国内最大級のビッグゲレンデ「星野リゾート ネコマ マウンテン」を、上村愛子と星野佳路が滑り語らう

'24シーズン最大のトピックス。連結したアルツ磐梯と猫魔

星野リゾート アルツ磐梯と星野リゾート 猫魔。福島県を代表するこの2つのメジャースキー場が連絡リフトで接続され、この冬、名称も新たに「星野リゾート ネコマ マウンテン」として生まれ変わった。
会津磐梯山から連なる猫魔ヶ岳の、南北にまたがるゲレンデの総滑走面積は189ha。コース数33、リフト13本と、国内屈指のスペックを誇るビッグゲレンデの誕生である。

猫魔ヶ岳上空から見たネコマ マウンテンと磐梯山、猪苗代湖。左が北エリア(裏磐梯猫魔)、右が南エリア(アルツ磐梯)。

ご承知の通り、アルツ磐梯と猫魔は、それぞれ根強いファンを持つ人気のスキー場だ。

アルツ磐梯は、奥行きあるエリアに広がる多彩なコースバリエーションと、会津磐梯山や猪苗代湖を望む景観の良さ、そして充実の飲食サービスなどが魅力的。

一方、磐梯山系の北側、裏磐梯地区に位置する猫魔は、10年以上にわたって気象と地形を調査して開発地を決定したといわれるスキー場で、エリア全域が標高1000mを超える北面、という絶好の条件に担保された雪質コンディションと、一見コンパクトに見えて実は奥行きのあるコースレイアウト、滑り応えのある各コースなどが人気の理由だ。

この2つのスキー場は、実は一つの山の南面(アルツ磐梯)と北面(猫魔)にそれぞれ拓かれたもので、山頂を境に背中合わせで隣り合っていた。
これまではアクセスルートが大きく異なるためにイメージしにくかったが、地図を広げれば一目瞭然。両スキー場のトップは最も近いところで、直線距離にして700mほどしか離れていなかったのだ。

指を指した箇所が連結リフト・南エリアの乗り場になる

そこに目を付けたのが、星野リゾート代表の星野佳路さんである。

ご存じの通り、星野さんは大のスキー好きとして知られ、多忙な執務と向き合いながら、年間滑走日数70日を目標に滑り続けている経営者だ。
そんな星野さんからすれば、わずかな距離を残して南北に展開する両スキー場の接続は必然に思えた。実現すれば、スキー場利用者にとっても、事業者にとっても、地域にとっても、計り知れない価値を生むと星野さんは考えたのだ。

それは全国各地でリゾート施設再建を託されてきた敏腕経営者としての視点であると同時に、変化に富んだコースバリエーションが2倍以上に広がる、という熱心なスキーヤー目線からの期待だったのはいうまでもない。

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2つのスキー場がつながるまでの経緯が、いま明かされる

南エリアでもっとも奥深くいエリアになる霧氷チェア周辺の雪質は極上

1992年、スキーブーム最盛期に開業したアルツ磐梯スキー場は、その後のバブル崩壊とブームの終焉によって経営が破綻し、2003年から星野リゾートによって運営が引き継がれている。今から20年前の話だ。

その5年後の2008年、星野リゾートは当時の裏磐梯猫魔スキー場の経営を同じく引き受けている。そこで浮上したのが、二つのスキー場を頂上で繋いで一体化させる、という夢のプランだった。だが、そこには厳しい現実が待ち受けていた。星野さんは言う。

「私たちが2008年に猫魔の経営を引き受けたときに、将来的にアルツ磐梯と猫魔を接続させることを考えました。実際そのプランは、世界の投資家にこの地域に興味を持ってもらうための説明材料としても使いましたからね。そこから1年、2年とプランを練っているうちに東日本大震災が起きて、それどころじゃなくなってしまったのです」

気象状況によって様々な表情を見せる自然の芸術が美しい

震災後は被災者を受け入れたために、1年弱ほどホテルの営業を停止していたこともあったが、最大の問題は、原発事故による風評被害だった。

「当時は、福島県のスキー場に行くというだけで親が反対する、といわれていました。そんな事情ですから、需要は半分以下になると予測しました。観光業に携わる者としては非常に難しい状況です。けれども、それをなんとかするのが観光業の醍醐味。原発事故の風評被害を乗り越えて、この地域の観光をサステイナブルにすることが私のライフワークになったのです」

