圧倒的スケールと上質の極み!躍進するヨーロッパのスキーリゾート

かつてワールドカップレースを転戦し、2018年から全日本アルペンチームのヘッドコーチとして再び雪上へ。翌年オーストリア・インスブルックに移住し、現在では日本総代理店としてケスレスキーを展開している浦木健太(うらきけんた)。海外からのグローバルな視点で、ヨーロッパのスノーカルチャーやギア・技術など、最新情報や興味深い話題をお届けしていく。

INDEX

躍進するヨーロッパのスキーリゾート

24-25シーズンは、オーストリア氷河スキー場のヒンタートゥクス(Hintertux)でシーズンイン。
Photo: Akira Sasaki

初めてヨーロッパを訪れたのは16歳、今から34年も前のことだ。それからスキー選手を引退するまでの15年間、毎年ヨーロッパを訪れ、1年の約半分を主にオーストリア、スイス、イタリア、フランスのスキー場で過ごしてきた。ヨーロッパだけでも200箇所くらいのスキー場を訪れただろうか。スキー場麓の村には綺麗なホテルが立ち並び、1年を通じて多くの観光客が訪れていた。当時から、歴史あるヨーロッパのスキー場は、新しい魅力を打ち出しながら、ゆっくりと着実にリゾート化を進めている印象を受けた。

2004年に選手を引退して、ヨーロッパへと再び戻ったのは2018年、翌2019年からオーストリアのインスブルックに住んでいる。あの頃との大きな違いは、スキーリゾートの近代化、そして世の中にインターネットが普及したことだろう。多くのスキー場が、最新のリフト・ゴンドラ、人工降雪機、自動改札システムなどを取り入れ、快適性・上質感が格段に向上していた。また、インターネットの普及により、情報やサービスのデジタル化が進み、オンラインでのリフトパス購入、リアルタイムでの天候情報、ルートナビゲーションなど、利便性は極めて良くなった。

さらには、オンラインでの情報発信力向上によって、スキーリゾートの魅力は世界中に発信され、リゾートの国際化も進んでいた。特筆すべきは、ヨーロッパのスキーリゾートがこのような変化を遂げながらも、歴史と文化を大切に伝承し、中世の街並み、伝統料理、地域ごとの習慣などをそのまま残している点ではないだろうか。

自宅からすぐのパッチャーコッフェル(Patscherkofel)は2017年にリニューアルしたゴンドラがメインのコンパクトなスキー場。インスブルックの街が一望できる。

連なる山々、壮大な景観、豊富な積雪など、自然環境に大きなポテンシャルを持っていたヨーロッパアルプスを中心に広がるスキーリゾートは、スキー場の近代化とインターネットの普及を通じて、以前にも増して世界中のスキーヤーを魅了し続けている。さらには、スキーだけでなく、ラグジュアリーな滞在、極上のダイニング、そして自然との一体感など、スキーリゾートならではの魅力は増すばかりだ。

今回は、そんな“本物の冬”を味わえるヨーロッパ屈指のリゾートを実体験を交えながらいくつか紹介する。

ドロミテスーパースキー(イタリア)圧倒的なスケール感 !

2021年アルペン世界選手権、コルチナスキー場裏側の斜面から。このような景色を見慣れたスキー選手たちにとってもドロミテは特別のようだ。

ドロミテスーパースキー(Dolomiti Superski)は、2026年の冬季オリンピックが行われるコルチナ・ダンペッツォ(Cortina d’Ampezzo)をはじめとする12箇所のエリアに25ものスキー場からなるイタリア北部の巨大スキーリゾート。アルペンスキーのワールドカップが毎年行われるバルガルディナ、アルタバディア、クロンプラッツなども含まれており、スキーヤーであれば聞いたことがあるスキー場もあるのではないか。

驚くのはそのサイズ…総面積3000k㎡、なんと東京都の1.5倍の大きさだ。そこにゴンドラ・リフトが450基も設置され、総滑走距離1220km、その全てを1枚の共通リフトパスで楽しめる。すべてがスキー場として繋がっているわけではないので、それぞれのエリア間移動は車となるが、全体としては世界最大のスキーエリアと言える。

