新潟県十日町市松代にある松代ファミリースキー場は十日町市営の1991年に開場したスキー場だ。十日町市と上越市を結ぶ国道253号沿いの山間にあり、県外からのアクセスは決して良いとは言えない。しかし、地元民にとっては「はじめてのスキーをする場所」であり、「アフター5を満たすサラリーマンの憩いの場」として、大切にされている。
見た目以上に満足感がある自慢のメインコース
松代ファミリースキー場は、標高185mー380m、最長滑走距離800m、最大斜度24度とコンパクトながら初級者から中級者までが幅広く滑れる。
2基あるリフトのうち山頂まで上る1基は休日のみ運行し、普段はゲレンデベースからかかるリフト1基のみが稼働している。
麓からかかる第1リフトに乗ると3つのコースが滑れる。1つは初級者用の迂回コース、1つは左右にバンクもある初中級コース。そして中上級者に大人気のワイドでグルーミングがばっちりと決まった中級・ナイターゲレンデだ。
2本目のリフトを乗って上がる山頂ゲレンデは非圧雪となっており、パウダーを楽しめるようになっている。



この中級・ナイターゲレンデを一度滑れば松代ファミリースキー場が”良いスキー場”だということが肌で分かる。幅広で悠々と大回りができて、地形変化の少ないフラットな一枚バーン。斜度もちょうどよく距離も長すぎず短すぎない。要は練習に最適なのだ。
ゲレンデには大会や検定を目指すようなスキーヤー・スノーボーダーの姿が多く見られる。
コンパクトな設計ゆえにコンスタントに練習ができるのだ。
松代ファミリースキー場に情熱を傾ける男
このスキー場に10年前から赴任して地元密着型スキー場として盛り上げているのが宮澤秀志さんだ。

(株)上越観光開発岩原スキー場で1年試用期間で働いたのち、自分はスキー場の仕事は合わないと思い一度退職。SUPやスノーボードスクールなど自身の事業を立ち上げていたところ、再び(株)上越観光開発の元上司から声をかけられ、32歳の時から松代ファミリースキー場の管理人を務める
宮澤さんが管理人になって力を入れているのが子ども連れファミリーが楽しめる環境づくりだ。
スキー場のセンターハウスには滑り以外でも子どもが楽しめるよう、お菓子コーナーやキッズスペースが設けられている。


「スキー場の施設は回転率重視で子供連れの方々にとってはとくにくつろぎづらい空間だと思います。しかし、そういったお客様でも安心して休んでほしいと思い、小上がり畳スペース、児童図書、子ども向けの室内装飾、ドリンクバーと駄菓子の設置を行いました。これは子どもたちだけでなく、安心して遊ばせられる親御さんたちの憩いの場であり情報交換の場にもなっています。兄弟で年齢差がある場合もお父さんが上の子とゲレンデを楽しみ、下の子はお母さんとレストランでくつろげるので週末に家族で遊びに来るのに最適なんです」


宮澤さん自身も今季までアルペンスノーボードの選手だった。圧雪車にも自分が乗る。自身が第一線のスノーボーダーであるからこそどんなスキー場が楽しいか、どんな斜面が気持ち良いか分かるのだ。

「私が管理人になってユニークな広告を打ち出したり、子どもに優しいサービスを展開したり、ナイター全面圧雪をかけたり、バンクコースを作ったりなど大胆な施策をたくさん打ってきました。その背景にはいつだったか海外のスノーボーダーが動画で”日本人のスノーボーダーは冒険をしない”って言っていたんですよ。それにめちゃくちゃ腹が立って……。私が実際に冒険に出かけているわけではありませんが、小さくまとまるのではなく冒険をするようにワクワクとしたスキー場運営をしたいと思うようになったんです」
真骨頂はナイター
松代ファミリースキー場がファミリーだけでなくコアな滑り手にも愛されている理由はナイターだ。
この中級・ナイターゲレンデはナイター前に再圧雪される。スキー場の営業は8:30〜16:45まで日中営業し、1時間の再圧雪を挟んで18:00~20:45までナイター営業が行われる。
ビシッと圧雪されたナイターは爽快で、ほかのスキー場ではなかなか体験できないとあり中上級者のファンが多数訪れる。このナイター前再圧雪は、昔から学生のポール練習のためにコースの半分だけ踏んでいたが、宮澤さんが管理人を務めるようになって、中級・ナイターコースを全面圧雪することにした。
「昔の圧雪車は運転する前に暖機運転する必要があったり、足が遅かったんですよ。でも圧雪車の性能が良くなって全面踏める余裕が出てきたので、1往復するのも2往復するのも変わらないなということで全面圧雪をかけることにしたんです。
それからどんどん口コミでナイターの魅力が広がってお客さんが来てくれるようになったんです。今ではサラリーマンの仕事終わりの憩いの場になっています」

