POW ミーティング in Nisekoへ行って、 ニセコと雪の未来を考えてみた

写真/渡辺洋一(POW JAPAN)
テキスト/大川龍

 8月21日(日)、ニセコエリアに暮らすスノーボーダー、スキーヤー、自然を愛する人たちが集い、気候変動についての理解を深め、「自分たちにできることを考える」、そして「ニセコ発のローカルムーブメントを起こすきっかけを作る」ことを目的にした「POW ミーティング」が開催されました。

 ニセコ町環境モデル都市推進係の長谷部翔馬さんや、伊達の大滝地区での大規模な風力発電所の建設計画に向き合う松本新さんの話を中心に、集まった多くの人が交流を深めた同イベント。この催しを手伝いながら、家族で参加した大川龍さんの視点でレポートをお送りします。

 短いニセコの夏が終わろうとしていた。最後の夏の1日を惜しむように、朝から家族と海で過ごした日曜日の夕暮れ時、ニセコ町の古い石倉を改装したイベントスペースに向かった。
 POWがニセコで開く初めてのイベントに手伝い兼参加するためである。

「Protect Our Winters」POWという団体を滑り手の方なら、どこかで目にしたことがあると思う。2007年にビックマウンテンのトップライダーとして活躍するスノーボーダーのジェレミー・ジョーンズによって創設された。

POWについてプレゼンをするPOW JAPAN代表の小松吾郎

 現在は13カ国に広がり、日本でも2019年にPOW Japanとして活動が広まっている。『アウトドア アクティビティに情熱を注ぎ、そのフィールドやライフスタイルを気候変動から守るために行動する仲間たちの力となる』というミッションを掲げ活動している団体だ。

 イベント開始1時間前、POWやサポート企業、団体の方達とプレミーティングが和やかに始まった。
 皆一様に、健康的に日焼けした肌と引き締まった身体が印象的で、山や海でよく見かける、小学生のまま大人になったような人たちといった雰囲気の顔ぶれだった。
 かくいう自分もニセコの雪に魅せられて、通い始め、気づけばここに住んでいる人間。この人たちと一緒に居たら、面白そうだなと直感的に感じさせる。

 オーガニックカフェPOW BAR(今回のPOWとは名前が同じでややこしいが、エナジーバーの製造とカフェを経営するニセコの会社。コーヒーも、エナジーバーもとにかく美味。ニセコに来たら是非お試しあれ)のケータリングを食べながら、自己紹介をしつつ、このあとの流れを確認し合う。
 勝手なイメージで大変恐縮なのだが、環境保護団体のミーティング、真面目でピリピリした雰囲気になるのかと思いきや、初対面の印象通りの人柄で、もっと、この人たちと一緒に遊んでみたいなとの思いが強くなった。

 駐車場係に任命された私は、参加者の車を誘導する。キャンパーや、サーフボード、フィッシングロッドを乗せた車、が続々と集まる。まさにアウトドアアクティビティーに情熱を注いでいる参加者は100人超。参加者の多さが関心の高さを物語っている。

 駐車場から会場に戻るとPOWによる気候変動の現状が説明されていた。人為的な活動によって、気候変動が起きている現状が説明されている。このままだと地球はどうなってしまうのだろうと? 不安な気持ちにさせられる。

 と、ここで、妻と遊びに来ていた娘が飽き始める。会場で騒がれるのも嫌だし、確かに3歳には面白い話ではない。外へ連れ出す。
 環境の大きなテーマから、一気に家族のテーマに引きもどされる。娘と手を繋ぎ歩きながら思いだす。日曜の夕方6時からのイベントに参加することに妻は難色を示していた。
 次の日は月曜日で仕事もあるし、保育園もある。夜が遅くなれば、朝が大変になる。そう言われれば、返す言葉がない。

