はじめに
お互いに気になっていた存在と話す、楠泰輔と星野洸我。
楠泰輔はモーグル、フリースキーのコンペティションを経て、日本人スキーヤーとしてはじめてフリーライドコンペの最高峰”FWT”に参戦した先駆者。いまは大会からはすこし距離をおき、昔から続けている映像制作に軸を置いて雪山を滑り続けている。
一方、星野洸我は地元・南魚沼でのパークライディングで一目置かれる存在から、国内フリーライドコンペでの活躍やシーズンごとに発表する短編映像が話題になり、いまとくに注目を集めるスキーヤー。
年齢、居住地、滑る場所、メンツなど、接点のほぼなかった2人が初めて向き合い語りはじめた。
お互いにどんな昨シーズンだったの?
星野洸我(以下星野):昨シーズンは滑り始めるのが遅れちゃって。膝の怪我があって、2月の頭からやっと滑れました。ゲレンデでヤバい映像が撮りたくて、ずっとやってましたね。あとはFWQが終わって、ストリート撮影っていう流れでした。
楠泰輔(以下楠):俺はジャッキー(※西尾裕之、MightyJamming主宰)とがっちり撮ろうよ、ってことでシーズン初めから立山へ行って動いてたね。結構な頻度で山へ行って、(撮影映えする)アイテムを探す。
毎日、宝探しをしてる感じの日が多かったね。みんなで山に入って、(アイテムが)あった! みたいな感じで。
下から山を見て、こうやって滑ろうってやっているのが、めっちゃ面白かった。
でも、めっちゃ時間かかるんだよ、バックカントリーで映像を残すっていうのは。まず、斜面に出会うまでがすごい難しい。見つかっても、そこへのアプローチが厳しかったり、そこまで行っても天気やコンディションが悪かったり……。
だから、ほんまにタイミングでしかないっていうか。
星野:同じっすね。湯沢は午前中で(雪が)死んじゃうから雪質との勝負。ドロップするのが9時や10時だと、ボトムからの出発は朝の2時、3時とかに出てみたいな感じでした。
聞きたいことはいっぱいあるのだけれど……
星野:聞きたいことがいっぱいありすぎて、心のメモ帳に20個くらいあるんですけど、笑。
FWT(FREERIDE WORLD TOUR)、自分は行ったことないんで、その話をすごく聞きたい。どれぐらい回ったんですか?
楠:2シーズンと白馬の大会を一回かな。
星野:外国人とライン取りの違いってありました?
楠:あるある。だって出てる選手は、ちっちゃい頃から競技としてビッグマウンテンをやってるから捉え方が全然違う。ダブル(※連続してクリフを飛ぶ)いったら点数が出るとか。俺は自分が攻めれるラインを見てたけど、(他は)もっとスムーズにこのダブルを繋げてって競技的な感じがすごいあった。
こんなことがあってさ。コンディションが整って急遽大会をやることになって。フェイスチェックは1日だけ。他からの移動でチェックに間に合わない選手もいて、その時は、ドローンの映像や下からの写真とかいろんな材料が特別に出回って。でも、フェイスチェックもせずに映像だけ見て優勝したヤツとかいるね。
だからみんな常に山を見て、ここいけるみたいなイメージを膨らませてる。日本でそれは難しくて。そんな斜面はスキー場内にないし、BCではバックアップも必要。でも、海外ならそれをリフト回しでやってるわけやから、ビッグマウンテンに関しては全然違った。
俺は結構イメージがあって、それまでに積み上げてるものがあったから、いきなり(FWT)行けたって感じかな。だって、FWT出る前とか俺、FWTの映像一切見たことなかったから。上手い奴いるけど、全員知らんって感じだったから。
星野:なるほどな~。結構、間違いないですか、大会で狙ってるラインって。
楠:初戦は速攻で間違えた。しかも、当日に(大会の)フェイスが変わって、見る時間も10分か20分ぐらいしかなかった。そこはやっぱ試された。
