Location:舞子スノーリゾート
POWが発起した「サスナブル・リゾート・アライアンス(SRA)」に加盟し、気候変動やサステナビリティへの取り組みを熱心に取り組んでいるスキー場を紹介するシリーズ企画。今回は新潟県にある5つのスキー場をオペレーションしている「スマイルリゾート」をピックアップ。新潟県というロケーションならではの視点やアクションとは?
全国に約70カ所のホテルと新潟県に舞子スノーリゾート・湯沢中里・ムイカスノーリゾート・キューピットバレイ・二ノックススノーパークという5つのスキー場を持つスマイルリゾート。それらのスキー場は、その名の通り、子どもから大人まで訪れる誰もが笑顔になるようなゲストに優しい運営が特徴かつ魅力だ。
そして、STEEP読者なら、舞子や湯沢中里、ムイカなどはパウダーライドやツリーランが楽しめるフリーライドの名所であることも、きっとご存知のはず。クルマにせよ新幹線にせよ、都内からの抜群のアクセスの良さは言うまでもない。
スマイルリゾートがPOWのサステナブル・リゾートアライアンス(SRA)への参加を決めた背景はどのようなものだろう。グループの考え方やサステナブルな取り組みについて、株式会社スマイルリゾート執行役員の八木達也さんと、舞子リゾートの鈴木俊登さんに話しを聴いた。
現場の危機意識
いま、気候変動への危機意識はどのようなものだろうか。
「本来新潟のスキー場は、10年前は110日営業できたけれど、今年は100日営業できたらいいね、というのが目標になっています。新潟県は、気温は低くなっても湿度が高いので人工降雪機が使えない。空気が乾燥している地域でないと人工降雪機は稼働できないんです。100日営業して利益を出すというミッションがあるなかで、天然雪だけで本当に100日間の営業ができるのか、また、近い将来は90日に、やがては70日になってしまうのではないか、という心配があります。現場はシーズンが短くなっていることを危機感として切実に感じています」と八木さん。
実は、八木さんはカヤック競技で活躍するトップアスリートという顔を持っている。雪山と違うウォーターのフィールドでは、どのような現実があるのだろう。
「カヤックをやっているなか実感するのは、最近は水が極端になったことです。というのは、僕らは波が自分の頭より高くなるような流れを下るのが楽しいので、台風が近づけば激流を求めて四国の吉野川などに行って楽しんでいたけれど、最近は台風のサイズが巨大化して、下るのが怖いくらい川の水が増えちゃう。カヌーにしても浴びる水しぶきが“ワ! 冷たい!”はずだったのに、いまは“熱い!” なんて(笑)。涼を求めてウォータースポーツをやっていたはずなのに、水が冷たいものでなくなってる、というおかしなことになっています」。
やはり気候変動はさまざまなシーンで自然を狂わせ、自然を楽しむ人々を困らせているのだ。そんな現実を目の当たりにするいま、スマイルリゾートでは、どのような取り組みをしているのだろう。
買うことはしていないけど作ることには前向き
「スマイルリゾートでは再生可能エネルギーは使っていないです。いまは一般的な電力より再生可能エネルギーのグリーン電力のほうが購入コストが高いので、企業として利益を残していくためには、より安いものを選択するのが妥当な選択になっています。再生エネルギーが国の補助金などでもっと使いやすくなるといいのにな、と思います。
ただ、僕らは買うことはしていないけど、作ることは前向きに考えているんです。こじんまりとしたものですが、スマイルリゾートのグループ企業『スマイルソーラー』で太陽光によるソーラー発電所を11ヵ所持っています。
発電量は全国11カ所のソーラー発電所で、年間約1,700万㎾h(一般的なクワッドリフト350本/シーズン稼働分相当)に相当します。それがスキー場に使われているかというと、いまは流れていません。我々の発電量で、グループが所有するホテル70ヵ所、スキー場5ヵ所全部を賄うには、今の2倍は発電しないとカバーできないので。けれど、いつかそれらが賄えるようになることを目指して、ソーラー事業を展開しています」。