このサイズ感をおわかりいただけるだろうか。北はインスブルック、ミュンヘン、西はミラノ、南はベネチアからのアクセスが便利だ。

このエリアの最大の魅力は、なんといっても世界遺産に登録されたドロミテアルプスの絶景だろう。ピンクやオレンジに染まる荒々しい岩肌は、まるで彫刻のような景観だ。そしてそれらを縫うように広がるスキーコースには、まるで映画の中に入り込んだような非現実的な世界感を味わうことができる。

さらには、イタリアならではの食文化も欠かせない。みんな大好きなピザやパスタをはじめ、イタリアは海にも恵まれているので、魚介類をはじめとした、バラエティ豊かな食材が揃う。素材を活かしたオリーブオイル中心のシンプルな味付けは、長期滞在していても飽きることがない。さらには、晴天率も高く、近隣国と比べると比較的手頃な価格で楽しめるドロミテのスキーリゾート、スキーヤーであれば一度は訪れるべきだ。

トロワバレー(フランス)世界最大の高級スキーリゾート

標高2300mのヴァルトランスはコンパクトなリゾートだが、簡単アクセスの巨大スキー場に加え、村内にはスパ、レストラン、バーなど楽しさが詰まっている。

トロワバレー(Les Trois Vallée)は、3つの谷に跨った クーシュベル(Courchevel)、メリベル(Meribel)、ヴァルトランス(Val Thorens)を中心とした8つのスキー場からなるフランス屈指のスキーリゾート。それら8つのスキー場は、すべてリフトやゴンドラで繋がっており、スキーだけで移動できるスキーリゾートとしては世界最大。広さは日本で最も大きな志賀高原スキー場の50倍と言われており、総滑走距離は600km、160以上のリフトが整備されている。

またトロワバレーは高級リゾートとして知られており、その中心となるのがイタリアとの国境に面するスキー場、クーシュベルだ。5つ星ホテルやミシュランの星付きレストランが立ち並び、高級ブティックが軒を連ねる。村の中心地からすぐの場所にはプライベートジェットが発着できる小型の空港まで備えており、スキーリゾートではあるものの、もはや世界の富裕層が集まるプレミアム・デスティネーションとして注目されている。

トロワバレーは、3つの谷に跨った3つの村(左から、クーシュベル、メリベル、ヴァルトランス)を中心とした構造になっている。

一方で、メリベルやヴァルトランスのエリアは、よりカジュアルな雰囲気があり、家族連れや若いスキーヤーにも人気がある。もちろん全山共通のリフトパスがあるので、エリア全体を自由に行き来できるのも魅力だ。ヴァルトランスは標高2300mに位置するヨーロッパ最高所のスキーリゾートで、シーズンを通じて安定した積雪と、質の良いパウダースノーが魅力。このヴァルトランス、2013年から始まった世界スキーアワード(World Ski Award)の世界ベストスキーリゾート(World's Best Ski Resort)部門で、過去12回のうち9度の世界一に輝いている。

圧倒的な規模と品質を誇るトロワバレーは、まさに“世界で最も洗練されたスキーリゾート”。スキー旅行の概念を覆すような、極上の冬を体験したい方にふさわしい場所だ。

ツェルマット(スイス)マッターホルンの絶景を楽しめる山岳リゾート

シャレーが並ぶツェルマットの村とアルプスの名峰マッターホルン。

スイス南部に位置するツェルマット(Zermatt)は、アルプスの名峰マッターホルン(標高4478m)の麓に広がる、世界的に有名な山岳リゾート。その最大の魅力は、何といっても絵画のように美しいマッターホルンの絶景。どの季節に訪れても、その雄大な姿に心を奪われる。ツェルマットの村は環境保護の目的からガソリン車の乗り入れが禁止されているので、村の手前にある駐車場に車を停めて、村内の交通手段は電気自動車がメインとなる。

村の中心には、シャレー(伝統的な木造建築)が立ち並び、高級ホテルやレストランも充実。スイスといえばチーズ!ラクレットやチーズフォンデュを味わいながら、ゆったりと過ごす時間は格別だ。ツェルマットは、自然の美しさと静けさ、そして上質なサービスが調和する、“大人の山岳リゾート”として、これからも多くの人々を魅了し続けるだろう。

