西伸幸と堀島行真が伝える、コブを速く滑る極意

Photo/Tomohiro Watanabe
取材協力/かぐらスキー場

陽射しが強くなり雪が柔らかくなる春シーズンはコブ滑走に最適な時期だ。硬くしまったハイシーズンとは違い、まっすぐにスキーを走らせても衝撃が吸収されやすくスピードが出しやすい、そのため自らの限界値を高めていくにのもってこいだ。

春こそコブ滑走のレベルアップを。ということで、神立 フュージョン バンプ スクールの校長で約16年間日本代表チームに在籍し、バンクーバーから平昌五輪まで3回連続オリンピック出場を果たした西伸幸と、記憶に新しい北京五輪銅メダリストの堀島行真が「コブを速く滑る」をテーマにセッション。

柔らかな春雪は、スピードを出すトレーニングにはもってこい。そのことを2人とも共通認識として持っている

すでにある程度コブが滑れる人を対象イメージにして、速く滑る魅力や滑るために必要な技術や戦略について語ってもらった。

また、西、堀島がそれぞれ考えるコブを速く滑るためのメソッドも紹介していこう。

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コブをハイスピードで疾走する魅力

編集部(以下編):そもそもコブを速く滑る面白さってどんなところですか?

西伸幸(以下西):僕は「速い=カッコいい」っていうのがあります。スキーって目立ってナンボじゃないですか。昔から白馬で滑ることが多かったんですけど、例えば八方尾根の兎平はコースの真横にリフトがありますよね。リフトに人が全然乗ってなかったら滑るのやめようかなとか思いますし、コースに人がいっぱいいたり、リフトに人が乗っていたら、そろそろ行こうかって感じです(笑)。

人が増えるまで、ブーツをいじったり、板を触ったりしたりとか。”俺を見ろ”じゃないけど、目立って、カッコよくいたいっていうのが、かなり強いですね。

「目立ってナンボ」は選手を引退しコーチになっても変わらないという西伸幸

堀島行真(以下堀島):いまの話、ちょっとわかる気がします。リフトが近くにあると意識しちゃいますね。モーグルの競技に限らず、自分の足ではスキーのスピード感って出せないと思うんです。走ってもスキーのようなスピード感は絶対出せない。なのでスピード感、その中でコブ斜面を滑るのは楽しいですね。自分の限界を超えている感じがするので。

堀島行真も見る人の視線は意識するという。限界スピードを探るのがコブの楽しさのひとつ

西:競技をやってたときに、エアやターンは人が見て点数をつけるものだった。でもスピードだけは違う。昔から速さにはすごいこだわりがあって、ちょっとミスってもいいけど、とにかく誰よりも速く滑りたいのがありました。

一番速く滑れる人がコブも上手いっていうのは、どっかにあるんですよ。もちろん綺麗に滑るためや点数を取るためにしなきゃいけないことはあるんですけど、やっぱり「スピードが速い=上手い」が、小さい頃から漠然と頭の中にありましたね。

堀島:僕、現役のときノブさんと重なっていて、デュアルモーグルは3試合ぐらい対戦してるんですけど、2試合は負けて、最後1回勝ったぐらい。それぐらいやっぱりその「速い=ノブさん」のイメージがあります。現役のときも学んでいた部分はあったので、僕とノブさんがどうやって速く滑っているいるのかを探れたら面白そうだなぁと思いましたね。

コブでの速さをお互いはどうみている

編:スピードという側面から、お互いをどうみているのですか。

規則的に並ぶコブで徐々にスピードを上げる西伸幸

堀島:僕は高校1年生ときにナショナルチームに入ってから、ノブさんが平昌オリンピックを終えて引退するまで一緒にスキーさせてもらったんですけど、スピードに自信があって、スピードが速いことはカッコいい、っていう姿を真似してた部分はめっちゃありますね。

