長野県大町市に住む私は、空いた時間を見つけて滑り、週末には9歳、7歳、4歳の3人の男児たちをスキー場へと連れ出す冬の日々を送っている。
昨季、岩岳で開かれた”ちゃんめろフリーライド かもしかオープン”に上2人の兄弟が参加したことを機に、フリーライド熱が上昇。コースの脇にあるちょっとした落ち込み地形や子どもが入りやすいツリーランなどを積極的に滑るようになって、親としてはしめしめという思いで、後ろや前を滑っている。
もっといろいろなところを滑りたいから上手くなりたい、という2人の想いを汲んで、今季からは大町のスキークラブに入った。
学校の友達が一緒ということもあって、ポールをぬって滑るアルペンもフリーランと同じようにとても楽しんでいるようだ。フリースキー仕様のブーツにツインチップという出で立ちから、あっという間に、おさがりのワンピースを着て古いGSスキーでポールをくぐる姿に変わっていき、滑走スピードはぐんぐん増すばかり。

上手くなっていく過程ではひとつのことに縛られず、いろんなことを経験させたい。そう考えていたタイミングで1月にトマムへ行けるチャンスが巡ってきた。

いざ! 星野リゾート トマムへ
ひとつの山になんでも揃っている星野リゾート トマムは北海道が初めての家族にとってはありがたい。
まずアクセスが簡単。新千歳空港からは電車や直通バスがあり、車でも高速道路利用で2時間ほど。移動の煩雑さがすくない。
スキー場の規模は十分で、緩急ある斜面をストレスなく移動しながら滑れるレイアウトは快適だ。それに、軽い雪質と適度な降雪量もいい。そうそう、食事や滑る以外のアクティビティの多彩さも、リゾートならではで子ども達も飽きない。
スキー場は全体的に東を向き、緩やかな山体のタワーマウンテンとほどよい斜度を持ったトマムマウンテンの2つの山から構成されている。厳冬期なら平均気温はマイナス10度近くになり、質の高いパウダー滑走が楽しめる。

今回の目的はここにあるアドベンチャーマウンテンを体験して楽しむこと。これは、場内に設置された11個のアイテムを滑りながらクリアしていくことで、楽しみながら自然とスキーが上達するアクティビティ。まるでロールプレイングゲームのような感覚で子どもと一緒に滑れるのは楽しみだ。
ちょうどトマムに着いた日に降雪があったため、ゴンドラに乗車してファーストトラックを滑ることになった。
「北海道の雪って、握ってもなかなか固まらないね」
ゴンドラ山頂からコースへ向かう道すがらポロっと漏らしたのは次男。
北海道のなかでもトマムは平均気温が低いことから、降る雪は羽のように軽く、なかなか落ちてこない。そして、積もった雪は低温で保存されているから、スキーのトップで雪をかくとフワフワと舞い上がる。
さぁ、アドベンチャーマウンテンへ行く前にまずは足慣らしで1本滑ろう。

へっちゃらさ! アドベンチャーマウンテン
アドベンチャーマウンテンは楽しさと上達する面白さを提供するストーリー型のファミリーゲレンデとして2008年に誕生した。場内の2カ所にあり、初心者キッズが腕試しに最適な”ニポの山”はタワーマウンテンに、上級者も満足できる”チョッカリ山”はトマムマウンテンにある。
アドベンチャーマウンテンの物語はこんな感じだ。
トマム山の森に住む妖精ニポの前に、直滑降がしやすいトマム山にしようと企むチョッカリ大魔神が出現。木々を切り倒し、これ以上木々が生い茂らないようにニポが大切に集めた森の種を盗んでしまった。チョッカリ大魔神から森の種を取り返すため、秘密の呪文を唱えてチョッカリ大魔神をやっつけよう。
アイテムをクリアするごとにゴールにある呪文スタンプを集め、全アイテムを攻略すると呪文が完成し、大魔神が倒せるという設定だ。

アイテムが並んでいるアドベンチャーマウンテンを見つけた長男と次男は、さっそく一目散にスタートへと向かっていく。
と、そこへ現れたのが……チョッカリ大魔神!!

