児玉毅のライフワークである「地球を滑る旅」が4年ぶりに再開した。今回は舞台は北極圏のノルウェー・スヴァーバル(旅の詳しい内容は書籍にて)。2023年5月末に25日ほどにもわたる充実した旅を終え、そのまま日本へ帰国……と思いきや、彼はその足でスウェーデンへと移動した。その理由ははたして?
ポツンと佇む小さな駅に降り立ったのはいいのだが……
ノルウェーでの撮影を終えた僕と圭くん(カメラマン佐藤圭)は、ナルヴィクという港町でスウェーデンのキルナ方面に向かう電車に乗り込んだ。
ヨーロッパ最北の鉄道駅であるナルヴィク駅は、簡素で乗客はほとんどいない。電車の本数も往路と復路合わせて一日4本程度だ。なぜこんな僻地にわざわざ鉄道が……と思ったら、乗客はほとんどおらず主役は、世界最大の鉄鉱石鉱山として有名なキルナ鉱山で採掘された鉄鉱石なのだ。
冬季になるとバルト海に面するスウェーデン側の港が凍結するため、不凍港であるナルヴィクまで鉄道が延びたというわけだ。鉄鉱石にはもったいないいくらいの素晴らしいフィヨルドの絶景を楽しみながら、電車はノルウェーとスウェーデンの国境方面に向かった。
スウェーデン語で「国境」を意味するリクスグレンセンという駅にはスキー場が隣接している。今週末に開催されるFWQの大会に出場する若いスキーヤーたちで賑わっていたが、俺たちが降り立ったのはもう一つ先の隣の駅。なんもない荒野にポツンと佇む小さな駅だった。
「本当にここでいいんだろうか?」
ここは北欧の一大ブランドであるHaglöfsのなかでも象徴となっている「VASSI」シリーズの名前の由来となっている場所。正直もっと大きな駅や大きな山をイメージしていたのだ。
若干戸惑っていると、ストックホルム方面から到着した電車から笑顔いっぱいのHaglöfsフレンズが続々と降りてくる。今回集まったのは、Haglöfsがサポートするライダーやガイド、本社のスタッフや世界各地のディストリビューター、アウトドア関連のメディアなど、筋金入りのアウトドア愛好家たちだ。
そして、個性豊かな面々を束ねるのは、このエリアで生まれ育ったスキーヤーでイベントプロデューサーのペールだ。さて、長時間移動の後だから、まずはホテルで身体を休めて、ロッカールームで着替えて、荷物を預けて……と思ったら大間違い。
寒空のしたで準備をして、早速キャンプに向けてハイク開始と来たもんだ。
登るのに必要ない旅行道具はスノーモービルに乗せられてキャンプ地に運ばれていった。電車で移動してきてダイレクトに4日間の雪山生活に入るわけだが、非日常のようで当たり前のような雰囲気。雪上で遊ぶことが、生活に近い距離感にある北欧ならではといった感じだ。
40分ほどハイクアップすると、VASSI山麓の丘のうえに見事なベースキャンプ村が設営されていた。ダイニングでは、この土地の食材(トナカイやサーモン、タラ、エビなど)を使った美味しい食事が振る舞われ、さまざまな種類の地ビールをはじめとするドリンクがいつもスタンバイされている。
ミュージシャンのアコースティックギターと歌声が心地よく響き、焚き火を囲む人々や、サウナで汗を流す人々の笑い声が聞こえる。近くの斜面では、若手のライダーたちがキッカーを作って遊び、ベースの平坦地ではカイトスキーを楽しんでいる人もいる。
キャンプを共にして、サウナやバーで交流し、バックカントリーで一緒に遊ぶ。焚き火を囲みながら、あるいはハイクアップしながら、Haglöfs製品の情報交換も欠かさない。実に、ナチュラルであり情熱的。
そんな贅沢な時間が3泊4日続くのだ。
スキーヤーの俺は、これ以上に素敵な交流の仕方を知らないし、それを目の前でまさに実践しているのがHaglöfs campだった。
キャンプを通じて改めてホグロフスへの信頼度が増した
1914年に生まれた歴史あるブランドであるHaglöfsは、それぞれ時代において革新的なアイデアと技術で
優れた製品を生み出してきた。そして、近年、とても重要な行動に踏み出した。
繊維業界が歴史的に見て必ずしも地球環境に優しく接してきたとはいえないと認識していたHaglöfsは、地球へのインパクトを軽減するための取り組みを始めた。ブルーサインとフェアー・ウェア・ファンデーションという2つの団体に加入し、地球環境保全に対して非常に厳しい基準を設定した物作りに取り組むようになったのだ。
いまでは、世界のアウトドアブランドのなかで、地球環境保全に対して最も意識の高い(実際に取
り組んでいる)ブランドのひとつとして高い評価を受けている。自然の厳しさも恩恵も肌で知り、その偉大さに対していかに自分たちがちっぽけな存在であるかに気づかなければ、本当のサステナビリティには取り組めないはずだ。その根底には間違いなく自然へのリスペクトがあり、それは義務でも流行でもないことが伺える。
そのベースになっているのが、子どもの頃から持っている好奇心や冒険心であり、アウトドアや雪上での遊びに対するたゆまぬ愛情と言っていいのではないだろうか。
豊富な残雪を誇るVASSIマウンテンだけれど、俺たちが滞在した期間、降雪直後の雨の影響や、視界不良などもあり、最高のコンディションではなかった。けれども、とにかくバックカントリーで身体を動かし、雪山での時間を満喫することに貪欲で笑顔を絶やさないHaglöfsフレンズとの時間は、身にまとっているHのロゴを携えたウエアをはじめ、様々なグッズに魂は吹き込まれていくように思えた。
みんなが自然やスキー・スノーボードを愛する面々だから、もともとお互いにほとんど壁はないのだけれど、4日間の共同野外生活で、より一層一体感が増していった。
そして、人生において大切なものはそれほど多くないということに改めて気付かされた。心の通った家族や友人がいて、健やかな自然があって、美味しい食事とお酒があり、スキー・スノーボードができること。
ギターの生演奏でみんな踊っていた時、何気なく肩を組んだ隣の大男は、よく見るとHaglöfs本社の社長、フレドリックだった。
このメンバーに自分が入れたことが本当に誇らしく、ライダーとして、自然を愛するひとりの人間として、少し成長できたような感覚があった。着用することで、自然との距離感が近く感じられるようになり、着用することでワクワクし、優しい気持ちになれる。
ただここに自分が存在していることを心地よく感じられることが、一番大切なことだと思えるのだ。
Haglöfsとなら、そのようなライフスタイルを一緒に歩める。僕はそう確信していた。
児玉毅 Takeshi Kodama
日本を代表するプロスキーヤー。アラスカやグリーンランドなど世界各国へ遠征し、エベレスト登頂歴も含め、プロ歴20年。「BRAVOSKI」「Fallline」などスキー専門誌での執筆や、「icon」シリーズをはじめとする映像作品でも重要パートを担う。2012年からはじまった「‐Ride The earth-地球を滑る旅」は今回のノルウェー・スヴァーバルで9カ国目を数えた。なお、アルミ缶のイラストはタケではない、念のため。
Instagram:skiertake0728
※このキャンプ中に着用していたHaglofsのフラッグシップモデル「Vassi Pro Jacket」のインプレッションがHaglofsサイトでも読める。
https://haglofs.jp/contents/Back_to_Haglofs_Takeshi_Kodama
■Haglofs JAPAN https://haglofs.jp/