八木さんはこんなことも教えてくれた。雪室(ゆきむろ)だ。雪室は古くより豪雪地帯に伝わる天然の冷蔵庫。世界でも各地で古代より利用されてきた蓄熱施設だ。
「南魚沼市と一緒に、雪を夏の冷房に有効活用できないかの実験にも取り組んでいるんですよ。舞子リゾートのすぐ下に雪を山積みして、おがくずをかけて保存しているんですが、屋外の雪室のような感じですね。キューピットバレイには体育館一つくらいの大きさの、本州最大級の雪室を持っていて、駐車場にたまるハイシーズンの雪を1,500トン入れて、夏場のグランピングや食事スペースを、雪を使って冷やしているんです」。
キューピットバレイでは夏場「雪室(ゆきむろ)真夏の極寒体験」というアクティビティも提供している。雪室のなかは真夏でも0℃! 雪を掘ったり、雪のなかでハンモックに揺られて子どもたちも大喜びだ。
電気を使わずに冷房ができるとは、なんと環境に優しいことだろう。それも雪を使った自然効果とは、雪山で遊ぶユーザーにとっては、なんとも心温まる話で、スマイルリゾートを応援したくなるというものだ。
スマイルの夏場は燃料を使わずに
スマイルリゾートグループでは、スキー場のグリーンシーズンにキャンプやグランピング、フォレストアドベンチャーなどを運営している。実は、これらの仕掛け人も八木さんだった。
「10年前にキャンプ事業を始めた頃は、5月の連休に雪が残っていたりして、GWにキャンプ場がやれるのか迷っていたものが、いまはその必要がなくなってしまった。雪が少ないから夏の営業がスムーズにできるようになってしまったんですね。もうGWに雪が残っているとは現場は思っていないんです。少し寂しい気がするけど、そのなかでビジネスはたくましくやっていかないといけない。スキーシーズンが100日から90日になったら、グリーンは200日だったものが210日になる。それを上手く使おうよって。
雪室の冷房活用もそうですが、サステナブルへの取り組みは、冬の間だけでなく通年で考えています。スキー場に付随するキャンプ場やフォレストアドベンチャーなど、スマイルの夏場は燃料を使わないで、自然の持つ力で楽しめるものを提供していきたいんです。ゴーカートとかプールとかでなくてネ」。
自然のそのままで遊べる体験は、自然の恩恵を感じやすい。そして、グリーンシーズンは冬よりも誰もが気軽にスキー場に訪れやすい。頭の痛い雪の減少傾向を、逆の発想で考えてみることも大事だ。グリーンシーズンを上手に活用することで、自然の大切さやサステナビリティを伝えるチャンスも広がるに違いない。
エネルギーを減らす・CO₂を出さない努力も大事
「エネルギーを買ったり作ったりする大きな取り組みだけでなく、ひとり一人のレベルで、エネルギーの消費を減らしたり、CO₂の排出を抑える目の前の工夫も大事じゃないかなと思うんです。ムイカでは施設の扉に『館内暖房しているので扉を閉めてください』のお願いシールを貼っています。これだけでもだいぶ違う。実際の省エネだけじゃなくて、ゲストの意識化に繋がるから。
僕、リフォームが大好きで、ホテルやグランピングの施設でどんどんリノベーションをしていくんですが、電力を抑えるためになるべく個別空調にしたり、ホテルの客室にむくの木を使うとか、率先してやっています。プラスチックより木のほうが最終的に優れているし、温かみもあって気持ちがいいでしょ?」
八木さんのDIY好きはその筋ではとても有名で、むいか温泉ホテルでは、八木さんの手づくりによる自然素材を活かした温かみのある部屋が着々と増えている(笑)という。これは泊まってみたくなるというもの。八木さん、どこの部屋かぜひ教えてください! また、夏場のグランピング施設やレストランのビュッフェボードも八木さんがDIYしているそうだ。
スキー場のユーザーへのアプローチ
スマイルリゾートグループのスキー場で、訪れるゲストに対して直接的に働きかけていることはどのようなことだろう。
マウンテンクリーン
