飛ぶ鳥のように魚の泳ぐ如しパウダーを滑る〝命を吹き込んだスキー″「tesmaski(テシマスキー)」

自然のなかで遊ぶことが大好きで、もっと楽しみたい。そんな思いやアイデアが新しいモノや価値を生み出していく。ここにも「ニセコの雪を限りなく楽しむためだけに作った魂のスキー」を、目を細めて眺める一人のつくり手がいる。

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あの頃ニセコは

ときはバブルの絶頂期。現在から30年以上前の1990年代、日本でスキーはとても流行っていた。高梨 穣(たかなし ゆたか)さんもそのど真ん中にいた一人。

「根っからアウトドアの遊びが好きだったので、冬は滑りたくてニセコリゾートバイトをしていたんです。でも、スキーは思うように滑れるようにならなくて。上手くできなければ気分が盛り上がらないし、続けていくモチベーションがもてなかった…。

その頃ちょうどボードを人に譲ってもらったので、スノーボードを始めたんです。こっちはどんどん上達していくから楽しくて、それでハマりました。30年以上前なので、まだスノーボードが日本に入ってきたばかりで、ニセコでも数えるくらいしかやっている人がいないし、まともな道具もなくてね。当時、ショップには僕が履けるサイズがなかったものだから、僕、ブーツはソレルのウィンターブーツで始めたんですよ(笑)。

当時は、ゲレンデはスキーヤーであふれ返っていたけど、モーグルや基礎スキーばかりで、ニセコでパウダーを滑っている人はそんなにいなかった。もうパウダー滑り放題! スキーでパウダー滑るのは難しいけど、スノーボードなら簡単。太い板で浮遊感が楽しくて。今となっては夢のようです。風来坊だったので、行く場所は定めておらず、冬はずっとニセコでスキーバム暮らし。最初はホテルのウェイター、でも、あまり滑る時間がとれないので、3年目からは居酒屋でバイトしながら朝から夕方までガッツリ滑る。本当に滑ることしか考えてなかったんです(笑)」

テレマークで世界へ

そんな日々が楽しくて仕方なかったなか、居酒屋のオーナーがテレマークをやっていて、勧められて、ひょんなことからテレマークの世界に入ることになった。

「テレマークは思ったよりうまくやれたんです。滑走感覚もあった。するとおもしろいし、何より感動したのは、ボードは雪が深いと埋もれちゃう。よくみんなについていけなくてボードを外してラッセルして歩いていたのが、テレマークで滑っていくと、止まっても、そのまま歩いていけちゃう。その瞬間に電気が走った。雪の上が歩けるってすごいなって思ったんですよ」

世界のW-CUPシーンで戦う、初めての日本人コンペティター、テレマーカー高梨穣の誕生だ。これは22,23歳の頃の話。

「レースに頑張るようになって、地元大会で優勝したり、成績を重ねてW-CUPや世界選手権にも行きました。国内なら頑張れば優勝も手に入った、でも海外はどんなに頑張っても手が届かない世界。自分はもともとレースがしたくてテレマークをしていたわけでもない。ニセコで自然の雪を楽しむのが目的だったんだよなって。それでレースの世界から離れたんです」。

そのタイミングで仲間がアラスカに滑りに行くという話もあり、翌年からアラスカに、7年間ほど撮影をかねて通った。世界の名だたるビッグマウンテンのSteep&Deepな斜面で、テレマークスキーでラインを刻んだ。高梨さんは2003年、サポート受けていたPatagoniaのインターナショナルカタログの表紙を飾った。日本人ライダーとカメラマンの作品が起用されたのは初めてのこと、そのスタイリッシュな滑走写真は世界中に広がり、大きな話題となった。

その年の12月、ニセコひらふのボトムにプロショップ「toyru(トイル)」をオープン。その頃すでにバックカントリーガイドとして活動をしていた高梨さんにとって、ショップはガイド業のオフィスとしても使えて、ローカルやゲストとのコミュニティにもなる一石二鳥の空間だった。当時、こんなことを感じたという。

「30年くらい前は、まだ今のようなバックカントリーという言葉やファットスキーもなかった。BCギアも種類が少ないし、扱っているのは山道具屋さんくらいしかなくて、東京の人たちは難しい道具を持ってくるんです。BCでパウダーを滑るのと、本州の山道具屋で売っているスキーでは道具が全然合わないんですよ。僕も滑り続けるなかで道具の違いはすごく大きいなと実感していたんです。道具によってできることが決まってきちゃう。道具で楽しさの可能性が狭められちゃうのは、とてももったいないって思っていました」

35年間のニセコパウダー滑走から見えてきた

「僕、この35年間、冬は毎日ニセコでパウダーを滑ってきた。これほど滑っている人は、世界中探してもいないんじゃないかな(笑)。すると要求レベルがどんどん高くなっていくんですよね。でも、自分がしたい動きに板がついてきてくれない。どんなメーカーのスキーを乗っても物足りない。それでもっと板に対して「もうちょっと幅が広いといいのに、テールの形がこうだったらいいのにな」とか、自分の理想のイメージがどんどん出来上がっていった」

