自然で遊ぶことが大好きなプレイヤーの強い思いが、新しいモノや価値を生み出していく。
ここで紹介するのは北海道・ニセコでつくられている、これまでとは違ったエナジーバー「POWBAR」。その誕生の背景にあったのは?
その着想 ~山にいることを100%楽しみたいのに
「POW BAR(パウバー)」。
STEEP読者なら、この名前からきっとパウダースノーや雪山を想起するのではないか。それは正解!
エナジーバー「POW BAR」が生まれたのはパウダーの聖地、北海道・ニセコ。雄大な羊蹄山の麓で自然の恵みを活かした原材料を使って、一つひとつ愛情たっぷりに心を込めて作られている。
この「POW BAR」の発起人であり、開発者なのがスコット愛さん。
スコットさんは北海道斜里郡出身。アウトドアメーカーで6年間勤務した後、ニセコに移住し、フードブランド「BIOLIFE LAB」を立ち上げた。
ケータリングやヴィーガン焼き菓子のポップアップショップやイベントなどを手掛けながらエナジーバーを研究開発し、2019年エナジーバーブランド「POW BAR」をスタートしている。
「23歳くらいからテレマークスキーを始めて、山へ入るようになったんです。雪山で遊ぶとき、思いっきり楽しむために、いつも本当にどうにかしたいと思っていた問題の1つが食べ物。
もともと料理が好きでいろいろ作ったり、飲食店で働いて食を学んだりもしてきたので、そういった自分の知識や経験を使えるんじゃないかって。
そもそも、自分にとって何が問題だったかといえば、体質的に山で何かを食べるとすぐにお腹が痛くなっちゃう傾向があったんです。
せっかく自然を楽しみに山に来ているのに、お腹が痛いなんて悲しい。それに行動食とされるエナジーバーでも、気温が低いところでは凍ってしまうものや、水がないと呑み込めない、甘すぎる、すごく噛まないと食べられないものなど、どれも満足できるものがありませんでした。
雪山でエネルギーを消耗して体全体が疲労している状態のときに、噛んだり消化したりするのは実は意外と体に負荷がかかって疲れるんです。
それに、自分はお腹にガスが溜まったり、ハイク中や滑ってるときに何か化学香料みたいな不快な匂いが胃から上がってくる感じもあって、これは食べる物の影響じゃないかって気がしていました。
もしも、山で過ごすときの口に入れるものが変われば、パフォーマンスも違ってくるのでは?? と疑問が湧いたんです。
ギアを軽くするのにも限界があるし、女性は男性ほど体力もない。筋力や体力をいくらつけたとしても、もしも山で食べる物でマイナスになってしまったら元も子もない、そう思ったんです。
ならば、まずは食べ物で体を整えてみよう。そう思って何を山で食べたらいいんだろう?と、自分で実験しながら試行錯誤を重ねていったんです。」
そう話すスコットさん。そこからPOWBARが生み出されるまでの過程には、実はチョットした出会いと大きな閃きがあった。
当時彼女が働いていたスキーショップへ、有名なフォトグラファーであるRIP ZINGER(リップ・ジンガー)がやって来たという。
「彼が『お土産だよ』とくれたものがエナジーペーストでした。それを初めて食べたとき『これだ! 私がやることは!』と閃いたんです」。
譲れないこだわり
やることは明確になったスコットさんだが、そこには猛烈に譲れないこだわりがあった。
「何を山の中で食べたら一番体に負荷をかけずに消化できて、エネルギーに変えてくれるのか?