大会は自分が行きたくなくても、ラインを探さないとダメで。周りのライダーの探し方を見て、下から見てたら大げさに見えても、クリフとか大体いけるんやなっていう、サイズ感がすごい分かったんよ。「無理でしょ」と思っても、みんなガンガンいくから、いけるんやと思って。
自分もちょっと間近で見れるところがあったら見てみたら全然行けるじゃんって。そのサイズ感は大会に出て分かったかな。
星野:緊張感も似てますよね大会と撮影。一発勝負じゃないですかどっちも。
楠:むしろ一緒かも。撮影は自分のなかで大会をやってるみたいな感じ。そっちのほうが余計緊張する。大会はバックアップもあるしね。バックカントリーでの撮影は怪我したら、もうヤバいから、そういう緊張感もある。
星野:うんうん。
楠:緊張感やウェイティング期間の過ごし方、ライン取り、フェイスチェック、って大会やるまで全然山行ってなかったんで、そこから始まったって感じ。
(フリーライドのコンペに出てから)どこの山へ行くにしても、ライン取りも見えてくるようになってきた。出て良かったなぁと思うね。
2人は映像作品をどう作っている、どんなふうに考えている
星野:僕は人がやらないことを映像でやりたいんですよ。ゲレンデの撮影はとくにそうじゃないすか。デカい(アイテム)を作れないなかで、どれぐらいサイズ感を出せるかっていうのは、やってすごい面白かったっすね。
ちょっと(アイテムを)作って、あそこのランディングに合わせてっていうのを、ゲレンデで初めて狙ってみて。Arthur Longo(Volcomスノーボーダー)もやってるし。やっぱ、ゲレンデの映像だと、一般の人もすごい見てくれる。
それも狙ってやってすごい良かったっすね。シーズンエディットは作りたいけど、ぶっちゃけあまり撮れてなくて。撮影があまりできてなくて、山でも2、3カットぐらいしかないし、ストーリーも2、3カット。去年の作品を超えれなかったら出さない感じです。
楠:俺はやっと自分のスキースタイルが自然地形に合ってきた感じがするね。もっと自然地形に合わせたスキースタイル、それを映像に出したいなって。
星野:映像にテーマはあったりするんですか?
楠:”禅”をテーマにやってたけど。意味としては本当に本当のことって感じ。それを、映像に残したい。
星野:僕は”昇天”っていう言葉を使いたくて。明るそうな映像だったり、語呂もいいし、漢字もすごいかっこいい。全員が20-21シーズンは不完全燃焼だったぶん、ちょっと昇天させてもらって、全員ぶちかましたいなっていうのがあって。
撮影のこともいろいろ聞きたいっすね。グループで動いてると思うんですけど、タイスケくんが段取りしてって感じですか?
楠:いやぁ、それ結構難しくて。北海道ってあんまりラインがなくて。みんなで行っても、熱いラインは1本とか。みんなでワイワイ滑るのが一番好きやし。みんなの行くライン、どこだろうなって、めっちゃ考えたり。そこは俺の行きたいとこじゃないなっていうのもあったり。
ラインがいっぱいあれば良いけど、ないからそのへんのバランスをすごい考えるかも。でも、BCでの撮影は1人じゃできへんっていうのもあるから、みんなで盛り上がれるところはどこやろとか、そういうのあるかも。
星野:そうっすね、グループで動いてると、やっぱりみんなで撮りたいし。かといっても面は一つ。カメラマンとマンツーマンで動くことってありますか。
楠:マンツーマンはあんまりないかもね。何かあったら救助も必要だから。ゲレンデで撮るくらいかな。
星野:じゃあ、グループがあって、そこから明日行けるって連絡しあって?
楠:そうそう、北海道はエリアが結構広くて、移動距離もすごいから、あちこちから集まらないといけない。そのやりとりがしんどいこともある。めっちゃ移動しなあかんやろ。
1人は近所やけど、1人はめっちゃ遠いとかだと、毎日動かなあかんとか。そういうのは北海道あるあるだよね。めっちゃ移動長いし、その辺のバランスもすごい難しいかも。みんなの中間どこだろうとか。場所が決まるのも夜中の12時過ぎたりとか。それに疲れることもある。
星野:夜出はないですか?
