バックカントリーガイドが案内するツアーは
バックカントリーを滑る際、信頼のおけるガイドが案内するツアーに参加するメリットは大きい。特に、未経験のエリアを滑るときや天候が今一つな時などは、ガイドがいると安心して楽しむことができる。
一般的にガイドツアーは、決められた日程や内容を選び、様々な希望者が自由に申しこんで参加する応募型と、グループや個人でガイドを貸し切るプライベート型の2パターンがある。それぞれに利点があるが、今回体験したのはプライベートツアー。その実際を紹介しよう。
国際山岳ガイド
江本悠滋のプライベートツアー
国際山岳ガイドの江本悠滋氏は、特定のガイドクラブなどに所属しておらず、個人で、プライベートツアーのみを行うフリーランスガイドだ。
「個人がそれぞれ参加する応募型は、知らない人同士がグループを組むわけで、レベルが違ったり、志向が違ったりで、結構難しいんです。参加者は、あいつまた転んだよ、あの人いつも最初に滑るよな、なんて感じなくてもいいストレスをもっちゃうこともある。まぁ、日本人は比較的大らかだからそんなことで不満を口にしたり揉めたりは少ないでしょうけど、外国人は遠慮なく文句を言ってくる。
僕のツアーには外国人ゲストが多いこともあり、ひとりでも複数でも、基本プライベートで対応する事にしています。同じグループならレベルが違っても、誰かが転んでも、トラブルが生じても、許容し合うことがほとんど。また、どこを滑りたいか、どんなシチュエーションがいいかなど、グループの総意がとれていることがほとんどなので、要望も聞いてあげられることは多いです」
と江本さんは言う。
確かに一般的ツアーでは、まず知らない参加者同士が集合し、お互いに緊張しながら「初めまして」の挨拶からスタートする。ハイクの様子や1本目の滑りを見てそれぞれの技量を確認し、自分はグループに迷惑をかけずに行けそうか探りながら進んでいくという、周りへの気遣いが生じるのは少なくない。
今回我々は仲間5名で江本さんにプライベートツアーをお願いした。全員の滑走レベルも、体力も、わがまま度合いもわかっているので、前述のようなストレスは感じることはない。江本さんは、2021季はコロナ禍により外国人向けガイドを縮小中とのこと。2月連休にも関わらずブッキングできたのは我々としてはラッキーだった。
まず前日に打合せてどこに行くか決める
ガイドツアーの場合、事前にどこに、どんなシチュエーションを滑りに行くのかはグループで共有する。
「八方の上部を滑るのが希望でしたよね。でももう2日降雪が無いからなぁ、トラックはもうそこそこついてるかもしれないけど、やっぱハイアルパインのロングコースがいいですか? それとも上質のノートラックパウダーを滑りたいですか?」江本さんが聞いてくる。
「上質のパウダーって、森の中ですか? ツガパウとか?」
「いやいや、ゲレンデ内ではないです。栂池から登りますが森林限界まで行って、いいとこ滑って、また歩いて、いいとこ滑って、違うスキー場に下りて、みたいな」
「ハイアルパインは滑りたいですけど、江本さんが明日行って間違いないって思うのはどっちですか」
「パウダーですね」
「じゃぁそっちでお願いします」
我々のグループは普段は天神平やかぐら、ニセコなどでパウダーを楽しむ面々。ホームゲレンデではセルフでバックカントリーを楽しんでいるが、今回は白馬のまだ知らない部分をしっかり楽しみたくてガイドをお願いすることにした。我々の技術レベルも事前に江本さんにはしっかり伝えた。
栂池からトップを目指す
翌朝、クルマ1台は白馬乗鞍にデポし、我々は栂池高原スキー場から天狗原のトップを目指した。ハイクすること90分。晴天の中それぞれが自分のリズムで登っていく。
標高を上げていっても周囲の木々はすっかり春模様。本当にドライパウダーは残ってるのか怪しい雰囲気だが…。
晴れ続きでも広がっていた極上のパウダー
「ここ滑ります。僕が下で待ってるので、そこまで自由に下りて大丈夫です。真ん中が雪はたまってるかも」
江本さんが導いたのは北向きの急斜面。ちょうどボウル状の地形。江本さんは軽快にスプレーを上げて一気に降りていく。晴れ続きで気温上昇にもかかわらず、極上のパウダーが広がっていた。見ている我々のテンションも上がる。柔らかそうな雪にそれぞれが飛び込んでいった。
午前は2カ所の見通しのいい滑走ポイントを楽しみ、そのつなぎをツリーや沢地形のパウダーをロングランするといった具合。昨夜の話通り、いい雪が残っていた。ありがたいことに、ツアーに同行してくれたカメラマンの中西隆裕さんが我々の滑りを撮影してくれた。そのライディングがこちら。
白馬乗鞍に下りてブレイク・隣のコルチナへ移動
登り返しを経て、また滑走、そうこうするうちに白馬乗鞍スキー場へ下りてきてコーヒーブレイクとする。
「気温高くて雪は結構重たくなっていますが、まだ滑りたいですか」と江本さん。
「まだまだ行きたーい」と我々。