ノブさんと初めてデュアルモーグルで対戦したのは中学校3年生のときの全日本。そこで初めて世界を戦っているノブさんたちのスピードを目の当たりにして、それを感じてからは、安定したスピードの出し方や、安定感のある中でスピードをどんどん出していく、暴れても絶対にゴールまで行くっていうことを、すごい学ばせてもらったなと思います。

西:僕が思うコブでのスピードの出し方、飛ばし方は、大きく分けて2種類あると思ってます。極端に言うと、スキーの真ん中から少し前めに乗りながら、コブの裏側を踏んで加速させる滑り方もあれば、後傾まではいかないんですけど、ちょっと後ろめに乗って、板の抜けを良くして、早く滑る。この2パターンあると思っています。

前寄りのポジションをキープしてスピードを上げる堀島

それで言うと、イクマは後ろに乗ってスピードを出していく滑り方が、あまりわからないと言ってて。彼は本当にいいポジションに乗っている。すごく前めに乗って、速さを出すタイプだと思ってます。僕はどちらかというと、コブの抜けを意識してます。少しだけポジションを後ろめにして抜けを良くしてスピードを出すのが僕は得意です。そこが2人の大きく違う部分だと思います。

堀島:ポジションの位置取りの違いがあるかもしれませんね。

編:傍からみたら、その違いはほぼ分からないレベルでしょうか。

西:そうだと思います。乗るポジションのほんのちょっと前とちょっと後ろっていうような。もうすごい絶妙なところだと思います。

スピードを出す感覚は2人も微妙に違う

編:二人はどういったステップを得て、コブの限界スピードを上げていくんですか?

西:やっぱり速いほど恐怖心が出ると思うんですよね。なので、それを如何に無くしていくかというのはとても大きなことだと思います。

どれだけ自信を持てるか、成功体験を増やしていけることがすごく大切。例えば、最初からめちゃくちゃ硬くて大きい急斜面のコブを速く滑るのは無理だけど、斜度の緩いコブならできる。そういった成功体験を増やしていくこと。

緩斜面はスピードの限界を上げるのにピッタリ。上手く滑れた経験を重なることが大切

一つとして同じようなコブはないんです。経験値が多いほど、スピードが出せると思っています。なので、順番としては恐怖心をなくすために成功体験をどんどん体に覚えさせて、その経験をいろんな斜度やコブに当てはめて、さらに経験値を上げていくのイメージです。

堀島:すごく正しい話だと思いますね。成功体験を積むのはすごく大事です。

その上で、テクニカルな面でいくと雪面コンタクト。スキーが雪面にずっと触れているような滑りができると、スピードを出したときに安定感が生まれます。空中に浮くと恐怖心が出るので。ただ僕らが本気で滑るとスキーは空中に浮くんですよね。

雪面コンタクトをせずに、コブとコブの間に橋をかけるようにスピードで超えていく滑りが最終段階と思います。

スピードが速くなるほど雪面コンタクトが少なくなる

西:僕が常に心がけているのはスキーヤー側から見て、コブの登ってる部分の頂点付近でスネ圧をグッとかけることを意識していています。とくに直線的に速く滑るときはなおさらですね。

あとは、常にコブからくる圧と、自分から仕掛ける力のバランスを整えること。スピードが速くなるほど、同じコブを滑っていても、コブからの圧は強くなります。同じスピードで滑るなら、例えばコブからの圧が10段階のうち5の圧がきたら、自分からも5の力で返す。均等なスピードで降りるなら、こんなイメージをしています。

これが減速したいときは、5で来たコブの圧に対して6や7の圧で返す。これならライン取りを大きく変えなくても減速していく。逆に加速するときは、5で来た圧に対してはマイナス1、4ぐらいの圧をかけてスピードを調整することを僕は心がけてます。

ハイスピードで滑りながらもコブと会話をするかのように滑る西

堀島:その感覚分かります。ちなみに、圧のかけ方というのはコブへのタッチの感触ってイメージですか?