そして、「こんなスキーがあったらいいな」の願いは、「こんなスキーを作るんだ」の意思になった。

「自分がイメージしている滑りは、既存のスキーではできなかった。スキーは100年以上の歴史を通じてアルペン競技という価値観が確立され、ギアも性能が研ぎ澄まされてきた。コンマの世界で最速を求めてプロダクト作りをしているのが、ほとんどのスキーメーカー。そして、多くがヨーロッパか北米がベースで、硬いオープンバーンで鋭いカービングターンをするのが、レースをしない一般スキーヤーであっても、目指す滑りのスタイルという感じになっている。

僕は、子どもの頃からそんなガチガチのスキー界とは無縁なところで生きて来た。ハードパックされた面でのカービングターンも目指してない。長くニセコで暮らしてきた僕がスキーに求めているものは、大自然と向き合って天然の雪とのセッションを楽しむ、なんです。自然のなかでどこまでも気持ちよく滑りたい」

空飛ぶ鳥のように水を泳ぐ魚の如く

「北海道は柔らかい雪がこんなに深く積もる。この深さを楽しみながら滑りたい。それができる板がほしかった。従来のパウダースキーは太くて硬く、深雪でも沈み込み過ぎることがないから、技術がさほどなくてもラクに滑れて好都合です。でも雪の表面だけを走る滑り方しかできない。僕は柔らかくて深い雪を3Dのフィーリングで滑りたかった。

これは日々滑っているなかから湧いてきた感覚なのだけど、パウダーを滑るのって鳥が大空を飛んでたり、魚が水の中を泳いでるのと同じ。三浦雄一郎さんが自らのスキーチームに「三浦ドルフィンズ」なんて名前をつけたのも納得できる。まさにイルカのように雪の中を、柔らかな弾力をもってプレイフルに潜ったり浮いてきたり、しなやかに泳ぎ続ける、そんな板ができたらいいなとイメージするようになりました。

そのような滑り方をするには、どういう板ならいいのか常に考えていたんです。長くて柔らかくて、Rがきつくない。板がたわむ、進んでいけば浮くしかない。たわんでいるものが傾くと曲がるしかない。柔らかい板がしっかりたわめば、自然に浮かんできて曲がるんです。

イメージとして、板全体が鳥の羽や魚のヒレになった感じかな。真ん中はしっかりしているけど端は柔らかい。端にいけばいくほどグラデーションのようにだんだんと柔らかくなる。それはヒレみたいな効果があって、雪を押し出してくれ、推進力となる」

高梨さんが製作をともにすることを選んだのは小森スキー製作所。ニセコを拠点とする「KEI-SKI」を作っているファクトリーだ。
「目の前に世界一のパウダーフィールドがあって、30年以上そこで滑ってきた自分の経験があって、実績のある小森スキーというファクトリーがある。全部が揃っているから、そこで作ったものは世界一のはずなんです。何にも負けないと思っています」

誇らしいラインナップ

瞳を輝かせて話す高梨さんの自信作は、「フリッパー パラ」。パウダーメインのオールマウンテン仕様。ウエスト幅109㎜、長さは203㎝のワンサイズ。「tesma skiのフラッグシップモデルなので、もちろん赤です」と高梨さん。

「フリッパー」はセンター幅109㎜。193・185・178㎝の3サイズでスタートしたが、2025年1月に新たに198㎝が登場。PARAが203cm、その下は193㎝と10㎝の開きがあったが、203㎝はさすがに長すぎて、193cmでは曲がりすぎる、というユーザーからの声があったという。そこで間をとって198cmが誕生したわけだ。サイズごとに色が異なり、ずらりと並ぶと色とりどりのカラークレパスのよう。

フリッパー パラ|D=133.5-109-123.5mm|R30.5m|L=203㎝|¥190,300
フリッパー(198㎝)|D=133.5-109-123.5mm|R=21m(178)・ 23.5m(185) ・26.5m(193)・28.5(198)|L=178・185・193・198㎝|¥184,800
ログハウス使用のTOYRUにも雰囲気がぴったりマッチする。左より)フリッパーパラ・フリッパー193・185・178

「スピードをキープするには、太さでなくて長さ。長いほうが浮き沈みの縦の弧が大きく使えてスピードに乗れる。そのうえ長いとたわみの振り幅が広くなり、大きな上下動が楽しめる。多くのスキーは浮いたまま深いサイドカーブやエッジでブレーキをかけながらズラして曲がっていく感じだけれど、テシマは、たわんだ形の面でズレずに、つるんと滑り抜けるように曲がるんです。

柔らかい雪で、自分の荷重の仕方でたわみ方を容易に変えられる。深く踏み込めばぐーっとたわんで、ぐわっと浮く。そっと踏めばそっと浮いてくる。板の柔軟な動きが雪に馴染んできて、板が自然に気持ちよく動いてくれる。心地良い揺らぎのある滑りができて、雪との楽しいセッションに浸れる、tesmaはそんな板なんです。硬い板だと、雪とぶつかり合って力強く雪を切り裂いていく感じはあるけれど、雪とセッションしている感じはしないんだよね」

