2026年ミラノ・コルティナ五輪(イタリア)にて追加競技になることで注目を浴びているSkimo(スキーモ)。
名前を聞いたことはあるけれど、どんな競技かわからない、または初めて聞いた、という人もいるだろう。正式にはSki Mountanneering(スキーマウンテニアリング)であり、略してSkimoと呼ばれている。
このスポーツの競技内容とルール、その魅力をみていきたい。
Skimoとは
Skimoは雪山を登って滑り、ゴールまでの速さを競うスポーツだ。普段楽しむバックカントリースキーが登りから滑って降りるまでのタイムを競うスポーツになった、と考えればわかりやすいかもしれない。登り・滑り共に旗門でコースが設置されており、シールでの歩行、板を担いでの登坂、アルペンモードでの滑走とセクションごとに3つの走法で雪山を駆け抜けていく。スキーの総合技術と体力が勝敗を決める競技だ。
競われる種目
種目は以下の4つにわかれている。
①スプリント
「短期決戦の競技」
標高差70mほどのゲレンデの斜面をシールをつけたスキーで登り、スキーを外して歩く登りと、スキー滑降を合わせて3分~3分半程度のコースを設定して争われるスピード感あふれた競技。ミラノ・コルティナ五輪で争われる競技がこのスプリントだ。
②インディビデュアル
「雪上のトレイルランニング」
主にオフピステを使って行うレースで、合計標高差が男子は1300~1600m、女子は1150m~1400m。レース時間は1時間15分~1時間30分にもなり、幾度も山を上り下りするダイナミックかつ、大会の華となる競技。
③バーチカル
「登りのみのタイムを競う」
文字通り登りのタイムだけを争う競技で、標高差500〜700m程度のコースを一気に登る。タイムは40分前後になる。
④チーム
「数人のチームで競うリレー」
2~3人で一緒に登る競技。インディビデュアルより長いコースが設定される。
実際の競技の様子を映像で見るとわかりやすい。2022年1月に宇奈月スノーパークで行われた全日本選手権のスプリント競技の様子を見てみよう。
映像を見てわかるように、歩き方、シールやスキーのしまい方、滑り方まで洗練された動作で1秒でも速く先へ進むことが求められる。また、よく見ると選手たちはバックパックを背負っている。この中にはビーコン、プローブ、シャベルなど雪山で必要とされる装備が入っている。これは、バックカントリーにおいて、安全かついかに速く滑るか、というSkimoの競技理念のもと携帯が必須である。ほかにもシールをウエアの内側にしまう際に、シールが飛び出ていたり、ウエアのファスナーが完全に閉まりきっていない状態で滑るとペナルティが課されるなど細かいルールがある。それも、雪山を安全に滑り降りるための競技という前提があるからだ。
Skimoで使用するギア
速さを競うため、道具も軽量だ。
例えば、スキー自体の重さは片足600~700g、ビンディングの重さが100g程度しかない。軽量な素材を使っているためこの軽さを実現できているが、それゆえに滑走中に折れてしまうこともある。
ブーツは全体的に薄く作られているだけでなく、タングの部分が簡素化されている。レース用になるとさらに軽く、タングの部分がなくなる。そして値段も跳ね上がる。
シールも極限まで短く、テール側のシールクリップは省略されている。ノーズに留めたらあとは張りっぱなしに簡略化されているのだ。これによってスキーを履いたままシールを取ることができて、ツアーモードからアルペンモードへの移行が素早くできる。Skimoの削ぎ落とされた所作やギアを見るのも面白さのひとつである。
海外との差を埋めるべく
Skimoはイタリア発祥のスポーツである。スイス、フランス、イタリアでは盛んなスポーツであり、選手層も厚い。2026年ミラノ・コルティナ五輪の競技種目はスプリントは男女それぞれ世界の18人で争われることが決まっているが、国別の出場枠はまだ決まっていない。出場できる人数に限りがあるためアジア・ヨーロッパ・アメリカなど地域別に出場枠が設けられるかもしれない。その際は隣国の中国がまず、最大のライバルになる。
日本ではまだこれから、というスポーツだ。しかし日本のエース、島徳太郎選手がフランスで行われたワールドカップに初参戦し、予選1位のフランスの選手のタイム2分46秒に対し、島選手は3分17秒の52位、予選通過ラインの30位は3分00秒にあと17秒であった。まだ世界と力の差はあるものの、今後のトレーニング次第で近い将来の予選突破も現実味があり、一筋の光が見えた結果であった。
「海外選手との大きな差はパワーと滑りの技術」。そう語るのは日本代表ヘッドコーチを務める松澤幸靖さんだ。オリンピック種目になるスプリントは短い競技時間で争われるので、持久力はもちろんだが、登りの速さ、つまりパワーも重要な要素になるのだ。また、海外では元々アルペンレースで技術を体得した選手がSkimoに転向してきているケースが増えてきているという。体力だけでなく、高い滑りの技術を持った選手はさらなる脅威となるだろう。海外の選手は競技歴も長ければ、標高の高い山へ行けば雪もあり、練習量も豊富で高地トレーニングができるアドバンテージがある。
経験や練習環境、体格差によって体力・滑りの技術ともに欧州と差があることは否めない。では、日本が順位を上げるためには何が必要か。
「日本の陸上はリレーが強い。あれは何回も練習してバトンパスが上手くなったからですよね。Skimoも海外選手と体格差があるなかで、確実にタイムが縮められるのが走法を切り替えるトランジットの部分です。スキーを担いだり履いたり、シールを脱いだりという細かい所作は日本人が得意とすることだと思います。海外勢も速いですが、突き詰めれば勝てる部分です。基本的なことではありますが、まだまだ経験の浅い日本の選手たちには教えることがたくさんあります」と松澤さんは語る。
必要な経験と基本的な動作を身につけるべく、先日の12月16〜18日に、国内でははじめてとなる日本代表合宿が白馬のつがいけマウンテンリゾートで行われた。編集部はその合宿に1日帯同してみた。そこでわかったのはSkimoは想像以上にハードなスポーツだということだ。