西:そう、そんな感じ。常にどれだけの圧をかけていくかっていう。膝を引き上げる感じはあまりなくて、圧を弱くするようなイメージ。僕は腰の位置、高い低いはあまり意識してないです。体の下にスキーがある。とくに体の下からブーツが横に出たり前にでたりしたら、スキーが走ってしまうので、スピードコントロールをするときは、常に腰の下にはブーツがあるような形で、圧を強くするというようにやってます。

堀島行真のコブスピード調整法

編:堀島さんはどういったスピード調整方法のイメージなんですか。

堀島:春雪の場合は「(コブの)裏を踏む」ことをすごく意識しています。

コブの表面から裏側へすぐに入れるようにポジションをちょっと前にするんです。1ターンごと前にしていく感じで、自分の腰を上げて、コブの裏に入ったら、自分の足元側に力を入れると、そこで板を踏むことができるので、急斜面で板を踏んでいる感覚になりスピードをどんどん出していけます。

ただ、ずっとコブの裏側を踏めるわけじゃないので、踏んでからその後は、コブの頂点に当たったときに、ポジションをすぐにスキーのトップが落ちる姿勢をキープしながらバランス取ってる感じです。あとは、スピードがある程度乗ってきたら、本当にほぼ動かない形でやってます。

西:イクマにはそのイメージがある。踏んで踏んで(スピードを出して)いくみたいな。

堀島:スピードを出せる人は、この感覚がわかると思います。でもコブの裏を踏んで加速させるのは、最初の1、2ターンぐらい。その後はほとんどそういった動きはしません。すごい硬いバーンのときは1ターン1ターンを抑えていきます。それでもどんどんとスピードが出ていってしまうので、どれだけ自分の体の下にスキーを置き続けられるかが一番重要です。スピードがあるなかで、ポジションを保ち続けながら、雪面へのタッチ、大きく強く削るとスピードは落ちますけど、軽く削ると、摩擦が少なくなり、スピードをコントロールしてる感じです。

コブ談義に花が咲く2人。手振りを交えながらお互いの技術論を語り合う

編:競技中のスピード調整を例を挙げて説明してもらってもいいですか。

堀島:ミドルセクションを滑っていて、2エアの前ではスピードを調整しないと、大きく飛びすぎてしまいます。2エアに近づく5コブ前ぐらいから少し強めに雪面へとプレッシャーをかけます。5コブほど滑るとスピードが適度に落ちるので、そのスピードでエアを飛び1本を滑り切る形ですね。速く滑るためのポジションは一番バランスを崩しやすいところでもあるので、そこはバランスを保つように意識しながら滑っています。大きくスピードを出したり落としたりというのはあまりしないようにしています。

編:なるほど、どうもありがとうございます。


「コブを速く滑る」というテーマでの対談にあわせて、コブ斜面を速く滑るためのメソッドを西、堀島の2人から5つ用意してもらった。

西信幸が伝えるのは「コブの頂点で圧をマックスにすること」「成功体験を重ねる」の2つ。
堀島行真は「コブの裏を踏むこと」「ポールを突くタイミング」「コブを一直線に滑る」の3項目。

これらは追って映像で紹介していく予定だ。

西伸幸 Nobuyuki Nishi

1985年7月13日生まれ 神奈川県川崎市出身

2002年から16年間に渡ってナショナルチームに所属。世界選手権2大会連続銀メダルや、バンクーバー、ソチ、平昌と3度の五輪を経験。現在は神立フュージョンバンプスクール校長として、広くコブ滑走の楽しさを伝えている。

Instagram:nobuyuki_nishi_241

神立フュージョンバンプスクール https://www.kfbs.jp/

堀島行真 Ikuma Horishima

1997年12月11日生まれ 岐阜県池田町出身

トヨタ自動車スキー部所属。言わずもがな日本男子モーグルのエース。’22季は総合2位、北京五輪銅メダルの好成績を収めた。’23季はフランスのデュザルプでデュアル、モーグル共に優勝。好調を維持し、日本チームを牽引し続けている。

Instagram:ikuma1211

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