アルツ磐梯と猫魔の「再再生」プロジェクトが動き出したのは、次第にスキー場に客が戻り始めた2014年からだった。両スキー場接続へ向けた取り組みも、この時点でスタートした。
2つのスキー場間はわずかな距離だが、国立公園内ということもあって、接続には非常に難しい許認可申請が必要だった。
国有林の所有者は林野庁、国立公園の管轄は環境省、リフト架設は国土交通省と、3つの役所にはそれぞれ違った基準があり、このプロジェクトの意義をご理解いただきながら、それぞれの基準に丁寧に適合していく必要があった。それを一つひとつクリアしているうちに、数年間はあっという間に過ぎていった。

北エリアと南エリアを徒歩で結ぶルート。リフトが架かった後も残る予定だ

2019年からは、両スキー場間を徒歩で片道20分で行き来できる雪上徒歩ルートを設置し、リフト券を共通にすることで実質的に2つのスキー場を接続させた。

これは接続によって収益を上げるというよりは、接続による実績を各監督官庁に報告することが大きな目的だった。徒歩ルートを行き来する人数をカウントして、利用者のニーズを可視化し、安全運行の実績を積み重ねる。そうしたデータは、この接続の社会的、そして観光産業としての意義を広く理解していただくことにつながると考えた。これが両スキー場接続の第一歩となった。

そうした苦難の道を経て、ようやく連絡リフト架設が実現したのが今回の話である。発案から15年が経っていた。

「ようやくここまでたどり着いたという感覚です。裏磐梯で観光産業を営んでいる皆さんたちも喜んでくれました。このエリアの宿泊場所としては、裏磐梯側のベッド数のほうが圧倒的に多いんです。
観光産業の一つの大きな課題は、需要の年間平準化。オフシーズンである冬季に、裏磐梯の部屋を稼働させることは地域経済に大きなインパクトがあります。原発事故後の風評被害でとても厳しいことになってしまったのですが、これも復活への効果ある打ち手の一つ。わずか1本の連絡ペアリフトですが、それは本当に大きな一步だと思っています」

南エリアの奥深くにある美しい霧氷やブナ林は、なかなかお目にかかれない

ベースエリアから上がると、磐梯山方面は厚いガスに覆われていた

2023年1月下旬。ハイシーズンの星野リゾート アルツ磐梯に、上村愛子さんの姿があった。この日は、スキーを通じて親交のある星野さんに誘われて、一緒にアルツ磐梯と猫魔でスキーを楽しもうということになっていたのだ。

あいにく、この日は朝から好天には恵まれず、山の半分から上部は濃いガスに包まれたまま。それでも星野さんは「まずはクワッドに乗りましょう」と滑る気満々だ。

星野さんと上村さんは揃ってフード付き高速リフト「アルツエクスプレス」に乗り込み、何やら話が弾んでいる。観光事業の救世主としてメディアから引っ張りだこの腕利き経営者も、世界の強豪たちがひれ伏した元モーグル世界女王も、リフトの上では一人のスキー好き。話が盛り上がらないわけがない。

天候の状況にかかわらず、リフト上での会話も弾む2人

リフトトップからは緩やかな尾根コースを滑り、途中から左に折れると「バレーエリア」と呼ばれる大きな2つのボウル状地形が連続する上部エリア。
それをボトムまで滑り下りて、4人乗りのブラックバレーエクスプレスに乗車。降りてから2つ目のボウルに滑り込んだ地点が、猫魔スキー場との連絡リフト予定地だった。

星野「ここが連絡リフトの乗り場になります。この位置から山の稜線を越えて猫魔スキー場へと接続します。反対に猫魔側から乗ると、稜線を越えたあとに、この位置まで下降します。下りのリフトは嫌がる方がいるかもしれないので心配しています」

上村「慣れてくるとアトラクションみたいで楽しいって人もいると思いますよ。夏の氷河でのスキートレーニングでは、帰りは長い距離をリフトで下ることが多くて、私はけっこう楽しんでいました」

ポールの指す先が南エリアのリフト乗り場になる予定。場所はピーク2の下部

星野「なるほど! アトラクションとして捉えればいいかもしれませんね(笑)」

スキー好きの二人らしく、雪上で話す会話はポジティブで明るい。次いで緩斜面を滑り下りると、「霧氷チェア」という名のペアリフトに乗り込んだ。アルツ磐梯の最奥部に位置し、リフトトップから振り返ると会津磐梯山と猪苗代湖の眺望が素晴らしいエリアだ。
だが、この日の景観は白い幕に閉ざされたまま。その代わりに、淡い光のなかで白さを増した美しい霧氷に目を引かれた。