ツェルマットは、スキー選手の夏のトレーニング場所としても知られており、アルペン強豪スイスナショナルチームのトレーニング拠点として、オフシーズンには最高の環境が用意されている。ただでさえ物価の高いスイスだが、氷河スキー場には、ツェルマット側からのアクセスに加え、イタリアのチェルビニアからもゴンドラでアクセスができるため、経費を抑えるためイタリアを拠点にトレーニングする選手も多い。

アルペンスキーのワールドカップでは、2023-24シーズンまで、ツェルマットをスタートし、チェルビニアでフィニッシュする国境を超えるダウンヒルレースも行われていた。しかし、11月の不安定な天候に中止になることが多かったため、今は行われていない。

マッターホルンを望む真夏の氷河スキー場。日本のアルペンチームも夏の遠征先として幾度となく訪れた。

キッツビューエル(オーストリア)伝統のワールドカップコースで知名度No.1

最も観客が多いのは、土曜日に開催されるダウンヒルレース。毎年5万人以上が観戦する。

オーストリアのキッツビューエル(Kitzbühel)は、ヨーロッパでも屈指の歴史と格式を誇るスキーリゾート。高い知名度を保ち続ける理由として、毎年1月に開催されるアルペンスキーのワールドカップ”ハーネンカム・レース(Hahnenkamm-Rennen)”が挙げられる。そのダウンヒルコース”シュトライフ(Streif)”は、世界一危険で過酷なダウンヒルコースと言われており、選手たちの命がけの滑りが世界中のファンを熱狂させる。

そんなハーネンカム・レース開催時期は町全体がお祭りムードに包まれ、週末3日間のレース観戦のために世界中からメディアや観客が9万人以上訪れるのだ。毎年、アーノルド・シュワルツェネッガーが観戦に来ることでも知られている。

スキー場に向かってダウンヒルコースの右側で日曜日に開催されるスラローム。過去には日本選手もこのレースで活躍した。

スキーエリアは、179km以上の整備されたコースと50以上のリフト・ゴンドラを備える。特に人気なのが、シュトライフコースを一部開放したエリア。世界で最も危険なワールドカップコースを滑れるというスリルと達成感は、他では味わえない。一方で、初心者コースやキッズエリアも豊富で、ファミリー層にも親しまれている。伝統のあるスキーリゾートにワールドカップの華やかさが加わり、今では若者文化も融合したキッツビューエル。本場ヨーロッパのスキー文化を体感したいなら、できればワールドカップ開催の期間に訪れるべきだろう。

イシュグル(オーストリア)若者が溢れるラグジュアリーリゾート

イシュグルスキー場では滑っている間に国境を通過するほどトレールが果てしなく続く。

今年の2月、日本での仕事を終えて、オーストリアに戻ってすぐにインスブルックの自宅から1時間半ほどのIschgl(イシュグル)へ向かった。ゴンドラで上がった標高2000mあたりから広がるゲレンデ総延長239kmの巨大スキー場だ。

快晴の朝、ゆっくりと準備をして山に上がり、1本目は人の少ないパックされたバーンをゆっくりと滑り出す。フラットで程よく締まった雪面を、壮大な景色を見ながら大回りで滑り出すと、気持ちが良すぎてスピードが増していく。久しぶりのスキーとあって太ももに乳酸が溜まっていくのを感じたまま2分くらいは滑り続けただろうか。あの時の感覚は、言葉では表現できないほど感動的で、今シーズン最高の1本だった。

かなりの距離を滑ったと思いながら携帯電話の画面をみると、SWISS…の文字が。どうやら滑っている間に国境を通過して、オーストリアからスイスに入っていたようだ。ランチは友人と待ち合わせていたのだが、私の携帯はスイスで使うことができなかったので、この広大なスキー場で合流できるまでに大変な苦労をすることとなった。