楠:夜出はあんまりないけど、めっちゃ早朝に集まるのはよくある。でも、そのやりとりが12時を超えて、1時や2時ぐらいまでやってるのもある。
星野:へ~。1日で2カット狙う時ってあります? ビッグラインへ一発いって、いいのが撮れたら上り返してとか。
楠:全然やる。一発やって、別の場所に移動したりとかもする。
星野:湯沢との違いがそこですね。死んじゃうんですよ雪が。
楠:春だったら分かるけど、ハイシーズンは全然ないね。日が沈む問題はあるけど。
星野:タイスケくんのやりたいイメージってどんなんですか?
楠:ビッグラインで自分しか見つけられてないラインがあるんだよ。そういう頭の中にあるイメージを映像に残したいっていうか。山の下に着いてパッと見た感じ、多分あそこは誰も行かないな、俺しか見えてないな、ってのが多分あるんだよ。ビビらずに行けるっていうか、自分のなかではラインが見えて安全に見えてるから、そういう滑りを残したいね。
星野:そうっすね。タイスケくんはもう、ピローとか半端ないし、(ラインが)見えまくってんだろうなって。ピローってどっからどう見てます? 対面とか?
楠:まず対面から見る。でも、対面で見えるのは結構少なくて。あとは、ハイクラインから見ながらだけど。
星野:初見で、あのライディングですか?
楠:ピロ-はうん、初見で。モーグルやっていたから、ピローラインが好きで。
星野:当て方もテールでバババーっていくじゃないですか。
楠:めっちゃ好きなんだけど、ピローラインってあんまりなくて。多分一番好きかも、メンツルよりも。どっちかっていうと、地形がボコボコして何かヒット(※飛んだり、当て込んだり)できるところのほうが好き。
星野:地形が複雑でどうなっているのか、分からなかったりしません?
楠:上から撮ってる画像か映像があれば大体わかる。下から見て上から見たら、行けるんじゃないかって。
星野:最初から見えたわけじゃないですよね?
楠:全然。最初から見えてないよ。
星野:どんなタイミングから、そういうイメージができるようになったんです?
楠:いままでの積み重ねと、本当ここ5、6年。スノーボードとか横乗りをやってんのも効いてるるかもしれないね。目線が横なんで。縦しかラインが見えてなかったけど、横を見れるようになったら、全体的に見れるなって。地形ももっと見えるようになってるね。
星野:タイスケくん、地形の当て方とかスタイリッシュだな~って思うんですけど……。
楠:それはスノーボードや雪板をやってるからかな。板の操作、地形の合わせ方は多分出てると思うんだよ。スキーは縦で、当てる込むところは一緒だけど、目線の入り方が違う。
星野:ちょっとテールで乗ってますよねタイスケくん、カカト気味っていうか。
楠:足の裏で操作している感覚はある。
星野:そんな感じのスタイルっぽい。好きっすよね、壁とかリップとか。
楠:好き好き。もうなんか地形しか見てない。メンツルより全然好き、みたいな、笑。
星野:いま映像作品って3年ぐらい貯めてるんですか?
楠:いや、俺はすぐ出してやってる感を出して、じゃないけど。自分がなにをやっているか分かってもらえるし。そこから見てもらっても、良いんじゃないかっていうのは最近ある。
星野:(出す映像の)ティーザーにもなりますし。
楠:とくにインスタのリールは音が自由に選べるしね。ダイレクトに反応もくるし。ワンカットでも音載せて合わせるだけでもめっちゃ面白い。前まではめっちゃ好きなDJ MIXから(著作権に)引っかからない音源とか選んでたけど、いまもう自由に使えるから。
星野:昔に比べて単発で出していける。
楠:俺もインスタとかSNSをやるタイプじゃなかったんだけど、みんなが見てるのがインスタじゃない。めっちゃ見てるんやなって。(SNSを)やったら俺が見てた人からもDMが来たりとか。なんか、ようやく世界に繋がれたっていうか、笑。
自分のやってることを、俺がすげえ憧れてる人とかと何かでリンクできたらいいなっていうのをすごい思ってたから。いまは直にできるのすごい面白いよね。リポストしてくれたりとか、音いい感じじゃんみたいな。
星野:そうっすね、僕もあんまり好きじゃないすけど。全然(SNSに)あげない方だったし。
でも、すごい反響がもらえるやつあげておくと、(自分の)名刺代わりにもなるし。こないだのアレやばかったね、アイツだよみたいな。それがいま実感できてるから。記憶の残る一発系をこれからもアップしていきたいっすね、本当にヤバイやつ。
来シーズンどっか行きたいとかありますか?