時間が経っても磐梯山は姿を現さず……。そのぶん幻想的な霧氷が際立った

星野「この霧氷チェア周辺のコースは、アルツ磐梯のなかでも景色がよくて斜度もあって、私が一番好きな場所です。視界が開けているときは最高ですよ」

上村「残念ながら景色は見えませんが、でも、すごい幻想的な景色ですね。私がいつも滑っている白馬では、こんなに美しい霧氷やブナ林にはなかなかお目にかかれません」

星野「もしかすると、磐梯山が見えないときのほうが、霧氷やブナ林の美しさを楽しんでいただけるのかもしれませんね。磐梯山が存在感がデカすぎるから、あれが現れると山にしか目が行かなくなる」

「霧氷チェアリフト」の名の通り、白く透き通った枝々に囲まれ気分が清々しい

北エリアはしっかり圧雪された中・急斜面が多く、滑り応えがある

猫魔スキー場と連絡する雪上徒歩ルートの入口ゲートは、霧氷チェアを降りた地点にある。ここからブナ林を縫って歩くこと約15分、距離にして800mほどで猫魔スキー場のトップに出る。
徒歩ルートの両サイドはロープで誘導されているので、道に迷う恐れはない。わずかなアップダウンはあるものの、コース全体ではほぼ平坦だから、誰でも安心して歩くことができるはずだ。

徒歩ルートではスキーは装着せず、スキーブーツで歩くのがルール。そのため、ゲートにはカンタンにスキーを背負える簡易ハーネスが用意されている。スキーを背負えば両手が自由になり、両ストックで支えながら雪道を歩けるが、なければ肩でスキーを担がなければならないから、あるとないでは大きな違いだ。

これから少し歩くというのに、スキーを背負って笑顔を見せる上村愛子

やわらかな雪を踏みしめながら真冬の白い森を歩く。そんな体験はめったにできるものではないし、思いがけない心地よさに、ひととき滑りを忘れるはずだ。

今季からは大半の人は新設された連絡リフトで移動するはずだが、この徒歩ルートは残されるようだ。スキー場トップに位置する美しい雪のブナ林を、ゆっくり歩いて楽しんでほしいという、星野リゾートらしい遊び心のあるメッセージだ。

スキー場の喧騒から離れて静かなブナ林を歩く2人。自然に入り込むほど笑みが漏れる

徒歩ルートを抜けた一行は、猫魔スキー場の各コースを一通り滑ってから、再び徒歩ルート経由でアルツ磐梯側に戻った。猫魔エリアにはしっかり圧雪された中・急斜面が多く、滑り応えがある印象が強い。
北面ならではの乾いた雪を圧雪したバーンは、エッジの掛かりもよく、快感度の高いカービングターンを楽しめる。

上村「星野さんのスキーが上手なことは、以前トマムでご一緒したときからわかっていましたが、今日、後を滑らせてもらって、タテのラインで滑る方だとわかりました。

エッジに乗って板を走らせるから、スキーが速い。大好きな私の先輩がそういう滑り方をするんですけど、どちらかというと私はスキーを回し込んでしまうタイプなので、あ、遅れそうって思って少し慌てました。星野さん、速いって(笑)」

とても楽しそうに滑る2人

星野「いやいや、けっこう緊張しましたよ。私が前を滑るときは、遅いと思われたらイヤだ、という意識がどうしても働きますからね。上村さん、きっと遅いと思ってるだろう、それだけは避けたいなと(笑)」

スキー場が横へ広がるのではなく、裏に広がるのがおもしろい

スキーを脱いでリゾートセンターで遅めの昼食を取りながら、ほっとひと息。朝からずっと、2つのゲレンデをほとんどノンストップで滑り通した2人だったが、それでも話は尽きなかった。

上村愛子は普段滑っている白馬エリアとは異なる雪質をつぶさに感じ取りながら滑っていた

上村:「標高が高いことで雪もよかったですね。南側のアルツ磐梯はちょっと硬めの圧雪バーンで、裏の猫魔ではどう雪が変わるんだろうと考えていました。雪の上を歩いて、半分を過ぎたところで、なんとなく空気が変わったのを感じ、そこから雪質が変わったのが足の裏の感触でわかりました。
山の表と裏をつなぐって、こういうことなんだなって思いましたね」

星野「たしかにそうですね。景色も変わるし、雪質も変わる」

上村「白馬のスキー場は横に並んでいて、2つが繋がっている例はいくつかあるけれど、山のこちら側と裏側がこんな近くでつながっているというのは、私が思い浮かべたなかではないので、すごくおもしろいなと印象深かったです」

