に嬉しいことです」(鶴巻さん)


リペア・中古販売・レンタルと、どれも予想を大きく超える結果となり、大切なフィールドを守っていくというメッセージが確かにユーザーに届いている手応えを掴んだパタゴニア東京・神田。

毎秋に開催される「神田スキー祭り」への参画や、近隣の大学などとも連携し、ストアのある神田の街で地域との繋がりを大切にし、その環境保護への取り組みは、さまざまな形でこれからも続く。パタゴニア東京・神田のこれからに注目していきたい。


教えてくれた人

パタゴニア東京・神田 マネージャー
三橋 利央さん

この笑顔でユーザーを迎えてくれる店長。子どもの頃からスキーに親しみ中学生でスケートボードに出会い、後にスノーボードを始めた。冬はニセコに籠り、札幌・秀岳荘のパタゴニアストアで働いたのがきっかけで入社。冬のニセコ通いはいまも欠かさない。

パタゴニア東京・神田
鶴巻 拓さん

神田ストアのアクティビズム責任者として、地域にも積極的に働きかけ、環境保護への取り組みを鋭意推進する。雪崩講習の講師なども務める山のエキスパート。プライベートでも家族でスノーボードを楽しんでいる。

Information

パタゴニア東京・神田

〒101-0052
千代田区神田小川町2-3-18 露木第2ビル
TEL:03-3518-0571

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