楠:行きたいところや、やりたいことはいっぱいあるから。常にあんまり変わらない、変わらずやりたいなっていうのはある。(滑ることを)飽きずに、トータルで人生楽しんでやるっていう感じ。コウガは?
星野:そうっすね。野望がありすぎて、言葉じゃあまり表現できないんですけど……。トータルだったら、死ぬまでに、どこまでいけっかなみたいな。大会もそうだけど、撮影をメインに捉えて、5年後は大会もそんな出たくないし、半端ない映像をDVD化して、手売りで売っていきたい。好きなショップに置いてもらってとか、そういう方向性に持っていきたいっすね。そのためには今のうちに知名度を上げて、海外行っても、自分がしていることを表現できるような人になりたいっすね。
どこ行っても、あいつが来たっていう存在。そんな感じです。
楠:熱い。俺は滑り続けたいね。目標ではなくて、ずっと続けたい。俺はここでこうやるんや、っていうのはスキーをやってて、今までないんよ。ライフやと思ってるんで。
もっともっと上がっていきたいっていうのはあるけど、やっていくにつれて、見えてくるかもわかんないけど。 常に飽きずにやれているのが、いますごい幸せだと思うんだよね。
一期一会、地形も出会い。コウガとも出会いだしね。セッションもしようよ。
星野:ぜひお願いします。逆に俺、気合が入りすぎちゃうタイプなんで……笑。
楠:いや気合入った方がいいでしょう。気合入ってないと怒られたりすることもあるから、笑。クールになろうと思っても、結局は板を履くと気合入りまくっちゃって……。
星野:でも、それで、多々失敗してるんですよ……。
あとがき
終始、楠泰輔への興味が尽きなかった星野洸我。対談というよりは、先を歩むタイスケ先輩の行動や考え方に対して、洸我は自分がやっていることの答え合わせをしているかのようだった。
縦へと落とす速いターンのなかに、ジャンプや当て込みといったフリースタイルな要素を盛り込んだラインが魅力的な2人。
その2人が求める斜面はどんなものなのか。また、そこではどんなラインを描くのか。
雪上でのセッションを約束しあった2人は、対談後はさっそく11月あたりに立山でどうかといった具体的なロケーション名も飛び出していた。国内外に影響を与える2人が滑り合う映像のリリースを、いまから楽しみでならない。
取材協力/ピークパフォーマンス札幌
SPECIAL THANKS/FACTION JAPAN
楠泰輔 Taisuke Kusunoki
幼い頃からモーグル競技に打ち込むと共に、ビッグエアやスロープスタイルといったフリースタイル種目でも成績を残す。2017年には白馬で初めて開かれたフリーライド大会 Freeride World Qualifierで優勝後、最高峰であるFreeride World Tourにアジア人として初出場を果たした。現在は映像作品を作り上げるために全国各地の雪山を滑り続けている。
1984年8月22日生まれ、札幌市在住。
Instagram:@taisuke0822
星野洸我 Koga Hoshino
雪国南魚沼で生まれ育ち幼少期からスキーをはじめる。石打丸山をベースにするフリースキーヤー達に影響を受け、次第にフリースタイルスキーへと傾倒。地元のフリースキーチーム「Y.B.I.」メンバーとなり、スキー場やバックカントリーで積極的に活動する。22シーズンの国内FWQで結果を残したことから、23シーズンに開かれるFWQ FINALSへのワイルドカードでの出場権を獲得。
1998年2月25日生まれ、南魚沼市在住。
Instagram:@hoshinokoga