その言葉通り、ナイター開始時刻になると次々と車が駐車場に入ってくる。おひとり様もいれば親子の姿もある。ナイターに週5で訪れるという地元住民の行田さんはスキーでもスノーボードでも滑りやすいスキー場だと太鼓判を押す。

ゲレンデにはジブアイテムやパーク、ウェーブが点在していて若いスキーヤーやスノーボーダーも多い。地元の中学生という柳さんに声をかけてパークの写真を撮らせてもらった。

幅広い世代がこのコンパクトなスキー場に訪れる。ナイターを滑ることは地域の住民にとって日常なのだ。
スキーセンターのガレージにはサーフスケートランプも
宮澤さんの熱意はゲレンデにとどまらない。スキーセンターの空きスペースを利用して当時は日本でも珍しいサーフスケートランプを設置したのだ。


「サーフスケートランプは地元の知り合いの工務店に無料で作ってもらいました。試行錯誤を繰り返したので、実は3回も作り直しているんです。全部無料です(笑)。色々と地元の方々に助けてもらっています。ゲレンデを滑り終わったあと、1日中楽しんでもらいたいという思いで制作を決めました。このスキー場は日本海に向かう途中にあるので、サーファーには波乗り帰りに立ち寄ってもらうこともできます」
小規模なスキー場ながらさまざまな施策に力を入れる宮澤さん。その原動力はなんなのだろうか?
「コロナ禍にスキー場をなんとかオープンしていた時、来てくださるお客様から『こんな状況なのに、スキー場をオープンしてくれて、ありがとう』って声をかけてもらっていたんです。こっちとしては仕事だから当然なんですけど……。でもそれがとても嬉しくて、辛い状況でしたがそれでも頑張ろう、と思えたんです。
我々パトロールやリフトのスタッフはお客様のために頑張って、お客様もそれを感じてたくさん来てくれる。それが嬉しいんです」
また宮澤さんは今季でスノーボード技術選手権大会引退を宣言した。選手を引退して肩の力が抜けたことでスノーボードがさらに楽しいという。
「これまで選手として、またスキー場の管理人としてやってきて、自分が純粋にスノーボードを楽しむことを忘れていました。今年はバックカントリーに挑戦したり、今まで履いたことがないスノーボードを履いたり、いろいろな滑りを楽しむ一人のスノーボーダーに戻って今が1番楽しいんです。これからもこの楽しさを伝えるためにスキー場をもっと盛り上げていくのでぜひ足を運んでみてくださいね」
県内テレビでも特集 さらに人気を集める
松代ファミリースキー場は新潟県内のテレビでも特集が組まれ、さらに賑わいを見せている。
このスキー場を愛する地元住民の生の声を以下の動画から見てほしい。
松代ファミリースキー場の事務所はお客さんが利用する食堂や休憩スペースのすぐ隣にあり、ドアも開放された状態だ。いつでもお客さんの様子を見ることができて、お客さんも働いているスタッフの頑張りが目に入る。お客さんとスタッフの近さが愛されるスキー場のゆえんなのではないかと感じた。
Photo/小野塚大悟
【Information】
松代ファミリースキー場
〒942-1526
新潟県十日町市松代5265
TEL/FAX:025−597−3330
公式サイト:https://ski.matsudai.jp/