 多くの住民にとって、ミーティングに参加するのはハードルが高いことだと思う。それよりも今目の前で起きている、自分の問題、家族で過ごす時間や、次の日の仕事のこと、そちらを優先してしまうだろう。
 私自身も、話をもらっていなければ、おそらく参加していなかっただろう。ここにいる参加者も、きっとそれぞれの生活に折り合いをつけて来場していると思うと、皆すごいなと感心してしまう。
 自分も、家族ができる前は、熱心にとまではいかなくても、環境問題に興味を抱いていたが、家族ができると自然とそういった場から足が遠のいていた。

 会場の外を娘とぶらっと一周して戻る。出入り口付近には、大人たちのプレゼンに飽きた子供たちが暗がりのなかをキャッキャと遊んでいる。
 私よりもあと何十年も長く生きるであろう子どもたちを見ていると、これ以上地球を居心地の悪い場所にしてしまっては申し訳ないと感じる。家庭の問題も、環境問題も決して別問題ではなく、大いに関係しているのだ。

 会場ではグループワークが始まっていた。4、5人のグループに別れ、それぞれで、それぞれの実践していること、考えなどを話し合う。事前の打合せでは、話が活発でないグループがいれば、手助けをしてくださいということだったが、どのグループも盛り上がっており、その心配は必要なかった。
「ペットボトルを買わない」、「なるべく地産地消する」、「エネルギーを効率的に使う」など、よく聞く話がされていた。どれも知っていると思いながらも、具体的なアクションを取れるのは、そういった小さなこと。全てをひっくり返すような、大決定や技術を待つのではなく、できることを進めていくことが本当に大事で、それが大きな変化に繋がっていくのだ。

 飽き性で、怠惰な自分は、気づくと、楽なほうに流れ、どこか他人事と感じていたが、ミーティングに参加することによって、消えかけていた小さな取り組みへのモチベーションが少し息を吹き返した。
 代表の小松吾郎さんの「決してあきらめないでください。僕は諦めません」というメッセージが心強かった。

 続いて、フライ・ルアーフィッシングエリアBIG FIGHT松本の松本新さんによる伊達の大滝地区での大規模な風力発電所の建設計画についてのプレゼン。大規模な風力発電や、メガソーラーの建設などは、再生エネルギーという大義のもと、その建設自体が大きな自然へのインパクトになり、問題解決の方法で新たな問題を作り出しているという。今回の大滝地区での開発も、まさにそれにあたり、地域住民は施工元のオリックス株式会社に大きな不信感を抱いているという(オンライン署名サイトはこちら)。

 松本さん自身も風力発電と聞いて最初は、環境にも優しいイメージでいいんじゃない?と思っていたが自分の釣り場にも近いこともあり、調べていくとそこに大きな矛盾や、問題が見つかったという。
 ここで、どこか他人事だった環境問題が自分ごとに変わったそうだ。そのことが重要だと訴えていたことが印象的だった。

 2時間にわたるみっちりと濃い内容。「じゃあ結局、何をすればいいの?」と迷子になっている私にPOW JAPAN 高田翔太郎さんは優しく、人懐っこい笑顔で「それでいいんだと思います。考え続けることが大事だと思います」と伝えてくれた。
 考え続けることは1人では難しいかも知れないが、こうして誰かと共有すれば、怠けがちな私でも、なんとかなりそうな気がする。

「POWの人達と一緒にいたら、なんだか楽しそう」という最初の印象はさらに強くなった。

POW Japanスタッフとサポートメンバーの集合写真。筆者は上段左から3番目

POW JAPANのホームページにはこのイベントをはじめ、雪と環境に関するさまざまな情報を掲載


書き手

大川龍

1984年、神奈川県生まれ、蘭越町在住。冬はスキーインストラクターとして、FAR EAST SNOWSPORTSに所属する。ここはスキースクールだけではなく、コンシェルジュでもない、未体験のニセコと雪の休暇を演出するサービスとして注目を集めている 
Instagram@ryu_okawa

https://fareastsnowsports.com/

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