星野「横に広がるのではなく、裏に広がっていると旅をしている感が増しますよね」

「エッジに乗って板を走らせるから、スキーが速い」と上村愛子が評した星野佳路の滑り

上村「新しく架かる連絡リフトに乗ったら、見える景色がガラッと変わるんでしょうね。歩いて移動しただけでこんなに印象的だったくらいですから」

星野「アルツ磐梯から歩き始めてすぐのところにちょっと開けた所があったのを覚えていますか。あそこの景色が一番素晴らしいんです。目の前に磐梯山、裾野には猪苗代湖が広がっている。猫魔側から連絡リフトに乗ってくると、尾根を越えたところで、目の前にあの景色がバーンと広がるはずです」

上村「想像しただけでワクワクしますね」

星野「猫魔側とはぜんぜん違う景色ですからね。滑走する1日の楽しみが広がることが一番重要なことですね」

上村「スキー場に滑りに行くと、午前中は目いっぱい滑って、お昼に少し休んで、あと何本か滑って終わろうかな、という流れになると思うんですけど、これだけいろんな地形や雪質を滑れるとなると、まる1日じゃ足りないだろうなと感じました」

星野「宿泊業にとって、大変嬉しいコメントです」

景色が抜けていると会津平野が望めるフローズン3

星野さんと上村さんが一緒にスキーを楽しんでから半年以上が過ぎた現在、すでに連絡リフトも完成し、あとはオープンを待つばかり。
積雪状況にもよるが、今のところ、猫魔サイドの「北エリア」が12月1日に先行オープンし、アルツ磐梯サイドの「南エリア」は、12月22日の開業を予定している。

北面に展開している「北エリア」は、例年通りシーズンインも早く、ゴールデンウイークまでの長い営業期間を予定している。ただ、連絡リフトを活用することで、「南エリア」のベースの営業期間外でも、雪が早く降る(遅くまで雪が残る)上部エリアのリフトを稼働させるという可能性も大いに考えられる。これもまた、2つのスキー場が接続するメリットである。

山を超えて奥へ行った北エリアの雪質もまた素晴らしい

最後にひとことだけ余計なことを書くとしたら、滑り手としてみれば、連絡リフトではなく、リフトトップから裏側のスキー場に滑り込めたほうが自然だ。つまり、両スキー場を滑って行き来したい、ということ。実は地形的にはそれを可能にさせるラインもある。

だが、その場合、わずかな距離とはいえ、国立公園内で新たなスキーコースを拓くことになるから、連絡リフトを1本架けるよりも、はるかに敷居が高く、長い年月が必要な難しい許認可事業になるのは間違いない。

けれども星野さんのことだから、当然、そんな将来像は頭のなかに描いているかもしれない。滑り好きの私たちとしては、「これがまずは第一歩」と語ってくれた無類のスキー好き経営者に期待したいと思う。

Photo/Yoshiharu Hoshino

プロフィール

上村愛子 Aiko Uemura

長野県白馬村育ち。2008年日本人モーグル選手として初のFISワールドカップ総合優勝、2009年世界選手権優勝、冬季五輪5大会連続出場と数々の実績を残し2014年4月に選手を引退。現在はTVスポーツ関係のコメンテーターをはじめ、雪やスキーをベースに活動の幅を広げながら、白馬村をベースに滑り続ける。2022年は自身初となるイラストを手掛けた絵本が発売。2023年11月には白馬村観光大使に任命された。

星野佳路 Yoshiharu Hoshino

長野県軽井沢町生まれ。1991年より星野温泉(現星野リゾート)代表に就任。スキーへの愛情が深く、テレワークが常態化したことによって、滑走日数は年々増加。それにあわせて21シーズン60日、22シーズン65日、23シーズン80日と滑走目標も進化中。また、スキー旅と共においしいものを食べたい目的で「星野グルメスキークラブ」を主宰し、グルメをぶら下げて草の根からスキー人口を増やす活動を続ける。

Text/Chikara Terakura
Photo/Go Ito


Information

星野リゾート ネコマ マウンテン
〒969-3396 福島県耶麻郡磐梯町大字更科字清水平 6838-68(南エリア)
〒969-2701 耶麻郡北塩原村桧原猫魔山1163(北エリア)
公式サイト:https://www.nekoma.co.jp/
SNS:InstagramFacebookX(Twitter)

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