大魔神を追って、落差のある急なガケ「ガケガケ」や、子どもの背丈ほどあるバンクが続く「スーパーカベカベ」、体が上下になるほどの高低差がある連続したウェーブを乗り越えて見晴台の頂上まで登り切る「チョッカリウェーブと見晴台」を次々とクリアしていく。


アドベンチャーマウンテンの全アイテムの要素を結集させたのが「スペシャルステージ」。ラスボスのような感じで立ちはだかる。スピード調整とバランス感覚が求められる「シーソーブリッジ」、ベルを鳴らしながら滑る「ベルベル」、ジャンプで飛び越える「チャレンジジャンプ」などが設置されているが、各アイテムをクリアできれば問題ない。


大魔神を追いかけて滑っているうちに、大魔神と妙に距離が近くなっていく2人。
コースをクリアするたびにスタンプを押して、いよいよ呪文が完成しそうだ。残るスペースはあと一つ。スキー場ベース近くにある森の迷路を抜けて、鐘を鳴らすと全アイテムクリアだ。

呪文を完成し、チョッカリ大魔神を倒すと2人にステッカーがプレゼントされた。このプレゼント、数年前までは植物の種を渡していたが、海外のファミリーがここ数年多く参加するようになって以来ステッカーに変わったそうだ。植物の種は国外へ持っていくことはできないのだ。植物の種はコンセプトにもピタリとハマっていただけに、ちょっと残念。


「もっと滑ろうよ〜」
チョッカリ山を制覇した2人は、気分が乗ってきたのか、おかわりを要求。母親も合流して、トマムマウンテンの下部や、タワーマウンテンを滑りまわる。
あれ? 率先して森の近くを滑り、ギャップを見つけては突っ込んでないかい?


三浦豪太登場!! アドベンチャーマウンテンを拡充する
チョッカリ大魔神を倒した子どもたちはもっと滑りたい。そこで翌日は特別ゲストとともに滑ることになった。
そのゲストとはリレハンメルオリンピックと長野オリンピックにモーグルで参加した三浦豪太。父三浦雄一郎とともにエベレストに登頂し、オリンピックのフリースタイル種目の解説では詳しすぎるとして話題になった通称ゴンちゃんだ。

このアドベンチャーマウンテンのコースやアイテムのスーパーバイザーを24-25季からしているのがゴンちゃん。医学博士の顔を持つ彼は、アフォーダンス理論に基づいてアイテムを監修・構成。アドベンチャーマウンテンを滑ることで、スキーが自然に上達することを体系立てているのだ。
舞台は昨日に引き続き薄っすらと降雪がのって、スキーを走らせると雪が舞い上がる絶好のコンディション。2日目は自分も子どもたちやゴンちゃんの後ろについて一緒に滑ることにした。
「昨日はアドベンチャーマウンテンを滑ったんでしょ? じゃあ、エリアへ行くまでに、まずはコース脇のパウダーを滑ろう!」
ゴンちゃんがそう子どもたちに言うと、
「行く行く!」

待ってました! とばかりにゴンちゃんの後を追いかけていく。
何本かコース脇を滑った後、行ってみようと促された場所は白樺などが生い茂った森のなか。斜度は10度ほどと緩やかだが積雪はコースより深い。ただ、なにせ雪は軽いからスイスイ滑れる。

フォールラインには無理に逆らわず、森のなかを探検するように滑る。ゴンちゃんがちょっとしたギャップを見つけて飛べば、2人とも後に続いてジャンプ。フワフワの雪を全身に浴びながら、森のなかを駆け抜けていく。森のなか以外でも、木々のすくない斜面を見つけたらどんどんゴンちゃんが滑り込んでいく。
どう滑っているのか、どんなラインを行くのかなどを、後ろ姿を見ながら2人はついていく。




気がつけばアドベンチャーマウンテン以上に夢中になって滑っていた。造成されたコースをクリアする面白さとともに、スキー場内をキョロキョロと見渡して、遊べるアイテムをたくさん見つけて滑る。
まさに、アドベンチャーマウンテンの解釈をスキー場全体に広げて楽しんでいるようだ。止まって滑り方を教わっているわけではないのに、ゴンちゃんと一緒に滑るごとに、環境にあわせて慣れていき、スキーを楽しんでいる。

「2人ともいいね。僕の子どもたちやミウラドルフィンズの子たちも、森のなかは大好き。楽しいでしょ?」
「うん!!」
2人は元気にそう答えた。

最後に、見晴台へ行こうと「チョッカリウェーブと見晴台」へ。ウェーブをなんなく乗りこなし、パンピングでスピードを上げて見晴台へと登っていく。
「上手くなったでしょ?」
ゴンちゃんと子どもたちにそう言われて、私は首がもげるほど頷いた。

アドベンチャーマウンテンと自由に滑れる環境が整ったスキー場。2日の滞在で子どもたちはいままで以上に遊べるポイントを見つけることができ、そのときの雪や斜面の状況にあわせて複雑なスキーコントロールの術をすこしは身につけた。
習うより、慣れろ。
環境を与えれば、子どもたちは自由気ままにスキーを楽しみ上達していくことを改めて実感させられた。
Photo/Key Sato
■星野リゾート トマム アドベンチャーマウンテン https://www.snowtomamu.jp/winter/adm/
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