既存のエナジーバーには砂糖がすごくたくさん含まれているんです。砂糖を使えば安く作れるし、一次的に素早くエネルギーを補給はできます。けれど、砂糖を消化すると血糖値がパッと上がり、上がったぶん血糖値が下がるときに集中力を欠いたり思考力の低下を招くこともあります。
それは、雪山でのちょっとした判断ミスにも繋がりかねません。
この、安全性にも影響するリスクを食べ物でどれだけ防げるんだろうか。血糖値の急上昇・急下降を考えると、やはり砂糖は避けたいなって。
砂糖はビタミンを使って消化されるので、長時間山に入っているとお腹の調子が悪くなることにも繋がりやすいんですね。これらの問題をどうしても解決したかったんです。いろいろ考えながら何年もトライ&エラーを続けていきました。」
こうしたスコットさんの飽くなき探求心とコツコツとした努力によって2019年、ついに「POW BAR」というソリューションに辿り着く。自然の栄養バランスを崩さない原材料を使うことで、体内でゆっくりと消化吸収される機能性を備えたエナジーバーが誕生したのだ。
加えて「POW BAR」の大きな強みは、雪山や厳冬期のバックカントリー、登山、アイスクライミングなどの氷点下の環境でも凍らないこと。さらには「美味しい!」ことだ。
大きさはハンディサイズでウエアやバックパックのポケットから取り出して、いつでもどこでも凍らずに美味しく食べられる。
POWBARの中身と味わい
ベースの原材料に糖類を使わない・凍らない・美味しいこと。砂糖を使わず自然の甘味をどのようにして出すか?
そこで選んだのがドライフルーツのデーツだ。東洋では一粒食べれば夜通し砂漠を歩けるといわれるほど栄養価が高く、甘みが特段に強い。ねっとりした食感と甘味がまるで羊羹によく似ている。
「POW BAR」はデーツを主体として多彩なドライフルーツやナッツ、穀物からできている。自然に寄り添った原材料は、どれもスコットさんがこだわって選び抜いたものだ。
現在フレーバーは4種類。どれも個性的で味わいたっぷりだ。その美味しさは、何よりも試食するのが一番だが、「POW BAR」は”美味しい”と好評。
スコットさんいわく、雪山のスペシャリストやスポーツアスリート、アウトドアフィールドで活動するアーティストなどもサポートしており、スキーヤーでは、勝野天欄や小野塚彩那などスノーボーダーでは山内一志も重宝し、愛用しているという。
FIG HAZELNUT イチジク&ヘーゼルナッツ
香ばしいナッツやギュッと旨みが詰まったドライフルーツを、そのまま閉じ込めてオープン焼きに。噛み締める度にフルーティでナッティな一口は食べ応え抜群。
栄養成分表示(個包装あたり40g)エネルギー:168kcal/たんぱく質:4.1g/脂質:7.3g/炭水化物:21.6g/糖質:17.4g/植物繊維:4.2g/食塩相当量:0.12g
ESAME DATE ゴマ&デーツ
ポリフェノールたっぷりのゴマと、しっとりとした甘さのデーツをメインに、香ばしさで甘さをグッと引き立てて、ほっとする優しい和菓子のような味わい。
栄養成分表示(個包装あたり40g)エネルギー:168kcal/たんぱく質:4.1g/脂質:6.5g/炭水化物:23.2g/糖質:16.9g/植物繊維:6.2g/食塩相当量:0.16g
CACAO COCONUT カカオ&ココナッツ
オランダ産のカカオをたっぷり使用。オーガニッククランベリーの酸味でさっぱりした後味に。オーガニックココナッツファインとの相性が美味しいチョコレートフレーバー。
栄養成分表示(個包装あたり40g)エネルギー:164kcal/たんぱく質:3.6g/脂質:5.7g/炭水化物:23.2g/糖質:16.9g/植物繊維:6.5g/食塩相当量:0.16g
FRUIT NUT CRUNCHI フルーツ&ナッツ
香ばしいナッツやギュッと旨みが詰まったドライフルーツを、そのまま閉じ込めてオープン焼きに。噛み締める度にフルーティでナッティな一口は食べ応え抜群。
栄養成分表示(個包装あたり40g)エネルギー:168kcal/たんぱく質:4.1g/脂質:7.3g/炭水化物:21.6g/糖質:17.4g/植物繊維:4.2g/食塩相当量:0.12g
バックカントリーでは行動食は命を守る必需品。それも何を食べるかによって一瞬の判断力や行動、登行や滑走のパフォーマンスに差が出るとしたら、重要視しないのがおかしいというものだ。