「実は、冬のシーズン中のゲストに向けての発信については、まだ発展途上中の段階です。ただ、シーズン終了後に一般の方にも呼びかけてマウンテンクリーン(ゴミ拾い)を舞子でやっています」と、舞子リゾートの現場にいる鈴木さんが教えてくれた。
草地になったゲレンデ斜面には、捨てられたペットボトルや空き缶、タバコの吸い殻やゴミなどがあちこちに。雪は溶けても、もちろんゴミはそのまま残ってしまう。周囲の自然環境を守り、快適なゲレンデを維持するためには、冬以外の季節にも様々な取り組みが必要なのだ。
このマウンテンクリーン、過去2回とも参加受付を開始してから、5~6時間程で定員が埋まってしまうという人気であることもお伝えしておきたい。舞子ユーザーの舞子愛と環境への意識の高さがうかがえる。いや、それだけではないのかも。美味しいごはん付き、参加特典付きだからか?(笑)だとしても「自分ができる取り組み」として”ハナマル”に違いない。
「YUKIGOI OUTDOOR MARKET」
さらに……
「秋には、これも舞子で「雪乞アウトドアマーケット」というキャンプイベントをやっています。2020年から始めたものですが、キャンプや買い物を楽しみながら今年も雪がたくさん降るように、ユーザーたちが集まってみんなで祈願するというユニークなイベントです。昨年はブックオフさんとのコラボで、中古ギアの買取ブースを出してもらい、リユースを呼びかけました。
イベントに参加して楽しみながらサステナブルへの意識を高めるのに、とても効果的だと思っています。今後もっと環境問題をより身近に考えることができる大きなイベントに育てていけたらと願っています。ぜひ皆さんも遊びに来てください!
また、スマイルリゾートグループのスキー場では「雪マジ世代応援プロジェクト」というキャンペーンを行っていて、18~22歳までのリフト券がお得になっています。これからを担うユーザー層の拡大を狙っての取り組みですが、今後はとくに若い層に魅力のあるイベントなどを絡めて、サステナブルについて働きかけられないかと思っています」。
実はこの「雪乞アウトドアマーケット」、STEEPを運営する㈱キャストも実行委員会として深く携わっている。STTEPでも毎年、しっかりと紹介していることもあり、STEEPユーザーも毎回(きっと)たくさん来てくれている。舞子の秋の美しい自然にふれながら、サステナブルなアクションで環境貢献、雪山が大好きな仲間づくりもできる。八木さんや鈴木さんにも会える! 次の開催にはぜひ足を運んでみないか。
SRAに感じる価値や期待
スマイルリゾートグループのサステナブル・アライアンス(SRA)加入に関して、鈴木さんは……
「実は、POWの『グリーンになってほしいスキー場』のアンケート結果に、舞子が10位に入っていて、驚きました。ユーザーからの声がこのように可視化されて、受け取ることができるのは、とてもありがたいと思います。マウンテンクリーニングをやったりしていることがユーザーに評価いただけたのかもしれませんが、ごみも拾うだけでなく、まだポイ捨ても多いので、スキー場でのマナーを見直してもらう機会を作っていったりもしたいんです。
いろんなスキー場さんの気候変動への取り組みを見ていると、学びがたくさんあります。ゴミの分別やフードロスへの対策、舞子農園を使ってホテルで地産地消できないか、と検討するキッカケになったり、食器を自然素材のものに替えるなど、新鮮な発想が得られたり。アライアンスのみなさんがグリーンシーズンも通して環境への取り組みを積極的にしているのを見て、弊社もグリーンシーズンも冬につながることがいろいろできるはずだ、という知識や着想をいただける貴重な学びの場になっています。
今後、スタッフにもPOWの考えや気候問題の現状報告などもしっかり伝えていきたい。現場の気候変動への取り組みは、そこから始まるんじゃないかと思っています。シーズンが終わってからの研修会を、とても楽しみにしています」。
スマイルリゾートならではの障がい者スキースクール「ネージュ」