スキーイン・スキーアウトができるイシュグルの五つ星ホテルと「アプレスキー」に特化したレストラン&バー

ゴンドラの起点となるイシュグルの街にはモダンなホテルやレストランが立ち並ぶ。フランス語で”スキーの後”の意味を持つApres Ski(アプレスキー)が充実し、スキーのあとはバーやクラブで深夜まで盛り上がる。オーストリア国内はもちろん、世界中からスキーヤーの集まるラグジュアリーリゾートだが、メインターゲットとなる顧客は比較的若い世代のようだった。

アールベルグ(オーストリア)長い歴史に伝統とモダンが融合

2016年に完成したゴンドラFlexenbahn(フレクセンバーン)でツールスからサンアントンへ向かう

3月にはオーストリア最大のスキーリゾート Arlberg(アールベルグ)へ。初日はZurs(ツールス)からLech(レッヒ)をまわる総距離22kmのWeiße Ring(バイスリング)で足慣らしのつもりだったが、結局3時間も滑り続けたことで膝が腫れてしまい、翌日に向けて不安を残すことに。

宿泊したのは、ツールスのスキーイン・スキーアウトできる五つ星ホテル”Sporthotel Lorünser”。フロントでチェックインをしていると、ホテルスタッフが2020年12月のワールドカップで日本のスキーチームも泊まったというのだ。そこで、私自身がこのフロントで宿泊手続きをして、離れの建物に泊まっていたことを思い出したのだった。ひどい記憶力だ。部屋は木の温もりに包まれたオーストリア感の漂う雰囲気で、サウナ、プール、トレーニングジムまで揃っており快適だったのは言うまでもない。

2日目は、Stuben(スチューベン)、St.Christoph(サンクリストフ)、St.Anton(サンアントン)まで足を伸ばし、壮大な景色、どこまでも広がるゲレンデ、近代的なリフト・ゴンドラ、さらには山小屋でのビールや料理を楽しんだ。前日夜にサウナとプールでリラックスしたおかげか、膝はなんとか最後まで大丈夫だった。

アールベルグの全体像。スキー場は人類が作り上げた最大のテーマパークと言っても過言ではない。

アールベルグはゲレンデ総延長305km、スキー場総面積が約50k㎡のオーストリア最大のスキーリゾートで、その大きさは東京ドームが1000個以上入る計算になる。1890年代にサンアントンを起点としてスキー場開発が始まり、私の生まれた1975年から、アールベルグ全体が共通のリフト券で利用できるようになった。

私が日本展開するケスレスキーが生まれたのもアールベルグ。創業時のブランド名は”アールベルグスキー”だった。レッヒにある”ケスレ・マウンテン・ミュージアム”では100年以上のスキーの歴史をじっくりと楽しむことができる。

ゴンドラやリフトがない時代、木を削っただけでエッジのないスキーを持って、これだけの広大な自然の渓谷をスキー場にするという壮大な発想はどのようにして生まれたのだろうか。それから100年以上の年月をかけてオーストリア最大のスキーエリアになるまでに発展し、この時代に快適に遊ばせてもらえることに心から感謝したい。

スキーリゾートには「滑る」だけじゃない価値がある

この写真はサンアントンだったろうか。果てしなく続く景観に写真だけでは場所が特定できなくなってしまった。

ここまでに紹介したのはヨーロッパに4000ほどあるスキーリゾートのほんの一部だが、このようにスキーやスノーボードは単なるスポーツではなく、土地の文化や自然の美しさを味わう旅でもあり、世界のスキーリゾートには、それぞれに違った魅力が存在する。それは、「滑る」ためだけの場所ではなく、“人生を豊かにする体験”が詰まった旅の目的地。雪山でスポーツをしながら、文化、景観、人との出会いを大切にする、そんな旅を求める人にこそ、ふさわしい場所だ。

昨今の物価高と円安の影響もあって、リゾート滞在はもちろん、スキー用具や移動にかかる費用も高騰し、特に日本人にとっては海外のスキーリゾートまで足を運ぶのは大変なこと。しかし、日本も含め、進化を続ける世界のスキーリゾートでは何事にも変えられない素晴らしい体験ができることは間違いない。かつての冬の遊び場から、現代の豊かなライフスタイル空間へ、その躍進はこれからも続いていく。

INDEX