循環する思いとアクション
スコットさんは「POW BAR」の立ち上げと同時にニセコに「The POWBAR Café」をオープン。カフェでは「POW BAR」を気軽に楽しめることはもちろん、地域と国内外のゲストの交流の場としても大人気のスポットとなっている。
ニセコという土地柄、インバウンドがとても多く、ニセコ+Powder+保存の効く行動食という相乗効果で、旅のお土産に最適と求めるゲストも多い。
それには、北海道・羊蹄山をモチーフにしたデザインのパッケージも好影響しているだろう。スタイリッシュかつナチュラルな雰囲気のデザインで、そのあたりのエナジーバーとは一線を画した機能性とデザイン性が評価され、アウトドアやスポーツ専門店だけでなく、今では有名なDEAN&DELUCAなどのフードストアでも取り扱いしている。
スコットさんは振り返る。
「RIP ZINGERさんがくれたエナジーペーストを見たとき、こういった商品が世の中にあるんだな、という驚きもありました。でも、当時の私のような、自然の中で遊ぶのに悩みを持っている人はたくさんいるんじゃないかな、そういう人たちを私が考えるエナジーバーのレシピでもしもサポートすることができるなら、これは私の人生を賭けた仕事になるのかもしれないって。」
自分のからだは食べる物で作られていると考えたとき、口にするものは何を選ぶだろうか。
「たくさんの食の選択肢がある中で、私たちが[食べること]を通して、人と地球の美しい未来のことを考えるきっかけになれたら。そしてみんなで世界をよりよいものに変えていきたい。そんなふうに思うんです。」
そのためにPOW BARはパッケージフードとして5つの価値を大切にしている。
この中でもとくにユニークな取り組みなのが4の「サステナビリティ」だ。
「POW BAR」は他のエナジーバー同様にプラスチックで包装されている。より環境に優しい包装素材を常に模索してはいるが、様々な理由から納得できる代替品の答えをまだ出せていないという。
そこで自分たちが環境に対して少しでもできること、の姿勢として「rePurpose Global(リパーパスグローバル)」の取り組みに参画し、売り上げの一部を寄付している。
rePurpose Globalは世界規模で「プラスチックネガティブ」という、プラスチックの使用・排出量を上回る回収・削減をしようというアクションを推進するプラットフォームだ。
仕組はちょっと複雑なので、興味のある人はコチラをチェックしてみるとよいが、端的に結論を言ってしまえば、「POW BAR」は、この活動に参画することで、エナジーバー1本の生産に使うプラスチックの11.25倍の量(=ペットボトル約1本分)を自然界から回収し、リサイクルしていることになる。
「POW BAR」はニセコに自社のファクトリーを持っている。自社工場を持つことによって原材料のこだわりだけでなく、製造過程で出る食品廃棄物やプラスチックの使用量を考慮し、マーケットの需要を日々モニタリングしながら生産量を調整したり、必要な改善をしていく。
これも自社工場を持っているからこそできること。環境への影響を常に意識し、できる配慮を最大限にしている。
こうして、「POW BAR」の一本一本には、おいしいエネルギーと情熱がぎゅうぎゅうに詰められている。自然環境へのコミットメントも。
これまであまり意識せずに、とりあえずの行動食を雪山へ持参していた人、自分の好きなものでいいやと思ってきた人、美味しさを求めるものでもないと思っていた人に尋ねよう。これから雪山で何を食べる?
教えてくれた人
スコット愛
The POW BAR ファウンダー
北海道斜里郡小清水町出身。幼少期から父親に連れられて山登りへ。6年間アウトドアメーカー勤務後、フードブランドBIOLIFE LABをスタート。エナジーバーの開発やケータリング、ヴィーガン焼き菓子のポップアップショップやイベントなどを手掛ける。
2019年、自身の経験を基に開発したエナジーバーブランドThe POW BARを立ち上げる。同時にThe POW BAR cafeをオープンし、ブランドコンセプトを気軽に感じてもらえる場所として、地域の活性化に貢献している。一児の母。
The POW BAR & co.
公式サイト:https://thepowbar.com/
公式SNS:Instagram