乗鞍にデポしておいたクルマに乗り込み、お隣のコルチナスキー場へ移動。ここでリフト2回券を購入して再びスキー場上部へ。
パウダーでのツリーランという豪華なデザートつき
「ここからツリーランです。たぶん雪はまだ死んでないと思いますが…、どうでしょうね? まぁ、行ってみますか」江本さんが森の中に飛び込んでいく。
おー、気持ちよさそうだ。太陽サンサンで気温は5度。もうすっかり春のクラスト雪かと思っていたが、森の中にはまだドライな雪がたっぷり残っていた。しかもノートラック。こんな豪華なデザートが待っていたとは。
森をガンガン進む。気持ちのいい緩めの斜度を経て、25度前後の間隔があいたツリーを軽快に飛ばす。まだまだ行けそうだ。標高を下げてくると、さすがに重い湿雪に変わってきた。
「この先の急斜面をトラバースです。ボードの方は気を付けて」結構な崖を慎重に下りる。
あと15分で電車をキャッチ! 中土駅からコルチナへ
「あと15分で下まで行かないといけないのでちょっと急ぎます」江本さんの声に、なぜ15分かと思いながら、頑張って崖を下りていくと小さな町に出た。急かされて数分歩くと中土という無人駅。ここから電車に乗ってコルチナへ戻るというのだ。
我々が駅に到着するとほどなく電車も到着。板やブーツを持った滑り手が他にもいて、みなゾロゾロ乗り込む。この電車を逃すと次が1時間半後ということだった。先ほどの15分しかない意味がここでわかる。山で理由を聞いてたら緊張で転んだりして乗り遅れたかもしれない。
結局この日は、栂池から山をいくつも越えて、最後は小谷村の小さな駅に滑りつくというコースだった。9時スタートで16時までの盛りだくさん。なんて特別感あるツアーだろう。
【ツアーコース】
栂池高原スキー場→天狗原エリア→白馬乗鞍スキー場→コルチナスキー場→小谷村のJR中土駅へ
2日後またプライベートを申し込む
今度は八方BCへ
この経験に味をしめた我々は2日後、もう一度江本さんにプライベートガイドを頼むことにした。昨日は降雪がなく、ゲレンデを滑ってもおもしろくはなさそう。江本さんに頼めば、この状況でもきっといいところに連れてってくれるだろうと、再びお願いしたのだ。
「今日は八方の上部を滑りたいです」と我々。
「ならばリフトトップから3時間くらい歩いて、荒らされていないパウダーロングランを滑りましょう」と江本さん。
しかし今回我々は江本さんの提案を断り、「天気もいいので八方BCを2本滑りたい」とリクエスト。こんな要望を聞いてもらえるのもプライベートならではだ。
八方BCへ
今日は八方尾根上部へ。八方池山荘からシール、スノーシューでスタート。まぶしすぎるほどの白馬ブルーが待っていた。
正面に唐松岳、不帰峰、右手に白馬槍が岳、杓子岳、白馬岳、左手に五竜岳と北アルプスの高峰が目の前に広がる
ガイドのおかげで降雪がない翌日でもノートラック
昨夜の降雪はゼロながら、ノートラックを選んで広大な斜面へドロップ。ハイアルパインなら降雪がない翌日でもノートラックパウダーが味わえる。いいルートへ導いてくれるガイドのおかげだ。
白馬の大自然を満喫・プライベートガイドの良さを実感
白馬ブルーが広がる晴天の下、我々は希望通り八方BCを2本滑ることができた。
「白馬は奥が深いです。晴れてても雪が降っていても少々風があっても、必ず楽しく滑れるポイントがある。スキー場の中も楽しいところはいっぱいだし、バックカントリーはルートは滑り切れないほどたくさんある。技術や体力の違いで行ける場所はもちろん変わってくるけど、白馬は大自然を感じる滑りを本当に体験させてくれるエリアです」と江本さん。
今回は天候にも恵まれ、迫力ある白馬の大自然を満喫。プライベートガイドの良さも十二分に感じることができた。
【ツアーデータ】
八方尾根スキー場→八方池山荘→八方BC→白馬村 を2本
プライベートガイドの利点をおさらいすると
プライベートガイドは、基本的にひとりでも複数でも料金は同じだ。マンツーマンだと結構勇気がいる金額も、今回のようにグループだと頭割りすればかなりリーズナブルである。ポイントをおさらいすると
・技術レベルを気にせず、気の合った仲間とストレスなく滑れる
・滑りたい場所などリクエストもでき、グループに合せてカスタマイズしてもらえる
・参加費用は応募型より割高だが、人数によってはリーズナブルな場合もある
江本さんに限らず、ガイドクラブの多くはプライベートを行っている。気の合った仲間とBCを楽しむ際のオプションプランとして、ぜひ活用してほしい。
❖ 江本悠滋
・UIAGM国際山岳ガイド
・フランス国家資格山岳ガイド
・フランス国家資格スキー指導員
※江本悠滋氏のプライベートガイドはMAX6名までで1日50,000円~ 場所や内容によって料金は異なる。
Report: BS.H / STEEP編集部 Photo :Takahiro Nakanishi , Diceman, Dominick