スマイルリゾートをサステナブルという視点で捉えたとき、これなくしては語れない、という大きなコンテンツがある。スマイルリゾートが手がける障がい者スキースクールの「ネージュ」だ。障がいのあるなしに関わらず、アイデアと工夫によって誰もが心からスキーを楽しめるようにサポートするNPOで、湯沢中里を本拠地に、障がいがあってもスキー体験ができるプログラムを展開している。
舞子でも、ムイカでも出張スタイルでプログラムが受けられる。キューピットはネージュのエッセンスをもらってインクルーシブ野外活動という枠組みで行っている。
「You can do it!雪は誰でも楽しめる~必要なのは少しの勇気」をメッセージのもと、車椅子の方や視覚障害、発達障害やダウン症の子どもなどが、こぼれるような笑顔で雪やスキーを楽しんでいる。
このネージュに対する八木さんの思いは特別だ。
「スマイルリゾートとして湯沢中里を購入したときに、ネージュというNPOがあって、当時は運営に苦労していたんです。スマイルリゾートの代表は若い頃から障がい者に対して何かできないかと思っていた。僕も前職は15年くらい障がい者の施設で働いていたんです。そこで、ぜひネージュと一緒にやりたいね、となった。
その背景には、誰もが平等に、このすばらしいスキーを楽しめないといけないんじゃないか、障がいがあるからできない、にはしたくない。ネージュがあることで家族の楽しい時間の選択肢を増やし、これまでできなかったことを経験して笑顔になってもらえる。そこに我々の価値がある、という思いと考えがあるんです。
『障がいのある子がいるから、スキー教室に行けないね……』、じゃなくて、『障害のある子も楽しめるからスキーに行こう!』にする。この取り組みは上越市だけでなく広がっていって、学校単位でスマイルリゾートグループのスキー場に来てくれる小中学校も増えてきました。もちろん障がいのあるお子さんを持つご家族も喜んで来てくれて、リピーターになってくれています。
最終的にはビジネスとしての売り上げも上がっているんですよ。それだけじゃない。障がいのあるゲストのサポートを通じて、スタッフの共感力や観察力、想像力が鍛えられて、おもてなしのスキルが上がる。こんなメリットもあるんです。ネージュの取り組みはSDGsが出てくる前からやってきました。今となっては、僕ら気がついたらSDGsを実践してた。SDGsが後からついてきたみたいなんです(笑)」と、八木さんはとびきりの笑顔だった。
これはまさしくSDGsの17の目標の「10_人や国の不平等をなくそう」がスキー場で実現された、すばらしいサステナブルへの取り組みだ。スキー場の持続可能性への目標というと、どうしても再エネ化や自社発電といった大規模で華やかな取り組みに目がいきがちだ。しかし、こうして雪の上で目の前の子どもたちの手を引いて、家族を笑顔に、ハッピーにすることも、比べようのない大きな価値あるアクションに違いない。
教えてくれた人
PROFILE
株式会社スマイルリゾート執行役員
八木達也(やぎ たつや)さん
株式会社スマイルリゾートを含むグループのスキー場運営会社で執行役員、同時にNPO法人ネージュの理事も務める。
「決まったデスクを置かず、常にアウトドアで感覚を研ぎ澄ませることを心がけています。冬期には、100日間のスキー滑走を目指しています。そして、雪が解けると、スキーからカヤックに切り替え、自然の中での恵みを存分に楽しんでいます」。
さらに、カヌーフリースタイル世界大会でメダリスト。
PROFILE
ホスピタリティオペレーションズ
鈴木俊登(すずき しゅんと)さん
新潟県に来て6年目。大学時代、兵庫県でウインタースポーツの魅力に惹かれ、スキー場で働くことを決意。その後、ホスピタリティオペレーションズに就職し、舞子スノーリゾートへ出向中。「現在は様々な部署で通年を通しスキー場営業に携わり、大好きなウインタースポーツを続けられる環境の維持に尽力できることが喜びです」。
Information スマイルリゾート
◆公式サイト:https://www.smile-resort.com/
◆公式SNS:Instagram