左より)スワローパラ・スワロー195・188・181・174

‘25シーズン、1月に新たにオールマウンテンモデル「スワロー」がリリースされた。ウエスト幅91㎜でスマートなフリッパーという感じ。

テシマスキーのコンセプトモデル、フリッパーの特徴ある乗り味をそのままに、俊敏性とシャープな切れ味を加味した。フリッパーがパウダーを泳ぐように滑る魚なら、スワローは整地や春雪を飛ぶように軽やかに滑るツバメだ。

カラーリングもご覧の通りペールトーンで軽やかな風合い。

スワローパラ 
D=133.5- 109- 123.5mm|R=30m||L=202㎝|¥190,300

スワロー
D=121.1-91-105.5mm|R=19.7m(174)・22m(181) ・24.6m(188) ・27.3m(195)|L=174・181・188・195㎝|¥184,800


思わぬご褒美

「でも、パウダー用の板でしょ、ニセコではいいかもしれないけど」などと周りから言われるのは、わかっていたという高梨さん。「僕も、実はそれ以外のことは念頭になくて(笑)」と笑う。

「まさしくニセコでパウダーを滑るために作ったけれど、これが作ってみたらパウダー以外のゲレンデや、他のスキー場でもすごく面白い。春雪でもバッチリいいフィーリング、柔らかい雪なら、どこでもすごく楽しく滑れることがわかったんです。なんとも新感覚で、ゲレンデを滑るときも普通のスキーじゃできなかったターンや地形遊びができたり。当てこみがめっちゃ決まるんですよ。tesmaだと登りもつっかかりなく自然に壁を上がり、曲がりもスムーズ、下がるときも押し出されるように滑れる。すごく気持ちいいし、文句なく楽しい。想像を超える良いことがたくさんあった。思わぬご褒美でした。

それに、普通この板ってこれくらいのターンが得意なんだなって、ところで自然に曲がっていくじゃないですか。でもtesmaには決まったターン弧がないんです。自分の傾きと推し方でたわみ方を変えてターンしながらターン弧の軌道を変えられる。それも減速しないで。きっとこれまでとは違うものを感じてもらえる。これに乗るとクリエティブな発想が湧いてくると思います」

アイヌの十字で命を吹き込む

「テシマはアイヌ語で、『てし』はつるつる滑るの意味、『ま』は泳ぐの意味。滑って泳ぐ、イメージにぴったりでしょう(笑)。『テシマ』というと、アイヌ語で軟らかい雪を歩く『かんじき』という意味なんです。もともと、スキーって雪の上を歩けるんだ、という感動があった。だから、こんなにぴったりなものはない!ってね」

デザインにも高梨さんの強い思いが込められている。tesmaスキーは、グラフィックは余分なものが一切ない、とてもシンプルなものだ。

「文字を排除したいと思ったんです。文字や言葉は人類の進化に欠かせなくて、人間が身につけたものだけど、文字を使うことでその分、本能が薄れていく。大自然の山にいるときって、最終的に何で判断するかって、最後は勘。それって、これまで見てきたり、体験したものから自然に湧出でてるものなんですよね。だから、自然をよく観察して、考えるチカラを研ぎ澄ませていかなくちゃいけない。そこに文字や言葉はいらないんです。

ノーズにさり気ない小さな十字マークが入っているんですが、これはアイヌ文様をモチーフとしたもので、十字『シク』は目とか光を表すんです。〝命を吹き込む″という気持ちで先端に入れました。本能が研ぎ澄まされた鋭い目を持ち、空を飛んだり、雪の中を泳いでいく生き物のように。どこまでも自由に。そういう存在になれたらいいなって。

僕は自分が乗りたいものがあってこれ作った。自分ではすごくいい板だと思っていて、だからといってこの世で一番、万能とも思っていない。ただ、めちゃめちゃ調子がよくて、この板が見せてくれる新しい世界と、こんなふうに滑りたかったという願いが叶うことが、とてもハッピーなんです」

このtesma skiは、シーズン中、ニセコの高梨さんのお店「toyru」で試乗もできる。
次の冬にはディープなニセコパウダーに潜ってtesmaで泳ぐように滑ってみないか。

教えてくれた人

高梨 穣さん Yutaka Takanashi

20歳からニセコのパウダースノーに魅了され移住。テレマークスキーのレースで世界選手権などにも出場。アラスカや世界の山を滑り写真や映像作品にも出演多数。アウトドアのガイド経験を重ねてバックカントリーガイドを行う。2003年にニセコひらふゲレンデボトムにプロショップ「TOYRU」をオープン。2013年 「tesma ski」を始動、新感覚のターンをもたらす雪と繫がるスキーを提案。

TOYRU (トイル)
http://www.toyru.com
北海道虻田郡倶知安町ニセコひらふ1条3丁目1-8
TEL:0136-21-4055
(営)12:00-20:00(土日祝8:30〜20:00)/(休)冬季無休

テシマスキー

URL:https://tesmaski.jp/
INSTAGRAM:instagram.com/tesmaski/

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